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5話 その3 ダンジョン

 もう遠くの方にダンジョンの入り口が見えてきたみたい。

 プロネアが嬉しそうに話しかけてくる。


「クトリール様、もうつきますよ!」

「ああ。たっぷり稼がないとな」


 現時点で明日の宿代も尽きているのだ。

 何も収穫がないと、あの廃屋敷に帰らないといけなくなる。

 片道1時間30分だから通えなくはないけど、この街を拠点にした方が楽だからね。

 しかし意気込む俺に対して、彼女は心配するように忠告をしてくる。


「クトリール様。武器を手に入れたからといっても無理をしないで下さいね。クトリール様はモンスターを倒してもレベルが上がるわけではありません。本当なら戦う必要はないんですよ。もし怪我をされたら大変です。モンスターの相手は私がしますので、出来る限り後ろで見ていて下さいね」

「出来る限り邪魔にならないようにするけど、たまには戦わせて」

「うーん、じゃあ弱そうなモンスターだけですよ」

「それでいいよ。ありがと」


 レベルが上がらないとはいえ、ここは現実の世界。

 体の動かし方だけでも慣らしておきたかった。

 そんな会話を二人でしていると、やがてダンジョンの入口にたどり着く。


「けっこう人がいるんだね」


 街の最北にあるダンジョンの入り口前は、開かれた広場になっていた。

 パーティーの待ち合わせをしている冒険者や、道具屋の出張テントなど。

 そういった人たちがちらほらと見受けられる。


「クトリール様、あんまりきょろきょろしていると初心者だとバレますよ。またナンパに会わないように気を付けて下さい」

「そうだね。あんまり女の子もいないみたいだし」


 俺は隙を見せないよに、わずかに背筋を正す。

 うーん、それでもなんか見られてる気がするのだけど。

 やっぱり女の子二人組の冒険者と思われて、珍しがられてるのかな。


「はやくダンジョンにはいろ、プロネア」

「そうですね。クトリール様をいつまでもこんな視線にさらすわけにはいきません」


 俺たちは足早にダンジョンの入り口へと向かうことにした。

 そして入場場所にまで到着すると、そこでギルド職員に呼び止められる。


「君たち、これからダンジョンに入るのかい?」

「はい。そうですけど」

「だったらギルドカードを見せてくれ。受け付けを済ませてからじゃないと、ダンジョンには入れないよ」

「分かりました。これでいいですか」


 俺とプロネアは、それぞれギルドカードを職員にみせた。

 すると彼はカードを受け取り、変な機械に差し込み何かよ読み取っている。


「クトリールさんとプロネアさんね。今回が初めてのダンジョン攻略みたいだけど、二人だけで大丈夫なのかい。ダンジョンには6人まで同時に入れるから、先に誰か引率してくれる先輩冒険者をギルドで紹介してもらうことをお勧めするよ。やっぱり女の子二人だけだと危ないだろうし」


 ギルド職員がそう言った途端、周りにいた冒険者の視線が一気にこちらへと向けらた。

 この無神経な男め。

 心の中でギルド職員に毒づいていると、さっそく声をかけられてしまう。


「あれ、君たち今日が初めてなの。だったら俺たちのパーティーと一緒に攻略しない?」

「いやいや、お前らみたいなDランク冒険者じゃ不安で仕方がないだろ。俺たちのように平均Cランクもあれば安心できるけどな。だから一緒にダンジョン攻略しない?」

「ちょっと、勝手に決めるなよ。彼女たちみたいな可愛い子がお前らみたいなムサいパーティーに入るわけないだろ。それよりうちはすでに女の子がいるし、うちに来た方がいいよ」

「勝手なこというな!」

「お前らこそすでにメンバーが満員だろうーが!」

「うるせー、パーティーなんてその日によって編成が変わるだろ!」


 俺たちを自分のパーティーに誘おうと、彼らは次々と言い争いを初めていった。

 やがて冒険者たちは俺達のことよりも互いに喧嘩をし始める。

 

