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19話 洞察力

※修正項目のお知らせ

商会の名前を以下のように変更しました。

ジオラム商会→ジェラゼム商会

 俺はプロネアから進行役を引き継ぐと、彼女へと問いかけた。


「ジュラゼム商会の戦力は分かっているのか」

「はい。どうやらジュラゼム商会の”私兵”に加えて、”冒険者ギルド”と”リデス”からも戦力提供を受けているようです。エレイストを襲撃したのはリデスと私兵ですが、冒険者ギルドからはオークションが終わるまでの期間、商品の護衛ということで、牢屋の警備を強化してるようですね」


 ギルドとリデス、両方へ依頼をかけるとはな。

 よっぽど今回のオークションに、意気込みをかけているらしい。

 あるいはそれだけ費用をかけても、エレイスト獣人を売れば儲けが出るということか。


 どちらにしても、ずいぶんと戦力を増やしているようだ。

  

「そしてその数ですが、ギルドからは27名。私兵は206人です。リデスからの人員については最低でも3名ということは判明しましたが、総数は不明です。申し訳ありません。リデスの情報は得ることが難しくて、自分で見て確認できた分以外には分かりませんでした……」


 彼女は満足に調べることが出来なかった戦力調査を報告したことに、落ち込んでしまったようだ。


 しかしたった数日で、ほとんどの戦力数を調べられたのだから、相当にすごい。

 おそらくこの街のギルドやジェラゼム商会に潜入して、調べてくれたのだろう。

 むしろ自慢していいほどの成果である。


「プロネア。詳しく調べてくれて助かったよ。その情報だけでも、かなり役に立つ」

「そ、そんな。えへへ、役に立てたのなら嬉しいです」


 彼女に対しては、役に立ったと伝えることが、一番の褒め言葉である。

 なので俺はそう言葉を掛けると、さらに質問を重ねた。

 

「それでオークションというのは、いつ開かれるんだ」

「5日後の夜ですね」


 それまでに、エレイスト獣人143人を助けないといけないのか。

 これだけの大人数を移動させるなら、まず重要なのは移動手段とその経路か……

 逃がすのだから人目につくわけにはいかない。


 そして経路が決まらなければ、移動手段も決めることはできなかった。


「この街の地図はある?」

「ありますよ、私もこの街を調べるときに使ってましたから」


 そう言うとプロネアは、地図をアイテムボックスから取り出し、手渡してくれた。

 俺はそれを自分が座っていたベッドの上に広げる。


 すると隣に座っていたクランセラと、顔がとても近くなる。

 彼女も地図を覗き込んできたせいだ。

 それにクランセラも気づいたのか、顔を赤くして笑いかけてきた。

 しかしそれだけで、距離を開けようとする素振りはない。


 そしてシェルラとメルナも、俺たちのベッドへと移ってきたようだ。

 4人が地図を囲うように、ベッドへと集まった。


「ふむ。やはり地図というのは分かりにくいの。空を飛んで見下ろした方が分かりやすいのじゃ」

「シェルラさんは空が飛べますけど、私たちにそれは無理です」


 二人がそんな会話をしていると、最後にプロネアがやってきた。

 すると彼女は地図を指しながら、教えてくれる。


「ここがジュラゼム商会の場所ですね。ちなみに私たちの宿屋はここですよ」

 

 なるほど。

 この街は奴隷商館が集まった場所が、いくつかに区分けされているらしい。

 ジュラゼム商会は街の中心地から少し外れた、西の区画だった。


 その場所から街の出入り口までの道のりを、地図上、目で追っていく。


 連れ出して逃げるとしたら、北の方の出口だろうな。

 北と南に二つある出入り口を比べると、北の方がジェラゼム商会に近かったのである。


 しかしこの地図を見る限りは、どう考えても大人数を連れて、目立たず街を出られそうなルートは見当たらなかった。

 

 ただ単にジェラゼム商会から連れ出して移動するだけでは、確実に見つかってしまう。

 

