第四十七話《決勝戦その二 作戦》
空中から叩き落されたシンは直ぐ体勢を立て直し、まるで何もなかったかのように難なく地面に着地した。それを見たシャルドネは少しだけ驚いた。
「へぇ、加減したつもりはなかったんだけど」
「ほう、じゃああれが本気だとでも言うのかい?」
シンが挑発をしたその瞬間、シャルドネはシンに接近し顔を目掛けて殴った。だがシンはそれを両腕で防御した。それからシャルドネはこれまでの苦戦が嘘のような猛攻撃をシンに向けた。決して大振りはせず反撃をする暇を与えないよう、そして自身に隙を作らないようにジャブ程度の素早いパンチでシンを追いつめようとした。
だがシンはその攻撃を防御していった。しかも不思議なことに防御しきれなかった攻撃も全く喰らって無いように見えた。まるでシャルドネの攻撃が弱すぎると言っているかのようだった。しかしシャルドネの身体強化魔法を掛けた状態のジャブはいつもシャルドネに向かってくる男どもを一撃でのしてしまう攻撃よりも強いのだ。それなのにシャルドネはシンに全くダメージを与えた感触が得られなかった。そこでシャルドネは一旦シンから距離を取った。
『ん?どうしたのかシャルドネ選手、優勢な状況なのに一旦距離を取った!』
「どうした、なぜ距離を取った?」
「意図して距離を取らせたくせによく言うわ」
シンのさらなる挑発にシャルドネは皮肉を言った。確かにシンは意図して距離を取らせようとしたがこんなにも早く距離を取られるとは思ってなかった。
「(私の拳を何回も喰らっているのに全く倒れる気配がない。防御魔法を掛けているようにも見えないし、となるとまさか…身体強化魔法で防御力を上げている?なら簡単にいけるわね)」
シャルドネは思考を巡らせているこの時間もシンは自分から仕掛けようとはせず集中力を高めていた。そして次にシャルドネがしてくる行動を予測していた。
「(おそらくもう察しているな。直ぐに距離を取る所を見るとそこまで頭が悪いわけではないな。もしくは勘でなんとなく距離を取ったのか。ともかく次にあいつがとる行動は二通り、俺が防御出来ない程の高い力で粉砕しようとしてくるかダメージが少ないと分かっていながらも反撃できないように速い攻撃を続けるか、だな。だがあいつの性格なら必ず前者を選んでくるだろう。なら次に俺がすべき行動は一つ!)」
そして両者は打ち合わせをしたかのように動いた。シャルドネはシンの予測通り一発でシンの防御を破れるような力でシンを粉砕しようとした。シンがそれを読んでいたとは知らずシャルドネは大振りの蹴りでシンを倒そうとした。だがシンはそれを軽々と躱し、直ぐにシャルドネの腹部にカウンターの拳を当てた。
「ぐっ、このっ!」
カウンターを喰らったシャルドネは攻め方を工夫した。まず速い攻撃で隙を作らせそこに大振りの一撃を喰らわせようとした。だがいくら速い攻撃を当ててもシンは隙を作らなかった。痺れを切らしたシャルドネは大振りのパンチをシンに当てようとした。だがシンはまたシャルドネの攻撃を躱しカウンターを浴びせた。
流石にこれはいけないと判断したシャルドネはまた距離を取った。そして直ぐに気付く、シンの目的がなんなのか。
「あなた、時間切れを…」
シンはその問いに答えなかった。別に正解だと教えてやる義理はないからだ。そう、シンが空中戦を仕掛けたのも、防御ばかりで攻撃しようとせずカウンターばかり狙っていたのも全ては時間切れ勝利を狙っていたのだ。
大々的に魔法が使えない今、シンが勝てる方法はこれしかない。烈火祭での魔法決闘では時間切れが設けられていてもし時間切れになった場合、観客の投票によって勝敗が決まるのだ。なら時間切れを狙っているシンはただシャルドネを倒そうとはせずにいかに観客に自分が優勢かを見せればそれでいい。
今観客はシャルドネを絶対的王者、シンを挑戦者と思っている。しかも今の観客はシンの方が好感を持てて、シャルドネにはあまり好感を持っていない。なぜならシャルドネは男子に相当な人気を持ってはいるがその唯我独尊な性格のせいで反感も多い。ならシンがシャルドネを倒してほしいと思う者はおのずと増える、そして後はシンが善戦しているところを見せればいい。そうなればシンが投票で勝てる。それがシンの考えたこの闘いでの作戦、確実とは言えないがこれがシンの考えた一番勝つ可能性の高い闘い方だ。
「フフフ、甘く見られたものね」
シャルドネのその不気味な笑いにシンは作戦でたった一つの弱点を思い出した。それはシャルドネがまだ予想もつかない力を隠していてそれを使ってきてしまったら終わってしまうという事だ。
「仕方ないわね、久々に人前で本気を出してあげるわ!」
地鳴りがした気がした。シンはこの瞬間この世界で初めて自分よりも強い人にあったと察した。