第八話《魔法決闘》
次の日、シンが教室で自分の席に座ってHRが始まるのを待っているとリンとネビューがやってきて昨日のことを問いただしにきた。
「おい、結局昨日なんで学園長室に呼ばれたんだ?」
「絶対秘密にしますから教えてくださいよ」
シンが二人の顔を見るとネビューはともかくリンは言いふらす気満々って顔に見えた。シンは二人にそっぽを向いて短く答えた。
「断る」
「おいシン!どーしてそんな頑なに教えてくれないんだよ!」
「そうですよ!絶対に秘密にするって言ってるじゃないですか!」
「そりゃお前らが信用ならねぇからだよ。特に教えてもらったら直ぐにそれを言いふらしますよ的な雰囲気を目一杯出してるリンがな」
「な、そ、そそそそんなことここここの私がするとでもおおおお思いなんですか?ハハハ……」
リンは明後日の方向を向き、汗を掻きながら笑うところを見るとどうやらリンはシンの予測通りにするつもりだったみたいだ。
「言っておくけどな、お前らが思っているようなことはないからな」
「えっ、学園長の孫娘の婿に選ばれたって話じゃなかったのか!?」
「えっ、学園長に見初められてたって話じゃなかったですか!?」
この二人の想像にシンは驚いて席から立ってしまった。
「ちょ、ちょっと待て、なんでそんな話を想像してんだ!?」
「え、だってシンってカッコいいじゃん」
「そうですよ、カッコいいですよ。もうネビューさんが悲惨に見えるくらいに♪」
「おい、それは聞き捨てならねぇなリン!」
「ほんとのことじゃないですか、ねぇシンさん♪」
確かにシンはつり目で整った顔立ちをしていてカッコいいという印象を人々に与えるのだが、シンは自分がカッコいいなんて微塵も思っていない為、シンはため息をついて席に座り、呆れながらこう言った。
「アホか、俺がカッコいいって?そんなことねぇよ」
シンのこの言葉にネビューの眉間にしわが寄った。
「この野郎、それは俺や他の男子に対する宣戦布告かおい!」
「お前ら!HRの時間だ!直ちに席に着け!」
ネビューがシンに突っかかろうとしたその時ゲイルが教室に入りそう怒鳴ったためネビューは舌打ちをして自分の席に戻り、リンもそそくさと自分の席に戻った。
「え~、今日の予定は学園見学となっている!この学園の敷地は広大で複雑だ!迷わないよう私に付いてきてもらうぞ!」
そう言ってゲイルは教室を出て、生徒たちもそれに続いて教室を出始めた。シンも教室を出て、ゲイルの後に続いて歩き始めた。
その後ろで誰かがシンを見ているとも知らずに。
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「ここが決闘場だ!授業や実技試験で使用するため君たちが一番来るであろう施設だ!」
シン達は決闘場の見学をしていた。その決闘場は広く、綺麗に整備されていた。
「さて、次の場所に移動するぞ!」
ゲイルが歩き出すのが見えるとシンもそれに続こうとしたら足に何かが引っ掛かった感覚がした。
「おっとっと」
「キャア!」
シンは鍛えた平衡感覚で転ばずに済んだが、近くでワザとらしい声と共に一人の女子が転んだ。転んだ女子はあの金髪少女、ユーラインだった。ユーラインはうつ伏せに転んでいて直ぐに制服のスカートを手で押さえてシンの方を睨んできた。
「見ましたわね……」
「は?」
「ですから私のパ、パ、パンツを見ましたわね!」
ユーラインが涙目になり、そう叫んだ。その叫びに人だかりができ始めた。勿論シンはそんなもの見ていないので簡潔にこう答えた。
「はあ?見てねぇよそんなもの」
「嘘おっしゃい!確実に見ましたわ!その下品な瞳で!」
人だかりの中の女子が騒がしくなった。このままだと無罪の罪で変態のレッテルを張られかねないのでここはユーラインを説き伏せることにした。
「おい、だいたい俺が見たって証拠があるのか?それに俺が見たっていうなら俺の周りにいた奴らも見たってことになるじゃねぇか。それにそもそもお前のスカートは捲れあがってねぇよ。ここにいる皆が証人だ。だから出鱈目を言うな。さっさとゲイル先生を追わないと逸れる……」
そこまで言ってシンの口が止まった。なぜならユーラインの表情が怒りで満ちていたからだ。
シンはユーラインの顔を見てしまったと後悔した。なぜならシンのこの世界の人々の性格についての予測の一つに魔法という武器があるため好戦的だというものがあったからだ。それをすっかりと忘れて前世で同級生同士の喧嘩を止める時のようにやってしまった。そして、
「いいでしょう……あくまで白を切るおつもりのようですね……場所もちょうどいいですし……決闘ですわ!」
この世界では魔法決闘で白黒を決めることが多いという予測も忘れていた。だがまだ望みがある。そう、今は学園見学をしているのだ。それを理由に断ってうやむやにすればと考えたシンは直ぐに実行に移した。
