18話 言いたくなります!
馬車の運転席からレードネイテスが見えてくる。
街の入り口を目指して馬車を誘導していくと、そこに人影を見つける。
彼女は嬉しそうに手を振っていた。
「クトリール様、こちらですよ!」
プロネアである。
俺はそちらの方に馬車を近づけ、1週間ぶりに会った彼女へ言葉をかけた。
「迎えに来てくれてたんだ、ありがとうな」
「クトリール様をお出迎えするのは当然です。この時間に来るのは分かってましたからね」
彼女は俺の居場所を感知できるので、時間を合わせて入口に来てくれたんだろう。
「そうか。さすがプロネアだな」
「いえ、そんな。私とクトリール様のお互いに繋がった絆のおかげです」
お互いと言っても感知できるのはプロネアからの一方通行だけどな。
「とりあえず街へ入ろう。入口で止まっていたら怒られそうだ」
「そうですね。それではまず、宿屋へご案内しますね。報告することもあるのですが、まずはこの馬車を預けてしまいましょう。既に予約は押さえてあるので、メンバーの部屋までばっちりですよ」
「手際がいいな」
「これくらいの手配もサブマスターとして当然ですよ」
彼女はサブマスターとしての地位に責任を持っていた。
それゆえにメンバーの面倒もちゃんと見てるし、一人で先行偵察という役割を与えられた一方で、こうした裏方仕事も手を抜かない。
プロネアは、戦闘、私生活、ともに支援を得意とした女の子である。
「まあ、それじゃ、案内してもらおうかな」
「はいっ、かしこまりました」
そう言って彼女を馬車に乗せると、プロネアは隣に座り込んだ。
「クトリール様……ところで、どうしてアリルちゃんをずっと膝に乗せてるんですか?」
「ここは私の特等席なの!」
俺が答えるよりも先に、アリルはプロネアにそう宣言した。
その結果――
「クトリール様、一人だけ贔屓するのはよくないですよ。他の子供たちに示しがつきません」
「贔屓って別に膝の上に乗せてるだけだが……」
「そうかもしれないですが、他の子から見たらアリルちゃんだけいつも運転席で座らせてもらって、特別扱いされてるように感じます! 一人だけ特別視するのは、よくないですよ!」
アリルではなく、俺が怒られてしまった。
「アリルちゃんも、クトリール様に懐くのはいいですけど、あんまり度が過ぎると悪い噂が立ちますよ。それはクトリール様にとってもよくありません」
「はぅ、あ、あの、ごめんなさい」
プロネアは子供相手でも容赦がなかった。
クランセラを手玉にとれるアリルでも、プロネアには敵わないらしい。
「まあ、そんなに怒らなくてもいいじゃないか。アリルはまだ子供なんだし」
「クトリール様がそうやってメンバーを際限なく甘やかすから、私が叱ってるんです!」
「いや……その、悪かった」
「そうですよ、私が一人で頑張ってたのに、クトリール様はこの一週間、ずっとアリルちゃんを膝の上に乗せて楽しげに……そんなの悪い噂でも言いたくなります!」
プロネアが言うのかよ!
さっきの悪い噂が立つって、今、出所がはっきりしたじゃねーか!
