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第四十一話《お願い》










シン達のクラスは同じ学年のクラスよりも優秀だ。シンやユーラインは勿論、タイソンとリンも二人には劣るが優秀で他の生徒も平均以上だ。ネビューが足を引っ張ってる感があるがネビューもそれなりに出来る。


烈火祭は基本的に最上級生が優勝するものだ。だが去年はなんと一年生が優勝を飾ったのだ。それを知ったシン達のクラスは猛練習を始めたのだった。だが他のクラスメイトは自分の競技の練習に励んでいるのに、シンだけはクラスメイトに助言をするだけで全く魔法決闘の練習をしようとしないのだ。勿論助言はありがたいことなのだが魔法決闘は四国魔法決闘でも烈火祭でも一番点数が高い競技なのだ。いくらシンが強くても一切練習しないのは流石に不安なのだ。その事をシンが知らないわけがない、よってリンはまた的確な助言をしているシンに練習させようとした。


「シンさん、どうして私たちに助言をするばかりで魔法決闘の練習をしないんですか?」


するとシンは悲しそうな顔で返答した。


「俺の助言が邪魔だったか?」


「いえ、そんなことは…ですが練習を全くしないまま烈火祭に臨むというのは些か不安がありましてね…」


「良いじゃありませんか、別に私たちが頼んだわけでなくこの人が好きでやっているのですから私たちがそれにどうこう言うのは間違いではありませんか?」


リンの言う事はご尤もだったがユーラインはリンを止めた。何故ならユーラインは知っているからだ。シンが既にこの国で最強であるという事を。当時英雄だったカレイ・パリスンを瞬殺し、現国王であるベルセーズ・リアスを倒したのだ。もう他にシンと互角に闘える者などいない、ましてやまだ学生の者に遅れを取るはずがない。ユーラインはシンが魔法決闘で優勝すると確信していた。だから無駄に練習するよりこうやって助言していてもらった方が優勝に近づくと考えているのだ。


「分かりました……」


リンは王族のユーラインにはあまり反論できないので渋々引き下がった。











____________________________________________________________













シンには朝の日課がある。それは身体を鍛えることだ。まず腹筋、背筋、腕立て、スクワットをそれぞれ300回。その後学園の敷地内を二周ジョギング、そして合気道、空手などの型の練習をするのだ。これを毎日欠かさず行っている。さらに学校が終わるとまだ簡略化をしていない改造魔法の簡略化、魔法の改良を夜遅くまでやるのだ。


なぜもうこの国最強なのに、十分強いのにまだ強くなろうとするのか。四国魔法決闘に出場したいわけでもないのになぜ鍛えるのか。理由は一つ、護る為だ。戦うだけの力ならもう十分かもしれないが護る為の力ならどれだけあっても足りない、シンはそう思っている。


そして今日の日課も終わり、汗だくになった体を拭くために寮に戻ろうとしたら一人の少女が声をかけてきた。ルナだった。


「あら、なんで汗だくでこんなところに?」


「ルナさんではないですか。実は体を鍛えてたんです」


シンの答えにルナはふふっと笑った。


「やっぱりあなたはシャルドネちゃんに勝とうとしてるのね」


「はい?」


意味の分からない言葉にシンは首をかしげた。


「あら?てっきりシャルドネちゃんに勝つために身体を鍛えてたのかと思ってたんだけど…」


「一体どういう事ですか?」


シンは気になって聞いてみた。


「あなた、シャルドネちゃんの闘い方を知ってる?」


シンは頷いた。ネビューと一緒に見に行った時に男子生徒を殴り飛ばしていたのを良く覚えている。


「なら話は早いわね。シャルドネちゃんは近接戦闘の達人でそれを武器に去年の烈火祭の魔法決闘で優勝して私たちのクラスを優勝に導いたの」


シンはやはりシャルドネはこの世界では珍しい、と言うより絶滅寸前の身体強化を駆使して闘う魔法戦士タイプなんだなと確信した。


「成程…つまり俺がシャルドネさんに勝つために少しでも近接戦闘ができるように練習していたと思ってたんですね」


「その通りよ、今の時代にそんな闘い方するのはシャルドネちゃんくらいだし対策をしてないとあっさりやられてしまって終わりだもの」


何故魔法戦士タイプがいなくなったのか、それは魔法の簡略化が大いに関係している。魔法戦士タイプの始まりは主に魔力はあるのに魔法が使えない、つまりは脳筋な人たちが戦えるように身体強化魔法を使って魔法決闘で戦い始めたのが最初だ。その昔、強大な魔法はイメージが難解すぎて極一部の頭脳明晰な人々しか使えなかった。だがその魔法たちも長い年月をかけて簡略化されていった。すると脳筋な者でも強大な魔法が使えるようになった。すると身体強化魔法より強大な魔法の方が強く、何より強くなるのが楽なので魔法戦士よりも魔法使いになる者が続出し、魔法戦士は廃れていったのだ。


「シン、無理を承知であなたにお願いがあるの」


ルナがいきなり頭を下げてシンにお願いした。


「シャルドネちゃんに勝って欲しいの。あなたならきっと勝てるから」


いきなりのお願いにシンは只々驚くしかなかった。


「いきなりなんですか…ルナさんとシャルドネさんは親友だと言ってたじゃないですか」


「親友だからお願いしているの」


ルナは冗談ではなく本気で言っているという事は直ぐに分かった。


「詳しく説明してもらえませんか?」


「いいわ、シャルドネちゃんはいまハッキリ言って自信過剰になっていて自分が世界最強と思っているの。態度もデカくなってきたし明らかに人を見下しているの。1年生の時はもっと人懐っこい性格だったのに一気にわがまま女王様って感じになっちゃったの」


「…わがまま女王様ね」


「多分だけどあの子よりも強い人が現れたらそれもなくなって昔のシャルドネちゃんに戻るかもしれないの。だから一番可能性がありそうな君に頼みたいの。ダメかしら…?」


「いいですよ」


シンは即答した。まぁ頼まれなくても倒すつもりだったのだがそんな話を聞いたからには尚更勝たなくてはいけなくなった。


「本当!?ありがとう!」


だがシンは一つ疑問に残ることがあった。


「あの…ルナさん。一ついいですか?」


「なにかしら」


「もし俺がシャルドネさんに勝ってしまったら…付き合うってことにはならないですよね…?」


そう、シャルドネは決闘に勝った相手と付き合うと公言している。ならばシンがシャルドネに勝ってしまったらシンが付き合う気がないのにシャルドネと付き合うという事になる。


「それなら大丈夫よ。あの子はただ強い人と闘いたいからそう言ってるわけであってシンがキチンと拒否したらそう言う事にはならないはずよ」


ルナの答えを聞いてシンは安心した。


「そうですか、わかりました。ルナさんとシャルドネさんのために絶対に勝ちますから!それではまた!」


そう言ってシンは寮へ戻っていった。その後ろ姿を見たルナは一つの不安が過った。


「…もしかしたらシャルドネちゃんが本気でシンに惚れてしまうって可能性も……ないわね」


だがその不安も直ぐないと確信できた。シャルドネはそう言ったことに鈍感だからだ。


烈火祭開催一週間前の出来事だった。












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