5話 その1 冒険者ギルド
再びギルドに戻ってくると、今度こそ建物の中に入る。
まずは新規登録をしないとな。
俺たちはまず受付に向かうことにした。
「すみません、冒険者になりたいんですけど」
「はい、かしこまりました。それではこちらのギルド加入書にご記入お願いします」
「分かりました」
えーとっ、名前はクトリール。
次は住所ね。
……あの屋敷の住所なんて知らないよ。
「プロネア、お願いこれ書いて」
「はい。クトリール様のご命令ならば何でも承りますよ!」
さっきは命令拒否したのに。
まあ小さいことは気にしないけど。
「書けました。それではこれをお願いします」
「クトリールさんとプロネアさんですね、今登録しますので少々お待ちください」
受付のお姉さんが机の上で何かの作業を済ませている。
やがてそれも終わったようで、彼女は俺たちにカードを手渡してきた。
「これはダンジョン入場許可証を兼ねた冒険者ギルド登録証になります。簡単にギルドカードと呼ぶ人が多いですけどね。これがないとダンジョンは入れないんですよ」
「そうなんですか。ありがとうございます」
あれ。
でもプロネアはダンジョンに入ったことがあるって言ってたような……
彼女の方をみると、照れたように小声で耳打ちしてきた。
(えへへ、実は不法侵入だったんですよ。別に下位世界のルールなんてどうでもいいですよね)
(さすがにダメだよ……)
(でも私は精霊族ですから、人間社会の法律に縛られるのもおかしいと思うんですよ)
もしかしてプロネアって、すごく性格が偏ってる子なのかな。
よく下位世界とか言ってるし。
そんなことを思ってると、受付のお姉さんが話しかけてくる。
「ところでパーティーはどうされます? 今ならクランセラちゃんが募集をかけてますよ」
「誰ですかそれ」
「Cランクの冒険者ですよ。なんでも今日になって、パーティーを解散したとかで急募をかけてきたんです。若くて可愛い女の子ですけど、経験も積んでますし素直ないい子ですよ」
「それってもしかして、金髪でツインテールの子ですか」
「知ってたんですか。まあこのギルドでは有名人ですからね」
やっぱりあの金髪美少女のことか。
とても素直でいい子には見えなかったけど……
「その顔はクランセラちゃんが暴れてる姿でも見ましたか?」
「ええ、まあ」
「確かに最近は素行があまりよくないですけど、昔から頑張ってた子なんですよ。このギルドに登録へ来たのはもう3年前くらいでしょうか。当時は今より体も小さくて、毎日彼女の心配ばかりしてたのを覚えています。それが最近ようやくCランクまで上がったんで、ギルドの職員もみんな喜んでたんですよ。贔屓とかしてるわけじゃないんですけど、幼いながらも苦労してる姿を見てきましたから仕方ないですよね」
「へー、Cランクってそんなにすごいの?」
「だいたい平均的な冒険者が6年くらいで成れると言われてます」
「それはすごいな」
およそ半分の期間で昇格したことになる。
「でも最近は頻繁にパーティーを解散してますし、何だか焦ってるみたいで心配なんですよ。ですから初心者かつ年も近いクトリールさんたちと一緒にパーティーを組めば、クランセラちゃんも昔みたいに優しい子に戻れるかなって思ったんですけど、どうでしょう。クトリールさんたちもCランク冒険者と組めるわけですからメリットは十分だと思いますよ」
「それじゃあ、パーティーに応募してみます。いい機会ですからね」
これで見つける手間が省けたな。
「分かりました。それではパーティー登録をしておきます。本当は本人と面談とかあるんですけど、クランセラちゃんが断るといけませんからね。こうでもしないとクランセラちゃんが暴走しっぱなしになりそうなので仕方ないです。どうかクランセラちゃんのこと頼みますね」
「分かりました」
「クランセラちゃんも女の子同士なら、少しは気を許してくれるかもしれませんし」
「えっ!?」
「女の子同士ですよね。ギルド加入書にもそう書いてます」
俺はすぐにプロネアの方を見ると、彼女は顔をそらした。
書き間違えたの?