プロネアさん、子供相手に嫉妬してどうするですか……
「プロネア、改めてありがとな。プロネアが俺やギルドのために頑張ってくれてるのは、いつも助かってる。一番に俺のことを思ってくれてるも分かってる。俺はその気持ちに、いつも応えたいと思ってるよ。だからそんなに怒らないで、もう少し俺に任せてみて」
そう言って優しく彼女の頭を撫でる。
するとプロネアは顔を赤くしながら、顔を逸らして、呟いた。
「ク、クトリール様がそうおっしゃるなら、まあ……アリルちゃんの件は、任せます」
どうにかプロネアの嫉妬も収まったようだ。
それから馬車を少し走らせると、宿屋へと到着した。
その途中――
この街の様子が垣間見えた。
どうもこの街は、全体的に、歓楽街のような雰囲気を醸し出している。
さすがにネオンなどはないものの、路地裏が多く、そこには雑多な看板が並んでおり、中にはいかがわしそうな店も並んでいた。
また、街を行き交う人の中には娼婦のような恰好を女性や、いかつい強面の男性もよく見かける。
奴隷市場の大きな街と聞いていたが、その表情は明るく、一見してみると皆楽しそうで、開放的な空気が漂っているようにも見えた。
ただしそれは裕福そうな身なりをした人々に限る。
たびたび見かける首輪を架せられた少女たちに、その表情はない。
そこからこの街の有様を感じられた。
そんな街の雰囲気に当てられつつも、俺は、馬車を宿屋の前に止めた。
「クトリール様、とりあえず馬車をここに置いて、チェックインを済ませましょう」
「そうだな、それじゃあ、みんな降りてくれ。宿屋に入るぞ」
ギルドメンバーにそう指示を出すと、そのとき、プロネアがクランセラに話しかける。
「クランセラちゃんは、馬車を見てて下さい。誰もいないと盗まれるかもしれません」
「分かりましたの」
確かに治安は悪そうだし、誰かいた方がいいか。
クランセラならAランクの冒険者相当の実力はあるし、問題ないだろう。
「悪い、クランセラ頼む」
「大丈夫ですの!」
任せて、という感じの笑顔で彼女は答えた。
俺はそれを信頼して、メンバーを連れて宿屋の中へ入ることにした。
扉を開けるとエントランスの広間が最初に目に入り、その奥にはフロントカウンターが見えた。
プロネアはそちらに向かって歩き出す。
「いらっしゃいませ」
「予約していたプロネアです。チェックインをお願いします」
「20名様ですね、馬車は施設内の馬車置き場をご利用ください。こちらのプレート番号の場所へどうぞ。それではこちらが部屋の鍵です」
今回は5部屋をとっていたようだ。
「部屋割りはプロネアに任せるよ。俺はクランセラに馬車を止める場所を案内してくる」
そう言って宿屋を出ると、クランセラが誰かに話しかけれているのに気が付いた。
その声が聞こえてくる。
「可愛いねェ、何してるのこんなところで?」
「ん、人を待ってますの」
「そうなんだ、でも、そんなに可愛いのに一人でいると危険だよ?」
「か、可愛いって、普通ですの」
クランセラはチャラそうな男におだてられて、照れたような仕草をしていた。
確かに彼女は美少女ではあるが、その反応は男に付け入らせる隙となる。
しかしクランセラはそれに気が付つく様子もなく、男の会話を受け入れていた。
「それに私は強いですから大丈夫ですの」
「そっか、強くて可愛いんだね」
「ん……なにか用ですの?」
「強くて可愛い君にちょっと聞いて欲しいことがあるんだよね」
「何ですの?」
「お金稼ぎたくない? すぐに大金を稼げる方法があるんだけど、可愛いから教えてあげようと思って」
「怪しいですの」
「大丈夫だって、俺ってこの街でもけっこう顔広くてさ、紹介してあげるからついて来ない?」
「駄目ですの、私ここで待ってないといけませんの」
「勿体ない、そんなに可愛いのに。君なら一か月で1000万ヴェイトを稼ぐことも出来そうだ」
「1000万ヴェイトですの!?」
「そうそう、1000万ヴェイト、凄いでしょ。ここはそういう街だからね」
「でも駄目ですの、そんなにこの街にいないですの」
「大丈夫、ちょっとした小遣い稼ぎも出来るさ、上客を捉まえれば1日でも大金が稼げるよ。俺の紹介した子の話だけど1日で200万ヴェイトを稼せいだ子もいるからね」
