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9話 作戦会議

 ギルドハウスの前に到着すると、それを見てクランセラは口を開いた。


「こんな街の外の森の中に家を建てるなんて、危険じゃないですの」


 この世界の人から見ればそう思っても仕方ない。

 街の外ではモンスターがうろついてるのだ。

 このギルドハウスは一見何にも守られてないように見える。


「プロネア。俺も昨日は確認してなかったけど大丈夫だよね」

「大丈夫ですよ。セキュリティーはまだ生きてますから」

「せきゅりてぃー、ですの?」

「魔法の力で守られてると思えばいい。中に入れば分かるよ」

「いいんですの、それではお邪魔しますわ」


 俺はクランセラにもそれを体験してもらおうと家の中へ入るように促した。

 すると彼女は玄関の扉を開けようとするが、もちろん開かない。


「鍵がかかっってますの。これじゃ入れないですわ」

「壊してもいいから入ってみなよ」

「え、壊しますの?」

「うん、大丈夫だよ。きっと壊れないから」

「そうですよ。クランセラちゃんのよわーい攻撃なんて効きません」


 彼女はプロネアに煽られて、怒ったように剣を抜いた。


「こ、こんな扉ぐらい壊せますわ!」



 ――ガキン



 しかしその斬撃は”扉に触れる前”に弾かれる。


「ほらな、壊れなかっただろ」


 俺はそう言って扉を押す。

 すると難なくそれは開いた。


「本当は鍵なんて掛かってないんだよね」

「な、なんですのこれ。さっきは開かなかったですの!」

「これは俺が許可した人しか入れないようになってるんだよ」


 クランセラに詳しく説明しても無駄だろうから、簡単にそうとだけ教えておくことにした。


「これからはクランセラのこともギルドメンバーに登録しておくね」

「ギルドですの? でもギルドなら冒険者ギルドに入ってますわ」

「俺の個人的なギルドだよ」


 たぶん……

 ステータスと同じような感じでシステムメニューも呼び出せるよな。

 そう思って試してみると、案の定それは成功した。


 ――システムメニュー

 ギルドメンバー(2名)

 :ギルドマスター クトリール

 :サブマスター プロネア


 何故かサブマスターの位置にプロネアが登録されている。

 指名した覚えはないけど別に構わないだろう。

 俺はそこにクランセラの名前を追加した。


「これでクランセラもこの家に自由に出入りできるようになったぞ」

「そうですの?」


 彼女は試すように扉に手を当てる。


「あっ、開きましたわ!」


 クランセラは嬉しそうにそう言った。

 そうして俺達は家に入るとリビングで落ち着いた。

 彼女は内装のボロさも気にしてないようだ。

 もし俺なら案内された家がこんなのだったら多少は驚くところである。


 あまつさえ汚れたソファーに座っても全く嫌な顔をしていなかった。

 むしろ”すごく座り心地がいいですの!”と喜んでいる。

 やはり彼女は無垢な心の持ち主なのだろう。

 

「それじゃ、先に昼ごはんを済ませようか」


 作戦を練るにもルノーゼから貰った資料に目を通したいからな。

 プロネアが支度している間に読めばいいだろう。


「かしこまりました。それではお作りしますね」

「わ、私も手伝いますの」


 二人はそう言ってキッチンへと向かって行った。

 俺はそれを見送ると封筒から資料を取り出し、それを読み始めた。




 それからしばらくするとプロネアたちが戻ってきた。

 料理がテーブルに置かれ、俺たちは席につき食べ始める。


「クトリール様、その資料どうでしたか」

「うん。カノロレナ家についてはおおよそ分かったよ」


 資料には家柄や人物像。

 ラインドエルスでの立場などが書かれていた。


「カノロレナ家の当主の名前はハイグス。外の街との貿易を取り仕切るのが主な仕事だそうだ。だからこそ外の貴族とも繋がりがあるんだろうな」


 資料に書かれたことを簡単にまとめた。

 そしてそれを踏まえた上で、これからのことを二人に話す。

 

「貰った資料に書かれてたのは大まかな事情だけなんだ。だからこれだけだと礼拝堂を阻止する作戦は立てられない。依頼を達成するには相手の弱み握ったり、あるいは利益の矛先を変えさせるとか。そういうことが必要になる。そこでその材料みたいなものを俺たちで調べないといけないわけだよ」


