外は寒いねっ♪
徒歩15分。
ボクたち行きつけのファミレスは、話しながら歩くとすぐの場所にある。パスタやサラダの品目が多く、個人的にも気に入っているレストランだ。時間がないときなどは、ここに来ることが多い。今日なんてその典型だ。約一名、おかしな野郎が追加されてるけど。
そのおかしな野郎は、今はスーツに着替えている。魔法を使って一瞬で早着替えしたその格好は、どうやら基本状態らしく、さっきの天使らしさ全開のヘンタイ装備は、天使であることの説明を分かりやすくするためなのだとか。メガネがキラリと光る様は、まるで、仕事に面白さを感じ始めているさわやかサラリーマン、といった印象を受ける。イケメンだし、好感がもてる格好だ。中身はあんなヘンタイなのにね。もちろん翼は収納済みだ。
ちなみにボクはパーカー二枚重ねだ。あの状況だ。その辺にあったのを急いで羽織ったよ。焦っていたし、12月の今、少し肌寒い結果になってしまった。まぁいいや。ファミレスに入ったら暖かいし。それまで我慢、我慢。
姉さんはちゃっかりコートを着ている。手際がいいというか要領がいいというか。さすがです。
さて、そんな中。衝撃的な事実が発見されてしまった。
なんと、サイテンに『引き出された才能』を使うたびに、サイテンになんちゃらポイントがたまるらしいんだ。んで、それは営業成績にもつながって、給料とか賞与に関係してくるんだとか。なんとまぁ、天界ってのも世知辛いんだねぇ。でも当たり前だけど、ボクは女装する気なんてないよ。けど、一定のポイントをためないと、担当の人から離れられないんだって。つまりは女装を強制されているみたいなもんだね。アホか。で、その間は衣食住を共にする、と。普通に迷惑だ。早く帰って欲しいけど、女装もしたくない。最悪なジレンマだ。
大きな背中を眺めていると、振り返ってニコッてされた。見かけはいいはずなのに鳥肌がたっちゃった。ちょっと怖い。あんなことされたしね。なんか身の危険を感じるよ。でもついでだから疑問に思っていたことを聞いてみた。
「サイテンってさ。なんでお金持ってんの?」
天使の癖に。
「それは天界のお金と人間界のお金の交換をしているからですよ。あんまり使う機会がないんで、溜まって行く一方です。なので、お金の心配はありません」
「なるほどね。サイテンさん、営業向きな感じだもんね」
「そうなの? 姉さん」
「うん。でもあんたは向いてないと思うよ」
「ふぅん。サイテンって、すごいんだね」
「ありがとうございます。でも、カオルさんもすごく向いてる職業があるじゃないですか」
「えっ? 何が?」
なんだろう。そうだなぁ。ほんの少し自信があるスキルっていったら、お料理かな? お菓子作りとかも好きだしね。姉さんの職場でも好評らしいし。あ、パティシエとか言ってくれたら嬉しいな。
ちょっとドキドキしていると、サイテンがメガネを光らせた。
「女王様です」
ギロリ、と睨んでしまった。でも手は出さない。
……くっ。こんな煽り、たいしたことないじゃない。我慢、我慢するんだ、カオル。さっき、姉さんに引かれたじゃないか。
「その目線。ゾクゾクします」
「サ・イ・テ・ン? ちょっといいかな?」
いい年して、わー、きゃー追いかけっこしていると、姉さんに声をかけられた。
「ちょっとー。着いたわよー」
「あ、ごめん。サイテン。覚えててね」
「望むところです。むしろお願いします」
「なにをだよ」
「ナニをです」
サイテンがなんかアホなことを言っているけど、無視だ無視。さっさと暖かいところに入ろう。
そう思ってファミレスの入り口を見た。
びっくりした。驚いた。足が止まった。なぜなら、今日、ボクをフった女の子がいたからだ。
なんでこんなところにーっ! 『お願い』、気付きませんように!
瞬間、ハートのブレスレットが淡く光った。
……エッ?
意味不明なことに、変化は唐突に起こった。パーカーは女性用に。下はショートパンツとレギンスに。当然、あの胸の締め付けと下半身のフィット感も追加されている。
ナニガオコッタノ?
姉さんが呆れていた。
「あんた、何やってんの?」
本当、何やってるんでしょう。