「そ、そんなに稼げますの!?」
「稼げるよー、どう、ちょっと話ぐらい聞いてみない?」
――「いや、聞いてみない」
クランセラの代わりに俺が答えると、男はこちらを振り向いた。
「はぁ、なんだお前は」
「お前こそ俺の連れに何をしようとしていたんだ、とっとと消えろ」
「てめぇ、人の邪魔してんじゃねーよ」
男は俺の胸ぐらを掴むと、目に力を入れて睨み付けてきた。
「邪魔なのはお前だよ」
俺はその手を掴むとねじり上げ、男を跪かせた。
簡単な関節技であるが、対処の仕方を知らなければ抜けられない。
男は苦悶の表情を浮かべながら、叫ぶ。
「痛ぇ、痛ぇ、悪かった、勘弁してくれ」
俺は手を放すと同時に、男を蹴り上げ、そいつを開放した。
すると男は体を折り曲げ倒れ込んだものの、逃げるように街中へと走り去った。
「クランセラ、ああいう男がこの街にはたくさんいるらしい。気を付けなよ」
「ああいう男……ですの?」
「そう、女の子にいろんな手口で声をかけて騙そうとする男」
「えっ、私、また騙されそうになってましたの!?」
今のは別に騙されていたわけではないが、流されそうになってたからな。
知識のないクランセラにとっては、どちらも同じようなものだ。
この街にクランセラを置いておくのが心配になってくるな。
今後、こういう事態に巻き込まれないように、しっかり教えないといけなそうだ。
「クランセラ、さっきの手口はな……」
俺は彼女にああいう場合、どんなことがその先に起こっていたかを説明した。
するとクランセラの顔はみるみる赤くなり、さらにその先まで話すと、青ざめた。
「そ、それじゃあ、もし着いて行ってたら私は娼館に売られていたかもしれないんですのね」
「かもね」
下手をするとまた騙されて奴隷になっていた可能性まである。
「知らない男から声を掛けられても、怪しいと思ったら、耳を貸さないようにね」
「わ、分かりましたの」
そんな話をしていると、宿屋からプロネアが出てきた。
「何かあったんでしょうか? 馬車を置くだけにしては遅いと思って様子を見に来たのですが、まだ馬車もここに止めたままですし……」
余計な手間がかかったからな、おかげで無駄な時間を浪費してしまったようだ。
「大したことじゃなかったよ、いま馬車を起きに行く」
「そうですか……」
若干不思議そうな顔をしていたプロネアだったが、素直にそう返事をした。
「クランセラとプロネアは先に宿屋に戻っててくれ」
馬車の運転も1週間もしていると慣れる。
ここに3人でいる必要もないので二人を先に戻し、俺は宿屋の馬車置き場へと向かった。
そして馬車を停め終えて、宿屋に入ると、エントランスでクランセラが待っていた。
「お疲れ様ですの」
「待っててくれたんだな」
「はいですの、部屋まで案内しますの。プロネアさんは先に部屋へ戻りましたわ」
俺はクランセラに部屋番号を聞くと、二人でその部屋へと移動する。
「ところで部屋割りはどうなってるんだ?」
「クトリールさんは、私とプロネアさんと、アリルと一緒ですわ。シェルラさんとメルナさんが別の部屋になってますの。あとは年長組と年少組で男女別になってますの。と言っても女の子の方が多いので年少組の男の子はティーナたちと同じ部屋ですわ」
プロネアのやつ、さっきアリルに怒ってたけど、一緒に部屋にしたんだな。
少し怒り過ぎたとでも思ったんだろうか。
「そうか、わかった」
「ですけど今はシェルラさんとメルナさんもクトリールさんの部屋にいるみたいですわ。プロネアさんから報告があるので、みんなで一度集まるようですの」
そんな話をしていると、その部屋に着いた。
宿屋は5階建てではあったが、そもそも室内なのでそれ程歩く距離もない。
俺はドアノブを回し、その中へと入る。
「あっ、お帰りなさいクトリール様」
「お待たせ、遅くなって悪い」
声をかけてきたプロネアに返事をして、空いていたベッドに腰をかける。
クランセラも同じように隣に座った。
部屋にはベッドが4つあり、一番奥のベッドにはプロネア。
その向かいのベッドにはシェルラとメルナ。