 俺がそう説明すると、すかさずプロネアから意見が上がった。


「つまり人質に適した人物を探せばいいんですね!」


 いや……

 さすがに人質はちょっと……

 それに人質なんか取ればカノロレナ家との直接交渉になってしまう。

 もう少し目立たない方法をとりたい。


「人質なんか使えば目をつけらる貴族が変わるだけになる。しばらくこの街を拠点にして稼ぐと決めたんだ。貴族を敵に回すような作戦はとれないかな」

「では利益の矛先を変えさせますの?」

「そうだな。出来ればそっちの方がいい」


 俺達は礼拝堂の建設さえ阻止すればいいだけなのだ。

 カノロレナ家をどうこうする必要はない。

 レネジェーガ本人も言っていたが、それはあいつがやることだろう。


「貴族の利益になるようなことで、さらに私達にも出来ることですよね」

「まあ……礼拝堂を立てる以上に都合のいい話を作るのは無理だろうな」

「それだとこの依頼は達成不可能ではありませんか?」

「ただそれはカノロレナ家にとっては、ということだけどね」


 俺もカノロレナ家に利益を与える方法は思いつかなかった。

 だがそれは無視してもよかったのだ。


「でもクトリール様。礼拝堂はカノロレナ家が建てようとしてるんですよね。そこを止めないと孤児院の取り壊しは阻止できないのではないでしょうか」


 プロネアの言うことはその通りだが、そもそもの問題はその発端にある。


「実際に動くのはカノロレナ家でも、それを指示しているのは街の外の貴族と教会だろ。そっちの意志を変えさせてやればいい」

「しかしそれはカノロレナ家を動かす以上に難しくないですか」

「交渉とかじゃ無理だろうな」


 その言葉に二人は疑問を浮かべた。


「この街には礼拝堂の件に関わっているやつが何人かいるだろう」

「カノロレナ家とその派閥の人間、あとは教会の人でしょうか」

「その通り。その中でも標的は一番立場の弱そうな教会の神父に絞る。例え貴族や教会全体に利益を与えられなくても、当事者の一人を寝返らせる程度なら俺達にも出来るかもしれないからな」


 俺達は3人しかいないのだ。

 だから貴族や教会なんて大きな勢力と戦うことはできない。

 でも相手が1人ならば話は違ってくるだろう。


「これから神父がどんな見返りで動いてくれそうか調べる」

「具体的にはどうやって調べましょう。捕まえて痛めつけますか」


 またしてもプロネアがすぐに意見を出してきたが、そんなことをしたら後で寝返ってくれなくなるだろ……

 肉体を持った弊害か。

 それとも性格のせいなのか。

 彼女はアシストキャラとしての高スペックな頭脳を発揮できていなかった。


「それはやめておこう。他にも調べることがあるしな」

「まだありますの?」

「ああ、まずはタイムリミット。いつ孤児院が取り壊されるのか知っておかないと作戦が立てにくい。それはこの街で実際に指揮を執っているハイグスを当たるのがいいだろう」


 神父とハイグス。

 この二人から情報を引き出すことが優先される行動となる。


「タイムリミットはハイグスが依頼しそうな建設会社を探れば分かるはず」

「けんせつがいしゃ?」

「生産系ギルドのことですよ」


 プロネアは俺の言葉をこの世界用に直してクランセラに説明してくれた。

 すると彼女も納得したようだ。


「分かりましたの。生産系ギルドのことなんですの」

「そうだ。そこには工事の予定日とか受注見込み、そういった期限が分かるものがあるはずだからな。もしそれがなかったら取り壊しの日取りが具体的には決まってないと考えていい。その場合は猶予がまだあるってことになるんだけど、神父の様子を聞く限り多分それはないだろう」

「じゅちゅうみこみ、ですの?」


 クランセラがそう言って首をかしげていた。


「受注見込みっていうのはいつどれだけの売り上げがギルドに入るのか、それを把握しておくための予定表みたいなものだよ」

「先の予定なんて分からないですわ!」

「例えばクランセラは『明日までに薬草を10個取ってきたら1万ヴェイトが貰える』っていう依頼があったらどうする?」

「そんなの受けるに決まってますの!」


 破格の報酬ならば、誰だって受けるだろう。


「だったらその期間をもう少し長くして『一か月後に薬草100個で、10万ヴェイト』に変わったとしたらどうする?」

「もちろん引き受けますわ!」


 クランセラは即答した。


「この例でいうとクランセラは明日に1万、一か月後に10万ヴェイトのお金が入ることになるよね」

「そうですの。そんな依頼が欲しいですの!」


 彼女はそんな依頼が来ないかと期待するような顔をしていた。

 2000万ヴェイトも賭けてた女の子だけど金銭感覚自体は普通らしい。

 彼女にとってあの2000万ヴェイトは孤児院を救うためのお金で、自分のお金という感覚はなかったのかもしれない。

 無垢な心を持つクランセラらしい感性である。

  

