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第四話《目標》

ようやく会話らしい会話が出来たぜ……。










始めに、シンは自分が産まれた小さな診療所の医者と看護師、そして治療に来ていた少しの患者以外の人に出会ったことがない。家から全く出ていないのだから当たり前と言えば当たり前なのだが。


シンは今日もいつも通りリビングで椅子に座って重い魔導書を机に置いて真剣に読んでいた。母親もいつも通り家事を、父親は今日は休日なのか魔導書を読んでいるシンを向かいの椅子に座って見守っていた。


いつも通りの静かな日常だった。だがシンが魔導書のページを捲ろうとしたその時、トントンと家の玄関の扉を軽く叩く音が聞こえた。


「!?ってうわぁ!!」


本来ならなんてことないことなのに、シンはこれまで5年間全く訪問者が来ていなかったため過剰に反応してしまった。シンは音がした瞬間椅子の上に立って玄関がある方向に体全体を使って振り向いて、そのせいで椅子がグラついてしまい椅子が倒れてしまいシンも椅子と一緒に転げ落ちてしまった。


「イタタタ……」


「だ、大丈夫シンちゃん!?」


「け、怪我してないか!?」


シンは前世で柔道を少しやっていたため反射的に受け身をとったので大きな痛みも怪我もなかったが今は幼児の体だからなのか、それとも暫く痛みを全く感じずに生活していたせいなのか分からないが少しの痛みで泣きそうになった。


そんな久しぶりに泣きそうになったシンを見て両親はかなり慌ててシンに寄り添った。


「おい!今の音はなんだ!?一体何があった!!」


玄関の扉は鍵が閉まっていて外にいる誰かは声を出して扉をドンドンと力強く叩くことしか出来なかった。



















―――――――――――――――――――――――――――――――――――――















「大丈夫かい?」


「はい、お気遣いどうも……」


「全く、もっと優しく扉を叩けないのか?」


「そうよ!!もしシンちゃんが怪我したならどうするつもりだったの!!」


シンの両親と訪問者は向かい合って座っていた。


転げ落ちたシンはもう痛みも無いのに、まだ心配している母親の膝の上に座らされて抱きつかれている。


訪問してきた男は髭を少し生やした渋い雰囲気を醸し出す大人な男性だった。何処か幼い雰囲気が残っているシンの両親とは不釣り合いだった。


「そうだ、先ずは自己紹介をしないとね。私はボイル、君のパパとママと同級生だったんだ」


「えっ……あっ、僕の名前はシン・ジャックルスです。始めましてボイルさん。」


シンは訪問者、ボイルが両親と同い年に驚いて少しうろたえたがそれを口には出さずに自己紹介をした。両親とボイルは初めて自己紹介をするのでうろたえたのだと思った。


「じゃあシン君、私はウルと話すことがあるからまた後でね」


そう言ってウルとボイルは外に出た。シンは開きっぱなしの魔導書をまた読み始めた。


しかしもうこの魔導書は読み尽くしてしまった、と言うよりも全部覚えてしまったのだ。恐らくこれも転生特典なのかどうか分からないが記憶力が良くなっているのだ。


魔導書を最初に読む時、パラパラッと全ページを開いたら魔導書の内容が全て頭の中に入ってきたのだ。前世から記憶力には自信があったがこれは流石に気味が悪かった。だが便利なものだと早々に割りきった。


しかも魔導書に書かれてある内容はシンにとってもう必要のないものなのだ。何故ならシンは今どんな相手でも闘えるような、そして対策もされない魔法を一から造りたいと模索中だからだ。


この魔導書には魔法の造り方は魔法の使い方の項目の隅っこに「明確な心像があれば理論的には可能」としか書かれていなかった。


恐らくこれよりも詳しい魔導書かそれなりの専門書にしか書かれていないのだろう。


取りあえずこれに書かれている通り明確なイメージを描いて使うと言う方法を試すつもりだがやはり確証がないとあまり試したくないとシンは思っている。


こんな感じで魔導書を読むフリをしながらそんなことを考えていると話が終わったのかウルとボイルがリビングに帰ってきた。シンはふと帰ってきた二人の顔を見るとボイルの方は先程と変わってなかったがウルの方は何か今まで見せたことのないほどの真剣な顔つきになっていた。しかしシンが見ていると感じたのか直ぐに何時もの頼りない感じの顔つきに戻った。


取りあえずシンは子供の素朴な疑問を大人に訪ねるような感じを意識してボイルに持っている魔導書を見せてこう質問した。


「あの、この魔導書より詳しい魔導書ってあるの?」


シンがそう言うとボイルは少したじろいでこう答えた。


「あ、いや確かにあるけど今は持っていないよ。しかし勉強熱心だねシン君、家の子に見習わせたいよ」


「あっ、えと、はい、あ、ありがとうございます!」


シンは前世から誉められるとかなり照れる癖がある。これだけを見ると年相応の子供に見える。それだけじゃない、椅子から転げ落ちたり素朴な疑問を言ったり今日のシンは何処か幼い感じかする。何時もは大人の雰囲気なので父親はまだまだ子供なんだなと少し安心した。母親は愛情が伝わり始めたと思いもっと愛情を注ごうと決めた。