プロネアから見て隣のベッドに俺とクランセラ。
そのような形で落ち着き、1つのベッドが余る形となった。
「それではよろしいでしょうか、クトリール様」
「頼む」
話して出してもいいかと確認を取って来たプロネアに頷き、それを促した。
「それでは、まず、連れていかれたエレイストの人たちの安否と所在です。これは先にメルナちゃんにも伝えてありますが、彼らは無事ですし、居場所も分かりました」
単独行動だったのに、そこまで調べがついていたのか。
やはりプロネアは実務能力だけで言うなら、間違いなくギルドで一番だ。
しかしその成果を出すのに、どれだけの軽犯罪を犯したのかは、あまり知りたくない。
――軽犯罪というのは、出来ればそれだけで済ませていて欲しいという願望ではあるが。
とはいえ、ギルドマスターとして、それを無視するわけにもいかないか……
ただそれは後で確認しておくとして、今は話の腰を降りたくないので、先にこの話を済ませよう。
「詳しく教えてくれないか」
「かしこまりました。まず彼らが今いる場所は、ジオラム商会の牢屋の中です。ジオラム商会というのはこの街にある奴隷商の店のことですよ。つまり、奴隷として既に囚われているということです」
「それは全員か?」
「私が確認したのは143名です」
人数を聞いてみたものの、俺自身、彼らの総数を知らなかった。
メルナの方を見て、その答えを聞いてみる。
「分かりません……エルイストは同族だけの小さな街でしたので、人口は287名しかおりませんでした。ですが、襲撃されたときに何人が亡くなり、何人が逃げ延びたのかは……」
小さい街だとは思っていたが287人しかいなかったのか。
ラインドエルスが30万人ほどの人口だったはずだし、このレードネイテスも10万人以上はいそうな賑わいを見せている。
街と言うよりは村といった規模だろう。
「それで、メルナのお姉さんの、ティルナはいたのか?」
「ええ、いましたよ。一人だけ特別な部屋で囚われていました。さすがお姫様ですね」
プロネアの答えに、ふたたび、メルナへと顔を向けた。
お姫様だって?
そんな話は今まで聞いていなかったが……
「す、すみません。隠していたのは、最初にそれを言うと、危険だと思ったんです。最初は人間に襲われたばかりで、また、同じ人間にそこまで話していいのかと、怖かったんです。で、でも、やっぱり思い直して、この移動の中でも何度か言おうとしたんです。けど……なかなか言い出せなくて、ここまで黙っていました。本当にごめんなさいっ!」
必死に謝るメルナの横で、シェルラが庇うように口を開いた。
「わらわは知っておったのじゃ。最初に馬車で着替えを手伝ったときに、事の顛末を聞いたからの。クトリールよ、そなたもメルナの気持ちになって考えれば、初対面の人間に全てをさらけ出す勇気が持てなかったとしても、責められないとは思わぬか?」
確かに彼女は人間に対して、恐怖を抱いてしまっても仕方ない状況だった。
それにこの件を追及しても、意味はないか。
「わかったよ、でも、今度から大事なことはちゃんと教えて欲しいな」
「はいっ、ありがとうございます」
「クトリールはわらわが認めた人間なのじゃ、これぐらいでは怒りはせん」
そのセリフはシェルラから暗に『メルナに優しくしろ』と釘を刺されたようなものだった。
彼女はメルナに自分を重ねている部分があるので、過保護ぎみになっているのだろう。
「それでは、話を元に戻してもよろしいでしょうか」
俺たちの話がついたと見ると、プロネアが報告を再開するため、そう言った。
「なぜ彼らが牢屋に捕えられているかと、その理由は、今月ここで奴隷市場と奴隷オークションが開催されるからです。そのときジオラム商会が目玉として出そうとしているのが、エレイストの姫、ティルナ・マールなのです」
「それだけの為に、街を襲撃したっていうのか?」
「ええ、高貴な奴隷を持つことは、貴族にとってはステータスにもなるんです。姫というラベルがつくだけでその価値は何十倍、何百倍にも跳ね上がります。敵国や未開拓の土地、そういった場所から姫を奪うことのリスクは、奴隷商人も分かっていますが、それ以上に見返りが大きいんです。国からしてみれば勝手に民間企業が国の勢力拡大に手を貸してくれるわけですから、その行為を非難することはありません。その最たる成功例がラインドエルスにいましたね」
