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2話 その5 ハーレムが公認されたようです

 冒険者を捕まえに行く!?


「クトリール様の戦力を強化するには、それが一番なんですよ」

「どういうこと!?」


 唐突なその言葉に、思わず大きな声を出してしまった。

 

「冒険者たちは有用なスキルを持ってますからね」

「スキルというと……」

「はい。剣技スキルや槍技スキルみたな武器を扱ったスキルや、ダンジョン攻略のときなどに効果を発揮する探索スキルなど。いろいろあるんですよ」

「さすがゲームに影響を受けた世界のことだけはあるな」


 俺は感心したように答えたが、プロネアはその言葉に首を振った。


「それは少し違うんです。多くの一般的なスキルは、この世界に元から存在しているんですよ」

「そうなんだ。てっきりゲームの影響かと思ったよ。俺にも変なスキルとかあったし」


 俺はステータス画面が出てきたときの状況を、プロネアに話した。


「そうですね。クトリール様のは確かにゲームの影響によるスキルになります。もっともそのスキルは少し特別なので、あくまでゲーム側のスキルというだけですけど」

「このワールドフレームってやつのことか」

「はい。それは簡単に言うと、他のスキルをコピーできるスキルなので、それだけあっても戦えないんですよ。だから他の冒険者からスキルを取り込まないといけません」

「ふーん。だからギルドに冒険者を捕まえに行くって言ったのか」


 最初は物騒な話だと思ったけど、それなら納得だ。


「確かにギルドの冒険者なら、スキルもたくさん持ってそうだもんな。でもコピーするだけなら、捕まえるようなことはしなくていいんじゃないか」

「捕まえた方が楽ですよ。コピーの手順を考えると」

「そんなに難しい条件があるの?」

「そうではないのですけど、人前で堂々とするには向いてませんね。まあ捕まえてコピーするのが一番いい方法です。慣れるまでは手間もかかるでしょうし」

「そうなんだ。でも捕まえるって犯罪臭いのだけど」

「物理的に無理矢理だとそうでしょうけど、交渉や勧誘によって仲間へ誘うんですよ。捕まえるというのは広い意味としてで、特別に気構える必要はありません」

「ふーん。なるほど。それなら安心かも」

「それでは明日は冒険者ギルドにお出かけで決定ですね!」


 プロネアは嬉しそうにそう言うと、どこからかエプロンを取り出した。


「それでは私は晩御飯を作ってきます。そろそろお腹も空きましたよね、クトリール様はこのまま部屋でくつろいでいて下さい。すぐにご用意して戻って参ります」


 プロネアはそれだけ言い残すと、部屋から立ち去った。

 おそらくキッチンにでも向かったのだろう。

 俺は一人でソファーに座りながら、彼女が戻ってくるのを待つことになった。


 別にお腹は空いてないけど、朝から何も食べてないからな。

 体調面を考えると栄養は欲しい。

 そんなことを考えながら部屋を見渡していると、やはり何かが引っかかった。


 このリビングの配置や家具、何か知ってるような気がするんだよね。

 でもこんなボロボロの廃屋に見覚えなんてないし……

 不思議に思いながらも待っていると、やがてプロネアが戻ってくる。


「お待たせしましたクトリール様、夕食の用意が出来ましたよ」


 彼女は料理を台車にのせて、ここまで運んできてくれたらしい。

 いい匂いが漂ってくる。

 プロネアはそれらをテーブルに並べると、自慢げに話しかけてくる。


「プロネア特製ハンバーグ、ライスにスープ、サラダつきです!」


 ぐぐぅ……

 それを見た途端、お腹が鳴ってしまった。

 

「ふふっ、どうぞクトリール様。いっぱい召し上がって下さいね」

「うん。とっても美味しそう」


 そう言ってテーブルに着いたものの、プロネアはずっと立ったままだった。


「どうしたの?」


 問いかけると彼女は遠慮がちに答える。


「いえ、私の立場をこの世界で表すならメイドということになります。ですからどうぞお気になさらず先に召し上がって下さい。私は後でいただきます」


 メイド!?

