3話 その1 プロネアの装備はメイド服!?
あれっ、ここは。
そういえば……
異世界に来てたんだったな。
俺はベッドで目を覚ますと、昨日の出来事を思い出した。
それにしても今何時だろう。
周りを見回しても時計はなかったが、朝にはなっているみたいだ。
ならもう起きていい時間だろう。
俺はベッドから立ち上がると、部屋を後にした。
そのまま廊下を歩き、階段を下りたところで物音を耳にする。
リビングの方からか……
おそらくプロネアが、朝ご飯の用意でもしてるんだろう。
そのまま足を進め扉を開けて、リビングへと入る。
すると予想通り、朝食の用意に勤しんでいた彼女の姿が目に映った。
「おはよう、プロネア」
「あっ、おはようございます、クトリール様」
声を掛ると、彼女は丁寧に深くお辞儀をしてきた。
でも……
「その服はどうしたんだ」
なぜか彼女はメイド服を着ていたのだ。
プロネアは照れくさそうに、スカートを両端をつまんで話しかけてきた。
まるで衣装をお披露目するかのように。
「えへへ、実は昨日の夜に作ったんですよ。メイドらしくなりましたか?」
「う、うん。メイドらしくて可愛いよ」
ただし現代風にアレンジされた萌え系メイドだけど。
おそらく俺がその手のゲームをインストールしていた影響だろう。
「クトリール様が可愛いって言ってくれました、えへへ」
プロネアは嬉しそうに喜んでいた。
そしてひとしきり満足したところで、話しかけてくる。
「あっ、もちろんクトリール様の服もご用意してますよ」
「そうなの?」
「はい。こちらです」
そう言って彼女は何もないところから、服を一式取り出した。
「これがクトリール様の衣装ですよ。かっこいいですよね、徹夜で作りました!」
「えっ……う、うん。ありがと……」
これはかっこいいのか。
ゲームで見る分にはいいけど、自分で着るのは恥ずかしいデザインなような……
上着はコート風で、ズボンにはスカートのようなヒラヒラがついている。
この世界では一般的なのかもしれないけど、俺にとってはハードルが高い。
「さっそく着替えてみてはいかがでしょう」
「で、出掛ける前にするよ。ごはんの前だし、汚したくないから」
「そうですか。それでは後の楽しみということですね!」
着替え忘れたことには……できないよな、やっぱり。
仕方ない。
男らしく女の子の好意は受けれるしかないようだ。
そうして朝食をとり終えた俺は、自分の部屋に戻ってきていた。
今はちょうど、プロネアから受け取った服に着替え終わったところだ。
これを着て外に出るのか……
俺はわずかに憂鬱な気分になっていた。
しかしすでに部屋の前ではプロネアがわくわくして待っている。
いつまでもこうして時間稼ぎをしているわけにもいかない。
意を決して扉を開けて外に出る。
「お待たせ、着替え終わったよ」
廊下に出るとプロネアは、俺の姿を見て目を輝かせた。
「きゃーっ、クトリール様とっても可愛いです。かっこいいです。美少女剣士って感じで凛々しいのに、どことなく可愛らしさも兼ね備えてます。すっごく似合ってますよ!」
「あ、ありがと……」
このズボンのヒラヒラ、まさか女の子らしくするためにわざと付けたんじゃないだろうな……
いや、考え過ぎか。
きっとプロネアは純粋にかっこいと思ってデザインしてくれたに違いない。
「どうすれば男性用の衣装でクトリール様が可愛く見えるか、一生懸命考えたんですよ!」
「いますぐ作り直して!」
「えっ……」
そう言うとプロネアは泣き出しそうな表情を見せた。
「も、もしかしてお気に召しませんでしたか……」
「いや……」
「も、申し訳ありませんでした。す、すぐに……つ、作り直します……」
ダメだ。
プロネアを泣かせてしまう。
男として女の子の気持ちを無視することはできない。
こういうところで、男らしさが決まるからな。
そもそも女の子を泣かせるようなことは、あってはならないのだ。
俺はこんな見た目でも、せめて性格だけは男らしくありたい。
「いや、よく見ればかっこいい服に思えてきた。やっぱり気に入ったぞ」
「ほ、ほんとですか……」
「ああ。一生懸命プロネアが作ってくれたんだもんな、ありがとプロネア」
「えへへ、はい」
これで俺の男らしさがさらに磨かれたな。
「それじゃあ、もう準備も出来たし出掛けようか」
「はいっ」
