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 毬藻  作者: 不器用な黒子
9/10

吉良危うし

久しぶりの投稿ですが、イヤらしいところなしです。


食卓を囲んでいたニッキの家、お袋の味のする

スープを口に運んだ吉良。


玄関のチャイムが聞こえた。


「いいよ私が行く」



ニッキが、心なしか足取りを弾ませ玄関に向かった。




小さなニッキの悲鳴、両親がその声に反応したとき

既に吉良の姿は、食卓にはなかった。


「この女怪我させたくなかったら、出ろ」



「わかったから、彼女を離せ」



「お前が出てからだ」



吉良が言われた通り、玄関を出た。


後頭部に衝撃が走った。


ニッキを離した男が出てきた時、既に吉良を二人の男が

頭から大きなナンキン袋のようなものを被せ、首のところで

紐を結ぶ。



カチャリと掛けられる手錠、吉良の自由が完全に断たれる。


部屋の中で、慌てるニッキだが自分を落ち着かせ

吉良の上着に向かった。


「何だいったい」


父親の声にニッキは言った。


「彼、映画俳優なの撮影よ」


顔を見合わせほっとした様子の二人を残し

上着から取り出したものを、ジーンズの腰に

挟んだニッキは出て行った。


階段を駆け下りる。


隠れ覗いたニッキの目に、吉良が車に押し込まれ

走り出そうとする車が見えた。


キーを握り締める。


「頼むわよマツダ」



走り出した車のナンバーを頭に叩き込んだニッキは

駐車場にあったマツダに乗り込んだ。


あまりのスタートダッシュに、驚くニッキ。


「凄いじゃない、あなた」


覚えていたナンバーが、見えた。


後部座席からキャップを取る、それを深々と被った。



吉良の頭が見えない。



おそらくシートの間に転がされているのだろう。



ニッキは、ダメ元とばかりに電話する。


直ぐに繋がった電話から聞こえた声。


「ニッキ、もう着くよ」



「今どこ」



「ん~、・・・のある通り」



「すぐに車から降りて立ってて、マツダよ」



「マツダって、日本車」



「そう、マツダ色は・・・よ」



「彼氏もいるけど」



「なおさらいいわ、居たわここよ」


パッシングをする日本車、年式の古い車に幸来は車種が解らなかった。


「早く乗って、早く」


あまりにも慌てるニッキに、二人は飛び込むように乗る。



「何かあった?」



「彼がさらわれたの」



まさかの一言に、凪を見た幸来。


「何て言ったか早くて・・」



「彼がさらわれたって」


「さらわれた?」


二人が目をつぶる、ぶつかる。


信号を無視したニッキが、ギリギリに車を避けた。


「あの車よ・・」


とは言われたが、何台かいた。


「幸来、此処に電話して」



「あっうん」



「おじいさんが出たけど・・」



「貸してちょうだい・・・・私、そう今ブルックリン

 吉良がさらわれたの、お願い・・ナンバー・・・・

 の・・・・よ、またねじいちゃん」



「あっ、またかかって来たよ」



「はい・・・こっちの車?マツダよ・・・色・・」



段々と、建物の少なくなる方に向かっていた。



「これ早いな、古そうなのに」



「運転に自信ある?」



「何て」



「車自信あるかって」



凪は、溜息の後に言った。



「クレイジーだと言ってくれ」



幸来が伝えた。



「彼の愛車なの、なるべくならぶつけないで

 時と場合によってだけど」


信号待ちで車は下りずに、凪が運転席へ。



「実物乗るの初めてだ、うっわ早い」



「あの黒いマスタングよ、わかる?」



「えと、ブラックの・・マスタングね、あれか」


凪は、あえて二台後ろにする、いつでも抜ける間隔を取った。


相手がスピードを上げた。


歴史を感じさせる大きな橋を渡った。


海に浮かぶ黄色い船体色の船。


先程まで目に付いていた高層ビルは見当たらない。