「そうやっていつ報酬が貰えるのか予定を立てたのが受注見込みなんだよ」

「それに何の意味がありますの? お金がいつ入って来るのかなんて分かってますの。わざわざ予定なんか立てなくても覚えられますわ」


 彼女は冒険者だからそういう経験がないのだろう。


「一つなら覚えられるけど、数や期限がバラバラなら忘れることがあるかもしれないだろ。それに一人だけで依頼を受けてるとは限らない。メンバーみんなの分も合わせてギルド全体で計算しないといけないんだよ」

「うーん、確かにそうですの……」

    

 クランセラも理解できたみたいだな。

 話を進めよう。


「だからそれをギルドから見つけることが出来たら、孤児院が取り壊される期限も分かることになる」

「ではそれがどこのギルドかを調べるのが最初の行動でしょうか」

「そうだな。でもルノーゼからもらった資料にカノロレナ家と付き合いのあるギルドが載ってるんだ。簡単に見つけられると思う」


 資料に載っている建築系の生産ギルドを調べてけばいいだけだからな。

 それほど数が多いわけでもない。


「だったらさっそく街へ向かいますの?」

「今はまだ止めておこう。出掛けるのは夜になってからにする」

「どうしてですの?」

「……生産ギルドには不法侵入するから」


 そう言うとクランセラが露骨に渋い顔をした。

 俺だって出来ればちゃんと交渉をしたい。

 だが時間もない上に、ここで躓くわけにはいかないのである。

 こういうことも必要だと理解して欲しい。

 俺もギルドで同じような経験をしたので気持ちは分かるけど……


「いいですね! 鍵を開けるのは私に任せて下さい!」


 そしてプロネアだけはやたら嬉しそうだった。

 それはともかく話がまとまったので、俺は二人に話しかける。 


「それじゃ、夜までは休憩にするね。でもその前にクランセラ」

「なんですの」


 クランセラからはまだデータを回収してないので、今のうちにして済ませておこうと呼びかけた。


「ちょっとお願いがあるんだけど、いいか」

「もちろんですわ。クトリールさんには助けてもらいましたの。私に出来ることなら断りませんわ」

「そうか。そう言ってもらえると頼みやすい」


 俺は単刀直入にクランセラへお願いした。


「クランセラの体を俺に預けてくれないか」

「えっ……わ、私の体ですの」

「そうだ。でもすぐに済むからその後は休んだらいいよ」


 データの移動も初めてだとびっくりするからな。

 最初に断っておかないといけない。

 しかしクランセラは顔を真っ赤にして震えだした。

 どうやら怒り出したらしい。


「そ、そんな言い方で……お、女の子を何だと思ってますの!」

「クランセラにとっても大切なものだとは思う。でもどうしても欲しいんだ」

「そ、そんなのプロネアさんに頼んで下さいですの!」

「プロネアからはもう貰ったんだよ」

「も、もう貰ったって……だから私ですの?」

「ああ。同じ相手では意味がないからな」

「女の子を日替わりの使い捨てみたいに扱わないで欲しいですの!」


 クランセラの怒りはさらに強くなったようだ。

 

「もしかして……それが目当てで、私を助けてくれたんですの」

「それもあるけど、あのままクランセラが騙されて奴隷になることを見過ごせなかったのは本当のことだよ」


 クランセラは俺の言葉を聞くとため息をついて俯いた。


「分かりましたわ。助けてもらったことは事実ですの。それに依頼のことでも頼ってますの。仕方ないと……思いますわ」

 

