第三話《才能》
会話が少ないし説明文多い。
まだ登場人物も少ないし大丈夫かこの小説……。
シンは前世では天才と言われていた。
学校の成績はかなり優秀で大学模擬試験で県内一位を取るほどだった。運動神経もかなり高く帰宅部にも拘らず運動部のエースをも凌駕していた。容姿もつり目でクールなイケメン風の顔で、体格も長身で細いが筋肉質でモデルさながらだった。実際に都会の町を歩いていたらスカウトされたこともあった。警察官という明確な将来の目標を持ち、性格も少し愛想が悪くあまり笑わないことを除けば大人が想像する理想の高校生そのものだった。正にパーフェクト、全てにおいてシンは完璧だった。
周りはシンを才能溢れる天才と思った。しかしシン本人はそんなこと全く思わなかった。別に謙遜しているわけではなく自分に才能なんてなく、天才ではないと本気で思っていた。
先ず小学生の頃のシンは平凡だった。かけっこでは6人中3位、勉強も優秀とは言い難かった。将来の夢も漠然としたものしか持たず、性格も普通の小学生だった。
そんな小学生のシンが変わったきっかけは母親の過労による緊急入院だった。シンの父親はシンが産まれる前に死んでシンの母は一人でシンを育ててきた。シンに不自由をさせないために朝から晩まで休みなしで目一杯働いていたのが原因だった。この頃のシンは母が倒れた原因は自分だと思ってしまった。
それからのシンは人が変わったみたいに努力を始めた。何時か母を楽にしてあげたいという一心で。勉強も運動も真剣にやり始め、家事も出来るだけ自分でやるようになった。決して妥協せず、決して驕らず、一心不乱に努力を続けた結果天才とまで言われるようになったのだ。つまりシンは努力の鬼、天才なのだ。
真っ白な空間でシンが神にチート、転生特典を拒否した理由は簡単。今まで積み重ねてきた努力を、今までの自分の全てをそんなものに否定されたくないからだ。
これから起こるどんなことでも、例え魔法だろうと武術だろうと努力でなんとかするというシンの決意はあっさりと崩れた。
「なんだよこれ……」
シンは自分の右手にある魔法弾を見て直ぐに分かった。これはチート、転生特典だと。
先ずこんな属性魔法は魔導書の何処にも書かれてなかった。既存の属性で一番似かよっているのは『光』と『闇』。だが『光』だったらこんなに黒くならない、『闇』だったらこんなに光らない。それにこんなに神々しく光るものが転生特典と言わずになんと言おうか。
シンは黒く輝く魔法弾を握り潰した。握り潰した魔法弾は音もなく消えた。シンは魔法弾を握り潰した右手で頭を抱えてため息を吐いた。
「はぁ……何考えてんだよあいつは……」
確実にあの神のせいだと思った。なぜ神は転生特典を自分に与えたのかシンはいくつか仮説を立ててみた。
神がこれでこの世界を無双するのを見るため、この世界には色々な問題を抱えていてそれを解決してほしいからそのための力を与えた、神の気まぐれ、何かのアクシデントのせいでなぜか与えられた。
そこまで考えてシンは考えるのが馬鹿馬鹿しくなった。こんなこと考えても仕方がない。今はこれからどうするかを考えなくてはと思った。シンは取りあえずこれを一生封印すると決意した。
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この世界の魔法の法則は全属性において同じなのだ。ただしその属性の適性がないと使えない。普通の人なら適性する属性は一つだけ。2つの属性が使えるだけでエリートコースまっしぐら。神の子の子孫とされる王族の中でも神童と呼ばれる者でさえ3つの属性しか使えない。
だからこそシンは自分が全ての属性の適性を持っていることに恐ろしさを感じている。
シンは転生特典の封印を決意して直ぐに他の属性を使えるかどうか試した。先程とは違い頭の中でそれぞれの属性をイメージしながら右手を前に突き出した。火属性なら燃え盛る炎を、水属性なら濁りがなく波ひとつない静かで澄んだ湖を、地属性なら平坦で木ひとつない荒野の大地を、風属性なら巨大であらゆるものを吹き飛ばす竜巻を、氷属性なら白く凍てつく氷河を、雷属性なら黒雲から轟く雷鳴を、木属性なら大量に聳え立つ森林を、光属性なら燦然と輝く太陽を、闇属性なら暗い深淵の闇を、それぞれイメージした。