 作戦を考えるためにも現地に行って、下見をする必要があるだろう。

 そう判断すると顔をあげて、プロネアに話しかける。


「ありがとうプロネア。ところでこの地図、しばらく借りててもいいか」

「もちろんです」


 その返事を聞いて、俺は地図を自分のアイテムボックスに仕舞い込んだ。


 これでだいたい話は聞き終えたが、あれを確認しておかないとな。


「最後に確認しておきたいんだが、エレイストの人たちは、既に首輪を嵌められていたのか」


 それによって作戦の段取りも変わることになるので、俺はプロネアにそう訊ねた。


 もし既に首輪がさられていれば、それを外さなくてはならない。

 首輪の設定された命令によっては、逃げ出すと同時に、死ぬ恐れもあるのだ。


 そう考えての質問だったが、申し訳なそうな顔をして彼女は答える。


「残念ですが、全員、既に首輪を嵌められていました」

「そうか……分かった」


 どうやって全員を奴隷化したかは知らないが、ならばそれも対処しなければいけないだろう。


 しかしこれについては、一つ思い当たることがある。

 それはルノーゼが奴隷の首輪について説明したときに言っていた、奴隷化するときのルール。


 ――誰かの所有物は、奴隷にすることが出来ない。


 俺はこれを利用すれば、奴隷化を解除できるのではないかと考えていた。


 以前受けた説明を、もう一度、今回の例に当てはめて確認する。


 この奴隷化ルールは、対象の所属が”明確な個人”でない限り、奴隷化の対象となるというものだ。

 つまり国家や冒険者ギルドなどに属していても、このルールだと奴隷化はされてしまう。

 だからエレイストの獣人は、エレイストに属していても、奴隷化されてしまった。

 このルールで奴隷化の対象にならないのは、”他人の奴隷”や”個人のギルド”といった、個人が所有している場合に限られる。

 もちろんただのお姫様であるティルナやメルナが、獣人たちの所有権を主張することは出来ない。

 あくまで彼らは国に属しているのであって、お姫様の所有物というわけではないからな。


 とはいえこの奴隷化のルール――

 奴隷契約を執行する者によって、適応される範囲が変わるほどに、緩いものである。

 いくらでも曲解を出来るようになっていた。

 ――それが上手いものほど、奴隷契約の才能があるとされているらしい。


 だからこそこ俺はこのルールを利用して、奴隷化を解除できるのではないかと考えた。

 

 本来であれば、ジェラゼム商会によって既に奴隷化されてるエレイスト獣人には、手が出せない。

 しかし俺とプロネアの特性を活かせば、それも変えられる可能性を思いついたのである。

 もちろん確証はないため、実験をしてみる必要があるが……


 ――それをするには、誰かの奴隷が必要なのだ。


 ”俺の”ではなく”誰かの”である。

 奴隷化を解除するための実験だからな。


 そんなわけで誰かに奴隷を買って貰わなければいけないが、実験内容を考えれば、プロネアに買ってもらうしかないだろう。

 現地の下見も必要なことだし、そのときに買ってもらおう。


 俺はそう考えると、4人に向かって声をかけた。


「これから俺とプロネアで外に出る。3人はこのまま宿屋で待機していてくれ。レードネイテスは治安の悪そうな街だ。年少組のメンバーだけを宿屋に残して行くのは危険だろう。かと言って全員で外に出るわけにはいかないからな。クランセラとシェルラはみんなのことを頼む」


 そう言うと全員が了承し、俺はプロネアと街へ出かけることにした。





 そうして宿屋を出ると、プロネアが話しかけてくる。


「街をクトリール様と二人っきりで歩けたのは、ライドエルスでクランセラちゃんと出会う前の1日だけでしたからね。こうして二人で出かけられるのは、とても嬉しいです」


 彼女はそう言うと、俺の腕に手を回して組みついてきた。


「プロネア?」

「この一週間、みんなは毎日クトール様と一緒にいれたのに、私だけは一人だったんですよ? これぐらいはさせて貰ってもいいですよね!」


 彼女は明るく笑顔を浮かべながら、そう言ってきた。

 いくらプロネアでも1週間も単独で調査をしていてば、寂しくなっていたのかもしれない。

 俺はプロネアを労うように、優しく言葉に頷いた。


「そうだな。プロネアは頑張ってくれたもんな」

「えへへ、頑張りましたよ」


 そう言って笑うプロネアは、とても可愛かった。

 そして彼女は腕に力を込めながら、問いかけてくる。


「ところでクトリール様、クランセラちゃんと何かありました?」

「えっ……な、何の話」


 プロネアはがっちり俺の腕を掴み、視線を強めて来ていた。

 それには”何かを言うまで離さない”というように。


 とはいえ、俺にやましいところはなかった。

 ただクランセラに告白されて、ほっぺたにキスをされただけだ。

 一線は超えてないし、プロネアに責められるようなことは何もしてない。


 そう思っていると、さらに彼女が問い詰めてくる。


「さっきも同じベッドに座ってましたし、以前よりも体が近いっていうか……何かそうなるような出来事があったのかなぁ、と思っただけですよ」

 