 知らない間にプロネアは、俺のメイドになっていたらしい。

 たぶん違うだろうけど。


「プロネアはメイドになりたいの?」

「はい。クトリール様の好みに合わせて、チャレンジしてみようかと」


 彼女は恥ずかしそうにコクリと頷く。

 どうして俺がメイド好きだって知ってるんだ。

 俺は少し戸惑ったが、すぐに思い当たる。

 ……あっ、もしかしてあのゲームのせいかも。

 確かにあの携帯ゲーム機には、大勢の美少女メイドがでてくるゲームがインストールされていた。

 実家でも家族にバレないように遊んでいた二次元美少女ゲーム。

 ――特に妹には絶対に知られたくなかった。

 データの管理をしていたプロネアは、それで俺の趣味が分かったのか。

 

「でも俺の好きなメイドはそういうのと違うし、一緒に食べようよ」

「そうですか。クトリール様はもしかして、こっちの方がタイプでしょうか」


 彼女はそう言うと佇まいを直した。

 そして咳を払うと、ポーズを決める。


「コホンッ……ご、ご主人様と一緒に食べるニャン」



挿絵(By みてみん)



 彼女は両手を前に出して、猫を真似たような仕草をとった。

 可愛いことは可愛いのだが……

 ”メイドらしさ”のさじ加減が下手すぎるだろ。

 

「それもちょっと……違う、かな」

「……は、はうぅ」


 プロネアもこれは自分でやっておきながら、ちょっと恥ずかしかったらしい。

 顔を赤らめて体勢を戻し、おずおずと席に着き始めた。

 どうやらそれでメイドごっこは終わったらしい。


「それじゃあ、もう食べようか。いただきます」

「は、はい、いただきます」


 そうして俺達は夕食を取り始めた。

 シャッキっとした感触のサラダ。

 穀物類をベースにした濃厚な味のするスープ。

 肉汁があふれる大きなハンバーグ。

 俺はそれらを一気に平らげていく。

 

「プロネア、とってもおいしいよ! 良いお嫁さんになれるね!」


 素直な感想を言うと、プロネアは顔を赤らめた。

 照れているようだ。

 はにかみながら上目使いで見つめている。 


「もしよろしければ、クトリール様のお嫁さんに……」

「なっ!?」


 その言葉に動揺していると、さらにプロネアが近づいてくる。

 な、なんでこっちに来るの。

 そして彼女の顔が間近にきて、緊張が高まったとき。


「クトリール様、ライスが口についてますよ。今とって差し上げます」


 プロネアは優しくそう言って、ナプキンを使い口を拭ってくれた。

 それに少し安心するも、改めてその可愛さに見とれてしまった。

 自分でも顔がみるみる赤くなるのを感じ、俺は話をそらそうとする。


「あっ、ありがとう、プロネア。それでさ、さっきの話なんだけど、冒険者を捕まえに行くとは言ってもギルドはこの辺りにあるのかな。というよりも、ここはどこなんだ」

「ここはディナエルスの外れの森ですよ」

「初めて聞くな、そんな地名は」

「ディナエルスというのは近くにある街の名前です。この世界に元からある町なので、クトリール様が聞いたことがないのも当然ですね。そしてここはその外れにある森ってことですから、歩いて行ける距離にギルドはあるんですよ。少し遠いですけどね」


 ふーん、この世界に元からある町か。

 そんな場所にもギルドはあるんだな。

 

「ならプロネアはもう冒険者登録してるの?」

「いいえ、してないです。特に冒険者になるつもりはなかったので」

「そうなんだ。じゃあダンジョン攻略もまだなんだね」

「はい。ダンジョンは少し覗いた程度です。他の調べ物を優先していたため、それは後回しになっていました。でもちょっと見た感じだと、だいたいゲームと似たようものでしたよ」


 プロネアはダンジョンに対して、特に興味もないようだ。

 そっけない様子でそう答えた。

 しかしふとこちらを見たと思ったら、続けて何か言おうとしている。


「ですがクトリール様は登録しておいた方がいいかもしれませんね」

「それは別にいいけど、なんで」

「力を取り戻すためですよ。それに……」


 プロネアはそこで口ごもり、もじもじしていた。

 言いにくいことがあるのかも。

 顔をわずかに赤らめながら、視線を落としてちらちらこちらの様子を見てくる。


「どうしたんだ」

「あの、実はそろそろ、お金が底を尽きそうなんです……」


 つまり冒険者としてお金を稼いで欲しいと。

 まあしばらくこの世界にはいることになりそうだしな。

 それに元々俺は無一文、今日の晩御飯をご馳走して貰えただけでも幸運だったろう。

 

