第三十七話《策》
ユーラインはある事に悩まされていた。なぜならベルセーズ国王が今回の烈火祭に来賓としてくるという知らせが今朝方届いたからだ。
一般人からしてみれば問題ない、と言うか大歓迎するべきことなのだがユーラインにとっては大問題なのだ。主にシンとのことで。
別にベルセーズはシンを恨んではいない、むしろ感謝しているのだがそれが問題なのだ。今朝方の知らせにはベルセーズはシンをユーラインの婚約者にしようと企んでいるという内容も含まれていたからだ。ちなみに知らせを届けてくれたのはベルセーズの側近でこの前の事件の顛末を知れるほどの人物だ。
ベルセーズの企みはこうだ。シンは確実に烈火祭で活躍するであろう、というか王族を倒すほどの実力を持っているのに活躍しない方がおかしい。そしてベルセーズは活躍したシンに感服して娘であるユーラインの婚約者にするというものだ。これなら事件でのシンの活躍を秘密にすると言うシンとの約束を守れると同時に超絶に優秀な婿を王族に迎え入れることができるとベルセーズは考えているらしい。
だがユーラインはその事を知った瞬間知らせの手紙を破り捨てようかと思うほど怒った。その時ユーラインは我を忘れて「何勝手にそんな事しようとしているんですかああああああああああ!!」と大声で叫んだため女子寮の者たちは何事かとユーラインの部屋に集合して大騒ぎになった。
ともかくユーラインはこの企みを阻止したいと思っているのだがそれを阻止するための策が全く思いつかないのだ。いま思いつく最善の策は烈火祭前日にシンの夕食に下剤を仕込んで当日病気で欠席させるというものだ。だがシンが下剤に気づく可能性もあるし、もし自分が盛ったとバレれば何をされるか分かったもんじゃない為この策はなるべく避けたい。
「やはりこの事を伝えるべきですね…」
ひとまずシンにこの企みを伝えて策を仰ごうとユーラインは明日の授業の予習を再開した。
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「全員よく聞け!もうすぐ烈火祭だ!そこで今日はどの競技に出場するかを決めてもらう!」
ゲイルがそう言うとクラスの生徒たちがざわつき始めた。だがシンだけは無関心を決め込んだ。確かに楽しそうとは思うがどうせシンが出場する競技は決まっているも同然だったからだ。
「ではまず一番重要な魔法決闘の出場者だが…シンで異論はないな!」
その瞬間、クラス全員がそれに賛成した。シンの強さはずば抜けているため一番得点の高い魔法決闘に出るのはもう決まっているようなものだった。
「はぁ…もう目立ちに目立っているからもう何しても関係ないよな」
シンは窓の自分にこう言い聞かせた。シンのインタビューが載った学内新聞は新聞部史上まれにみるほどの爆売れだったみたいでもうシンの事は学内で知らぬ者はいない程になった。もう何をしてもシンは目立ってしまうためシンは普通の学園生活を諦めた。だが楽しい学園生活を諦めたわけじゃない、こうなったら何もかも全力で挑むのみ!!と心で闘志を燃やしていた。
「おいおい、何一人で燃えてんだよ。お前最近性格が定まっていないぞ」
「…多重人格なのか?」
「それはないですね、多分吹っ切れたんでしょう」
「……」
そこへネビュー、タイソン、リンにユーラインが来た。ユーラインは何か言いたそうだがここでは言い辛いと言った顔になっていた。だが今ここで二人きりになろうとしたら猛烈な勘違いをされそうなのでシンは申し訳ないが後で話そうとユーラインに目で伝えた。
「タイソン、悪いが俺はそんなんじゃない。リンが正解だ、主にあの学内新聞のせいでな」
「いやいや~何かすみません♪」
「褒めてない!まぁだから俺はこれから何やっても目立ちそうだからもう全て全力で挑むことにしただけだ」
