第六十一話《手のひら返し》
シンとネビューはメルンの家のリビングにあるソファでくつろいでいた。質素な雰囲気はあるがそれでもシンの家に比べたら豪華な家であった。
「シンさん、ネビューさん!お久しぶりです!」
するとメルンが可愛らしい服でやってきた。しかしシンはメルンとネビューが知り合いだってことに気がいった。
「ん?お前ら知り合いだったのか」
「まぁ色々あってな」
シンはそれ以上その事について質問しなかった。どうせそこまで重要なことでもないと思ったからだ。
「それで…どうしてネビューさんが?ネビューさんもこの辺りに実家があるんですか?」
「いや、色々あって俺の家に泊まってんだ」
「そうですか…」
メルンは途端に悲しそうな顔になった。おそらくネビューが実家で酷い目にあってシンの家に転がり込んできたと想像したのだろう。
「いや、そんな顔しないでくれ。そんな大層なことじゃないから」
取り敢えずネビューは適当に誤解を解いた。流石に優秀な親への微かな反抗のためとは死んでも言えなかった。
「それで…遊びに来たのはいいが何をするんだ?」
「決まっている、魔法の勉強だ」
「ハァ!?それ遊びじゃねぇだろ!」
ネビューはソファから立ち上がって叫んだ。
「ネビューさん、この町…というよりこの村には私たちが遊びに行くような場所がないんです…」
「おいおい…」
ネビューは改めてここが辺境の村なんだと実感した。
「俺が開発した魔法を教えてやるから」
「おいシン!さっさと教えろ!直ぐモノにしてやる!」
しかしシンの言葉を聞いたネビューは直ぐに手のひらを返した。それを見てメルンは少し笑った。
「フフッ、やっぱり面白い人ですねネビューさんは。それで私にも魔法を教えてくれるのでしょうか」
「ああ、メルンには簡単にできてなおかつ強い魔法を教えよう」
「おい!俺にはどんな魔法を教えてくれるんだ!」
「そうだな、簡単なのとものすごく難しいのとがあるが…」
「勿論簡単な方だ!どんな魔法なんだ?」
迷わずネビューは簡単な方を選んだ。シンもそれが分かっていたかのように説明を始めた。
「色々と試行錯誤してる内にできた魔法だ。意外と簡単にできてなおかつ強いからビックリしたのを覚えている」
ネビューは早くどんな魔法か教えろと言った顔をした。そして一呼吸おいてシンは真顔でこう言った。
「簡単に言えば身体中の穴という穴から光線が出る。名前は『穴光』だ」
「難しいので良いんでもうちょっとマシなものをお願いします」
ネビューはその魔法を出した自分を想像して、明らかにその魔法を人前で出すのは途轍もない勇気が必要だと判断した。
「だろうな」
どうやらシンはネビューが難しい方を選ぶことは分かっていたらしい。
「教えるのはお前が俺との決闘の時に使ったあの魔法に似て非なる魔法なんだ。今のお前なら簡単に習得は出来るだろう」
「マジで!?そっちのほうも簡単じゃないか!」
「いや、制御が難しいんだ」
「そうか、だが大丈夫だ!俺ならきっと出来る!やってやるぞぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
簡単に強い魔法を習得できると知りネビューのテンションは上がっていった。明らかにこれから待っている地獄をわかっていない。
「…うるさいぞ」
そこへ三つのコップが乗ったお盆を持ったメルンの父親がやってきてネビューを注意した。
「わぁ!?」
思わずネビューは驚きの声を上げ身構えてしまった。
「あ、お父さん」
「お茶を持ってきた」
「ありがとうございます」
シンのお礼にメルンの父親は無言で少し礼をして部屋から出て行った。出て行ったことを確認してネビューはため息を吐いた。
「ホント似てないよな…」
「はい、私はお母さん似なんです」
だろうな、とシンとネビューは一緒の事を心の中でツッコんだ。