第七十九話《色恋沙汰》
「…」
シンの顔が蒼白になっていく。自分の変装は完璧だと思っているが知り合いならもしかしたらバレる可能性が無いとも言えない。さらにシャルドネの友人も来ているという師範代の言葉、もう誰が来ているか予想できた。
「ああ、この人は事情があって今日家に泊まることになったココロさんとセリン君だ」
「へぇ~、私はシャルドネ、よろしくねココロちゃん!セリン君!」
シャルドネは初対面のように接していることからバレてないようだとシンは判断した。
「はい、よろしくお願いします」
「よ、よろしく…」
シンは動揺を諭されないようにしっかりと女の子のような振る舞いで挨拶をした。セリルはしっかりと演じているのかそれとも素でやっているのか分からないが人見知りのようにシンの後ろに隠れながら挨拶した。
「ごめんなさい、弟は人見知りで…」
「いやいや、気にしないで!」
シンが見た戦闘狂のシャルドネとは違った。そこにいたのは元気な普通の少女のシャルドネだった。これが普段のシャルドネなのかとシンは少し安心した。
「そうだココロさん、セリン君。夕食までまだ時間があるからそれまでシャルの部屋でシャルとその友人と一緒にいるといい」
「そうですね、そうさせてもらいます」
シンはその友人にはあまり会いたくないがここで断る理由が見当たらないためその提案を受けることにした。
「じゃあ案内するね!付いて来て!」
案内された部屋は畳の部屋だったが、家具などは可愛らしい物ばかりで机の上に夏休みの宿題と筆記用具がある以外は普通に片付いていた。シンはもっと殺伐としていて片付いていない部屋を予想していたが
「…あらシャルちゃん、その人たちは?」
座布団に座ってくつろいでいたルナがシン達に気づいた。シンの予想通り泊まりにきていたシャルドネの友人とはルナだった。
「この人たちは今日家に泊まることになったココロちゃんとセリン君だよ」
「こんにちわ」
シンは平静を装いながら挨拶をした。ちなみにセリルはさっきからシンの後ろに隠れている。
「それで、お茶はどうしたの?」
「あ、忘れてた!直ぐに取ってくる!」
シャルドネは慌ててお茶を取りに行った。
「…」
ルナは会って早々変装したシンを凝視した。まさか変装がバレたかとシンは思った。だからルナには会いたくなかったのだが。
「…どうかしましたか?」
シンは恐る恐る聞いてみた。
「私はルナ、よろしくね」
「よ、よろしく」
どうやらバレていないらしい。バレたかと思ってヒヤヒヤしたシンだった。ルナは一体どこを凝視していたのかというと、シンの胸を見ていたのだ。ルナは貧乳のため胸にコンプレックスを抱いているのだ。ちなみにこの世界では物を詰めて胸を大きく見せるという考えはない。
「あなた達、いくつなの?」
「私は14歳です、弟は10歳です」
「あら、私たちと同い年なのね」
「そうなんですか、偶然ですね」
意外と話が弾んで内心ホッとするシンだった。
「あなた、恋をしたことある?」
「あ、いえ、ありません」
いきなり内容がガールズトークに早変わりしたためシンは動揺した。シンは男なのでガールズトークでの対応なんて知らない。ここでボロが出るかもしれないと不安になった。
「…私、今気になる人がいるの」
「へぇ、そうなんですか…」
「不思議な人なの。誰もが知ってる事を知らないのに、何でも知ってそうで、物凄く強い人なの」
「へ、へぇ…」
シンは色恋沙汰には興味はないが別に鈍感ではない。それが誰なのか普通に分かった、分かってしまった。
「でもその人の事を全然知らないの、どうしたらいいと思う?」
質問を投げかけているのはその気になる人なんですけど!!と思いっきり叫びたくなったシンだった。
「…へぇ」
セリルは色恋沙汰には敏感だった。シンの揺れる心を読んで、直ぐにルナの気になる相手がシンだと分かった。