そんなことを考えているウルとミラを気にせずボイルはシンにこう言った。


「君なら今からでもフィント学園に入れるかもね」


「フィント学園?」


ボイルはお世辞のつもりで言ったのだろう。だがその言葉はシンの知的好奇心を刺激してしまった。


「フィント学園は国が創設した一番頭のいい学校なんだ。私は軍の警備隊に所属してるけど重要なお仕事をする人は殆どフィント学園出身だね」


「警備隊?」


「警備隊はね、悪いことをした人を捕まえたり、町のみんなの平和を守る仕事さ」


警備隊、その単語を聞いたシンはそれを地球だと警察のようなものだと、失った自分の夢、目標に近いものだと思った。


「それじゃあ私はこれで、また来るよ」


そう言ってボイルは家から出ていった。ボイルが居なくなった家では異様な静けさが残った。そしてシンがその静寂を壊した。


「父さん、母さん、僕、警備隊になりたい。そのためにフィント学園に入りたい」



















―――――――――――――――――――――――――――――――――――――











「とんでもない子供だったな……」


ボイルはあの家から町へ続く唯一の道である木々が生い茂る整備されていないデコボコな一本道を歩きながらこんなことを考えていた。


5年前、国中の占い師の中で一番の腕をもつ占い師が王の子が産まれる時の占いの際、王の子がどんな運命を背負っているのかを言ったあと突然腰を抜かし、顔が恐怖で満ち、震えながら占いに立ち会った王族、そしてその側近にこう言った。


「わ、災いが……これから災いの子が何処かで産まれる……。神の力を持つ災いの子が産まれるぞぉおおおおお!!」


確かに占い師はこう言った。ボイルもその占いに立ち会ったから間違いない。その年は子供が例年にないくらい子宝に恵まれていて祝いの年と言われていた矢先だった。ボイルの妻にも子が身籠っている時でもあった。


王は直ぐ様国中の赤子の調査を実施する計画を側近達に命令した。その内容は異常な魔力、魔法、もしくはそれに類似した得たいの知れないなにかを持つものを国軍所属の全員で探し出し、拘束するというものだった。だが魔力というのはある程度魔法を使えるようにならないと分からず、そもそも今年産まれた大量の子供全員を調査なんて不可能に近いものだった。結局、占い師にこれからの災いを定期的に占わせたり、災いに備えてこれから軍備を強化したりするしかなかった。


今回のジャックルス夫婦宅へ訪問した理由の1つも昔からの知り合いも子宝に恵まれていて、取りあえず知り合いの子供くらいは調査をしとこうと思い立ったためだ。


ジャックルス夫婦はとある事情(・・・・・)で辺境の町にあるこんな道を通らないとたどり着けないような場所に住んでいたため訪問が遅れてしまった。


取りあえずウルに占いのことを伝えたらアイツらしくないくらい真剣な顔つきに変わった。何か知っているような感じだったが問い詰める気にならなかった。何故なら|今はそれよりも大変なことが起こっているからだ《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》。


それは王族連続暗殺事件だ。ウルにこの事を伝えることが訪問した本当の理由でウルもこれを聞いたときかなり驚いていた。


王の第一皇太子が暗殺されてから続々と王族が暗殺されているからだ。実際警備隊のボイルがこんな辺境にいるべきじゃないのだが、取りあえずこれが災いの前兆なら戦力となる駒を増やすべきだという意見が通ったためここに来れた。


それに、もう犯人の目星がついたのもここに来れた要因の1つだ。証拠も、動機も、そして犯人の側近の勇気ある告発もありもうすぐ逮捕されるだろう。取りあえずこれ以上の災いが起こらないことを願うだけだ。


シン・ジャックルス、会って話してみた印象は二人の子供らしく恥ずかしがりやで好奇心旺盛というものだった。が、それ以上に異常な子供という印象が強かった。


先ずあの子が読んでいた魔導書は大人でも理解できる者は少ない難解な魔導書なのだ。ボイル自身も全てを理解していないほどだ。しかもシンはこれよりも難しい魔導書はあるかと聞いてきたのだ。あれよりも難しい魔導書はもう天才と呼ばれその道を極めた学者が残す国立図書館にしかない専門書くらいしかない。


あんな年であの魔導書を理解しているなんて流石はあの二人の子供と関心もした。だがボイルは彼が占い師が言った災いの子だという可能性が高いとも思った。


もし災いの子を知っている王族や側近にシン君のことを知られたら殺されるか政治の道具、出世の道具として馬車馬の如く利用されるだろう。そんなことはさせない。


「私が何とかしよう。シン君は私達が守るんだ」


取りあえずシンのことは秘匿しておき、王族達にこの事を知られないように工作しておくとボイルは決めた。


そしてシンと同い年の息子に英才教育を施して、もし自分に何かあったときシンのことを任せられるような強い男に育てようとも決めた。

















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