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第二十二話《変貌》














それから夜が明け合同宿泊訓練二日目の朝になった。だが数名を除きシェント学園の生徒たちの憂鬱になっていた。


今日は初めての実戦の授業をすることになっていて、その授業は伝統で1対1の魔法決闘となっている。だがシェント学園の生徒はそれなりに戦える(シンやユーラインは別格)が、カーレルン学園の殆どの生徒達は初歩の攻撃魔法しか使えない為、力の差を考慮して同校の生徒との決闘になる。対戦相手は教師たちのくじ引きでランダムに決まる。


つまり王族の魔力を駆使するユーラインとそのユーラインを圧倒的に倒したシンのどちらかと闘う可能性があるのだ。どちらと当たっても蹂躙されることは間違いない。シェント学園の生徒たちはその事に不安で不安でたまらないのだ。


リンもその中の一人だった。昨夜にユーラインから面白いことを聞いて、『シンさんの一人ぼっち脱出作戦(昨夜リンが命名)』の足掛かりができた喜びよりも不安が勝っているのだ。


リンは本来なら元気にライバ山に造られた屋外決闘場へ走っていくのだが、その足取りは重くゆっくり歩いていた。しかし前にシンがいるのを発見し急いで後を追いかけた。


「シンさん!ちょっと待ってください!」


リンはここで今夜作戦を実行させるため、シンにある事を伝えようとした。だがその事は次の瞬間頭から消え去ってしまった。なぜならシンが予想外の反応をしたからだ。


「おう、リンか。どうした?」


言葉だけならいつも通りの反応だ。しかし雰囲気が異常なまでに違っていた。いつもどこかにあった近寄りがたいオーラはなくなり、逆に見る者を引き寄せるカリスマ的オーラを放つようになったのだ。そして振り向いた時に少しだけ、ほんの少しだけだが笑ったのだ。つまり昨日とは別人になっているということだ。


「あ……へ?」


リンはあまりに衝撃的なことだったので呆然としてしまった。それを見たシンはため息をついてこう言った。その時もいつもではありえない雰囲気で喋った。


「おい、話しかけてきたのはそっちなんだから黙るなよ。つーかもうすぐ集合時間だから早くしないと怒られるぞ」


そしてシンは屋外決闘場に向けて歩き出した。リンはその場で立ちつくした。昨日までは、確かに昨日までは何も変わってなかったはずだ。なら昨日の夜に何かあったに違いない、だがあそこまでシンが変わらせる理由がリンには全く分からなかった。


「(一体……一体昨夜に何があったっていうんですか~!)」


リンは心の中で思いっきり叫んだ。そしてシンにある事を伝え忘れていたことに気づいて後悔するのはもう少し後の事だ。












____________________________________________________________











シンの唐突な変わりようには他のシェント学園の生徒達も直ぐに分かった。あれほど近寄りがたかった雰囲気を思いっきり出していたのに今ではカリスマ性を持つオーラを放っているのだから当たり前と言えば当たり前なのだが。


おそらくこの事を一番驚いたのはユーラインだろう。なぜならその雰囲気は父親であり国王であるベルセーズに似ていたからだ。ユーラインにはシンに何があったのかは分からなかったがこの奥底に秘めていたであろう王の素質を見抜いていた(自分の嫁候補=国王候補とユーラインは解釈した)父親を改めて尊敬した。


「これより模擬魔法決闘を始める!これからお前たちには魔法決闘をしてもらう!」


シン達の担任のゲイルが大声でカーレルン学園とシェント学園の生徒達に宣言した。どうやらゲイルが今回の授業、模擬魔法決闘を仕切るらしい。


「決闘に使用する腕輪の嵌め方、決闘のルールは全て把握していることだろう!」


一見して理不尽な発言に聞こえるのだが魔法決闘はこの世界で知らぬ者はいない競技なのだ。ましてはここにいる生徒全員が身分の高い親を持つ。腕輪の嵌め方、ルールを知らない者はここにはいないのが当たり前なのだ。


