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第三十三話《魔車の中》














シン達が乗る魔車がシェント学園に向かっている最中、カーレルン学園へ向かう魔車の中はシェント学園の生徒と仲良くなれたか否かで生徒のテンションの明暗が分かれていた。まだチャンスはあるものの最初の時点で良い印象を持たれなかった、仲良くなれなかったということはこれからも仲良くなれないという不安が頭の中に過るのだ。ちなみに暗くなっている生徒の殆どがユーラインとシンにアプローチを掛けてことごとく玉砕した者だ。


暗くなっている生徒の中になぜかメルンもいるのだが暗くなる理由が他の生徒とは全く違った。確かにメルンはシンや王族であるユーラインとも仲良くなっているところを見られているため他の生徒から嫉妬を受けているのだがそれが原因ではない。メルンはオリエンテーリング後に悩んでいたシンに声を掛けられなかったことを後悔しているのだ。


メルンは山頂に着いた後捜索隊やら先生やらの事情聴取を散々受け、さらに同級生からはどうやってユーライン様に近づいたのかとこれまた質問攻めにあった。ようやく解放されて一息つけた時に山頂の入り口の近くで一人立ち止まっているシンを見つけた。襲撃されたことやそれを撃退した人の事、あと質問攻めにあった事を話したいと思い、近づいて話しかけようとした。


だが出来なかった、普通に話しかけることすらできなかった。なぜならその時のシンから得体のしれない恐怖を感じたからだ。なぜ恐怖を感じたかは今でも分からない。他の人が、見れば真剣な顔で悩んでいるようにしか見えなかったのだろうがメルンは違った。シンが少しおかしい事に気づいているからこそ気づけたのだろう。だがそれからメルンはシンに話しかけることが出来ずに合同宿泊訓練が終わってしまった。


どうしてあの時勇気を出して話しかけなかったのだろう、もしあの時話しかけていていれば…あの時悩みを聞いてあげていれば…と絶賛後悔中のメルンだった。


だがメルンは知らない。シンの心の奥にある秘密を、その悩みの根源を、シンが決して誰にも話すことはないと決めていることを。


(よし、こうなったら烈火祭で話しかけよう!少し遅いかもしれないけど悩みを打ち明けた方が心が軽くなるはず!そして仲良くなっていつかは…キャー!!)


そう心に決めたメルンだったが、その決意は後々メルンを大きな流れに巻き込むことになる事をこの時のメルンは考えもしなかった。





















____________________________________________________________
















「ちょっと、いい加減反応しなさいこの大馬鹿!」


シンは甲高い大声でふと我に返った。気が付くと魔車の中には目の前で怒っているユーラインしかいなかった。


「ん?ああ、ユーラインか。どうした?」


「どうしたもこうしたももうシェント学園に着きましたわよ!どうして降りようとしないんですか!」


「そうか、すまんな。考え事をしてたもんだから全く気付かなかった」


シンは重い腰を上げて魔車から出ようとした。そしてまた自分が誰なのかを考え始めた。


「ちょっと待ちなさい」


するとそれに気づいたユーラインがシンを引き留めた。


「どうした、急かしたり引き留めたり忙しい奴だな」


「今回は一体何を悩んでいるんですか?この前もうじうじと気にしなくてもいいことを悩んでいましたし悩むのが趣味なんですか?」


ユーラインがそう言ったとき、シンは周りに誰もいない事を再確認した。そしてなぜこいつは隠したいことを聞かれる危険がある所で平然と話そうとするのかと怒りがわいてきた。


「黙れ、お前には関係ない」


そう言い捨てて魔車から降りようとしたがユーラインがシンの肩を掴み物理的に引き留めた。


「どうしてあなたは誰かを頼らないのですか!?あの時も一人で全部片づけようとしてましたよね!悩みがあるなら相談するなりしたらどうですか!もっと私を頼ってもいいんですわよ!」


誰かに頼る、そういう考えも昔は持っていたがシンは前世も含めて実質30年程度生きているのだ。ユーラインも同級生だがシンからしてみれば一回りも違う年下の女の子にしか思えない。そんな奴に相談するのは情けないとシンは思っている。だがメルンは前世の母親の面影があるからなぜかそう言った気持ちがなくなるみたいだ。


「分かったよ、本当に困ったときは誰かを頼ることにする。だから離せ」


「そう、分かればいいわ」


一応しつこそうなのでシンは納得した振りをしてその場から立ち去った。だがユーラインの言葉で少しは心が軽くなった。確かに最近自分は悩んでばかりだった。自分が一体誰なのかなんてことで悩んでどうする、俺は俺じゃないか。とシンは無理矢理自分を納得させてこの事を考えないようにした。だが得体のしれないモヤモヤ感は消えなかった。


