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第七十話《狙い》







「それで、いつまで待たせるんですか?」


メルンが不機嫌そうに質問した。シンはセリルの態度の大きさに少しイラッときていた。


「もうちょっと待てないのかお前は」


「あのですね、先程から何時間待たされていると思ってるんですか!」


確かに1,2時間は待たせているが、負われている立場に人間がそれくらいで我慢の限界が来るものなのかとシンは呆れた。


「いいじゃないか。お前さっきまで命の危険にあったことに、いや今もまだ命の危険に晒されてることに気づいてないわけじゃないだろ?自分の命守るためなんだから我慢しろ」


「だってこの家は私の部屋よりも狭いから窮屈で仕方ないんですよ!」


だからってそれをこの家に住む人間に対して言える神経がシンには到底理解できなかった。


「お前…それをこの家に住む俺の目の前で言う普通…」


「事実なんだから仕方がないでしょう」


「この野郎…」


シンはユーラインよりも態度のデカい王族にイライラが膨れ上がり始めた。


すると、家の玄関のドアを乱暴に何回も叩かれた。この感じではセリルを狙ってきた刺客ではないとシンは確信した。プロの暗殺者ならこんなに騒がしくドアを叩かないからだ。


「!?誰です!」


セリルはそこまで考えが及んでいないのか臨戦態勢、というか逃走態勢を取った。


「落ち着け、お前を狙う奴じゃないさ」


シンがゆっくりと玄関のドアを開けると汗だくで息の上がっているボイルがいた。おそらく全速力で、魔法を全力で使い最速でここに来たのだろう。シンはまさかここまで早く来るとは思ってなかった。最低でもネビューより後に来るだろうと思っていた。


「ハァ…ハァ…シン君!大急ぎで来たよ!」


「ありがとうございますボイルさん。どうぞ中へ」


ボイルを家の中に入れるとボイルは直ぐにセリルの存在に気づいた。


「この子は…念話紙の子かい?」


「違います、まぁ今回の事件の重要参考人です」


そう聞いてボイルは真剣な顔になった。


「そうか…なら早速話を聞かせてもらおうか」


するとノックもなしに玄関のドアがいきなり開いた。思わず警戒を強めたシンとボイルだったがそこにいたのはネビューだった。


「おーいシン、きちんとメルンを…ってハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」


「なっ…ネビュー!?」


ネビューはボイルを見て大声を出して驚き、ボイルはネビューを見て動揺した。事情を知らないシンとセリルは何が起こっているのか分からなかった。


「どうしたいきなり」


「なんで、なんで親父が此処にいるんだよ!!」


「それはこっちの台詞だよ。どうしてお前が此処にいるんだ!」


なんとネビューとボイルは親子だったのだ。シンは不真面目なネビューが真面目なボイルの息子だなんて思ってもみなかった。


「…まさかボイルさんがネビューの親父だったとは…似てませんね」


「俺は母親似なんだよ!」


どうやら親子仲は芳しくないらしい。


「一気に騒がしくなりましたわね…」


セリルが不機嫌そうに耳をふさいでネビューの大声を聞かないようにしていた。それを見たシンはなんだか申し訳なくなった。


「すまない、まさかこんなことになるとは思ってなかったからな」


「ともかくお前よりも先にこの子の話を聞かないと…」


「おっ、そうだったそうだった」


どうやら心の奥深くの部分は似ているのか、ネビューもボイルも親子喧嘩よりセリルの事情聴取を優先させた。


「シン君、息子が迷惑を掛けたようで…」


ボイルは申し訳なさそうにシンに謝った。


「まぁいいですよ」


シンは別段気にしてなかったようだ。そしてようやくボイルによるセリルへの事情聴取が始まった。


「ではまず、君の名前を教えてくれるかな?」


「セリル、セリル・ブィントです」


その名を聞いたボイルは頭を抱えてシンにため息交じりにこう質問した。


「ブィント…シン君、君は王族を引き付ける魔法でも使ってるのかい?」


「そんな魔法あるなら即刻解除したいですよ…」


シンもここまで王族の事件に関わってるのはのろいか何かなのかと思い始めた。


「何の話をしてるんだ?」


ネビューは何も知らないのでその質問の意図が分からなかった。それを見たシンは衝撃の言葉を放った。


「セリルの話をする前にあの事を話してた方がいいかもしれませんね…」


それを聞いたボイルは心底驚いた。今まであんなに隠したいと言っていた王族連続殺人事件のことを話そうとしているのだから。


「いいのかい?」


「正直俺の予想が正しければこいつにも協力してもらわないと困ったことになりそうです。それに情報は平等に話した方がいいでしょう。それにこいつは口が軽いですが事の重大さは理解してくれると信じてます」


ボイルはシンに確認を取ったが決意は変わらないようだ。それに話した方が利点があると踏んだらしい。


そして、シンはセリルとネビューに王族連続殺人事件の事を話し始めた。何があって、シンがどう関わっていたのか、どうやって終わったのか、全てを話した。勿論ビラン王妃が現在住んでいる場所といったビラン王妃の事、そして裏で操っていた黒幕など不確定なことについては話さなかったが。


「…ちょっと待て、色々とおかしい」


それを聞いたネビューは驚きで頭を抱えて考え始めた。


「質問は最後に聞いてやる。まずは全ての情報をそろえるべきだ」


「そんなことが裏で起きてたんですね…」


セリルもこの事に付いては驚きを隠せずにいた。


「この事は勿論他言無用だ。もしこの事が知られたら国家転覆の危機だ」


シンはしっかりと二人に釘を刺した。


「お、おう…」


ネビューはいつもの元気など微塵にも感じさせない弱い返事をした。


「さてと、こっちは嘘偽りなくこっちの事を話した。そちらも嘘偽りなく全部話せよ」


ここでボイルはシンの狙いが分かった。シンが話した情報はシンだけではなくリアス聖国王宮にとっても一番知られたくない情報である。おそらくシンはセリルから先に事情聴取をしていたのだろうがその中に嘘があると分かったのだろう。そこでこちら側の知られたくない情報を与え、こちら側がセリルを信頼しているという意思を見せることにより、セリルがこちら側に対して嘘を吐けなくしたのだ。


他にも狙いはある。シン自身の実力を偽りなく言う事によってこちら側が魔法関連において無敵であることを示し、セリルを信頼させこちら側の言う事を素直に聞く可能性を上げたのだ。


だがそれよりもボイルは嬉しさが込み上げてきた。この話をネビューにもしたという事はシンはネビューを信頼してくれているという事なのだ。ボイルはネビューをシンの背中を預けられる程の優秀な男に育ってほしいと思っていたためこれほど嬉しいことはなかった。


「は、はい…わかりました」


セリルはシンの思惑通り嘘偽りなくすべてを話し始めた。













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