「分かった。なら冒険者登録をしてお金も稼ごう」

「それでしたら、私もクトリール様と一緒に冒険者になりますね!」


 便乗するようにプロネアはそう言ってきた。

 しかしそこで疑問に思うことがある。

 

「それにしてもプロネアは今まではどうやって暮らしてたんだ。冒険者でもないようだし、どこかで働いてたりしたのか」

「まさか。調べ物に忙しくて、そんな暇はありませんでした」

「でも今日の食材だって立派なものだったけど、お金はどうしてたんだよ」

「お金なら最初から持っていましたよ。むしろクトリール様こそ、何も持ってないんですか?」

「えっ、持ってないけど」


 もしかして初期アイテムみたいなものが本当はあったのか。

 いや、でもそんなの絶対なかったし……

 どうやら俺だけないみたい。

 

「そ、そうなんですか」

「ちなみにプロネアはいくら持ってたの?」

「2万3600ヴェイトですよ。それもあと1750ヴェイトしか残ってなくて……あっ、ヴェイトというのはこの地方のお金の単位です」

「この地方? もしかして地方ごとに通貨が違うってこと?」

「そうですよ。この世界は地方ごとに使ってるお金もその価値も違うんです。その中でも世界通貨のフレスだけは、どこの地方でも使える通貨なんですよ」

「うーん、ちょっと面倒くさい」

「大丈夫です。慣れないうちは私がお金の管理をしますので、クトリール様は気にしないで下さい」


 アシストキャラであるプロネアはそういう計算も得意らしい。

 なにせもともとAIだからな。

 下手なパソコンよりも処理能力は遥かに高いはず。


「それじゃあ、お金の管理はプロネアがやってくれ」

「任せてください! しっかり運用しますよ! それで知らないうちに億万長者になってるくらいの利益を叩きだして見せますね!」

「普通に預かっててよ……」


 マネーゲームでもする気ですか。

 確かにあの携帯ゲーム機には、マネーゲーム系も入ってたけど……

 いや……


 もしかして……


 この世界にあの街があるなら――


「プロネア。この世界にはルーゲルパレーズもあったりするのか」

「ありますよ。ですが今は元手がないので、行っても意味はないですけどね」


 いや、それが分かればいい。

 だとするとお金を増やすことは、案外簡単かも知れない。 


 あの携帯ゲーム機の中には、ひたすらお金を稼ぎ、増やしていく。

 ただそれだけを目的としたゲームがインストールされていた。

 その舞台となった街こそルーゲルパレーズ。

 俺はそのゲームで、世界中の国を買い占められる程のお金を稼いだのだ。

 あの街を知り尽くしている俺なら、すぐに大金を稼げるかもしれない。

 もちろん今は元手がないので、すぐにその方法を取ることは無理だ。

 しかしダンジョンでお金を稼げば、それこそ一気に増やせる可能性もある。


「プロネア。明日からダンジョン攻略、頑張ろうな!」

「えっ、は、はい。そうですね、頑張りましょう」


 プロネアは俺の言葉に、少し戸惑いながら返事をした。

 よしっ!

 これでハーレムに一歩近づいたな。

 お金持ちはなればきっと美少女たちからもモテるに違いない。

 いや目的は元の世界に帰ることだけれども……

 どちらにせよ魔王アレイジットに会いにいくには、長旅になりそうなのだ。

 お金は必要に決まってる。


「それじゃあ、プロネア。俺達の取るべき方針は決まったぞ。まずダンジョンでお金を稼ぎながらスキルを回収する。そしてある程度お金が貯まったら、ルーゲルパレーズに向かうんだ。そこで大金を稼ぎ、戦力を整える。あとは魔王アレイジット領へと行き、その正体を確かめる。そこで上手くいけば、元の世界に戻る方法が見つかるかもしれない」


 ざっと、こんなところだろう。

 そしてあわよくば美少女にモテる。

 ただしこれは、あくまで秘密にしておく必要があるな。

 プロネアの前で堂々と言うわけにはいかない。


「そうですね。特に問題ないと思います。しかし一言加えるのであれば、私はクトリール様がインストールしていたゲームを全て把握していますので、その趣味嗜好は理解してるつもりです。クトリール様がハーレムを作るのには反対しませんが、くれぐれも迂闊な行動は慎んで節度は守って下さいと申し上げます。せめてスキルを回収するついでに留めて欲しいです」