ほとんどがレンガ造り、そうでない建物も同じような

色が多い、レッドフックと呼ばれる街に車が入った。


途端に走っていた車が居なくなり、凪はかなり距離を

開ける、車が右折した。


勿論ウインカーなど点滅しない。


「やたらワイン樽が目に付くな」



「彼が無事助かったら、ご馳走するわ美味しいのよ」



言葉はそう言ったが、ニッキの顔に笑顔は無かった。


開かれていた金網のゲート。


積み上げられているワイン樽、貯蔵庫か。


「車を降りましょう」



「幸来は・・・」



「そうね、すぐそこにショップが見えた幸来は其処で待ってて

 彼は借りていきたいけど」


「凪・・・大丈夫」



「だって一人じゃ行かせられないだろ、恩人なんだよな幸来の」



「う、うん」



「これキー、連絡はつくようにしておいてね」


凪はニッキが幸来をショップに送って来るのを

車の陰でしゃがんで待った。


「行こうか、確か・・凪よね」


「日本語・・できたんすか」



「ときどき吉良と、ビジネスで日本に行ったわ」



吉良・・・・どっかで聞いた気が・・・。


「これ使う?」


「い、いいです俺空手出来るし」



「吉良と同じね・・・」



吉良・・・・・。


タイヤ痕は、二棟並ぶレンガ造りの建物の間を

かなり奥まで進んだようだ。


ショップ、アンティ-クショップだった店内で

どれも初めて見るものに、好奇の目を向けていた

幸来のポケットで、電話が鳴る。


先程の老人。


ニッキの友人だと説明する。


現在地を知りたがる老人に、詳しく伝える幸来。


「お嬢さんは、英語がお上手だ」



「ニッキと彼は・・・」



「心配ない、もうそっちに着くころだ、ありがとう」



その言葉に、店内のガラス越しに外を見つめていた

幸来が、三台ほど続けて走って行った車を見た。


どの車にも、声を掛けられたら怖そうな数人の

黒人が見えた。


「凪・・・」


アンティ-クなからくり時計が、二時丁度を差した。


ダンスを始めた人形たち、その中の一つが凪に

似ている気がした幸来が、呟きながら人形を突ついた。



マツダの傍に止まった三台から、男たちが降りる。



「ヒュー、サバンナだぜ」



「今はニッキだ」



建物の影に居たニッキを見つけた、いつかの黒人。



「ニッキ、楽しそうなことしてるな」



「せっかくの家族との再会が台無しよ、来てくれてありがとう」



「で、相手は?」



「来た時は三人、中にはもっといると思う」


「ならいつものように、だ」



何人かが、建物の脇にあった階段を上がった。




入り口のドアは空いていた。



「あぶねえな、奴ら誘ってやがる」



「あんた、余分に銃あるでしょ、一つこっちに」



「ほらよ」



「これ、あたしが使うわ、凪はこれ」


とりあえず受け取る。


「もう安全装置外してあるから、気をつけてね」



「ジャップ、暴発でなんて勘弁だぜ」


何となくわかった凪は、OKとだけ言った。


積み上げられている樽の間を進む。


一番先頭の黒人が、人差し指を口元に立てる。


話し声、其処に日本語が聞こえた。


「さんざん手間をかけおって、あれは如何した」



「もう手遅れでしたよ、今頃は美術館で金庫の中だ」



殴られる音、呻き声。


ニッキの顔が険しくなる。


樽の間から見えた顔に、凪は絶句した。


「あれが吉良?、そうだ吉良・・・」



上司が言っていた名前、吉良。


会ったら逃げろと念を押されていた人物、だが

今はその人物を助けに。


話しに出てきたあれ、美術館繋がる。


(あいつが吉良で、ニッキの恋人で幸来の恩人がニッキで

 ああもう頭痛くなってきたぞおい、それに今の話しじゃ

 吉良が仲間を裏切ったみたいだし・・・)



「結構いるけど、上はOKみたいだ」



男たちが狙いを定め、銃口を樽の間に向け構えた。


ニッキも勿論同じポーズ。



(なんなんだよ、こうか)


