27話 造船ギルド
彼女はこちらを見つめながら話しかけてくる。
「私たちはギルドは船を作っているギルドなんです。いわゆる造船ギルドですね。ですがそれも最近は大手生産ギルドのマジックアイテムを搭載した新型に需要を奪われ、売り上げも落ちてしまって……このままでは材料費も払えません」
マジックアイテムを使った船か……
そういうのがあるのなら普通の船の需要は確かに少なくなるのかもな。
この世界はまだゲームの世界の技術レベルまでは達してないようだが、それでも今はそれに近づいている途中ということなんだろう。
「全く売れてないのか」
「いえ……そんなに高い性能を求めないギルドからはまだ依頼があります。僅かですけど……」
「ならギルドを小さくして細々とやっていけばいいんじゃないか」
「それでは今月の支払いができないんです。何とか材料費だけでも稼がないといけないんです」
「それはいくらなんだ」
「12億テイスです」
テイスというのは確か世界通貨のことだったな。
この世界に来た日、プロネアがそんな説明をしていた。
しかしヴェイトに換算するといくらなんだろう。
いつもならプロネアが耳打ちしてくれるが今日はいないし……
そう思ってるとクーシアと目があった。
「つまり14億4000万ヴェイトね」
さりげなく彼女が教えてくれて助かった。
それにしてもかなりの大金である。
ゲームのときならすぐに稼げそうな額だが、この世界のルーゲルパレーズには来たばかりなのだ。
さすがに何とかしようと思っても金額が大きすぎる。
そんな俺の反応を見て無理な相談をしたと思ったのかリアナは顔を伏せた。
「やっぱり今月中に12億テイスも稼ぐなんて不可能ですよね。お父さまの手前、あんなことを言いましたけど私もどうすればいいか分かりません……」
彼女は泣き出しそうに綺麗な唇を震わせてそう言った。
父親を支えながらもギルドをなんとか立て直そうと彼女はしてるのだ。
俺はリアナを助けてあげたいと思い――
考えた。
「そうだな……12億テイス。用意できるかもしれない」
「えっ」
「だが調べないといけないこともある。少し時間が必要だ。明日また来る」
そう言って立ち上がると彼女が呼び止めてくる。
「あの、私、普段はギルドの方にいるんです」
「だったらその場所を教えてくれ」
そうして地図を描いてもらい彼女の家を後にした。
その後俺達は街を歩いていた。
「ご主人様……どこに向かってるの」
「どこと言うことはない。この街のことを調べいるだけだよ」
今のルーゲルパレーズがどの程度まで発展してるのか知っておく必要があったのだ。
しかしこうして歩いていても目当てのものは見つかない。
そこでクーシアにも聞いてみたが、彼女は存在自体を理解してないようだった。
どうやらこの世界にはないのか……
そんなふうに街を彷徨っていると、青い髪の少女が近寄ってくる。
「クトリールさまっ、お待たせしました!」
「プロネア、いきなり腕に抱きつかれると驚くのだが」
「いいじゃないですか。今までナユハちゃんとクーシアちゃんと三人でデートしてたんですよね」
確かに三人で街を歩いていたと言えばそうなのだが……
「それより宿屋は見つけられたの」
「はい。今は忙しい時期でもないらしいので、なんとか手配できました」
「そうか。ありがとね。だったら俺達も宿屋に戻るよ」
「えへへ、それでは案内しますね。こちらです」
俺達はプロネアに案内してもらい宿屋へと移動することにした。
街の様子はだいたい把握できたからな。
あれがないことだけ分かれば十分だろう。
それからしばらく歩くと宿屋にたどり着いたが、そこはホテルのような場所だった。
さすが元々はゲームに登場していた街。
大きいだけとはいえ、それだけでも元の世界に近い。
「この宿屋なら馬車も預かってくれますし、みんな一緒に泊まれますからね」
「ああ。それじゃあ部屋に行こう」
「クトリール様の部屋は私達と同じですよ」
私達って誰のことだろう。
この四人なのか。
まあ、別に誰と同じ部屋でもいいけど。
そう思って着いて行くと、プロネアはエレベーターのようなものの前に立った。
「これって……」
「マジックアイテム式のエレベーターですよ」
エレベーターまであるとは……
魔力を利用してるわけだから原理は違うのだろうけどかなり近代的だよね。
そんなふうに感心していると、目的の階層についたようだ。
そして部屋までたどり着き扉を開けた。
するとみんなが声をかけてくる。
「あっ、おかえりなさいですの」
「クトリール、ここの宿屋はすごいのじゃ」