もしかしてわざとじゃないよね……
でもこの流れで実は男ですとか言うと、パーティーを組んで貰えなくなるかもしれない。
ここは女で通すしかない。
「そ、そうですね。女の子同士だから大丈夫」
「それではクランセラちゃんには伝えておきますので、明日のお昼にまたギルドに来て下さい」
「はい。また来ます」
そう言うと、俺はそそくさとギルドを立ち去った。
後ろからプロネアが追いかけてくる。
「クトリール様、出て行くのが早いですよ」
「だって俺は女の子じゃないよ。男だよ、なんでこんな恥ずかしい目に合わされるの」
「見た目が美少女なんですから、嘘をついたところで気が付く人なんかいないと思います」
「そういう問題じゃないよ!」
男らしく生きるのが目標なのに、まさか自分の口から女の子だって言うなんて……
「私が思うにその綺麗な金髪をしたロングヘアも、クトリール様の美少女らしさを強調してるのではないでしょうか。よろしければ私が整えて差し上げますよ」
「これは切らないから!」
髪の毛は妹に切ってもらうって決めているのだ。
今となっては元の世界に戻るための願掛けみたいなものにもなってるし。
「そこまで強く言うのでしたら、仕方ありませんが……でしたら、女の子に間違われても仕方ないということは受け入れた方がいいと思います」
彼女は残念そうに苦言を呈してくる。
少なくとも今回の件はプロネアがちゃんと性別を正しく記入してくれたら、女の子に間違えらなかったかもしれないけどな。
とりあえずこのギルドカードは、別の街に行ったら紛失したことにして作り直そう。
このままだとずっと女の子を名乗ることになる。
「まあ結果的にあの金髪の美少女。クランセラだっけか。彼女とうまくコントタクトがとれるようになったからいいけど、今度からは気をつけてよね」
「も、もちろんです。えへへ」
プロネアはとぼけるように、わざとらしい笑顔を見せた。
またやりかねない……
しかし俺はそんなことで屈するわけにはいかないのだ。
なぜなら男らしさを追求してるからな。
「ともかく一つだけとはいえ、ユニークスキルを回収できるめどは立ったんだ。そろそろ宿屋代を稼ぎに行こう。この世界のダンジョンというのも見てみたいし」
「分かりました。それではご案内しますね」
そう言うとプロネアは俺の前に立ち、道案内をかってでてくれた。
「クトリール様。この町が管轄するダンジョンというのは、街の中にあるんですよ」
「えっ、そうなの?」
「はい。受付のギルド職員は何も説明してませんでしたけどね」
「そういえばそうだね」
俺達はギルドのこともダンンジョンのことも、何一つとして説明を受けてない。
別にプロネアが知ってるみたいだからいいけど。
もしかしてあの受付のお姉さん。
クランセラのことで頭がいっぱいになって、言い忘れたのかな。
それとも――
『仲良くなるために、そういうことはクランセラちゃんに教わってね』
とでも言いたかったのだろうか。
あの子にそんな初歩的なことを聞いたら、速攻でバカにされそうだけど……
「いや、プロネアがダンジョンについて知ってて助かったよ」
「えへへ。クトリール様に褒められちゃいました」
はにかみながら彼女は上機嫌になったようだ。
両腕を内側にぎゅっと寄せる仕草、オーバーリアクションで応えてくれた。
そしてそのまま口調も軽く、ダンジョンについて語り出す。
「まずダンジョンに入るには、入り口で係員にギルドカードを見せなけばいけません」
「ああ。なんかそれは聞いた気がする」
「そうですね。何故かそれだけはついでのように言ってましたが、その理由については触れてなかったと思います。簡単に言いますと、冒険者ギルドはギルドカードを使ってダンジョンの管理をしてるんですよ。無断でダンジョンの資源が盗まれないように目を光らせてるんですね。モンスターの素材や宝箱、鉱物資源である魔石など、そういったものは基本的に貴族が所有権を持ってることになってますから。冒険者ギルドは貴族の連盟から委任を受けて、ダンジョンを管理する権利を持ってるんです」
「じゃあダンジョンで手に入れたアイテムはどうなるの!?」
せっかく手に入れても没収されるなら、ダンジョンに行く意味なんてないじゃん。
この世界の貴族ってそんなに横暴なのか。
慌てる俺に対して、プロネアは静かに答える。
「大丈夫ですよ。ダンジョンで手に入れたものは、基本的には持ち帰った人へ所有権が移るように決められているんです。ただしそれに対して税金は掛けられますけどね。換金した価格の35%、それがダンジョン税になります。冒険者ギルドには換金所が併設されてるのですが、自動的にそれが差し引かれるようになっています。ちなみに冒険者ギルド以外で換金すると、密猟扱いになって処罰されるので注意が必要ですよ。現物でアイテムを残しておきたい場合は35%分のお金を払えば、一応そのまま持って帰ることもできます。ですが仮に超レアアイテムを見つけた場合、払える人はそういないでしょうから、たいていは冒険者ギルド、というよりも後ろ盾である貴族に取られちゃいますけどね」
貴族め、ぼったくりすぎだろ。
でも自己申告しなけりゃいいわけだよな。
意外とザルなのかも。
「ちなみに冒険者ギルドの職員には持ち物検査師というジョブの人がいて、黙って持ち帰ろうとしても高確率でバレます。もちろんダンジョンで得たアイテムを隠していた場合も密猟扱いで処罰されます。絶対に見つからない自信がないのでしたら、ちゃんと申告はした方がいいでしょう」
持ち物検査師ってどんなジョブだよ。
今までやってきたゲームでも聞いたことないよ。
元の世界でもマイナーな資格とかあったけど、それと似たようなものかな。
おそらくこの世界独自のジョブなんだろう。
「でも俺たちなら……」
「ええ、アイテムボックスがあるので絶対に見つかりません!」
プロネアはすがすがしい程の笑顔でそう言った。
俺もつられて笑みがこぼれる。
「貴族なんかにお金は渡せないよね」
「もちろんです。いっぱい稼ぎましょう、クトリール様っ」
そうして俺たちはダンジョンへと向かっていく――