問い詰めてみたよッ♪
「で、どうしてこうなった」
ボクは花形薫。高校教師の姉と3DKのアパートで二人暮らしをしている、大学一年生の男だ。
このネタが分かる人がいるかどうか心配だけど、真ん中の文字は決して『山』ではない。ボクはあんな筋肉村の村長さんみたいな分厚い肉体をもっていないし、身長だって女の子とどっこいどっこいで、体重だって軽い軽い。握力なんて平均以下だし、喧嘩だって強くない。漢って書いて『おとこ』と読めるような威圧感もなければ、自動車を持ち上げたり、タイヤを引きちぎったりできない。握力×体重×スピード=破壊力な計算だとボクなんか効果音が『ぺちっ』となっちゃうレベルだ。つまりボクはひ弱でもやし、背も小さくて喧嘩なんて縁のない、小動物の飼育委員がお似合いな男なのだ。たまに女の子に間違われるし、うさぎとか大好きだしね。
でもそんなボクが、今、ミニのワンピースを着て仁王立ちをしている。
あなたの願いをかなえましょう、と宣言して机の引き出しから出てきた、背の高い、イケメンメガネ男子に向かって。
迫力ないんじゃないの、とか思った? けれども侮るなかれ。そのメガネくんは正座しているのだ。あまつさえ、白い腰布に背中には天使の羽、あとは肌が露出しているというなんともふざけた格好だ。何考えてやがる、というヤツだ。これでは、たとえ威厳のないボクだとしても、ゴゴゴゴゴ、くらいの地鳴りは天使に聞こえているはずである。そう、ボクはとても怒っているのだ。
だって、いきなり出てきたと思ったら、なんかわけのわからない呪文みたいなのを唱えて、気が付いたらパーカーがワンピースだ。しかもご丁寧に黒のストッキングまで追加されている。アホか。その上、髪型まで変わっている。柔らかなキュートショート。変化したところはそれだけなのに、なんと可愛らしいことか。雑誌から飛び出てきたモデルとも思えるかのような似合いっぷりである。だとしてもボクは健全な男なのだ。男の娘では断じてない。
「で、どうしてこうなったの?」
「いやあはははは。ところで、すばらしく片付いている部屋ですね」
「そう? ありがとう。お掃除とか凝っちゃうんだよね」
「わかりますわかります。隅のホコリとか気になっちゃうと、ついつい、綺麗にしたくなるんですよね」
「あっ、わかる? そうそう、そうなんだよねぇ。そんなときには……、って、違う!!」
「うぇ?」
あ、危ないところだった……。もう少しで掃除器具の説明に入るところだったじゃないか。確かにボクは掃除が好きだ。でもボクはだまされないぞ。怒っているんだからな!
「ところで、お名前をお聞きしても?」
「あ、ごめんなさい。ボクの名前は花形薫です。大学一年生です」
「こちらこそ遅れてすみません。私の名前はサイテンです。才能を伸ばす天使やってます」
「へぇ。天使って。珍しい職業ですね」
「そうでもないですよ。私たちの天界では、割とポピュラーな職なのです」
「そうなんですか。それならこの町にもいたりするのかなぁ」
「ええ。何人かいるはずですよ。有名どころで言えば、今年、この近くでテレビの取材が来ませんでしたか? 超能力学生とかなんとかいって。あの男性の才能を伸ばしたの、私の先輩なんですよ。隠れた才能を発掘する仕事って考えると、これでいて結構やりがいのある仕事でなんです」
「あ、それボクの友達だ。へぇ、アイツ、天使に才能のばしてもらったんだ……、って、違う!!」
「うぇ?」
あ、危ないところだった……。もう少しでアイツの伝説を口にするところだったじゃないか。曰く、彼女みたいな人が何人かいるだとか、曰く、女の人からバレンタインのチョコをたくさんもらったとか。曰く、合コンお持ち帰り全勝とか。あああぁっ、そうだ、そうなんだ。ボクが今日、告白した女の子もアイツのことが好きだったんだ。くふぅぅ、なんてヤツなんだ! じゃなくて、そうだよ、女の子だよ!
「女の子、女の子!」
「頭大丈夫ですか?」
「ああーっ、もう。そうじゃなくて、ボクは今日、フラれたんだよ!」
「そんなことを大声で言わなくても……」
「サイテンが言わせてんの! じゃなくてね。ボクはね、お願いしたんだよ」
「お願いですか?」
「そう、神様にお願いしたんだ」
「やっぱり頭大丈夫ですか?」
「キミに……。言われたくないよ……」
「まぁ、落ち着いてください。ついでに足を崩してもいいですか?」
「ダメだよ! とにかくね、モテたいって、お願いしたんだよ!」
「なんて……、カワイソウな人」
「あああー、もうっ。わかってるさ、わかってるよ!」
「そのプンプンって感じ、たまんないですね」
「変態ッ!? あああー、もうっ。話がすすまないよぉ」
「そうして落ち込んでいる姿、可愛いですよ」
「ほんっと、ホンット! どうにかしてよッ」
「まぁまぁ。そんなときにはコレです」
「なに、それ?」
サイテンは腰布から、シルバーのハートに小さな羽根の付いた可愛らしいペンダントを渡してきた。
手にとって見てみる。
可愛い。でもアクセサリーなんて付けた事ないんだけど。
「念じてみてください。『お願い』と。そうすることでカオルさんは新しい力を手にするのです」
「うん? よくわからないけど、お祈りしたらいいの?」
「ですです」
そして、言われたとおりに『お願い』してみた。
両手を組み、お祈りする。途端、組んだ両手から垂れた羽の生えたハートが、淡く光った。
するとどうだろう! みるみるうちに、ボクの格好が変化したではないか。男性用下着であるトランクスは女性用下着のショーツに。それから感じ出した胸の締め付けはおそらくアレだ。そう、アレだアレ。言いたくないけどアレだよ、アレ。女体化でもなく、完全に本来の性別そのままでの着用だ。
ボクは眉が上がったことを自覚できた。それぐらい怒ったんだ。
「……で?」
「女・装・完・了です!」
「ただの変態じゃないかーッ!!」
ボクの才能が開花したッ!