「すみません、ご一緒させてもらってます」
「クトリールさん、おかえりなさい」
「わ、私はメルナ様の護衛なのだからな」
「妹の様子を見に来ましたわ」
クランセラ、シェルラ、ティーナ、メルナ、ティアネーシュ、ティルナ。
部屋にはその5人がいた。
それに見合うように部屋もかなり大きい。
「そして私たちも一緒の部屋ですよ」
プロネアと、それにナユハとクーシアか。
つまり俺も含めて10人で同じ部屋だと……
これでは確実に女の子同士の話に巻き込まれてしまう。
「あのときは気球作りのせいで一緒に寝ることができませんでしたからね」
「そうですの。今日は何も予定がないですわ」
「ふむ。わらわと一緒に寝るのじゃ」
しかし他のメンバーはまだしもティアネーシュとティルナまで来てるなんて予想外だった。
既にメルナを側室に向かえてるのに何で彼女たちまで。
「二人もここで寝るの」
「はい、プロネアさんに誘われましたから」
「私はあくまで護衛なのだぞ!」
「プロネア?」
「女の子は多い方がクトリール様も嬉しいですよね」
いや……
プロネアは明らかに自分の派閥を広げようとしている。
だから二人を誘ったに違いない。
「でもまずは晩御飯です。ベッドの場所決めは後にしましょう」
そういえばそんな時間だったな。
食堂に行くとするか。
そうして俺達は他のメンバーにも伝えてご飯を食べにいくことにした。
その席で俺は今日あった出来事をプロネアに話していた。
「そうですか。やっぱり可愛い女の子のためなんですね」
待て。
リアナが出てきたのはテオラルドを助けた後だぞ。
結果的にそうなってるだけだろ。
「それにしても12億テイスなんて稼げるんですか」
「無理に決まってるだろ」
「でも何とかするって約束したんですよね」
「そんな約束してないよ」
「あれ、クトリール様らしくないですね」
「あのときは街の現状を知らなかったからな」
「だったらこのまま見捨てるんですか?」
「いや、今日で街のことも調べられたからな。たぶん大丈夫」
「そうですか。別にそのリアナっていう子のことはどうでもいいですけど、私達のギルドのお金も稼がないとそろそろ資金がなくなりそうですよ」
「もちろんそれも考えている」
問題は技術力が足りなさそうなことなんだよな……
これは別のところから用意するしかないか。
そんなことを考えながら箸を進めていく。
そうして食事を終えるとまた部屋に戻ることになるのだが、あまり帰りたい気分じゃなかった。
どうしようかな。
このまますぐ戻っても彼女たちの面倒事に巻き込まれるだけだし……
すこし時間を潰してから部屋に戻るか。
そう思っていると後ろから声をかけられる。
「クトリール、どうしたの」
アリルか……
ちょうどいい。
少し彼女の部屋で過ごしてから部屋に帰ることにしよう。
「アリル、少し部屋に行ってお話ししようか」
「うん、いいよ!」
そうして彼女の部屋でしばらく過ごすことにした。
アリルの部屋は4人部屋。
やはり彼女くらいの年齢の子と話すと癒される。
プロネアたちが悪いわけではないが、側室だとか正妻だとか正直面倒な話だった。
アリルたちにはそういう気を使わなくていいからな。
そうして彼女たちが眠くなってきた頃、今度こそ自分の部屋に戻ることにした。
だが中に入ると思いの外静かだ。
あれ……
二人だけしかいないのか。
部屋にはクランセラとティーナしかいなかった。
「クトリールさん、遅かったですの」
「ああちょっと他のメンバーとも話したいことがあったんだ」
「ギルドマスターは大変ですの」
「まあね」
「プロネアたちはどこかに行ったのかな」
「はいですの、大浴場に行きましたわ」
そういえば二人の髪の毛は濡れている。
クランセラとティーナは二人とも金髪なのだが、綺麗に光を反射していた。
もうお風呂に入ったのか。
「クトリールさんも入ってきたらいかがでしょう」
「そうだな。俺も入ってくるか」
「でしたら私が案内します」
ティーナは俯き加減で顔を赤くしながら、そう申し出てきた。
「えっ、別に宿屋の中だから必要ないけど」
「クトリールさん、ティーナに案内させてあげて欲しいですの」
どうしてクランセラまでそんなことを言うのだろう。
別に構わないけど……
「分かった。なら頼む」
「は、はい」
そうして宿屋の中を歩いていくがティーナは緊張した様子で何も喋らない。
やがて1階に着いたとき、ティーナが唐突に唐突に口を開いた。
「あの、この宿屋は庭があるんですけど、そこに寄って行きませんか」
「う、うん……」