プロネアは笑顔で元気よく答えた。
うん、これだけで俺も我慢した甲斐があったものだ。
そんなことを思いながら、俺たちは廊下を後にした。
そして玄関まで来るとそのまま外に出る。
そこで俺ははじめて、この屋敷の外観を目にした。
中も相当ボロかったけど、外からみるとなおひどいな……
本当に何十年も放置された廃屋みたいだ。
なのにどこか知ってるような面影があるのは、気のせいじゃないよな。
昨日からそれが思い出せない。
「クトリール様、どうかされたんですか。街に行く道はこっちですよ」
「うん。今いくよ」
考え込んでると、プロネアから声を掛けられたので返事をする。
「でも道っていっても、ここ森の中みたいだけど」
「そうですね。モンスターも出ますし、あまり人は近づきません。そんなに広くはないのですが、それでも迷うと大変ですから、気を付けて下さい」
「わ、分かった」
とんでもない場所にプロネアは住んでいたんだな。
まあ、強いから平気なのかもしれないけど。
「あの、クトリール様……もしよろしければ、手を繋ぎませんか。はぐれると危険ですから」
「いいよ」
「わーい、嬉しいっ……コホン、それでは失礼します」
プロネアは一瞬喜んだ様子を見せたが、すぐに咳払いをして手を繋いできた。
それはあくまで必要なことだからしてるんですよ、公私混同はしてません。
とでも言うかのように取り繕った態度だった。
別にアシストキャラが公に入るということもないだろうに……
「この世界はゲームの世界ってわけでもないんだろ。だったらプロネアの好きなように生きたらいいよ」
「私はクトリール様をお助けするのが役割ですから。いまこうしてクトリール様の側でいろいろ手助けするのが好きな生き方なんですよ。だから今は立派なメイドになれるように頑張ってます」
「そ、そうか。ならいいけど……」
だからって外にまでメイド服を着てくるのはどうかと思うけど。
この世界では普通なのかもしれないが、元の世界から見れば俺達はただのコスプレ二人組だからな。
人前に出るのが恥ずかしい。
そんなことを考えながらも、二人で会話を続けながら森の中を進んで行った。
幸いモンスターもまだ姿を見せていない。
このまま戦闘も起こらず街に辿りつけたらいいな。
そう願って足を進めていると、やがて森を抜ける気配が見えてきた。
プロネアの言っていた通り本当にあまり広い森ではないらしい。
屋敷からここまで小一時間くらいだった。
「ようやく街に着くのか」
「いえ、森を抜けてからも平地がありますので、あともう30分くらいはかかります」
「まだ歩くの……」
「お疲れでしたら、休憩をはさみますか?」
「大丈夫。このまま行こう」
プロネアは平気そうだもんな。
本当は休みたかったけど、俺が弱音を吐いてもいられないだろう。
ただの強がりで答えた言葉に、彼女はやさしく微笑んで話しかけてくる。
「やっぱり私も疲れたみたいです。だから休憩をもらってもいいですか」
「プロネアがそう言うなら、少し休もうか」
「はい。それでは水筒を持って来てますので、お水をどうぞ、クトリール様」
彼女はそう言って、コップに注いだ水を手渡してくれた。
相変わらずどこに仕舞ってあったのか謎だけど、俺はそれをもらうと一気に飲み干した。
「ありがとうプロネア」
「私はクトリール様のアシストキャラですから。これくらいの用意は当然ですよ」
「さすがだね、助かったよ」
プロネアにお礼を言ってコップを返すと、彼女はそれを受け取った。
そして次の瞬間にはコップはどこかに消えていた。
えっ!?
「プロネア、ずっと思ってたんだけど、いつもどこからアイテムを取り出してるの?」
「えっ、そ、それはもう少ししたらお話しします」
「何か隠してる?」
「そういうわけではないのですが……そうですね、街の宿屋についたらご説明します」
「なんで今話してくれないの?」
「今でもいいんですけど話しが長くなりますし、ゆっくり出来る場所の方がいいかと。そ、それに雰囲気もそちらの方がありそうですし……」
そう言いながらプロネアは顔を赤くして、もじもじし始めた。
よく分からないけど、宿屋で話してくれるならまあいいだろう。
「分かったよ。それじゃあ、この話は宿屋までとっておくね」
「は、はい」
それから俺たちは休憩を終えると、ふたたび歩き始めた。