そのシンの決意を聞いてユーラインは少しショックを受けた顔になった。どうやら話は烈火祭に関係ある事だったらしい。
「全く…目立ちたくないなら俺が代わりに魔法決闘に出てやろうと思っていたが心配ないみたいだな」
「いや、お前は自分の競技の心配をしろよ。お前が『魔法遊戯』に出場とか意外だったな」
魔法遊戯、魔法の強さを競う四国魔法決闘の競技の中で唯一魔法の美しさを競う競技だ。勿論烈火祭の競技の中にもありそれなりに人気のある競技だ。主に女が出場するのだがネビューはそれに立候補して見事に出場者になったのだ。
「フッフッフ…シン、俺はな人の目にずっと残る魔法を持っている事を忘れてないか?」
「ああ、俺との決闘に使ったあの全身が光って眩しくなるヤツだな。だけどあれって目立つだけで全然美しくないんだよなぁ……」
「…確かに」
「全くその通りですね、ただ眩しいだけですもんね」
「美しさの欠片もありませんわ」
シンの言った事を他の三人も思っていたようだ。
「ま、マジか……」
「ま、頑張れ。俺は用があるから帰る」
シンはユーラインと話をするためこの場から離れようとした。ユーラインもそれに合わせて動こうとしたらネビューがシンの目の前で物凄い速度で土下座をしたのだ。その美しさはリンのとは比べ物にならないほどだった。
「頼む!どうやったら美しくなれるか教えてくれ!」
ネビューの頼みはこの言葉だけ聞いたらネビューがちょっとした変態に思えてくるものだった。シンはその素晴らしい土下座に後退りした。
「分かった、明日の実技は競技の練習の時間だからそこで教えてやる。どうせ俺は練習なんてしなくてもいいからな」
一向に土下座を止める気配がないのでシンはしょうがないから教えてやることにした。全く教えられることも無いし、どうやったら魔法を美しく見せるか今まで考えていなかったが。
「本当か!ありがとうシン!これで俺たちのクラスは優勝一直線だ!ハッハッハッハッハッハ!」
優勝を確信し高笑いしているネビューを放っておき、タイソン、リン、ユーラインの出場する競技の話になった。
「タイソンは障害物競走だったな。大丈夫か?」
「…ハッキリ言って不安だ」
「タイソンさんはまだいいですよ、私とユーライン様は魔法妨害あり徒競走なんですよ!」
「確かにユーラインはともかくリンは普通に足が速そうに見えるから最初に集中砲火を受けそうだな」
「そうなっても後で逆転すればいいんです!問題は終盤いかに妨害を受けないかどうかなのです!そうですよねユーライン様!」
「そ、そうですわね…」
ユーラインはシンと話がしたいのでこの話が早く終わってほしいと思うが、シンが話を途切れさせようとしないので何時になっても話が終わらなかった。結局話が出来たのは寮の門限直前だった。
「そうか…国王がそんな事企んでるとはな。ホント何考えてんだよ……」
ベルセーズ企みの話を聞いたシンは頭を抱えた。どうやらシンもユーラインと同じ考えらしい。
「ええ、そうなんです。だからあなたには烈火祭ではあまり目立って欲しくないのですが…」
「でもネビュー達の前であんなこと言ったからには全力を出さないとな」
「でもそれだとどうやったらお父様の暴挙を止められるんですか?私には全然思いつかないのですが…」
するとシンは少し考え、何かがひらめいたように手を打った。
「これならいけるか…ユーライン、ちょっと耳を貸せ」
シンはユーラインに思いついた策を伝えた。ユーラインはそれを聞いた瞬間その手があったかと手を打った。
「成程、この手なら大丈夫ですわ!早速準備に取り掛かりますわ!」
そう言ってユーラインは女子寮へ足早に帰って行った。だがシンはその策を万が一自分が考えた策が失敗したときのための逃げ道程度にしか考えていない。
烈火祭開幕まであと二週間