ティーナの言葉はあからさまだったので俺も何となく分かってきた。
庭に出ると彼女は話しかけてくる。
「最近はクトリールさんと二人っきりになるのは難しいですからね。それでクランセラお姉ちゃんが協力してくれたんです」
「そうか」
「あの……それで、私はクトリールのさんのことが好きって前に言いましたよね」
「うん」
「でもプロネアさんやクランセラお姉ちゃんみたいに正妻を狙って争うなんて私に出来ません。でもクトリールさんとずっと一緒にいたいと思ってます。だから……」
ティーナはそこで一呼吸おくと意を決したように口を開く。
「私を正式にクトリールさんの側室にして下さい」
彼女はそう言うとまっすぐに俺の方を見つめてきた。
緊張のあまりか目には涙も浮かべている。
クランセラとも相談したのだろうが、彼女自身、本気で考えた言葉のようだ。
俺はそれを見つめ返して返事をする。
「分かった。ティーナを側室に迎え入れる」
そう言うと彼女は顔を緩ませて抱きついてきた。
これでお嫁さんが二人か……
しかしこの世界の婚姻制度ってどうなってるんだろうな。
本当に正妻を開けたまま側室を増やしてもいいんだろうか。
そんな心配をしているとティーナが話しかけてくる。
「ありがとう、クトリールさん」
「いや、こちらこそこれからもよろしく頼む」
「はい。頑張ります!」
俺はしばらくティーナを抱きしめて、それから大浴場へと向かった。
もちろんティーナとは一緒には入れないので先に彼女は部屋に戻っている。
この報告は俺がみんなにするということで話した。
一体プロネアが作ったと思われるギルドのルールって何だろうな……
さっきティーナにも聞いてみたが俺には教えたらダメらしい。
だが正妻争いを降りるなら側室に入ってもいい、みたいなルールがあるらしい。
基本的に抜け駆けは禁止だがそれは認められるとのことだ。
曖昧な彼女の言葉から推測するとそういうことになる。
俺は湯船に浸かりながらもそんなことを考えていた。
そして風呂から上がり部屋へと戻ると、その頃には全員が揃っていた。
既に寝る準備を整えそれぞれの寝間着に着替え終わっていた。
そんな中ティーナを見ると嬉しそうに笑顔を向けくる。
隣にいたクランセラも嬉しそうだ。
またいつプロネアたちが騒ぎ出すかも分からないからな。
早いところ報告してしまおう。
そう思って彼女たちの前に立ち告げる。
「みんな、聞いて欲しい。俺はティーナを側室として娶ることにした」
それを聞いたメンバーはティーナを祝福し始めた。
クランセラはもちろんメルナやティルナたちみんなもだ。
それにプロネアも意外と素直に喜んでいた。
彼女は基本的にギルドメンバーに対しては優しいし、なにより自分の決めたルールだからな。
それもひとしきり落ち着くと、プロネアが口を開く。
「それではクトリール様、みんなの寝る場所を決めてください。ただし側室となったメルナちゃんとティーナちゃんの場所は4番目と5番目の位置で固定です」
4番目と5番目ってどこだよ……
たぶん1番目と2番目は両隣なんだろうが3番目以降は想像しにくい。
というより俺が決めるか。
女の子同士で話し合って欲しいかったのに。
1番は……
クランセラと言いたいところだけど、せっかくティルナも来てくれてるのだ。
あまり低い番号を言うのも失礼だろう。
一応は同盟国のお姫様で、側室であるメルナのお姉さんなのだ。
だから1番はティルナで2番はクランセラ……
ではなくプロネアにしておくか。
サブマスターだからな。
3番はクランセラで4番がメルナで5番がティーナ。
6番がティアネーシュで7番がシェルラ。
8番がナユハで9番がクーシア。
いろいろ考えた結果このような順番となった。
これをそのまま伝えると、シェルラが悔しそうにこちらを睨んできた。
いや……
もちろんシェルラは順当にいくと3番だけど今日はティルナがいるからで……
俺はその視線に汗が出るが、シェルラは不機嫌になっただけで文句は言わなかった。
もしかしたらルールで決まっているのかもしれない。
決められた順番に文句を言ったらダメとか。
そもそも側室の順位が固定というのからして、何かしらの決まりがあるんだろう。
おかげで思いの外騒ぎにならず俺はベッドに入ることができた。
もしかしたらルールが改訂されたのだろうか。
だとしたらプロネアのおかげということなる。
やっぱり彼女は俺とギルドのことをよく考えてくれてるらしい。
ただ……
この大人数で寝ると言うこと自体に問題があるようだ。
俺はそれから寝付くまでにかなりの時間を要した。