 彼女はそう言うと何故か裏切られたような顔をしていた。

 そして絞る様な声で話しかけてくる。


「でも……せめて二人っきりでお願いしますわ」


 クランセラはプロネアの視線が気になるようだった。

 彼女の方を見ながらそんなことを言ってきた。   


「別にここでもいいんじゃないか」

「嫌ですの! 私は初めてなんですから気を使って欲しいですの!」

「まあ……クランセラがそう言うなら部屋に行こう」


 俺も昨日初めてスキルを使ったばかりだけど一瞬びっくりするだけで、そんな大したことはないんだけどな。

 そうして俺たちは二階に上がり、昨日も寝ていた部屋までやって来た。

 部屋に入るとクランセラはベッドの上で横になる。


「そ、それじゃあ……ど、どうぞですの」

「起きてた方がいいよ、最初は少しびっくりするだろうから」

「そ、そうですの。なら、任せますわ」


 俺はクランセラを起き上がらせるとその手を握った。


「や、優しくして欲しいですの」

「俺も慣れてないけど、そう務めるよ」


 ――そして俺はワールドフレームを起動させた。


「はうっ、な、何ですの!?」

「大丈夫だ。そのままじっとしてて」


 俺はクランセラからデータを回収しようと感覚を研ぎ澄ませる。

 手ごたえを感じたのでコピーを実行。

 するとシステム音が聞こえてきた。

 それを合図に俺はワールドフレームを終了した。

 彼女はその現象に対し、不思議そうな顔で呆然としていた。


「何でしたの。いきなり体が変な感じになりましたわ」

「これが俺のユニークスキル、ワールドフレームだよ」

「ゆにーくすきる、ですの」

「レネジェーガは能力って言ってたけど知らないのか」

「知りませんわ」


 やはり本人ですら分からないか。

 あるいは存在に気づいてても名前を知らないだけという可能性もある。


「クランセラは自分の使えるスキルを知ってる?」

「もちろんですわ。剣スキルとそれに探索スキルも使えますの!」


 どうやらユニークスキルのことは本当に知らないらしい。

 俺はアナライズを使い、彼女のステータスを表示させた。


「クランセラのスキル、本当はこれだけあるよ」  



 ネーム:クランセラ

 レベル:35

  称号:Cランク冒険者、ギルドのアイドル

  種族:ヒューマン

 ジョブ:戦士

 スキル:無垢なる剣太刀、剣技(レベル4)、罠解除(レベル2)、鑑定(レベル2)、警戒(レベル4)



 それを見た彼女は目を丸くして驚いていた。


「な、何ですのこれ」

「それがクランセラのステータスだよ」

「すてーたす……」

「そうだよ。クランセラの実力を文字や数字で表わしたらこうなるんだ」


 彼女は俺の言葉を聞きながらステータス画面を見つめていた。

 

「このスキルの項目に書かれてるのには覚えはあるだろ」

「はい……ですの」

「ならこれとこれは」


 そう言って、俺は”無垢なる剣太刀”と”警戒”を指さした。


「そう言えば1年ぐらい前からモンスターに剣が通るようになって、躱されることもなくなりましたわ。そのおかげでCランクまで上がれましたの」 

「それがこの無垢なる剣太刀ってスキルだよ」

「そうでしたの」


 クランセラは頷きながらそれを見ていた。

 正確には『相手の防御力を無視してダメージを与えることができ、回避系スキルを無効化するスキル』だけどな。

 加えて言うならこのスキル、ゲームでは隠し武器についてたスキルだった。


「この警戒っていうのは何ですの」

「敵が近くにいるとなんとなく殺気とか気配とか感じないかな」

「なんとなくですけど……確かにそういうこともありますわ」

「それが警戒スキルの効果だよ」

 

 このスキルは勘が働くこともある現実だと分かりづらいな。

 こうしてステータスで見ないと、まず自覚できないだろう。


「クトリールさんはこんなことが出来たんですのね。やっぱりプロネアさんが言ってた通りすごいです!」

「そんなことないよ。俺のステータスってこんなのだし」



 ネーム:クトリール

 レベル:22

 種族:ヒューマン

 称号:コアホルダー

 ジョブ:アサシン

 スキル:ワールドフレーム、アナライズ、アイテムボックス、無垢なる剣太刀


 

「このレベルっていうのが、強さの基準みたいな感じだよ」


 俺はクランセラに自分のステータスを見せた。

 レベルが5上がってもなおクランセラより低い。

 しかも直接的な攻撃スキルがないのである。


「それじゃあ、私の方が強いってことですの」

「そうだよ」


 クランセラはそう聞きながらも、俺のステータスを見つめていた。

 そして気が付いたようだ。

 

「私と同じスキルがありますの!」

「これはクランセラからコピーしたスキルだよ」

「こぴー?」

「クランセラのスキルを真似したってことかな」


 クランセラはそれを聞いて怪訝そうな顔をする。


「スキルは頑張って自分で身につけるものですわ。私も剣の練習を一生懸命して剣スキルを習得しましたの」

「俺もそういうのは真似できないよ。俺にコピーできるのはユニークスキルだけだからね」

「ゆにーくすきるとは何のことですの」

「頑張っても習得できない特別なスキルのことかな」

「特別なスキルならこぴーできますの……だったらクトリールさんは特別だらけですごいですの!」


 彼女はそう言って目を輝かせていた。

 クランセラまでプロネアみたいな反応してる……

 だから今は大してすごくないんだよ。

  

「それじゃあ、用事も済んだから夜まで休もう。クランセラの部屋は用意するからそっちで寝るといい」

「えっ、これで終わりですの?」

「そうだよ」


 クランセラはそれが予想外のように驚いていた。


「じゃ、じゃあ私に体を預けろって言うのは……」

「コピーするときにはそうして貰わないとうまく出来ないからね」

「プロネアさんから貰ったっていうのも……」

「アナライズとアイテムボックスっていうのがプロネアに貰ったスキルだよ」

      