「ではまず模範として……シン・ジャックルス!お前が最初に闘え!」


シンの予想通りの展開になった。学年首席で入学二日目に王族のユーラインを圧倒した。これほど模範の生徒はいないからだ。


「対戦相手は……誰か!対戦相手になりたい奴はいないか!」


いるわけないだろ、とシンは心の中で呟いた。ユーラインは1番ありえない、この前一度負かしているしここでも負けたら恥さらしになるだけだからだ。だからと言って名乗り出る人は誰もいない、どんな奴がきても実力の差は歴然、圧倒されることが目に見えているからだ。そんなやつがいたらそれは非常識な奴か余程の自信家しかいないだろう。最後の手段としてくじ引きがあるがそんな方法で決められた相手に戦意などある訳がないから闘う前に逃げてしまう可能性も出てくる。シンの予想が完全的中すればここでは誰も名乗り出ず仕方なく先生が相手になるだろう。だが誰も名乗り出さない中、一人元気よく対戦相手に名乗り出た者がいた。


「俺だ!俺がシンの相手になってやる!」


そいつはネビューだった。昨日カーレルン学園の生徒達に踏みつけられて散々な思いをしたネビューだった。シンはすっかりこの男を計算に入れることを忘れていた。シェント学園の生徒たちはネビューが生贄になってくれたと感謝した。





















____________________________________________________________












シンとネビューは屋外決闘場で向かい合って腕輪を付けた。そしてネビューは威勢よくこう言った。


「シン!まさかこんなに早くお前と闘える日が来るとはな!しかしこんなに速くていいのかよ?お前ももう少し新入生最強を名乗りたかっただろうに」


シンはそれを名乗ったことは一度もない!とツッコみたかったがツッコむと図に乗りそうだったので止めた。


「何が言いたいんだ?」


ネビューはシンを指さしてこう豪語した。


「つまり!俺がお前を倒すってことだ!」


その瞬間、カーレルン学園の生徒達は事情をあまり知らない為威勢のいいネビューに歓声を上げた。だがシェント学園の生徒たちは呆れたため息を一斉に上げた。


「こらー!まるで俺があっさりと負けるみたいじゃないかー!」


今度は全く持ってその通りと言わんばかりの視線をネビューに送った。それにネビューはゲイル先生に叱られるまで観客席に怒りの罵声を飛ばした。


「全く騒がしい奴だ……あいつにそっくりだよ」


怒るネビューの背中を見てシンは昔の、地球での友達の事を思い出した。怒りっぽくて、不器用で、口よりも先に手が出る男だが、仲間思いで、涙もろくて、頼りになる男の事を。


「はぁ……待たせてしまってすまないなシン君」


「いいですよ、さあ始めようかネビュー」


「……おう」


ネビューはゲイルに思いっきり叱られてテンションはがた落ちだった。


「それでは、決闘開始!」


「行くぜシン!」


なぜかゲイルの開始の宣言と同時にテンションが戻ったネビューは両手を大きく広げまばゆい光を全身から放った。その眩しさに観客は全員目を手で覆った。シンはこの魔法は『光装』を魔力で無理やり肥大化させたものと推測した。本当に太陽がそこにあるように眩しかった。だが理論上これを使うには王族の魔力とまでは言わないがそれなりの魔力が必要になる。目くらましを最初にしてくるとは、とシンはネビューに感心した。だが目くらましにしては長すぎるくらい使っていた。


「ハッハッハッ!眩しいかシン!これが俺の実力だ!」


ネビューはバカだった。目くらましだけで勝った気になっているのだから。シンは足音を出さず静かにネビューの後ろに近づいてネビューの広げてる右手を掴んだ。


「お前バカだろ」


その瞬間ネビューはうつ伏せで倒れた。シンに手首、肘、肩を極められて。一教、合気道の技で相手の腕を返して手首と肘、肩を極めて倒す基礎的な技だ。合気道は道場に通わず我流だったし本来攻撃してくる相手に使う技だったのでシン自身ここまで上手くいくとは思わなかった。