奴隷契約の実力で侯爵位にまで上り詰めたリズローン家。
レネジェーガの家系が思い出された。
「姫と言っても、その価値はいろいろありますが、ジオラム商会が手を出せる範囲だったのが、エレイストだったのでしょう。奴隷商人としても姫を扱えるかどうかで、商人同士のランク付けがされてしまいまいます。ジオラム商会は比較的若い企業なので、そろそろ姫を扱いたいと思っていたのでしょう」
その説明を聞いていて、シェルラはいらだった様子だった。
「勝手に身分でランクをつけて、売り捌くなど、わらわがそんな連中、燃やしてくれるのじゃ。ただ姫が欲しいという理由で平和に暮らしていた街に襲いかかるなど、許されるはずもないのじゃ」
憤るシェルラにプロネアが答えた。
「少なくとも国は許してます。エレイストは貴族に統治されていてない、国家保護指定外の街です。国がこの件に関して何か言うことはないでしょう。それにここでジオラム商会を燃やすことは、シェルラちゃんだったら簡単だと思いますが、そんなことをしても、意味はないですよ。奴隷商会なんてたくさんありますし、そんな行動を取れば、全ての街を敵に回しかねません。商人は街同士のつながりがありますし、奴隷商会の力はとても大きいんです。そんな敵を作るのは、今後への影響が多きすぎます」
その言葉にシェルラは牙をむき歯を食いしばりながら、プロネアを睨みつけた。
ドラゴンの威圧を伴った視線を彼女はまっすぐに受け止めている。
プロネアもシェルラの気持ちを理解しているだろうが、これは事実です、という冷静さで無言のうちに彼女を諭していた。
そのことはシェルラも理解しているだろう。
その証拠に彼女はしばらくプロネアとにらみ合った後、静かにベッドへ座り直した。
プロネアはそれを目線で見送ると、そのまま説明を続けた。
「さっき言った通り奴隷商人たちは街の外でも繋がりがあります。今回行われるオークションも他の街の奴隷商人との連盟で開催されます。その催しを阻止することは、彼らを敵に回すことになり、有益ではありません。ラインドエルスはリズローン家の手ごまとして動いていましたが、今回は状況が違います。なのでもし奴隷たちを奪い返したいのであれば、正当に購入するか、あるいは――」
何かを切り出そうとするプロネアの言葉を、俺は予想出来た。
彼女はさっきから国だとか、奴隷商人の仕組みだとか、いろいろ説明していたが、そんなことを気にするような性格ではない。
プロネアが気にしてるのは、あくまで合理性である。
法律や組織間の決まり事を守るよりも、無視した方が合理的で判断した場合、彼女は迷うことなくそんなものは無視するに決まっている。
つまり、正当に奴隷を購入するぐらいなら……
「オークションに出される前に、奪い返しましょう」
「オークションに出される前に、奪い返すんだな」
俺とプロネアは声を重ねて、その結論を告げた。
これならばオークションの開催を邪魔したことにはならず、ジオラム商会単体への損害を与えるにとどまる。
ジオラム商会から恨みを買うことはあっても、国や街を敵に回すことはないわけだ。
ただし、人数がとにかく多い。
少しずつ逃がすことは出来ない。
ジオラム商会の牢屋から逃がすのは、一度で全員を逃がさなくてはいけない。
もたもたしてると騒ぎが大きくなり街中を敵に回しかねないからな。
それに相手は、街を制圧するだけの戦力を持っている。
さらに言うと期限はオークションが開催されるまでと限定されていた。
こちらの手駒は戦力が4人。
保護対象が1人。
不安ではあるがメンバーを工作に使って15人。
なかなか難しい作戦になりそうだった。
そんな中、自分と同じ結論に至った見たプロネアが、嬉しそうに話しかけてくる。
「それでは、ここからはクトリール様にお任せします」
俺はその言葉を受けて頷き、口を開く。
「これより『ティルナ及びエレイスト獣人救出作戦』の作戦会議を始める」
こうして俺たちは、ティルナたちを助けるために動き出した。