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メニューって早く決めれないよねっ♪

 

 前回のあらすじ。ファミレスの前で自ら女装しました。今じゃ見た目だけはすっかり女の子です。って、なんじゃそりゃ! する気はなかったんだよ。ただバレたくなかっただけでさ。こんなことになるなんて思っていなかったよ。しかも超能力を覚えたアイツとデート中とは。ムカツクわ。本当、ムカツクわ。その上、「あぁ、もしかしてあの子? 性格悪そ」なんて身内にバレるとか洒落にならない。慌てて沸騰している鍋の火を消したら、横の鍋が噴き出しました、って形だ。恥ずかしい。

 でも、ここまで来た以上、ごねるわけにも行かず。小さくなって入ったわけだ。で、今は四人がけのテーブルでメニューを開いている。店内は暖かくて気持ちいいなぁ。うわぁ、何にしようかなぁ、迷うなぁ。おいしいそうだから困っちゃよね。えへっ。……はぁ。入りたくなかったなぁ。なんてこったい。

 うんとね、姉さんが怖かったわけじゃないよ? 本当だよ? いやいや、本当だってば。嘘じゃないよ? 笑ってたし。……うん、そうだね。ごめんなさい。怖かったです。サイテンは別にいいんだけどね。「コンビニにしましょうか?」、なんてフォローしてくれたし。なんだかんだで優しいみたい。アレさえなけりゃあ、ねぇ。まぁいいや。とにかく、何食べようかなぁ。


「決まった?」

「はい。私は決まりましたよ」

「カオルは?」

「もうちょっと待って~」


 パスタといっても、いろいろあるからねぇ。和風きのことかおいしそう。エリンギかぁ。いいよねぇ、エリンギ。あの奥深いほんのりとした甘さ、好きなんだよねぇ。わ、あさりのボンゴレだって。いいなぁ。しばらく食べてないもんなぁ。あの出汁がいいんだよねぇ。でもこっちだって……。あっ、リゾットもあった!


「カオル、決まった?」

「う~ん。迷うよねぇ」

「そうですね。これなんか、どうです。おススメって書いてありますよ」

「あっ、いいねぇ。じゃあ、それにしようかなぁ」

「ですです。決まりですね」

「あんたらさぁ……」

「うん?」

「付き合ってんの?」

「はぁ? 何言ってんの?」

「いや、なんかねぇ。そういえば、玉砕したばかりだったわね」

「傷に塩を塗らないでくれないかな?」

「あんた、そろそろ女に幻想を抱くのを止めにしない? その幻想を右手でぶち殺したくなるわ」

「その右手でフラグも殺してんじゃないの? あっ。さっきも性格悪そうとか言ってたよね」

「まぁまぁ。いいじゃないですか。おかげで私と出会えましたし」

「えぇ~。でもねぇ。イヤなもんはイヤだよ。思い出したくないものは思い出したくないよ」

「それもそうですねぇ」

「でしょ? そういう意味じゃ、少しだけ、サイテンに感謝してるよ。ほんの少しだけね」

「そう言ってもらえると、嬉しいです」

「うん、ありがとう」

「カオルさん……」

「いや、あんたらさぁ……」


 何さ。何が言いたいのさ。また変なこと言うわけないよね。姉さんはたまに強烈なブローをかましてくるから、サイテンがフォローしてくれて助かってるんだよ。会ってすぐだけど、あれでいて、イイやつっぽいし。

 疑わしげに姉さんと探り合ってると、姉さんは「まぁ、いいけど」と区切って、注文した。駆けつけてくる店員さん。おおっ、今日はこの人ですか。丁寧に接してくれるから好感がもてるんだ。前にボクがお水を零したときも、素早く対応してくれたんだよね。ボクは驚いて固まっていただけなのに。すごいよね。おっ。よく見たら店長さんだって。さすがだなぁ。

 あー、でも考えてみると、ボク、リードされてばっかりだ。だからいけないのかな。……そうだよなぁ。頼りないもんなぁ。


「カオルさん、ドリンク取りに行きましょうか」


 ちょっとびっくりした。サイテンが微笑んでくれた。

 いつの間にか考え込んでいたみたいだ。反省、反省。


「うん。姉さんは?」

「いや、もう、二人でとことん行ってきな。エスプレッソもってきて」

「意味わかんないけど、持ってくるものはわかった」

「任せてください」


 立ち上がるのにも優しく声を掛けてくれるサイテン。気遣いが優しいね。あの姉と違って。

 実のところ、今、厚底ブーツを履いているから、感覚が慣れなくて歩きづらいのだ。一つ一つ確認しながらでないと、立ち上がるにも一苦労だ。でも、この店の間取りを知っているボクが案内しなきゃ。格好付かないし、ね。

 ゆっくり歩く。と、足元に気をつけていたから、誰かにぶつかってしまった。幸い、何も持っていなかったようで、何かがこぼれた形跡はみられない。少し安心した。でも、謝っとかないと。


「あっ。ごめんなさい。不注意で……ッ!」


 ヒィッ。なんてこと! 見上げると、そこにはあの男がいた。そう、ボクがフラれた原因のアイツだ。今、一番会いたくない男性ナンバーワン。最悪だ。泣いちゃうよ?


「いえ。大丈夫ですけど……」


 じっと、見られてる。

 うえぇぇ。気付かれた? 女装って、気付かれた?

 そそくさとドリンクコーナーへと急ぐ。頭を下げながら、バレないように。でも後ろから視線をビシバシ感じる。最低だ。しかも、ドリンクコーナーにはあの女の子がいた。今、一番会いたくない女性ナンバーワン。なんなの、これ。その上、ボクを睨んでる。前方の虎、後門の狼だ。ひどいね。全くひどい体験だ。

 せっかくの女装だ。とにかく、知らないフリ。もうね、本当、これしかない。


「何にしよっかなー」


 なんか雰囲気が怖いし、わざとらしく声に出してみる。ボクは関係ありませんよーってね。地声だけど。いやね、元々高いんだ。ボクの声。男にバレることはないと思う。それよりも女の子の目が怖い。威嚇されてるみたいな感じだ。がるるるるーって。女の子に睨まれるなんてはじめての経験だよ。……アレ? 女の子ってもっとこう……、アレ?


「色目使ってんなよ、ブスが」


 エ゛ッ?

 なんか呟かれたような……、エェェッ!?

 

「あっ、大地くん。さっき、変な女とトラブってなかった? 大丈夫?」


 一転してめちゃくちゃイイ顔に変わる女の子。トテトテと、アイツに近づいていく。

 う、うそだよね。そんなまさか、まさかそんな。うそだよね?


「大丈夫だよ、桜さん。桜さんは優しいね」

「そんなことないよー。フツーだよ」


 きゃっきゃ、うふふ。それがBGM。

 ……なんだろ、なんていうのかな。なんなんだろうね。


「どうしました?」


 能天気に首を傾げているサイテン。

 遅いよ。こんなときに限って。


「いいや。なんでもないよ?」


 そう、なんでもない。なんでもないんだ。気のせいなんだから。


「そうですか。ところで、お盆を見つけました。三人分、持って行きますよ」

「サイテンは優しいねぇ」


 その優しい気遣いがありがたい……。

 

「代わりに、パンツ見せてください」

「それはダメ。ぜったい」

「安心してください。ここで見せろとは言ってません。帰ってからです」

「なに言ってんの!? どこでもだめだからねっ!」


 本当。

 これさえなけりゃぁ、いいやつなんだけどねぇ。




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