「な……なんでイタタタタタッ!」


ネビューはシンに極められているため左手で地面を強く叩いて痛がっていた。


「まず目くらましは相手の隙を作るために使うんだ、使うのは一瞬でいい。そしてそこから相手に近づくか強力な魔法を相手に叩き込む、それが出来れば俺も少しまずかったよ」


「ご指摘どうも。で、何時になったら離してくれるんだ?物凄く痛いんだが」


「降参してくれるなら直ぐ外すぜ」


シンはさらにネビューの腕の極め方をきつくした。ネビューはさらに痛がり体中を動かして右手を開放しようとした。だがそうすればするほどシンの極め方はきつくなる一方だった。


「イタイイタイイタイ!分かった分かった!降参するから早く離してくれ!」


ネビューが涙目でこう叫ぶとシンはようやく右手を開放した。ネビューは右手が骨折してないか確かめた。


「……勝者、シン・ジャックルス!」


ゲイルがシンの勝利を宣言するとカーレルン学園の方からは歓声が、シェント学園の方からは勝って当たり前だろうという風に捉えられる拍手が送られた。




















____________________________________________________________















シンとネビューの決闘が終わってから魔法決闘は盛り上がった。圧倒的な魔力で相手を倒したユーラインのところが一番盛り上がった。リンの決闘は身体強化魔法で相手の魔法を避け、自分の魔法を至近距離で当てて勝利した。タイソンは相手が攻撃魔法を放った瞬間を狙って攻撃魔法をカウンター気味に放ちそれがクリーンヒットして勝利した。そしてシェント学園の生徒たちの決闘が済んだところで昼食の時間になった。


シンの所に集まったメンバーはリン、タイソン、ネビュー、そしてユーラインだった。


「…なんでユーライン様がここに?」


「私が誘ったんです!一緒に昼食を作りませんかとね♪」


今日の昼食は生徒達が5人一組を作って各自で調理するのだ。つまり料理が作れる者がその中にいることが鍵となる。


「それで、みんな料理は作れるのか?」


ネビューのその質問にリンは明後日の方向を向き、ユーラインは首を横に振り、タイソンは持ってきた本を読むふりをして質問をスルーした。


「おいおい大丈夫なのか!俺も料理は出来ないしこのままじゃ……あ……」


ネビューは叫ぼうとしたがシンが巧みな包丁捌きで食材を切っているのが見えて唖然とした。


「一応俺は料理が出来る。お前らは出来る範囲の事をしてくれ」


調理しているシンの背中はカッコよかった。この世界と地球の生態系はほぼ同じで食材もほぼ同じ、調味料も調理器具もほぼ同じだった。ただこの世界にしかない料理はたくさんあった。だが今作っているのはキャンプなどでは定番のカレーだった。シンはカレーくらいなら普通に作れる。香辛料は配合済みのものを配布されているのでそこは間違えることはない。米の炊き方も飯盒もこの世界にあり、シンは飯盒の使い方を把握しているので問題はなかった。


他の組は悪戦苦闘している中シン達はシンのおかげでおいしそうなカレーができた。そして5人はそのカレーを口にした。


「う、うまい……だと……」


「…なぜシンはあらゆる才能を持っているんだ」


「おいしいですよシンさん!」


「そ、そうね、王宮の料理には敵いませんけど」


4人ともそれぞれの反応は違ったが美味しいと思ってくれて事にシンは嬉しくて笑みを浮かべた。その事に4人が驚いたのは言うまでもない。なぜシンはここまで変わったのだろう。









ネビューもそこそこ強いのですが自信過剰でいつも相手が自分よりも弱いと思って油断しているから弱く見えるだけです。普通に闘えるようになればもっと強くなるはずです。

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