第九十二話《馬鹿》
「さて…お前に聞きたいことが」
シンが跪く血まみれの白い男に何かを聞こうとした瞬間、白い男が目から光線を出しシンの喉元を貫こうとした。
「ぐあっ!?」
シンは驚異的反射神経で躱そうとしたが、少し食らってしまった。
「なんだと!?」
シンは食らった部分を手に当て後ろに下がった。
「なんだそれ…」
シンは驚いた。白い男の傷が治っていたのだ。回復魔法のないこの世界で初めて見る異次元の魔法だった。実際シンの使う魔法も立派に異次元レベルの魔法なのだが。
「ふっ、ただ傷を直しただけだ。俺は無尽蔵に傷を再生できるのさ」
「傷を再生…」
シンの脳裏に電流が走った。再生、その言葉が引っ掛かった。
「お前がどんな魔法を持ってようとも俺の前では無力だ」
勝ち誇ったように白い男はシンに近づいた。細氷を警戒し高速では移動しないので再生はするが痛覚はあるのだろう。
シンは周りの細氷を爆破させて周囲を水蒸気で満たした。
「目暗ましか」
目暗ましをしても白い男はシンを探すことをしなかった。白い男は傷を再生できるためシンが攻撃してきたのを狙えばいい。例えシンが強力な魔法を使っても再生は造作もない、そう考えているのだろう。
「だがどんな攻撃も無意味だ」
「お前、馬鹿だよ」
だがシンはそう言い放ち、白い男に触った。その瞬間、白い男の両手両足が凍りついた。
「何!?」
白い男は驚愕し動かそうとしたが両手両足は全く動かなかった。
「う、動かん!それに…」
そして回復もしなかった。白い男は両手両足が凍ったよりも凍った両手両足が回復しないことに驚愕しているのだ。
「再生しないだろ?再生と回復は違う。回復はどんな状態でも元に戻すこと、再生は失われた部分を取り戻すことだ」
白い男はハッとした。そうだ、自分の力は回復ではない、自分の両手両足は凍っただけで失われていない。
「つまり失わせずに機能を停止させればいい。敵に自分の能力を教える馬鹿で助かったよ」
「貴様ああああああああああああっ!」
白い男はまた目から光線を出そうとしたがシンが白い男の頭に手をかざして白い男の顔に球体の氷を作り出した。もし白い男が目から光線を出したら反射して自分の顔が穴だらけになってしまうだろう。
「目から放ってみろ。顔が穴だらけになるだけだ」
シンの完全勝利でこの戦いは終わった。ただ、両手両足が凍りつき顔が球体の氷で覆われている男に勝利宣言している姿はシュールだった。