第三十六話《グリモア》
シンは目の前の光景にだいぶ困惑した。それもそのはず、あのリンが目の前で人目も気にせずに土下座をしてくるのだ。
「どうか、どうかお願いします!新聞部を救うためにあなたの情報が必要なのです!」
話の流れはこうだ、図書室での手伝いが大方終わり、ジャスリーとの話から帰ってきたルナに「もう帰っていいわよ、ありがとうまた暇なときは来てね」と言われたので取り敢えずまた来ることを約束して男子寮に帰ってきたら入口で雰囲気が暗いリンが待っていたので話しかけようとしたら自分を見た瞬間リンが土下座してきたのだ。
「顔を上げろ、取り敢えず訳を話せ、話はそれからだ」
シンがそう言うとリンは顔を上げてどうしてこうなったのか事情を説明した。
リンが入部した新聞部は部員がリンを含めて四人しかいないため廃部の危機に陥っているみたいだ。そこで次に出す学内新聞で注目されて新入部員を集めたいので注目されるようなネタを集めていたらしいのだがまだ目ぼしいものが見つかっていない。刻々を期限の日が迫っている時、新入生の注目の的であるシンの独占インタビューなら注目を集めるんじゃないかと思ったのでインタビューさせてほしいと言う事だった。
それを聞いたシンは真っ先にこう質問した。
「なんで俺なんだよ、ユーラインにインタビューすればいいじゃないか。アイツは新入生どころか学園の注目の的じゃねぇか」
「……それが出来たらこんなに苦労しませんよ」
だがリンは何処か遠くを見ながらこう言った。
「あの人は王族です、何かユーライン様に粗放があると下手すれば新聞部は廃部になってしまう可能性があります。新聞部を救うためのネタなんですからそんなドデカい危険を冒すことは出来ません」
リンが何時になく慎重だったのでシンは本当に目の前に居るのはリンなのか疑ってしまった。
「ですからシンさん!どうかインタビューを受けてもらえませんか!」
シンは答えに迷った。普通なら断りたいところだが今のリンは新聞部を救うことで必至になっている。そんなリンの気持ちを無下にはできなかった。そんな時、騒ぎを聞きつけ駆け付けたネビューがシンの両肩を掴み熱くこう言い放った。
「インタビューくらい受けてやれよ!友達を救うために一肌脱いでやれよ!お前はそんな冷たい奴じゃないだろ!」
暑苦しかったが確かにネビューの言うとおりだった。もう嫌と言うほど目立っているのだからインタビューされてもそんなに状況が変わることはないだろう。
「分かった、インタビューだけならな」
シンのその一言を聞いたリンは一気に明るい雰囲気になり元の笑顔が戻ってきた。
「ありがとうございます!では早速インタビューさせてください!」
そう言いリンはシンの手を引っ張り新聞部部室へと走り去っていった。シンはリンに引っ張られながら今日しようとは一言も言ってない、と心の中でツッコんだ。
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(ここからインタビュー形式になっています、「」があるのがシンの言葉で「」がないのがリンの言葉です)
――――ではいくつか質問をします。正直にお答えくださいね♪
「答えられないのには答えないがな」
――――それは構いません、では早速一つ目の質問です。どうしてこのシェント学園に入学しようと思ったんですか?
「この国一番の秀才たちが集まる学校だと聞いていたから。それ以外にはない」
――――そうなんですか…それで学年首席になるんですからすごいですね!勉強の秘訣とかあるなら教えてください!
「無いな、強いて言うなら同じところを覚えるまで繰り返し勉強することかな」
――――成程、繰り返しですか。では次の質問です、将来の夢はなんですか?
「警備隊に入隊して平和な首都を作ることかな」
――――警備隊ですか、では四国魔法決闘で優勝するとかそういった夢はないんですか?
「無い、そもそも四国魔法決闘自体に興味がない」
――――ある意味凄い事ですよそれ……。この国一番強い魔法使いになれそうなのにもったいないです……。
「別にそんなものに興味はない。俺に必要なのは人を護る為の強さと勇気だけだ」
――――志高いですね。では気を取り直して次の質問、他の人に自慢できる特技はなんですか?
「料理とか掃除とか家事全般は基本的に得意だ。自慢できるかどうかは別だがな」
――――それって普通に自慢できますよ!というか女子として負けた気がしますよその特技……。
「気にすんな、家事はやればやるだけ上達するもんだ」
――――男のあなたに慰められると惨めにしかなりませんよ……。次の質問なんですけど、好きな女性のタイプはなんですか?
「言うと思ってんのか?」
――――ダメ元で聞いてみたんですけどやっぱり駄目ですか。では次の質問です、あなたの魔法の実力は一体どのくらいですか?
「そんなこと聞いてどうするんだよ」
――――あのユーライン様に決闘で勝利するほどの実力の底を知りたいんです!どうか教えてください!
「……考えたこともなかったな。これで実力が分かるかどうか知らんが魔導書に載っている魔法を殆ど使えるかな」
――――その魔導書の名前はなんですか?
「《グリモア》だ。四歳の頃に貰った魔導書でな、ボロボロになった今でも大切に持っているぞ」
――――グッ、《グリモア》ですか!?あの《グリモア》に載っている魔法を殆ど使えるんですか!?そりゃ主席にもなりますよ!というか四歳の頃に貰ったって一体どういうことですか!?
「落ち着けよ、四歳の誕生日に親に貰ってそれから九年間はずっとその魔導書で魔法を練習してたな」
――――そうなるとあなたは四歳の頃から《グリモア》の内容を理解できてたってことになりますけど!?
「いや、その通りだがそれがどうした?」
――――あなたは本当に一体何者なんですか……。では最後の質問です、この学園ではどのような生活をしたいですか?
「取り敢えず普通の学園生活を送りたいな」
――――そうですか、今日はありがとうございます!
「頼むからそのままの内容を載せてくれよ」
――――ではまた機会があればよろしくお願いしますね!
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インタビューの一週間後、シンのインタビューが載った新聞部の学内新聞が発行されかなりの部数が売れた。そして何人かの新入部員が入部したらしく新聞部は廃部の危機を何とか乗り切った。その後新聞部部長を名乗る男子生徒とリンに滅茶苦茶感謝された。
「本当にありがとう!本当にありがとう!」
「これで先祖の作った部を守ることが出来ました!ありがとうございます!」
正直目一杯感謝されてむず痒かった。だが悪い気はしなかったしこれで新聞部を救えたのだしおれで良かったのだろうとシンは思った。
だがこの新聞が発行されてからシンを取り巻く色々と変わった。見るからに頭のよさそうな先輩の生徒が《グリモア》の内容の事で質問しに来ることが多くなり、授業で分からないことがあったらシンに聞こうと言う風習がシンのクラス内で出来上がったのだ。
なんでこうなったのかシンには理解できなかった。実はシンの持っている魔導書はこの国の魔法の権威たちが作り上げた最高の魔導書であり内容が難しすぎて殆ど理解できないことで有名な魔導書なのだ。これ以上難しい魔導書はもう世界に数冊しかないと言われるほどだ。そんな魔導書を四歳の頃にはもう理解できたとなるともうシンを天才と言うしかない。シンの普通の学園生活がさらに遠ざかった瞬間だった。