おしゃべりは尽きないねっ♪
「どうしたの? なんか幻想殺しにでも会ったみたいな顔してるけど」
「なにそれ? 遠くから見てたんなら、助けてよね」
「サイテンさんがいるから大丈夫だと思ってたのよ。ごめんね」
「いいよ。サイテンはお盆探してて見てなかったみたい」
「そんなもんよ」
「なんの話ですか?」
サイテンは、わけがわからない、といった風に、マイペースにコップを並べている。姉さんにエスプレッソ、ボクにレモンティーを。取っ手の位置もさることながら、スプーン、砂糖など、綺麗な形になっている。どこで覚えたそんな芸。ちなみに、サイテンは黒豆茶だ。渋いなぁ。
「カオルが少し成長したってことよ」
「それはいいことですね。胸はちっとも成長してませんけど」
「本当にね」
「ちょ、ちょっと。会話おかしくない?」
「どこがよ」
「カオルさんは女性でしょう?」
「いやいや、何言ってんの? あんまり大きな声が出せないからって、言っていいことと悪いことだってあるんだよ?」
「完全に女の子じゃない。見た目は」
「ですです。どこからどうみても女の子ですよ」
「でもブスって言われたよ?」
「それはね、カオル。敵認定されただけよ」
「告白してフラれた挙句に敵認定とは、なんと恐ろしい」
「……泣きたい」
「気を落とさないの。自分より可愛いって思われたってことだから、自信持って!」
「ですです。カオルさんは魅力的な女性ですよ」
「嬉しくない。しかも身内に言われるとか、なにそれ。言われてもうれしくないけど。それ以前に男なんですけど」
「なーに言ってんの。あの男の子だって、カオルを見てたじゃない」
「あれは性獣の目でしたね」
「一応、友達だからそんなヘンタイみたいに言わないであげて……」
「あらら。優しいのね。だから敵認定されるのよ」
「そうですよ。だから、カオルさんは余計にイイ匂いがするんですよ」
はい?
サイテン、さらりとなに言ってんの? ちょっとそれは引くわぁ……。
匂いって、なにそれ。いつ嗅いだの? 気持ち悪い。
それともなに? ボクがくさいっての?
「ボクがくさいってこと?」
「いいえ。もっと嗅ぎたくなる匂いです。女性ホルモンでしょうか」
ヘ、ヘンタイ……ッ!
気が付くと、姉さんも少し距離を作ってる。
だよね、おかしいよね。なんなのコイツ。おかしいんじゃない?
「そうやって怯えている姿。なかなかイイですねぇ……」
「そそそそそ、そういえばさ! サイテンはさ、姉さん、姉さんはどうなの? ホラ、ボクなんかよりよっぽどいいでしょ。ね? ね?」
「私のタイプはカオルさんですよ」
「いやさ、女性だよ?」
「それに、お姉さん、付き合っている人いるでしょう?」
「えっ、そうなの?」
「ばれちゃったか」
「マジっすか」
「マジっす」
「見たことないよ?」
「朝帰りとかしてるじゃん」
「ああ、あれかぁ。てっきり外で呑んでるのかと。へぇ。知らなかった」
「今度、紹介してあげるわ」
「うん、お願い。結婚するの?」
「いやー。そこまでは決まってないわね」
「でももう、三十でしょ?」
「うるさい。でも同棲の話はチラホラ出てるわよ」
「ひゃー。すごいねぇ。どうして黙ってたの?」
「伝えようとしたのよ? でもなんか、タイミングがなくてね」
「そうなんだぁ。よくわかったね、サイテン」
「匂いです」
うわっ。
ヘンタイ発言。
「いやいやいや。なに? サイテンってさ、匂いフェチ?」
「よくわかりましたね。女性特有のあれがいいんです」
「へ、へぇ……」
質問しといてなんだけど。対応に困る……。
気を取り直して。
「えーっとさ、じゃあさ。なおさらボクはNGなんじゃない?」
「いいえ。カオルさんは女性の匂いがしますよ?」
「……意味がわからない」
「というわけで、カオルさん一筋ということで」
「ますます意味がわからないよっ!」
「やっぱりあんたら、相部屋がいい?」
「そうですね」
「よくないよっ!」
姉さんは冗談キツイし、サイテンはヘンタイだ。
でもまぁ。こうしてお話してると、楽しいよねっ♪
楽しく。
和気あいあいと。
こんな風に、ボクたちの共同生活が、はじまったんだ。