第二話《魔法》
さて、第二話です。このペースだと何時リメイク前に追い付くんだろう……。
太古の昔、全能神はこの世界を創造した。
まず全能神は小さな島とそれを囲う大海原を造った。次にそこに住む人間を造り、人間の食料となる動物と植物を造り上げた。
人々は平和に暮らしていました。が、その平和は神によって崩された。
全能神には4人の子がいた。神の子は全能神の力の一部を受け継ぎ、各々に自然の力を操ることができた。神の子は各々操れる力から炎神、水神、地神、風神と呼ばれた。
4人は仲が悪く、事あるごとに誰が一番強いのかと諍いを起こしてはその度に全能神の怒りを買い、罰を受けていた。全能神はいずれ4人にこの世界を任せたかった。仲良く力を合わせてこの世界を治めてほしかった。
だが4人はそんな全能神の願いなど知らずに喧嘩ばかり起こしては罰を受けるということを繰り返してばかりだった。
そして4人はついに自分達が手を下さずに争える方法を考え付いて実行したのだった。
それは人間に自分達の力を与えて人間達を争わせるという方法だ。
その神から与えられた力が魔法の始まりだとされている。
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ここまで読んでシンは一先ず読んでいた本を閉じて両手を上げて体を伸ばしてリラックスし始めた。
その本は魔導書、シンが4歳の誕生日に両親にプレゼントされた魔法の教科書だ。今読んでいたページに書かれていたのは魔法の起源についてだ。恐らく全能神というのは自分を転生させてくれたあの老人の事だろうとシンは思っているが、本に描かれている威風堂々としている全能神の姿とあの空間で出会ったときの老人の姿にギャップがあったので思わず笑いそうになった。
そして何回も魔導書を読んでシンが思ったことはただ1つ。
やっぱりこういうのは意味不明で馬鹿馬鹿しい。
シンは前世ではUFOや魔法などの胡散臭いものを信じなかった。理由は意味不明で説明がつかず、本当にあるか疑わしいからだ。
不可思議なものは信じない。そう思って生きてきたシンにとってこれほど受け入れがたい事実はない。
そもそもシンは自分の両親が魔法を使ったところを見たことがない。魔法を使っているところを見られたら信じようと努力するが、一度も使ったところを見たことがない。それどころか魔法という単語を自分が言うまで一言も口にしなかったのだ。そのためシンは魔導書を読んでいるにも関わらず魔法を信じられないのだ。
しかしシンは熱心にこの本を読む。理由は本に書かれていた内容のせいだ。
その内容は「魔法が使えると幸せになれる」だ。
一見するとそこまで深い内容ではないと思えるが、シンはこれをこの世界の根本的なものとして捉えた。
先ず魔法の起源の項目で魔法は神から与えられた力という事になっている。つまり魔法が使える人は神の加護があるということだ。この世界でも神への信仰心はある、神は特別なものと考えられていると仮定すれば神の加護の有無で差別が出来るのは必然という結論が出る。
それにその説が正しくシンの両親は魔法が全く使えないと仮定すると、両親は魔法が使えないというだけでこんな周りに森林しかないところでひっそりと暮らしていて、さらに自分を差別から守るという理由で外に全く出してくれないと言った具合に今まで疑問に思っていたことが全て納得出来るのだ。
魔導書には魔法の才能は親からの遺伝がほとんどとも書かれていてシンに魔法の才能があるのかどうかも分からない。本当にこんなことをしていてもいいのかと思うときもある。だがシンは前世に努力で大抵の事は何とかしてきた。
シンは休憩を終えてまた魔導書を開いた。
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魔法には幾つもの属性がある。