「プロネア、いまのうちにダンジョンへ入っちゃおうよ」

「そうですね」


 そうして俺たちは喧噪を後ろに残して、ダンジョンの入り口へと足を踏み入れる。

 洞窟の入口のような場所で薄暗い。

 ちょっと怖いけど、プロネアもいるし平気な顔をしないと。


「大丈夫? 俺は暗視できるから、転びそうなら捕まってて」

「はい。しっかりクトリール様に捕まりますね!」


 彼女は嬉しそうに、俺の腕に抱きついてくる。

 こんな状態でモンスターに不意うちされて、無様を晒すのも恥ずかしいよね。

 心配になったので問いかけてみる。

 

「ところでこれって、どこからモンスターが出てくるんだ。もうすぐ出てきそう?」

「まだ先ですよ。少なくとも入口の結界を抜けるまでは出てきません」

「結界?」

「そうです。ダンジョンのモンスターが間違って街に出てこないように、ダンジョンの入り口には結界が張られてるんです」

「そ、そうなんだ。それでその結界っていうのは、どこで途切れるの?」

「ちょうどこの辺りのはずです」


 プロネアがそう答えた瞬間、いきなり背後の気配が消失した。

 慌てて後ろを振り向くと……


「あれっ、入口が消えてるんだけど……」


 その現象にあっけにとられていると、プロネアが話しかけてくる。

 落ち着いているので何か知っているようだ。


「このダンジョンは入り口をある程度すぎると、無作為に1階フロアのどこかに飛ばされるようになってるんですよ。そのときに入ってきた入口は消えて無くなっちゃうんです」

「えっ、じゃあ帰るときはどうするの?」

「帰るときは別の出口を探さないといけないんですけど、それはダンジョンの中にたくさんあるので心配しなくても大丈夫です。出口を進んでいくと、何時の間か最初の入り口に繋がるようになってますから」

「そうなんだ。念のために聞くけど、出口を見つけられずに出られないとかってないよね?」

「低層だとほとんどありません。深い階層に行くと死活問題に直結するらしいですが」


 なにそれ。

 最初に言いなよ、そんな危ないこと。

 軽い気持ちで来たけど、思いの外恐ろしいところじゃないか。

 もう帰りたくなってきた。


「あっ、ちなみにこれは一度にダンジョンへ6人しか入れない理由でもあるんですよ。6人以上で入口を通るとなぜか別の空間に飛ばされず、行き止まりに突き当たっちゃうらしいんです」

「へー、そうなんだ。それより今日は1階だけ様子見して戻らない?」

「いいですけど、急にどうしたんですか。ここに来るまではダンジョンに入るのを、楽しみにされていたように見えましたけど」

「いや、どうせ明日もクランセラと一緒に来るんだし、今日は無理しなくてもいいだろ」

「分かりました。クトリール様がそう言うのでしたら従いましょう」


 プロネアには若干不審がられたが、恐いものは仕方がない。

 こんな場所だとは思っていなかったのだ。


「とりあえず出口を見つけながら、モンスターを倒して素材を集めよう」

「かしこまりました。この階層のモンスターなら何百体が相手でも平気ですので、クトリール様は安心して後ろをついてきて下さい」

「いや、大丈夫。俺が先頭を歩こう」


 本当は後ろを歩きたいけど、女の子を盾にするわけにはいかないからな。

 例え戦闘はプロネアに任せたとしても、依存などはしない。

 いざとなれば、俺が助けるくらいの覚悟はある。

 そう心を落ち着かせていると、いきなりプロネアが話しかけてくる。


「あっ、クトリール様。この先にモンスターがいます」

「ひゃうっ! ど、どこにいるの!」

「この廊下の突き当たりですけど、私に任せて下さい」


 彼女は俺の前にでると、小さく唇を動かして詠唱を唱える。

 そして手のひらを前に差し出した。

 