するとそのイメージした属性の魔法弾が右手から飛び出したのだ。違う属性をイメージしたらその属性の魔法弾も飛び出した。全ての属性で試したら全ての属性の魔法弾が飛び出した。つまりシンは全ての属性の適性があるということだ。
シンはどの属性を使うか悩んだ。この世界で魔法属性を選べるなんてとんでもない贅沢だと重苦しいほどの罪悪感も沸いてきたが、最終的に『雷』と『氷』にした。理由は使い勝手が良いと感じたからだ。
そしてどんな魔法があるのか魔導書の魔法の適性の項目の後のページを開き、調べてみた。するとなんとも言えない違和感を感じた。
無属性魔法は通信魔法、念力魔法、身体能力を上げる魔法、念力魔法を応用した飛行魔法など子供が憧れるような魔法ばかりだったが回復魔法と記憶操作魔法が無かったのだ。
属性魔法は魔法弾はともかく魔砲や螺旋砲、竜巻など魔導書に書かれてあった攻撃魔法は直線にしか攻撃範囲の魔法もしかなかつたのだ。広角的に攻撃範囲がある攻撃魔法は全く載っていなかった。防御魔法なんて平面の盾しかない。
この魔導書が初心者用、入門書なら別に何も問題は無いのだ。だがこの魔導書は地球にある広辞苑並みの厚さで更に冒頭にはこの国一の魔導書、載っていない魔法などないと堂々と書かれているのだ。
そのため本の後半に載っている攻撃魔法はまだ読んだだけで何処までが本当か不明で直線的だがとても攻撃範囲が広いものだった。防御魔法の盾なんて城塞並みの
そして回復魔法なんて回復の『か』の文字ひとつさえ載ってなかった。記憶操作魔法は記憶を覗ける所謂読心術ならあったが記憶を直接操るものはなかった。
どうにもおかしい、シンはそう思った。
それもそうだろう、この世界の魔法の大半はは戦争の為、人を殺すための進歩を全くしていないからだ。
この世界では神の子が引き起こした人を使った代理戦争が神が神の子の力を全て封じ、人へ成り下げて終結させてからも人々の争いの心は収まらなかった。神はどうやったら人々の心が静まるのか悩みに悩んだ。
そして神は人々に争うために魔法を使うのではなく平和的に競うために使わせることができる画期的な方法を思い付いた。
それが『四国魔法決闘』。地球のもので例えるならオリンピックのようなものだ。
1年に一度、4国の代表が魔法を使ったあらゆる競技で競うというものだ。
この世界はドーナツ状の大陸を四等分にしたように四つの国がある。神はその大陸の中央にある巨大な湖に造った小さな孤島『神王島』に世界中のあらゆる資源を集めてそれを採掘する権利を優勝賞品とした。
すると人々は何もかもが疲弊する戦争を即座に止め、『四国魔法決闘』の優勝を目指し始めた。それが『四国魔法決闘』の始まりだと魔導書に書かれている。
そうやって平和的に『四国魔法決闘』が行われる中で『四国魔法決闘』は人々の娯楽、一種のエンターテイメント化したのだ。通信魔法を応用したラジオはあるが、大衆全てが楽しめる娯楽が少なく刺激もあまりないこの世界ではこれ以上の娯楽の種はなかったのだろう。そのため魔法は倒す魔法よりも魅せる魔法に進歩し始めたのだ。
回復魔法が無い理由はそれがあると人々は命を粗末にすると神が判断したためその力を人々から奪ったからだ。記憶操作魔法も悪用を防ぐために神がその力を人々から奪った。しかし読心術は犯罪の告発など人々のために使えるため、使えたら王族守護に抜擢され、『四国魔法決闘』の代表に選ばれるほどの使用が困難な魔法にした。
シンは少し胸騒ぎがした。もしこの世界で動乱が起きたら大変なことになる。なぜなら1人でも殺すことに特化させた魔法を使い、本気で世界を侵略し始めたらそれを止める手段が殆ど無いからだ。
取りあえずシンは自分だけはそんな事態にも対応出来るようにしようと決意した。
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シンがこの世界でこれからどうするか具体的に考え始めた頃、シンの不安は的中した。
どんなに平和なこの世界でも窃盗、暴行、殺人などの犯罪はある。しかし殆どが小さな事件ばかりで殺人事件も痴情の縺れからだったり同情の余地があるものばかりだった。
だがそんな中とんでもない事件が起きた。シンの住む国、『リアス聖国』の第1皇太子が何者かに暗殺された。国はこの事を秘密利に処理して皇太子を病気で急死したと全世界に発表した。
これが始まり。この世界で起きる全ての事件の始まりだった。