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第三十八話《魔法遊戯》










今日の実技の授業はそれぞれ烈火祭に出場する競技の練習となっている。勿論教師が生徒だけではできないことをしたり、危険がないか見張ったりしているが基本生徒の自主性で行わせている。つまり自分の競技の練習はせずに別の友人の競技の練習に付き合ってもいいという事だ。


「シン!俺に『魔法遊戯』で勝つ秘策を教えてくれ!」


シンは昨日の約束通りネビューに『魔法遊戯』の事を教えることにした。昨日あの後図書室に向かい一晩勉強しただけだが何も知らないネビューよりもマシだろう。その時図書室に居たルナに『グリモア』のことで滅茶苦茶大量の質問を受けた。やはりルナでも『グリモア』の内容を理解するのは難しいらしい。シンにとってはそこら辺の魔導書とそんなに変わらないという印象しかなかったのだが。


「ああ、まぁ最初に『魔法遊戯』という競技の成り立ちについて教えようか」


「え、そんなところから?」


「文句があるなら最初から教えを乞うな。俺も別段暇というわけじゃないんだ」


「はい!教えてくれシン!」


ネビューは立って聞いていた態度を一変し、正座をしてシンの話を聞き始めた。それに合わせてシンは淡々と『魔法遊戯』の成り立ちをネビューに教え始めた。


『魔法遊戯』、それは昔まだ魔法が闘うことにしか使われなかった、つまり四国魔法決闘がまだない時代にはもうその原型が作られたとされる。その時代の魔法は殺伐とした印象しか持たれなかった。それもそうだ、殺し合う為だけに存在する武器に誰が美しいという印象を持つだろうか。だがある数人の女性が魔法を美しく魅せる研究を始め、その研究を世の中に広め始めたのだ。それが『魔法遊戯』の始まりである。勿論そんな思想、研究は当時かなり批判された。だがその思想にヒントを受けた全能神が四国魔法決闘を思いついたという説がある事を察するに、この思想は世の中に相当の影響を与えたことだろう。その思想は世界中に広がり瞬く間に研究は進んだ。だが未だに完成されていない研究でもあり唯一この世界で絶対に完成されない研究とされている。ここまで世の中に影響を与えているのだが実は『魔法遊戯』が競技として四国魔法決闘に登場したのは、四国魔法決闘が開催1000年目という記念大会でだった。ここまで競技になる時期が伸びたのは理由がある…とここまで説明した所でシンの口が止まった。何故なら先程まで競技の練習をしていた生徒が全員シンの話に注目していたからだ。勿論そこにはタイソン、リン、それにユーラインもいた。さらには生徒達を見張る立場の教師ですらこの話を聞いていたのだ。


「なんだこの状況は…おい、お前ら練習はどうしたんだよ」


シンの問いに聞いている全員を代表してリンが答えた。


「だってシンさんの話は面白いんですもん♪」


「お前ら…はぁ、この話が終わったら練習に戻れよ」


聞いていた生徒全員がはいと答えたのを見てシンはまるで自分が教師だなと思った。図書室にあった書物に書いてあったことを言っているだけなのに誰もこの事を知らない事が異常だ。いや、おそらくここの生徒達は図書室で何かを調べようとはしないのだ。だからこの事が書かれている書物の事など全く知らないのだろう。


こうなったのは国策で学生に恋愛をさせるため図書室に恋愛小説を大量に置いたことが原因だ。その国策のせいでそれ以外の本は端に追いやられ目に見える場所には恋愛小説くらいしか置かれなくなった。そのせいで図書室は調べものをする場所ではなく恋愛小説を探すための場所になり下がったのだ。勿論例外は多数いるが殆どの生徒は図書室をそういう場所としか思っていない。それの影響なのかシェント学園の生徒の学力低下は王宮を悩ませる問題にまで発展している。国家の戦力を充実させる国策が逆に学力低下による戦力低下を招いていることに最近気づき始めたのだ。まぁ王宮はまだ大丈夫だろうと思い、何も行動を起こす気はないだろうが。


シンは改めて話を再開した。なぜ『魔法遊戯』の競技化が此処まで遅れたのか、それは『魔法遊戯』で競う『美しさ』の定義の問題だった。約1000年程の時間によって数人の女性が広めた思想は多様化し、それぞれの美しさの定義が違ったのだ。そのせいで競技規則、審査基準などを決められなかったのだ。ようやくまとめることが出来たそれも細部は毎年変更されており、今でも変わっている。まとめるとこの『魔法遊戯』での必勝法はない、という結論になる。


「……以上だ。お前らさっさと練習に戻れ」


シンの話が終わると同時に全員から拍手が起こった。シンはまんざらでもない表情になった。だが一人だけシンに拍手をしない生徒がいた、ネビューだ。


「シン、今さっき必勝法がないって言ったな」


「ああ」


「どうすんだよおい……」


ネビューは落胆した。必勝法について聞けると思っていたのだから必勝法がないとさらりと言われたら落胆する気持ちも分からなくもない。だがシンはネビューにこう言った。


「別に俺は美しくなる事を教えるだけで必勝法を教えるとは一言も言っていない。お前が勝手にそう思っていただけって話だ」


まさに傷口を濃度が抜群に濃い塩水で万遍なく塗りたくった手で抉るような一言だった。


「くそおおおおおおおおおっ!!もう知らん!一人でやってやるううううううううっ!!」


ネビューはその場から逃げるように何処かへ走り去っていった。一人取り残されたシンの元にリンとユーラインが来た。


「シンさん、もう少しネビューさんの事を考えて話してあげてください。あの人無駄に自信過剰なんですから……」


「誰もあなたみたいに完璧じゃないんですから…」


その二人の言葉を聞いたシンは呆れたような溜息を吐いて二人にこう言い放った。


「俺は本当の事を言ったまでだしあの後あいつでも勝てる方法を教えてやるつもりだったんだ。それを知らずに逃げたのはあいつだ。もう知らんと言いたいのは俺だ」


そう言ってシンはネビューとは違う何処かへ行ってしまった。その背中はどこか寂しさに満ちていた。その背中をネビュー以外のクラスメイト全員が見ていたため、それ以降ネビューは冷ややかな目で見られることになる。













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