「原初を刻め、コプリアエール」


 その魔法が発動した瞬間、ものすごい風が通路内で吹き荒れた。

 くぅ、髪の毛が邪魔だ、前が見えないよ。

 俺は腕で顔を隠しながら暴風が治まるのを待っている。

 やがてそれも終わったようで、ふわっと髪が重力に従うように元へと戻った。

 前を見るとモンスターは空気の壁とダンジョンの壁に挟まれ、圧死したように動かない。


「えへへ。上の階層のモンスターは弱いので、初歩的な風の精霊魔法でも簡単に倒せるんですよ」


 プロネアは自慢げに微笑みかけてきた。

 これなら確かに相手が何百体だろと関係なく、押しつぶせば倒せそう。

 なんだ意外とダンジョン攻略って楽勝だな。

 やっぱりもう少し深い階層に行ってみてもいいかも!

 彼女の魔法に感心していると、その本人に話しかけられる。

 

「クトリール様。モンスターが素材を落としましたよ!」


 プロネアは嬉しそうにして、それを自分のアイテムボックスに詰めていた。

 

 そしてその後。

 俺たちは何の苦労もなくモンスターを倒して素材を集めていく。

 結局なんだかんだ言いながら、4階まで降りてきてたし。


「プロネア、そろそろ戻ろうか。素材もだいぶ集まったでしょ」

「そうですね。一週間は働かなくても暮らせます」

「明日からはもう少し深いところを探索してみようか」


 プロネアがモンスターたちをまとめて倒してくれるおかげで、かなりの効率で稼げた。

 この分だとお金が貯まるのも早そうだな。

 あとは無事に戻れれば、初めてのダンジョン攻略は大成功と言えよう。


「出口はこっちだっけ」

「はい。その先を曲がったところに、あったはずです」


 先ほどみつけた出口の場所を思い出しながら、来た道を引き返す。


「あった。このダンジョンの壁に入ってる切れ目みたいな横穴な」

「入口に戻る前に本命の素材はアイテムボックスにですよ、クトリール様。あまり価値のないものだけ表に出しておきましょう」

「せっかく頑張って取った素材だからね。貴族なんかに取られたくない」


 そして戻る準備を済ませると、ダンジョンの横穴を進んで行く。

 すると次第に外から明かりがさしこんできた。

 本当に1階の入り口と繋がってるんだ。


「ふぅー、無事にダンジョンから戻ってこれたー」

「お疲れ様でした、クトリール様」


 二人でそう声を掛け寄ってくると、ギルド職員がこちらに近づいてくる。


「おっ、戻ってこれたのか。初めてのダンジョン攻略で死なれなくてよかったよ。それじゃ、ギルドカードを渡してくれ。退場手続きと成果の確認をする」

「うん。じゃあこれでよろしく」


 俺たちは再びギルドカードを手渡した。

 それはまたしても変な機械に通されているのが見える。

 なんだろうな、あれ。

 疑問に思っていると、もう一人始めて見るギルド職員が声をかけてくる。


「次はダンジョンで手に入れたアイテムを出してみろ」


 なるほど、こいつが持ち物検査師か。

 いくらでも調べるといい。

 アイテムボックスにほとんど収納してるけどね!

 俺たちは手荷物程度の素材をそいつの前に広げてみせた。


「ふん。確かに持ち帰ったアイテムはこれだけのようだな。それじゃあこの紙をもって48時間以内にギルドで手続きをしてこい」


 ん、なんか紙をもらったのだけど。

 見てみると、いま確認してもらったアイテムの一覧が書かれている。

 つまりこの紙が換金手続きの申請用紙代わりなのか。


「初心者のようだから言っておくが、もし処理するアイテムを誤魔化したら罰せられるからな」

「大丈夫。ちゃんとギルドに全部持って行くよ」

「ならいいが……」


 もしかして怪しまれてるのか。

 まあ証拠は絶対に見つからないだろうけど!

 

「それじゃあプロネア、さっそくギルドに換金しにいこ」

「はいっ」


 こうして俺たちは、ふたたびギルドへと足を向けた。

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