第五十六話《妬み》
烈火祭も終わり、シェント学園の生徒達の気持ちは学期末試験に移っていく。だが烈火祭で大活躍したシンの話題は止まる所を知らない。今日もシンの教室の廊下側にはシンを見に来る人で絶えない。
正直シンはそれを気にしてはいない。こうなることは覚悟の上で本気を出したのだから。それにどうせ本気を出さずともこうはなっていただろうとも考えている。シンが気にする問題は他にある。
「…」
一つはユーラインがあの保健室の一件から話しかけるどころか目すら合わせてくれないのだ。シンはもしユーラインが話しかけてくれてあの一件について聞いてきたら覚えていないと誤魔化すことにしているのだが、肝心のユーラインが話しかけてきてくれないのだ。こちらから話しかけようとしたら何処かへ去ってしまう。これの他にも問題がある。
「フフフ…」
リンがまるで私は全て分かってますよと言わんばかりの視線と雰囲気を出しているのだ。無駄に言及すればユーラインへの誤魔化しが効かなくなるので何もできない。そしてもう一つ問題がある。
「やっほー!今日も遊びに来たよ!」
「ハァ…今日も来たか…」
なぜかシャルドネが毎日教室に遊びに来るのだ。正直シャルドネに好かれることをした覚えのないシンにとってはシャルドネが毎日来る理由が分からず混乱している。
「ねぇねぇどうしたの?何してるの?」
「勉強してるんだよ、てか寄り掛かるな」
しかもスキンシップが多いのだ。手を握ってきたり、肩に手を置いたり、胸を背中に当てるなんてこともしてくるのだ。そういったスキンシップをしてくるたびに男子たちの嫉妬混じりの視線が刺さる。
「いいじゃん、減るものじゃないし」
確かに減るものじゃないが嫉妬の視線は増える。
「また来てたわね…」
「ルナさん…早くこいつを回収してもらえませんか?」
するとルナが廊下の人ごみを避けて呆れた顔をしながら教室に入ってきた。シャルドネが教室に来ると毎回ルナがシャルドネを連れて帰ってくれるのでシンにとっては救世主なのだ。だがルナが来るたびリンの意味深なオーラが強くなるのが気になってしょうがない。
「ねぇ、ルナちゃんには敬語なのになんで私にはタメ口なの?」
「尊敬が出来ないからだよ」
「酷い!」
シャルドネはよろよろと膝から崩れ落ちた。
「ごめんなさいね」
「いえ、こっちこそ毎回来てもらってすみません」
ルナと会話をするとシャルドネの時とは違った妬みの視線が襲いかかる。
「あの、どうしてここまでシャルドネに…懐かれたんでしょうか?」
シンがこう聞くとルナは笑顔でこう返した。
「さあね、でもここまでシャルドネちゃんが男子に懐いたのは初めてね」
「…イマイチ嬉しくありませんね」
シンのこの発言に男子の視線が憤怒に変わった。シャルドネは学園有数の美少女であるのだ、それなのに仲良くなれることが嬉しくないなんて頭がおかしいとしか思えないとその場にいた男子全員は思った。
「ともかく帰るわよシャルドネちゃん」
「また明日~」
ルナはシャルドネを半ば引きずりながら帰って行った。もう二度と教室に来ないでくれと思うシンであった。
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「フフフ…まだまだ確定できる証拠がありませんね…」
リンはシンとルナが付き合う寸前だと思いシンとルナをマークしていた。勿論そんなことはないのだがリンは記者の勘とやらでそうなるだろうと思っている。時期が来たら大々的に新聞に載せるみたいだ。
「なに不気味な笑顔をしてるんだよ」
そこにネビューがリンの笑みが気になって話しかけてきた。
「別に、ネビューさんには関係ないですよ」
「関係ないってな…明らかにシンに視線が行ってるからそういうわけにはいかないんだよ」
シンにも勘づかれないように(既にシンには勘づられているが気づいてない)見ていたのにネビュー程度に見破られるとはまだまだだなとリンは思った。
「いいじゃないですか、シンさんは今や注目の的なんですから」
するとネビューがいつになく真面目な顔でリンにこう言った。
「お前が新聞部ってことは分かってる。でもな、シンに迷惑かけるような記事はあんまり書くなよ」
「…え?」
リンは呆気にとられた。ネビューがそんなことを言ってくるとは思ってなかったからだ。
「俺の記事ならどんな酷いものでも書いていいぜ!どんな形でもシンより注目されたいからな」
台無しだった、いつものネビューだった。