第四十三話《ミラーボール》
「よっしゃー、次は俺の出番だぜ！」
次はネビューが出場する魔法遊戯だ。ネビューは気合が入って自信満々だが一方クラスメイトは全員心配でならなかった。
「…シン、本当に大丈夫なんだろうな？」
「さぁな、あいつがまともな美的感性を持っていれば大丈夫だな」
シンもネビューに魔法は教えたがそれからは何一つとして教えていない。自分が教えた魔法がネビューにはどう映ったのか、どう生かされるのか、どういった事をするのかシンには全く見当がつかなかった。
「頼みますからそこそこの順位は獲ってくださいよネビューさん、私たちの頑張りを無駄にしないで下さいよ！」
「分かってるよ、ここを乗り切ればシンが魔法決闘に勝って総合優勝できるからな！」
今のシン達のクラスの順位はリンやユーライン、障害物競走で他の出場者が争っている中漁夫の利で一着になったタイソンを始めとしたクラスメイトの頑張りによって地力で勝る上級生組に食らいついて何とか中盤辺り、得点が高いこの種目を乗り切り順位を維持すれば、他のクラスの順位に関係なくシンが魔法決闘で優勝した瞬間逆転総合優勝が出来る順位に残れる。そう、ここが勝負所なのだ。ネビューもそれは分かっている。
「シン、お前の教えた魔法で勝ってみせるぜ」
「おう、順位落としたら承知しねーぞ」
シンと軽くグータッチをしたネビューは出場者控室に向かった。その背中をユーラインとシン以外のクラスメイトは祈りながら見送った。シンとユーラインは冷静に状況を分析していた。
「正直言って難しいですわね」
「ああ、俺が教えたのは所詮付け焼刃だ。全ての色を出すには精密なイメージと魔力操作能力が必要だからあいつ自身の魔法能力に左右されやすい」
「そんな難しい魔法ならなんでそんな魔法を教えたんですか？」
「お前があの魔法を見た時、かなり衝撃が走っただろ？」
「確かにそうですが…」
「他の出場者はネビューとは違って本気で四国魔法決闘に出場したいと思ってこの競技に出場している奴らばかりだ。ネビューがそんな奴らとまともな闘いは無理だし無謀。なら他の出場者にはない、そして度肝を抜くような魔法を教えて目一杯使わせた方がまだ望みがある。そう思ったからあの魔法を教えたんだ」
勿論それだけではない、三色の光を出す魔法は応用性がかなり効くと言う理由もあればあれを教えたらネビューはその魔法しか使わなくなるから素人が一番壁にぶち当たりやすい題材に迷うという関門をあっさりと抜け出させるという理由もある。
「理屈は分かりますが失敗すれば総合優勝の望みは一瞬で消えますわよ」
確かにこれでネビューが失敗してになれば逆転総合優勝は相当難しくなる。だがシンはポジティブだった。
「ユーライン、何かで一番になりたいって思ったなら失敗を恐れちゃいけないんだ。勝ちたいって本気で思ってるなら博打の一つや二つ打って当然だ。栄光ってのは失敗を恐れて逃げる奴には絶対に掴めないもんなんだよ」
「もし失敗したらどうするんですか？」
「失敗した時の事を考えるんじゃなくて、成功した時の事を考えるんだよ。それだけで勝利に近づく」
「分かりましたわ」
ちょっと納得がいかなかったがユーラインは取り敢えずシンの言うとおりネビューが成功することだけを考えることにした。するとネビューの出番が回ってきた。
『１年１組、ネビュー君』
「行くぜおい！」
始まりの合図と共に気合の入ったネビューは空へ大きく飛び上がり、そして全身から無数の色の光を出しながら回り始めた。
「何あれ……」
確かに綺麗だった。会場中のほぼ全員が度肝を抜かれた。だが、
「あのバカ……」
それだけだった。只々ネビューは光を放ちながら回ってるだけだった。ネビューは自分を太陽としてやっていることなのだろうが、シンにはネビューがミラーボールに見えた。
「…確かに綺麗だが……」
「全くもって物語性がない！」
近年の魔法遊戯は物語性がかなり重要な採点基準となっている。綺麗なだけで全く物語性のないネビューの魔法遊戯の採点は厳しくなるのは当然だった。
結果は三色の光を出す魔法のおかげ最下位にはならなかったものの、シン達のクラスは順位をかなり落ちてしまった。
「すまん、本当すまん。こんなに魔法遊戯が奥の深い競技だとは…」
ネビューは土下座をして謝っているがクラスメイトの視線は厳しかった。
「…ただただ無数の色の光を出しながら回っているだけで上位を獲れると思った奴が奥の深さを語るのかこのバカ」
「これなら私が出たかったですわ」
「け、けど最下位にならなかっただけ良かったですよ。まだ総合優勝の望みはありますし！」
リンがネビューのフォローに入ったがユーラインは淡々と現在の悪い状況を分析した。
「ですがもしあの男が魔法決闘で優勝しても現在一位の３年５組、二位の３年１組の順位次第では逆転できない状況ですし、それにその二クラスは去年の烈火祭魔法決闘で２年生ながら上位に食い込む程の実力者を出場していますわ。万が一の可能性があっても優勝は無理と考えた方がよろしいかと」
「ユーライン様はなんでそんな暗いことを真顔で言うんですか！」
「事実ですからしょうがないですわ。本当この男のせいで…」
「いいや、俺が優勝すれば問題なく逆転総合優勝できるぞ」
ユーラインがさらにネビューを責めようとしたらシンが現れてそれを遮った。
「なぜそう言い切れるんですか？」
「これだよほら、さっき決まった魔法決闘のトーナメント表だ」
シンから渡されたトーナメント表を見たユーラインは驚いた。
「こ、これは…！」
そこに書かれていたのは件の３年５組がシンが、３年１組が去年の優勝者シャルドネが当たる組み合わせだった。
「去年優勝したシャルドネと当たるこの３年１組の出場者は去年準決勝でシャルドネに負けたらしいから問題なく負けてくれる。あとは俺が優勝すればいけるだろ？」
これを続けてみたリンは歓喜した。
「これは…運は私たちに向いていると見ていいんですね!?」
「シン～、すまねぇ勝てなかったぜ～」
ネビューが涙を流しながらシンに頭を下げてきたのをシンは宥めた。
「気にすんな、俺が勝ってくれば全部丸く収まる話だ」
「…これほど頼りになる男はいない」
タイソンの言うとおり今のシンは強い、知ってはいないだろうがこの国で一番強い。
そしてシンは久々の魔法決闘の舞台に立つ、クラスの命運をかけて！