 そう答えるとクランセラは次第に顔を歪ませ、ついには泣き出した。

 そして抱きついてくる。


「ご、ごめんなさいですの、私……勘違いしてましたの。孤児院を助ける為ならって……私一人じゃ依頼はこなせいから体を差し出すことで、みんなを助けられるならって……我慢しようと思ったんですの。でもそれは違ってて、クトリールさんはそんなこと要求してなかったですの」

「悪かったな……俺も言い方を気を付けるべきだった」


 彼女の言葉を聞いて、俺はクランセラが何を勘違いしてたのかに気付いた。  確かに恩人だと思ってた人がいきなり体を求めてきたら恐いよな。

 ましてやクランセラは未経験と言ってた。

 その恐怖も大きかったに違いない。

 それでも孤児院の為に身を捧げようとするなんて健気すぎるだろ。


「クランセラ、孤児院は守ってみせるから安心しろ」

「……はいですの」


 そう言ってクランセラはしばらく泣いていたが、やがて泣き止んだ。


「それじゃあ、もういいか。夜に備えて仮眠しといた方がいい」

「そう……ですの……」


 俺は立ち上がりクランセラを部屋に案内しようとした。


「あの、クトリールさん」

「どうした」

「で、でも……その、クトリールさんが、その……勘違いじゃなくて、もし本当に私を望むようになったときは……いいですの……私、クトリールさんなら後悔しないって……大丈夫だって、さっき思いましたわ」


 クランセラはそう言うと、恥ずかしそうに顔を逸らした。

 

「そうだな、そんなときが来たら頼むよ」

「なら……夜まで一緒に寝て欲しいですの」


 よくよく考えれば彼女は頼れる仲間もいない中、一人で孤児院を守ろうとしていたのだ。

 そうして賭博場で罠に掛けられるくらい追い詰められていたのである。

 それがようやく今、共に行動できる仲間が出来たのだ。

 少し甘えたくなる気持ちも理解はできるか……

 妹みたいに接する分にはいいだろ。

 ――本当の妹はこんなに甘えてこないが。

 

「それじゃあ、一緒に寝ようか」

「はいですの!」


 夜までの数時間、添い寝をするぐらいなら何も問題はない。

 俺たちは仮眠を取ろうとしたのだが……

 部屋の扉が叩かれる音で、それは中断された。



「クトリール様、もうデータの回収はお済になりましたか」



 プロネアが廊下から、そう呼びかけてきた。

 俺はその呼びかけに、おそるおそる返事を返した。

 プロネアの声が、やけに恐かったのである


「あっ……うん、終わったよ……」

「なら、もう入っても大丈夫ですよね」

「ど、どうぞ」


 そうして部屋に入って来たプロネアが、俺たちを見て話しかけてくる。

 

「クトリール様、今から何をされようとしていたんでしょうか」

「いや、あの……少し仮眠をとろうとしていただけです」

「そうですか。私のことは放っておいてクランセラちゃんとお昼寝ですか」


 視線を合わせられない。

 それでもレベル284の古代精霊さんに睨まれてる気がした。

 かなり怒ってるよね、これ。 


「決してプロネアを放置してたわけじゃないんだ」

「ならどうして寝ようとしてたんですか」

「いや……その、プロネアも、もう休んでるかなと思って……」


 そう言うと彼女は拗ねたように声を大きくした。


「休んでません! クトリール様が戻ってくるのを待ってたんです!」

「悪かった、そうとは知らなくて……」


 俺が謝っていると隣にいたクランセラが口を開く。


「だったらプロネアさんも一緒に寝ますの」

「な、何でクランセラちゃんに、そんなこと言われないといけないんですか」

「私はクトリールさんが傍にいれば安心できますの。それにクトリールさんなら二人ぐらいの相手は見れますわ。私たちが取り合う必要はないですの」

「私はクトリール様がそれでいいなら……いいですけど」


 いや、ちょっと勝手に何を言う!?

 プロネアもさっきまで怒ってたのに、なんでそこは素直なの!?

 それでもまだ拗ねてる感じだし。

 

「クトリールさん、私たち二人が一緒でもいいですわよね」


 勝手に話が進んでいくが、これって添い寝だけの話だよね。

 やけに言葉が重い気がするのは気のせいだよな。


「ああ、うん、もう三人で寝よう」

 

 そうして俺たちは同じベッドで3人、仮眠を取ることにした。

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