「さて、私も降りましょうか」


シンが降りた魔車からユーラインが降りようとしたその時、急に背後から物音がした。


「っ!誰です!」


ユーラインが後ろを振り向くとそこには今日一日シンの忠告で大人しかったリンがいた。リンは嬉しそうに笑っていた。


「今の会話は全部聞かせてもらいましたよ♪ずいぶんとお親しいようですねユーライン様」


聞かれてしまった。だがあの事件の事などの機密情報は喋っていないから別にシンとの約束は守れてはいるが。


「『もっと私を頼ってもいいんですわよ』ですか…フフフ本当に恋人との会話を聞いているみたいでしたよ」


ユーラインは恥ずかしさのあまり顔が真っ赤に燃え上がった。どうしてあんなことを言ってしまったのだろうと。だがそれ以上に気になることがあった。


「な、なんでここにいるのですか?しかもどうやってあの男に気づかれずにここに居られたのですか?」


「あの男ですか…いつも通りダーリンとお呼びになってもいいんですよ♪」


「そ、そんな呼び方してませんわ!」


いつものユーラインとは違い後手に回っていた。王族のユーラインはからかわれるのはあまり慣れていないからだ。


「まあいいです。これから分かる事ですし、もっと信憑性の高いネタを取らないと信用してもらえませんからもう少し秘密にしておきますね」


「質問に答えてください!どんな魔法を使ってあの男に気づかれなかったのですか!」


するとリンは得意げになってこう言った。


「ユーライン様は私の一族をご存知ですか?」


「ええ、確かベルス家は代々名高い新聞記者の家系であらゆる秘密を暴くことを生業としている一族ですわね。目の上のタンコブだとお父様も申しておりましたわ」


「はい、概ねその通りです。そしてわがベルス家には秘伝の魔法があるのです。詳しくは秘密ですがね」


「国を傾かせる秘密をも暴く一族の極秘魔法ですか…知りたいですわね」


「勿論教えませんよ♪その魔法を使って気配を極限まで消していました。例えシンさんでも気づくのは至難の技でしょうね」


確かにあれほど用心深く、是が非でも秘密を守り通したいと思っているシンがリンに気づくことなくこの魔車を降りて行ったのだ。効果は十分ということは証明されている。


「ふぅ、今回は色々と災難がありましたがシンさんがそれなりに心を開いてカーレルン学園の人とも友達になれたみたいだし、収穫のある合同宿泊訓練でした。しかも最後の最後に大スクープの尻尾が見えましたし」


もうリンには何を言っても誤解は解けないみたいだった。一応今の時点で言いふらすつもりはないようだし自分が勘違いされないように振る舞えばまだ放置していても大丈夫だろうとユーラインは思った。


だがどうして昨夜に電撃を喰らったのに懲りないのだろうか。


「リンさん、諦めたわけじゃないんですわね」


「諦めるですって?確かにあの手紙の後は恐怖でそう思うようになりました。ですがもうすぐシンさんはそう言っていられない状況になります」


「烈火祭…ですわね」


烈火祭、リアス聖国の政策で四国魔法決闘に勝つためにシェント学園で行われる擬似四国魔法決闘だ。これに優秀な成績を残す者は将来の四国魔法決闘リアス聖国代表になる事は間違いないと言われていて、数年に一度国王が見に訪れる程のイベントだ。


「その通りです。シンさんなら必ず全校から注目を集めるようになります。そうなればシンさんがどんなに拒んでもシンさんの事を知りたいと願う人は出てくる。そういった事になればシンさんは取材を拒めなくなる。そうすれば堂々とシンさんの事を調べられます!」


確かにシンがいくら取材を拒否しても烈火祭で活躍してしまい有名になるとどこかでそう言った取材受けなければいけなくなる。同クラスに居るというところからリンにその依頼が来ることは間違いないだろう。となるとリンはシンの秘密を是が非でも暴こうとする。生徒もおそらくリンからシンには秘密がある事を聞いたらそれを知りたいと思う。その流れになればもう遅い、どんなことをしても秘密は暴かれてしまう。


ユーラインは別にシンの秘密、つまりシンが王族連続殺人事件の本当の解決者であるということがバレても良いと思っている。というかバレたほうがいいと思っている。シンの本来賞賛を送られるはずなのにそれを拒否して他の人に名誉を譲るという行為が理解できないからだ。シンには王族を救った名誉をぜひ受け取って欲しいとユーラインは考えている。


だがこんな形でバレるのは些か問題があるしなによりシンの思いを踏みにじる行為でありそれは許されないものだと思う。なのでシンのように脅迫はしないが一応リンに釘を刺しておくことにした。


「リンさん」


「なんでしょう?」


相変わらずリンは笑っていた。ベルス家の者はいつも笑っていると父親であるベルセーズから聞いていたがここまでとは思わなかった。


「私はあの男とは違いますから無理に止めろとは言いません。ですがあの男の秘密を知りたいと思うなら相当な覚悟をしてください。例えクラスメイトでも容赦はしませんから」


そう言ってユーラインは魔車から降りて行った。そして一人魔車に残されたリンはユーラインの言葉を重く受け止めていた。もしかしたら秘密を知った者は消される、とかシンは実は王族の血を引く現国王の隠し子ではないか、とか色々と考えるようになった。とにかくリンの頭でシンの秘密は超国家機密であるという結論がなされた。


色々と起きた合同宿泊訓練が今日、終わりを告げた。


ちなみにユーラインを襲撃させそれを撃退してユーラインとの親睦を深めようとしたノーリスは王宮に捕らえられてノーリス自身はまだ成人前ということで禁錮2年となったが家は取り潰しにあった。襲撃をした4人は情状酌量の余地ありと判断され今後一切のユーラインへの接触を禁止されるだけで済んだ。シンのペアを襲撃した女子生徒はこの事件とは関係なしと判断され、さらに襲撃された少女が女子生徒を擁護したため先生からのお説教を喰らっただけで無罪放免になった。襲撃者を撃退したネビューは近々王宮から感謝状を貰えるらしい。そのせいでそれから一か月はネビューのテンションが高く調子に乗り威張り散らすようになった。だが授業での模擬決闘でそれにイラッときていたシンに魔法を使われず物理的にボコボコにされてからは以前のようなネビューに戻った。















次からは烈火祭編です。半年かかってようやく第二章が終わったよ…。

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