「ほら、今はそんなことをしてる時じゃねぇだろ、早くゲイル先生に追いつかないと……」
「その必要はない」
シンがゲイルの名を出すと後ろにゲイルが突然現れて慌てて後ろを振り向き臨戦態勢に入ってしまった。ゲイルの顔は呆れ顔だった。
「ついてくる生徒があまりに少ないと思ったら君たちは……話はだいたい聞かせてもらったぞ」
「先生!この決闘場を使用する許可を下さい!」
ゲイルの言葉を無視してユーラインはゲイルに迫った。流石に常識のありそうなこの人なら許可しないと思ったが、
「いいだろう、許可する!」
予想に反してゲイルはあっさりと許可した。
「ちょ、いいんですか!?今は学園見学の真っ最中なんですよ!」
「別に問題ない、どうせ時間はたっぷりとある。それに……男なら申し込まれた決闘を断るな!」
「マジか……」
シンの訴えもゲイルの叫びに消えていった。シンは地球での常識とこの世界での常識は違うことを改めて思い知った。
「フフフ……計画通りですわ」
そんな中ユーラインは誰にも聞こえないほどの小声でそう言った。そう、これまでの一連の騒動は全てユーラインがシンを退学に追い込むために作られた計画によって起こったものだった。
まずこの決闘場に来るまでシンを見失わないよう一定の距離を保ちながら追跡する。そして決闘場に着いたら接近してシンの足にワザと引っ掛かって転ぶ。勿論スカートの中は見えないように細工をした。そしてパンツを見たと言いがかりをつけ、生徒を集めて学園見学を続行できないようにして決闘の許可をもらう。そして決闘でシンを完膚なきまでに叩きのめし恥を晒させる。さらにパンツを見た変態という汚名を着せて学園に居られないようにさせ、退学に追い込む。それがユーラインが一晩考えに考えた計画だった。それもここまでは完璧に事を運べた。後は決闘で完膚なきまでに叩きのめせば完成する。
だがユーラインは知らない。シンが田舎から来た落ちこぼれなんかじゃなく学年首席だということを。そして転生者であることを。
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魔法決闘、それは神が戦争に代わる血を流さずに平和的に競う戦いとして人間に与えられた競技。魔力を拡散させて放出させ人体へのダメージを軽減させる腕輪を右手に付け、1対1でどちらかが気絶、または降参するまで決闘場の中で時間無制限で争うのだ。四国魔法決闘の名にも入っているほどの競技で、メイン競技として尋常でないくらいの人気を誇る。
そのため決闘場には先程までいた新入生は勿論噂を聞きつけた上級生や先生まで観戦をしに来て決闘場の観客席はあっという間にいっぱいになった。
「ふぅ……なんでこんなことに……」
シンは初の魔法決闘、初めて実戦で魔法を使うのだ。緊張しないはずがない。だが今まで模索してきた闘い方を、魔法を試せる絶好の機会だと期待に胸を膨らませているのもまた事実だった。
シンはぼやきながらもきっちりと準備体操をしていた。すると向かい側にいるユーラインが笑ってこう言った。
「なにをしておいでなんですの?変な踊りですね」
「そうか、これが踊りに見えるのか……」
ここでもシンは世界の常識の違いを感じた。そう、この世界では体操やストレッチがないのだ。だがシンのこの世界での常識の予測の範囲内だったからそこまでショックは受けなかった。
「そいじゃあ、始めますか」
「そうですわね、覚悟なさい!」
魔法決闘では必ず勝敗を決める審判と緊急事態のための通称『助っ人』がそれぞれ一人ずついなければならない。今回、審判はゲイルが、助っ人は見たことのない男の先生が務めることになった。
「では、これからユーライン・パリスン対シン・ジャックルスの決闘を執り行う!」
そしてゲイルの右手がゆっくりと上がり、シンとユーラインはそれぞれ戦闘態勢に入り、観客も静まりかえった。
「始め!」
「食らいなさい!私の魔法を!」
そしてゲイルの右手が振り下ろされるのと同時にユーラインが魔法を発動した。その魔法は『火球』、火の魔法弾を作り出す基本的な攻撃魔法だが小回りが利き、熟練者なら大量の数の魔法弾を作り攻撃できる汎用性の高い魔法なのだ。普通の魔法使いなら10個の魔法弾を作れれば上出来なのだがユーラインは高い魔力を存分に発揮して30個もの魔法弾を一瞬で作り出したのだ。これには観客も驚きと喝采の入り混じった声援をユーラインに送った。
「さて、叩き潰してさしあげますわよ!」
ユーラインがそう言った瞬間火の魔法弾がシン目掛けて放たれた。
するとドバババババン!!という魔法弾が直撃する音が決闘場に響き、魔法弾はシンの周りに粉塵をまき散らした。
次は決闘、つまり久々に書く戦闘描写です。