凪も真似るが、狙いが合っているかまったく自信がない。


よく見ると、銃の先端の形が違う。


映画では見たが実物は初めての、サイレンサー。


プシュッ、こんなに静かなものなのかと思うほどに

その音は小さかった。


続いた音、間から見えた男が二人倒れた。


一人はグラつきながら、樽にしがみ付くのが見えた。


辺りをきょろきょろする日本人らしきスーツ姿。


向こうも手に銃が構えられた。


死角に入ろうと吉良を引きずる。


再び聞こえた発射音。


今度は一人。


離れた所で聞こえた音に、日本人と二人ほど

残し倒れた男たち。


やみくもに撃ち始めた。


乾いた音と、樽から零れ落ちるワインの音が増える。


運良く樽の間を抜けてきた弾丸が、凪の肩を掠めた。


服が破け血が滲んでいく。



「その辺でやめておけ、その人数じゃ死ぬだけだ」


日本人が手を大きく上げた。


「撃つな、・・・」


「銃を声のする方に投げろ、下手な真似したら

 両方から蜂の巣だ」


ガザザザーっ次々に聞こえたその音に、すぐ近くまで

転がって来た数個の銃。


黒人は続けた。


「全部か、倒れてるやつのもだぞ」



ガザザザザー・・・。


「もう無い」



「行くかニッキ」



男たちが出て行った。


ニッキが駆け寄ると、男たちをはねのけ吉良が

縛られていたロープを解いていた。




「何でお前と吉良が・・・吉良、どういうことだ」



「ニッキ、そいつは?」



「幸来の恋人よ、どうかした」



「ふっ、運がいいんだか妙な会い方するもんだ」



「此奴は如何する?」



「離してやってくれ、元は自分の社長だ」



逃げるように走り去ろうとする男に吉良が声を掛ける。


「社長、退職金が欲しいんだ」



「そこのトランクだ、くそっ」


残っていた男に八つ当たりとばかりに蹴りを出す

が、避けられ転んだ。


「ふう~、吉良だ助かった」


恐る恐る手を伸ばす。


普通の握手、離れた手を慌てて引っ込めた。


「俺、もしかして危ない?」



「もう会社は辞めた、聞いてただろう」



そういった吉良は、すらすらと英語で怖そうな黒人の

リーダーらしき男に何かを言った。


「ニッキの頼みじゃな、しぶとい奴だ」



吉良が笑いながら、アタッシュケースを開けた。



「日本円だが、受け取ってくれ」



「ボスには言うのか」



「黙っておくわ、その代りボスからは貰っちゃだめよ」



「おい、百万ずつだそうだぜ」



男たちが喜びの声の中。


「此奴らの始末は、頼めるのか」



「込みでいいだろう、ジャップ出しな」



「あっそうか・・・これね、どうぞ」



「行きましょ、幸来が待ってるわ」



凪は吉良にアタッシュケースを持たされた。



あれだけ渡してもまだかなりの金額が入っていた。



「今度はそれ持って逃げてみるか」




「いや、どうせなら外の車のがいい」



「ニッキ、どうする車を変える金はあるぞ」



「凪大事にね・・・」



思わずガッツポーズの凪、こんなところで憧れの車が

手に入るとは、棚からなんたら・・樽の傍で車だった。


た しか合っていないのは、大目に見て。


「ニッキ、また戻って来いよ」



「ボスにお土産」



「欲しがってた銃か、渡しておくまたなジャップの二人」



倒れていた奴らは、心地よく酔ってしまいそうな

ワイン樽の中で眠った。


見つかれば、アバター顔負けの色だろう。



それにしても見事なワイン樽の扱いだった。



中に、経験者が居たとしか思えないほど。


店の前に来た俺たちを見つけた幸来が

何かを買って出てきた。



「大きな荷物、何?」



「お土産、これとこれは二人に、初めまして幸来です」



「なるほど、リストには載ってなかった顔だ」



「リスト?」



「いや、ありがとうあれ?ニッキに似てないか」



ピノキオのような、手作り人形吉良には女

ニッキには、男の人形。


「こっちは似てないかな」



「どんな人か想像して買ったけど、こんなに恰好いいなんて

 ごめんなさい、もう一度見てこようかな」



「いいわ、ありがとう」



「これから二人はどこへ?」



「ニッキさんたちとご飯と思ってたんだけど、迷惑ですか」



「ニッキが君の恩人で、彼が俺の恩人か面白い縁だ

 ご馳走しよう、何がいいかな」



「美味しいお肉」



「お肉ね、だって吉良」



ニッキの電話。



「あっ、音音ね着いたちょっと待ってて、吉良」



「ああ、無事ださらわれちまって、助けられた

 もうすぐそっちに行く、ステーキだ」



「幸来、本当に肉食べるの?」



「凪好きじゃん、お腹空いてないの」



「いや、いいよ」



「そっか、初めてだったのね」


ニッキの言葉は今いちだったが、さっき見た光景の後に

ステーキは正直厳しいものがあった。



「遠慮しないで食えよ、怪盗恩人君」



「吉良が冗談言った」



「そうか、幸来ちゃんの顔見たら自然に出てたよ」



「幸来は人を変える力があるのかもね」



そうかも知れない、と思いつつステーキは辞めてほしい

と思う凪たちは、車に乗った。


誰も居なくなった貯蔵庫に、ワインの流れ落ちる音だけが

暫くの間聞こえていた。



辺りを優雅で甘美な香りで包みながら。




こんな感じで繋げてみましたが、どうだったでしょうか。

またお会いしましょう

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