 簡単にバレたあげく、釘も刺されてしまった。

 まあプロネアがハーレムを公認してくれたと思えば、結果的にはよかったのか。




 そうして食後――

 キッチンにいたプロネアが片づけを終えて、リビングに戻ってきた。


「クトリール様、そろそろお休みされた方がよろしいのでは?」


 ”うつらうつら”としていたようだ。

 プロネアに声を掛けられるまで、半分寝ていた。


「ああ……そうするよ」

「それでは、お部屋に案内しますね」


 そうして二階に上がり、ひとつの部屋へと入る。


「こちらが一番大きい部屋になりますけど、この部屋でよろしいでしょうか」

「どこでもいいよ、もう眠い」


 俺は部屋に入ると、ベッドにそのまま倒れ込んだ。


「クトリール様、ちゃんと布団を掛けて寝ないと風邪をひきます」


 プロネアはそう言って俺の下敷きになった掛布団を、引きずりだそうとした。

 しかし俺も半ば寝ぼけていたのか、その布団を取られまいと引き寄せた。


「きゃっ!」


 俺の予想外の行動に、彼女も布団へと倒れ込んでしまった。


「ふぎゅう、……あうう、す、すみませんクトリール様」


 プロネアは慌てて謝り離れようとしたが、いきなり焦りだす。


「も、もしかして、そ、そういうことですか。わ、私、まだ、心の準備が……」


 彼女は急に顔を赤く染めると、恥ずかしそうにそう言った。

 しかし俺は、もうその意味を理解できない程に眠かった。

 ――聞こえてはいるものの、思考が鈍っていた。

 そして彼女は意を決したように口を開く。


「で、でもクトリール様がそういうことを求めるのでしたら……私、精一杯がんばります。で、ですが、その前にお風呂で体を綺麗にさせて下さい。ま、まさかいきなり今日お誘いを受けるなんて思ってなかったので……す、すぐに戻って参ります」


 そう言って、彼女は部屋から出て行った。


 ん……


 プロネアも自分の部屋に戻ったか……

 何かさっき言ってたような気がしたけど、おやすみの挨拶かな。

 一瞬、完全に意識が飛んでいたようだ。

 今日は徹夜明けから川に流され、モンスターと戦い、プロネアからもいろいろ話を聞いたからな。

 さっきの食事で腹も膨れたし、さすがに限界だ。

 俺は寝ようと意識を沈めていく。


 するとふいに――

 今日のプロネアとの会話を思い出した。



『ちなみにプロネアはいくら持ってたの?』

『2万3600ヴェイトですよ』



 なにか引っかかる数字だな。


 にまん……さんぜん……ろっぴゃく……ぶぇいと……

 にまん、さんぜん、ろっぴゃく。


 にまん、さんぜん、ろっぴゃく、えん。


 ――2万3600円。


 それって俺が、あの携帯ゲーム機に課金して入れておいた金額じゃないか!

 俺はそのことに気が付いた。


 まあいいけど……

 プロネアに使われたのなら仕方ない。

 俺はそれが分かると、すぐに眠り直した。


 ――それからしばらく経った頃。


 再び部屋のドアが開く音で、若干の意識が戻った。

 とはいえ意識は虚ろで、覚醒には、程遠い。


 プロネア……なのか?


 そうは思ったが未だに眠く、起きようという気はしなかった。


「お、お待たせしました。初めてなのでご面倒をかけるかもしれませんが、よ、よろしくお願いします……って、あれ? クトリール様?」


 なにか……待って……いたかな。

 プロネアに……用事は……

 頼んでない……

 俺は……何も……待ってなんてないよな……


 だったら……寝かせて……下さい。


 ――俺はもはや眠りたい気持ちしかなかった。


「ふふっ、そうですよね。この世界に来て初日ですもんね、お疲れ様でした」


 体に布団が掛けられる感触がする。

 いつのまにかそれは、ベッドの下に落ちていたらしい。

 プロネアが掛け直してくれたようだ。


「ゆっくりお休みください、クトリール様」


 そして再び、扉が閉まる音がした。

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