第九十一話《細氷》
はじめに動いたのは白い男だ。シンの喉元を手刀で切り裂こうも目にも止まらぬ、いや目にも写らぬスピードで接近してきた。
「くそっ!」
シンは咄嗟に躱したが頰に手刀が擦った。
改めてこれが殺し合いだと認識したシンは雷化を発動した。
シンは足を雷化し一瞬で白い男の背後に回り込み、雷化で起きたスピードのまま白い男に回し蹴りを食らわせようとした。
しかし回し蹴りが決まったと思った瞬間白い男は消え、一瞬で白い男は逆にシンの背後に回り込んでしまった。
「だろうな」
だがシンは白い男がこうしてくると読んでいた。その瞬間、白い男の全身から血が噴き出した。
「くっ…」
白い男は全身を血で赤く染めて片膝を地に着けた。これはシンの仕掛けた罠によるものだ。
シンはこの白い男もシンと同じ様に何かしらの魔法によって足、もしくは全身を何かに変換して高速で動いていると読んだ。そうでない限りは人間が目にも止まらぬ速さを制止した状態から出せないからだ。
この世界の魔法の中で人間より速く動けるようになれそうな魔法は『火』、『風』、シンの使う『雷』、そして『光』だ。先程シンがセリルを庇った時に白い男が使った魔法は『光』の魔法だった。
だからシンは罠を仕掛けた。光の速度はとてつもなく速い、人間の反応よりも遥かに速い。だからそこに何かあると察せてもなす術なく罠にはまると考えてだ。
シンの仕掛けた罠、それは《細氷》。つまりダイヤモンドダストだ。氷の魔法を使いシンの周りに人の目に見えないほど極小なダイヤモンドダストを散りばめておいたのだ。
シンは雷化で動くとき雷装を足以外の全身に纏っていてダイヤモンドダストを防御してた事と雷化していた足が雷化した足に侵入した氷を砕いていたため無傷で移動できた。しかし白い男は何もせずダイヤモンドダストが散りばめられた空間を高速で動いたため、全身にダイヤモンドダストが直撃したのだ。
だがこれで死なないのを見るとそこまでの速度は出してなかったようだ。もし光速に近い速度で動いていたならば白い男は全身極小の穴ができ、その場で死んでいただろう。
「…甘いぞ白男。いや、今は赤男だな」
そんな軽いことを言うシンだったがシンは気づいていない。
白い男の傷口が再生していることに。