先ずは神の子の代理戦争のために神から与えられた力である『火』『水』『地』『風』。全能神が度重なる神の子の代理戦争を監視するために造り上げた太陽と月の光に影響で造られた『光』『闇』。そして人間が与えられた力を改良して新たに作り上げた『氷』『雷』『木』。この八種類の魔法(以下を属性魔法と称する)と人間の生活を便利にするために開発された攻撃力がない無属性魔法がある。
基本的に無属性魔法しか日常生活に役に立たないが魔法の評価は属性魔法で決まる。
無属性魔法は簡単なものが多く、ほとんどの人が出来る。逆に出来ない者はいないだろう。
属性魔法の適性は生まれたときから決まっている。掌に無心で自分の全てを掌に出す感覚で魔力を込めれば自分の属性魔法に応じた魔法弾が出来る。これは非常に簡単であるが、注意して扱わないと爆発するため初めて魔力を込める人は必ず魔法に詳しい人と一緒のときにすることを勧める。
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ここまで読んでシンは自分の右手を見た。シンは何回も魔導書を読んでいるが、この属性魔法の適性を調べていないのだ。
理由は簡単だ。シンは魔法などのファンタジー的なものに溢れた世界が嫌いでまだこの世界がそんな世界じゃないと思いたいからだ。
シンは不可思議なものの中でファンタジー的なものが一番嫌いだ。理由はそれがあるだけで弱い人々が虐げられるからだ。
魔法は地球で現実的に例えると銃や剣、槍、爆弾のような武器だとシンは思っている昔だと無防備の一般人を武器を持った兵士や暴漢に襲われる事なんて星の数ほどあっただろう。シンにとって魔法はそういった人殺しの道具にしか見られないのだ。ゲームやアニメ、漫画では魔法とは魔物や化け物の類いを殺す神秘の力という位置に立たせてそう思わせないようにしているがこの世界ではその化け物はいない。実際に神の子の代理戦争とはいえ人殺しの道具として使われていた。今は平和だがいつまでこの平和が続くか分からない。
シンは弱い人々を助けたいという気持ちから警察官を夢見ていた。だから一番嫌いな魔法なんて自分が使うことに強い抵抗感を覚えるのだ。
しかしシンの頭の片隅にはそんな不可思議なものを使ってみたいという好奇心もある。例えるなら子供が特撮のヒーローの力に憧れるようなものだ。つまりシンはこの項目を読むたびに魔法に対しての嫌悪感と好奇心が混ざり合って1時間程度心の葛藤があるのだ。
実はシンはこの項目を読むたびに本を読むのが止まって、こんな感じの心の葛藤をしてからまた1から読むというのを繰り返しているのだ。シンもそろそろこんなことを止めたいと思っている。
心の葛藤を無くす方法は2つ、1つは魔導書を読むのを止める。もう1つはとっとと嫌いな魔法を割り切って使うこと。
魔導書を読むのを止めるというのは簡単だが実はシンが魔導書以外の本は絵本と魔導書と一緒に貰った辞書だけなのだ。辞書を読んでいても肩がこるだけだし絵本も文字の読み書きの練習のためだけに読んでいたため辞書が手に入った今必要ないし読みたいとも思わない。しかも両親は相変わらずに外に全く出してくれない。体も少しずつ鍛え始めてはいるが家の中で母親にバレずに出来る特訓なんてあまりなく、長時間出来るわけがない。つまり魔導書は今のシンにとって嫌悪感はあるが魔法の起源など読みごたえのある唯一暇潰しが出来る本なのだ。
「……試しにちょっとやってみるか」
シンは軽い気持ちで魔法を、属性魔法の適性を調べようとした。これが全ての始まりだった。
シンは一旦魔導書を閉じて座禅をして深呼吸をして心を落ち着かせた。そして目を閉じて右手を前に突き出した。
本に書かれていた通り無心で自分の全てを掌に出すような感覚で魔力を込めた。すると掌に唐突に何かが出来た。シンは少しずつ目を開けた。すると掌には、
「なんだよこれ……」
掌サイズの黒く輝く光の魔法弾がシンの右手にあった。