第六十五話《念写機》
いきなり三人の前に現れた鎧を付けた死体、メルンは思わず悲鳴を上げ、ネビューもこの光景を見て呆然としていた。だが、シンだけは違った。
「これは酷いな、血まみれじゃないか。取り敢えず俺だけで検死をしてしまうか…」
シンだけは冷静に状況分析を始めた。警察官を目指していたシンは死体を見て動揺する様子を見せなかった。内心は少し動揺していたが表情に出すことはなかった。
「おいネビュー、練習場の倉庫から紙と鉛筆と念写機を持ってきてくれ」
念写機とは魔力により紙に現像する機械だ。地球で言うカメラのようなものだ。
「なんでそんなものが倉庫にあるんだよ…」
念写機は貴重なものだ。なんでそんなものが此処の倉庫にあるのかネビューには分からなかった。
「自作だ」
「おいおい…まぁ分かった、持ってくる」
シンの技術に若干呆れながらもネビューはシンの言うとおり倉庫へと向かった。
「メルン、お前も倉庫に行ってこの念話紙の相手にこの場所とこの事を伝えてくれ。できるか?」
「は、はい!」
驚いて呆然としていたメルンにシンは持っていた念話紙を渡した。メルンは返事はしたがその場を離れることは出来なかった。
「この鎧は全部外すか…だがこの血の量はなんだ?殺しに慣れた者の犯行だな…」
なぜならシンの死体を扱う手つきが物凄く慣れていたからだ。おびただしい量の血や死体よりもそちらの方に目が行ってしまうのだ。
「どうした?」
「い、いえ!ただこの念話紙の相手って一体誰なのかなと思い…」
シンがそれに気づいて質問してきてメルンは気にはなっていた念話紙の相手の事を聞いた。
「この状況で最も信頼できる人だ。だから大丈夫だ」
「そうですか…」
その信頼できる相手とはいったい誰なのかメルンには予想できなかった。ユーラインではないだろうし、学校の先生でもなさそうだった。
「おいシン、持ってきたぞ」
するとネビューが念写機を持ってきた。
「早く行け、こんなところあんまり見たくないだろ」
「はい…」
メルンはシンに言われた通り倉庫へ向かいそこで念話紙での通信を始めた。
「もしもし」
『その声はシン君じゃないね、どなたですか?』
念話紙から聞こえた声は大人の男の声だった。合同宿泊訓練では聞いたことのない声だったので先生ではないことは分かった。
「あ、私、メルンと申します!シンさんに連絡しろと言われて…その…」
メルンはさっきあったことを伝えようとしたがあまりその言葉が出なかった。
『ボイルです。それで一体なにがあったのかい?ゆっくりでいいですから話してみてください』
「はい…」
ボイルの言葉に少しは落ち着いたのか少しずつさっき会った事を話し始めた。全て話し終わった後、ボイルは事の重大さに声を大きくした。
『なんだって!?分かった直ぐにそこに行くよ!』
「ありがとうございます!」
そう言ってボイルは念話紙の通信を切った。ボイルは警備隊の偉い人らしい。
「それにしてもシンさんはこんな人とどこで知り合ったのでしょう…」
メルンの中にあるシンが今日でさらに謎になっていった。