第九十三話《英語》
シンが白い男に勝利した時、遠くでそれを見ていたものが二人いた。
「勝っちゃったよおい…」
「ああ…」
「助太刀しようかと思ったが必要なかったな」
「ああ…」
助太刀しようと孤児院にいたみんなを避難させてここに駆けつけてきたネビューとボイルだった。
「どうしたんだよ親父。さっきから気の抜けた返事ばっかだぞ」
「いや、あの白い男…傷が回復していなかったか?」
「あ…そういえばしてたな。それがどうしたんだ?」
ネビューはそれの異常さに気づいていなかった。まぁシンという超が何百個もつく程の実力者が近くにいるのだから魔法の常識が少々曖昧になっているのだろう。
「馬鹿!そんなことありえないんだ!今までどんな魔法使いでも人間の、生き物の肉体を回復させた魔法を使えたことも開発できたこともないんだぞ!」
「ええっ!?でもシンなら開発してそうなんだが…あいつはもう何やっても不思議じゃないぜ」
「そんな魔法開発してるならあの時使っている!つまり白い男はシン君でも到達できていない領域にまで足を踏み入れているんだぞ!」
ボイルはあの時、ベルセーズ国王との戦いで負傷した傷を直さなかった。そのことからシンは回復魔法を持っていないことを確信しているボイルだった。
「それもそうか…」
「まだ何か策を持ってるかもしれない。私たちもシン君のもとへ行くぞ!」
ボイルがシンのもとへ向かおうとした。ネビューもボイルについて行こうとしたら何かを見つけた。
「待て親父、あそこ…」
「ん?あれは…」
ネビューとボイルが何かを見つけたその時、シンと白い男はその場で話を始めた。
「一つ聞きたい。お前はなぜ俺を殺そうとした?」
白い男は黙秘しようとした。しかしシンは白い男にこう忠告した。
「早く答えないと体中の体温が低くなって死ぬぞ」
その通り、白い男の両手両足は今凍っているのだ。このままでは凍った手足が全身の体温を奪い死んでしまう。体を再生させられるがこういった死には効果を発揮しないと思っての忠告だった。
「…貴様が黒い者だと思ったからだ」
「…成程、どうやらお前と俺は同じ敵を持つ者同士でお互いに勘違いしてたらしいな」
白い男はシンを首謀者だと思ってたらしい。シンは納得して白い男の頭についた氷の球体を溶かし両手両足をすぐに解凍した。
「まだ私は信用したわけじゃないぞ」
白い男はいつでも殺せるぞという意志を持ってシンを睨み付けた。
「いいさ、解凍しただけだ。まだ動けるわけじゃない」
それに殺す相手が違うとは思ってくれているとシンは判断したのだ。そしてシンは次の質問をした。
「Are you from the earth?(お前は地球出身か?)」
「…?」
シンが英語で質問したが白い男は首をかしげるだけだった。
「…違うか」
これはシンがもし転生者だと思しき者にする質問だ。この世界は言語が統一されていることは調べていてわかった。英語なんて答えられるものはこの世界にいない、シンと同じ転生者を例外を除いては。
英語は地球の中でもっともポピュラーな言語だ。地球出身なら答えることはできなくとも反応はしてくれるはずだとシンは考えている。英語を知らなくともこの世界では使われていない言語を使うところを見て相手が自分のことを転生者だと疑ってくれることも狙っている。転生者でなければこのように首をかしげるだけだ。