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第五十三話《保健室》

結果から言えばシンはシャルドネに勝利した。


だがそれを直ぐに理解した観客はいなかった。なぜなら観客席、いや最新鋭の技術と耐久性を誇る闘技場が崩壊したからだ。


観客は全員いきなりの闘技場崩壊に慌てふためき、誰一人として闘いの結果を見ていなかった。


最初に結果を知ったのは実況者だった。持っていたマイクはボロボロになっていたがそんなこと気にせず最高に大きい声で実況した。


『た、立っているのはシン選手!!なんとシン選手、去年の覇者であるシャルドネ選手を打ち破ったあああああああああああっ!!』


その実況に多くの観客がボロボロで本来の形を保っていない闘技場を見た。


実況者の言うとおり立っているのはシン、倒れているのはシャルドネだった。だが観客はそこにあまり注目できなかった。なぜなら闘技場の中央、シンと倒れているシャルドネの間にとんでもないクレーターが出来ていたからだ。


これはシンの魔法、『雷神の槌(ミョルニル)』が炸裂したせいで出来たクレーターだ。シャルドネがシンに近づく直前にシンが炸裂させたため、シャルドネは『雷神の槌(ミョルニル)』による破壊を免れたのだがそれの波状衝撃によって吹き飛ばされ倒れたのだ。だが観客にはこれがシンとシャルドネの魔法が正面衝突したせいで出来たクレーターだと認識した。


それだけではない、この闘いは当事者からしてみれば最初いろいろあったが全てをまとめると圧倒的で一方的な勝負という認識なのだ。だが観客にはこの闘いはどちらに転んでもおかしくない互角の勝負という認識が強かった。その理由はシンの怪我であり、シャルドネが終始見せたシンの反撃を許さない怒涛のラッシュ、そしてこの二人の間に出来たクレーターである。


「シンさーん!!やりましたね!!」


「うおおおおおおおおおおっ!!最高だぜシン!!」


シンのクラスメイトは自分たちのクラスの総合優勝なんて忘れて、シンが勝利したことに大喜びした。シンがそれに気づき手を振ろうとするそぶりを見せた瞬間、シンが突如倒れた。


「シンさん!!」


「おいシン!しっかりしろシン!」


思わず駆け寄るクラスメイトたち、その時タイソンがシンの傷口を見て冷静にクラスメイトにこう伝えた。


「…出血がひどい、これじゃあ倒れてもおかしくないな」


「どういうことだよタイソン!シンは助かるのか!?」


「…命に関わるほどじゃない、落ち着けよネビュー」


タイソンはオーバーにシンを心配するネビューを落ち着かせた。シンはそのままシャルドネと共に保健室に運ばれることとなった。















____________________________________________________________












閉会式では珍しく校長が空気を読んで長いスピーチをせず手短に切り上げた。しかも優勝したクラスに渡されるトロフィーもクラスの顔であるシンでもなく、ユーラインでもなく、なぜかネビューが貰った。なぜならシンは保健室に、ユーラインなんか閉会式はおろかシンとシャルドネの死闘の際に姿を見たクラスメイトがおらず軽い行方不明だからだ。


物凄く不思議で気まずい雰囲気に包まれた閉会式の後、ネビュー達は保健室に直行した。本来なら全校生徒の前でトロフィーを貰うはずだったシンに優勝トロフィーを見せるためだ。ネビューは勢いよく保健室のドアを開けた。


「シン!!見ろよこれ!!優勝トロフィーだぜ!!」


だがシンはその時まだ意識を取り戻していなかった。


「保健室では静かにしてね」


「あっ、すみません先生」


ネビューを注意したのは保健室の先生だ。ある程度の傷なら治療でき、さらに大人の妖艶な雰囲気を出すことで有名な先生だ。年上好きの男子生徒に多大な人気がある。


「…どうなんですか先生」


「外傷は身体全体に打撲に頭と腕に少し深い切り傷だけね。気絶した理由は失血による失神よ。命に別状はないわ」


それを聞いてクラス全員は安堵した。そしてネビューはある事に気づいた。


「あの、シャルドネ先輩は?」


そう、本来ならいるはずの、この保健室で寝ているはずのシャルドネがいないのだ。怪我人はシンと闘技場の崩壊で擦り傷を負った生徒だけだった。


「ああ、彼女ならさっき目が覚めて、直ぐに何処かへ走り去っていったわ」


「えっ!?」


その事実にネビュー達は驚いた。負けたはずのシャルドネがシンよりも早く目覚め、そこからすぐ何処かへ走るほどにまで回復していることに。


「ともかく今はまだ目覚めないと思うからもう少し時間が経ったら来なさい。シン君が目覚めたら呼びに行くわ」


「わかりました、ではまた来ます」


そう言ってネビュー達は保健室から出た。その事を先生は確認し、閉じているベットのカーテンに話しかけた。


「もういいですよ、ユーライン様」


そこから現れたのはユーラインだった。ユーラインは閉会式を欠席してシンが寝ている保健室に誰よりも早く来ていたのだ。別に心配だったとかではなく、持っている笛を先に帰ったボイルさんに代わって返しに来ただけ、というのがユーラインがここに真っ先に理由だ。


その事をクラスメイト、特にリンにバレたくないためクラスメイトたちが来てからずっとベットのカーテンの奥に隠れていたのだ。


「ありがとうございます」


そして、唐突に保健室の先生がとんでもないことをユーラインに質問した。


「ユーライン様は、シン君が好きなんですか?」


本当に、唐突過ぎてとんでもない質問だった。















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