 これが女の子の洞察力か……

 ――そういえば妹もやたら鋭かったもんな。


 まあ……

 本当に俺にやましい気持ちはない。


 だから正直に話すのは構わない。

 ただこれはクランセラの話でもあるので、そこが少し気になるところだった。


 しかしそう迷っている間も、プロネアはじーっと俺の顔を見つめてきている。

 

 それでもしばらくは黙っていたのだが……

 やがて……

 

「うーん、何と言うか……ラインドエルスを出るときに……」


 ――俺はそう切り出して、あの時の出来事を、プロネアへと話した。


 これは決してプロネアの迫力に負けたわけではない。

 こんな状況になってまで黙り続けていたら、二人とも傷つけてしまいそうな気がしたからである。


 そうして話を終えると、彼女が呟くように口を開いた。   


「そうですか……クランセラちゃんと、そんなことがあったんですね」


 それを聞いた彼女は、さっきまでの迫力に比べて、意外にも怒ってはいなかった。

 むしろ落ち着いているように見える。


 そんなプロネアの様子を伺っていると、彼女は話しかけてくる。


「クトリール様が正直に言ってくれたってことは、やましいことはなかったってことですもんね。それにクランセラちゃんも私に気を使ってくれたようですし、クトリール様がみんなから好かれるのは仕方ありません。まあ……やきもちは焼きますけど……」


 そこで初めてプロネアは、素直な感情を見せた。


 とはいえ彼女の結論としてこの件は、許容範囲内のこととして、判断されたらしい。

 あのときクランセラが一歩引いたことが、大きな理由かもしれない。


「でもやっぱり……抜け駆けはよくないですよね。帰ったら、クランセラちゃんときっちりお話しをしなくてはいけないようです」


 ただ完全に無罪とはいかなかったようだ。

 

 そしてプロネアは、独り言のように呟いた。


「ギルドに規則でも追加した方がいいでしょうか。クトリール様への抜け駆け禁止、とか」


 さすがにそれはやめて下さい……




 

 そうして俺たちは街を歩き、ジュラゼム商会へと向かっていた。


「そういえばプロネアはどうやって、エレイストの獣人たちの居場所を見つけたんだ」

「大したことではありません。姫奴隷は一番人気ですからその話題性は高かったんです。ジュラゼム商会が姫奴隷を出品するという話は、簡単に手に入れることが出来ました。どうも店側が自分で情報流してるようでしたからね。だからこそ警備には力を入れてるんでしょう」

「それで話を確かめに店に潜入したのか」

「はい。低ランク冒険者の警備なんて、ないも同然ですからね」


 プロネアは自慢げにそう言った。


「ただリデスのメンバーは全員レベルが100を超えていたので、注意は必要かもしれません」


 レベル100以上か。

 確かに注意が必要かもな……


 もちろんステータスだけで言うなら、プロネアやシェルラの方が圧倒的に強いのは間違いない。

 しかしこの世界の人間がレベルを上げようとすれば、それは大変なことである。

 効率的なレベル上げなど望めるわけもなく、ひたすら経験値を稼ぐしかない。

 ということは実戦経験が豊富ということだ。


 それとは逆にほぼ戦闘をしないでレベルを上げたクランセラは、実戦経験が少ないと言える。

 これは悪く言えば、ステータスが高いだけなのだ。


 以前俺とシェルラが戦ったときも、ステータスは圧倒的に彼女の方が高かった。

 スキルもシェルラの方が多くて、レベル差も400近くあったからな。

 しかしそれにも関わらず、あの戦いは俺が勝利を収めていた。

 その理由はシュルラは実戦経験の少なさから、俺の攻撃に対応できなかったことにある。


 つまり実戦経験が豊富な相手を、甘くみることは出来ないということだ。

 

「そうだな、気を付けよう」


 俺は彼女にそう返事をした。


 それから間もなくして、俺たちはジュラゼム商会にたどり着いた。

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