第二十六話《嫉妬心》
ユーラインは少し落ち込んでいた。何故ならまたシンに迷惑を掛けてしまったからだ。王宮から派遣された捜索隊は全員王宮の守護を務めている兵士たちであの事件の一部始終を見ていた者たちでシンの事を知っているため、シンを咎めることはしなかった。もしシンではなくネビューだったら間違いなく投獄は免れなかっただろう。
「はぁ……本当、迷惑を掛けてばっかりですわ……」
「誰に迷惑を掛けてばっかりなんですか?」
そんな落ち込むユーラインの元に突然リンが現れた。
「もしかしてシンさんですか?確かに迷惑を掛けてばっかりですけどそこまで落ち込むとは怪しいですね~?」
「な、何も怪しくなんかありませんわ!昨夜も言った通りただ迷惑を掛けすぎているから申し訳ないと思っているだけですわ!」
ニヤニヤとウザったい記者のように質問してくるリンにユーラインは怒鳴りつけるように弁明した。
「それなら昼食のときに何か話してその事を伝えればよかったじゃないですか。全くと言っていいほど話さなかったですよね?」
「うっ……それは彼が驚愕するくらいに変貌していたからですわ」
ユーラインは昼食の時間、シンの料理をツンデレ気味に褒めた一言以外、シンとは一言も会話しようとしなかった。シンが変貌したことを言い訳にしているが、おそらく変貌していなくとも会話しようとしなかっただろう。
「ふふっ、ユーライン様」
「なんですか、質問なら後にして下さらない?」
「いえいえ、質問なら昨夜に沢山しましたから結構ですそれよりも……」
「?」
「シンさんが変貌したきっかけを知りたくはないですか?」
ユーラインはその一言に大きく反応を示した。それもそのはずあれだけ人が変われば変わったきっかけを知りたいと思いたくはなる。
「……知っているのですか?」
「いえ、鍵は掴んでいるのですがシンさんに釘を刺されて調べるにも調べられない状況に……」
その時のリンの表情は青ざめて身体は小刻みに震えており、シンの脅迫がどれほどの恐怖を与えているのかが分かる。
「……つまり私に真相を調べてほしいと?」
「はい!」
だがリンの探究心は全くなくなっていなかった。王族を利用してまで調べようとする姿は清々しいものを感じられた。
「お断りしますわ。私に得することがありませんのも」
「ありますよ。偶然を装って真相を知って、シンさんが抱えているものを知り、そこから親睦を深めれられます!」
「そこまで上手くいくものですか?」
「いきますよ!」
ユーラインは悩んだ。もしリンの言う変わるきっかけを知ってしまったらシンはどう思うのだろうかと考えるとあの時のシンの脅迫する姿を見る限りでは嫌な気持ちしか抱かないことが明白だ。
だがそれ以上にユーラインの心の中でそれを知りたいと思う気持ちが強くなっていく。シンの事を全く知らない事がさらにその気持ちを強くさせていく。
気持ちが揺らいでいるユーラインにリンはさらに追い打ちをかけた。
「その鍵を握っているのはカーレルン学園の女子生徒ですがどうします?」
「!!」
その一言にユーラインの心は知りたいという方に大きく傾いた。
「わかりましたわ。それでその女子生徒とは?」
「名前までは特定できませんでしたがおそらく今は外にいると思います」
「なぜそう言い切れるのですか?」
「昨夜もその女子生徒は外にいたからですよ、勿論シンさんと一緒に。おそらく今もシンさんと二人きりでいると思いますよ」
その時ユーラインの心の中で何か得体のしれない嫌な感情が生まれた。それは嫉妬心だった。ユーラインは直ぐに外へ出ようとそこから立ち上がった。
「私はシンさんに見つかると殺されかねないので行きませんが頑張ってきてくださいね♪」
リンは確実にユーラインが真相にたどり着き、それを教えてくれると思っているがユーラインは例えきっかけを知ってもリンには絶対に教えないと考えていた。
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リンの予想通りシンとメルンは外にいた。二人は昨夜に夜空を見ていた岩場で話していた。
「災難でしたね……」
「もう踏んだり蹴ったりだよ今日は……」
たださっきからシンはメルンに慰められてばっかりだった。
「全く、なんであんなに俺に向かってくるんだよ……」
「仕方ないですよ、シンさん物凄く強かったですし四国魔法決闘の代表になると思われたんでしょう。四国魔法決闘の代表は例外なく出世しますから……」
「別に出場する気はないのにな、それに俺って出世欲もないし」
「ふふっ、そうですね」
四国魔法決闘に出ないと言ったシンにメルンは驚かずに少し笑っただけだった。普通の人なら滅茶苦茶驚く事なのだが。
「驚かないんだな」
「昨日の会話で薄々そうだろうなと感じてましたから。私の推測ですけどお金にも無関心なんでしょう?」
「ああ、その通りだ。だが最低限暮らせるほどの金には執着するがな」
笑顔で話す二人の姿は傍から見れば付き合っているとしか言いようがなかった。
「シンさんって本当無欲ですね」
「欲はあるぞ。人を助けたいっていう欲がな」
「私の言う欲とは全然違いますが……」
そうやって楽しそうに会話する二人を何やら不機嫌そうに遠くから見る人がいた。
「……はぁ」
その人に気づいたシンは思わずため息を吐いた。
「どうかしました?」
「いや……メルン、お前も出世に無欲か?」
「え?いや、ありませんが……それが何か?」
シンの唐突な質問にメルンは小首をかしげた。
「それならいいか。おい!コソコソせずにこっちに来い!」
「私に命令しないで下さい!」
「えっ、えっ、ユーライン様!?」
その人物はユーラインだった。突然現れた王族のユーラインにメルンは動揺を隠せずにいた。
「全く今回は盗み聞きか、今度は出ていくことを誰かに言ったんだろうな?また捜索隊に謝罪しに行くのは勘弁だからな」
「大丈夫ですわ!今度はちゃんとリンさんに言いましたわ。それに盗み聞きをしに来たわけではありませんわ!ただ散歩をしてただけですわ!」
本当はシンの言う通りなのだがユーラインはリンの指示通り偶然を装った。
「えっ?えっ?どうしてユーライン様とシンさんがこんなに親しそうにしているんですか?確かに決闘場で近くに座ってたけど特別親しいようには見えなかったし……どうして?」
シンとユーラインの言い合いを見てメルンはさらに混乱した。メルンの目には二人は仲がいいように見えたらしい。
時間が取れない……。
こんなことなら春休みに自動車学校を卒業しとくべきだった……。