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第二十一話《質問》
















シンとメルンが外で夜空を見ている頃、シン達が泊まるライバ山の麓にある休憩場の建物ではユーラインがようやく会話希望者全員と話し終えていた。


「はぁ……本当に皆さん下心が満載でしたわ……」


国王以外唯一生き残っている王族であると公表するときに覚悟はしていた。父親のベルセーズからも忠告されていた。だが周りの人間が王族としての自分しか見てくれない現実はユーラインにとって辛いものだった。


そんなユーラインの頭にはこれまで王族としての自分ではなく一人の人間として自分を見てくれていた人を思い出していた。ある日突然自分の前に現れて決闘で圧倒的な強さを見せ、さらに王族連続殺人事件の時には何も関係ないのに颯爽と現れてカレイの悪事を止め父親との和解を手助けしてくれたあの……、


「……ってなんで真っ先にあの男の事を思い出すんですか私は!」


ユーラインは頭をブンブンと振り必死に今まで思い出していたことを帳消しにしようとした。ユーラインはベルセーズにシンの事を言われてからシンを思い出すたびに変な感情が湧き出てくるようになった。ユーラインはそれが嫌で嫌でしょうがなかった。ユーラインはシンに恋心を抱いているわけじゃない、ただ色々と迷惑を掛けたから少し気がかりなだけだと思っている。だが変な感情だけは理由が分からず、ずっと悩み続けている。


そんな悩むユーラインの元に近づく者がいた。それは遠くから先程からユーラインを観察していたリンだった。そしてリンは笑顔でユーラインに話しかけた。


「ユーライン様♪少しいいですか?」


「ええ、いいですわリンさん」


ユーラインは先程まで大量の会話希望者と話していたためとても今話す気にはなれなかった。それでも断ることはせず、いつも通り笑みを作り適当に話を聞いておこうとした。


「ありがとうございます♪では早速ですが一つお聞きしてもいいですか?」


「なんですか?」


「シンさんのことについてです」


それを聞いた瞬間ユーラインの身体全体に緊張が走った。今までシンの話題を持ち出す者は誰一人としていなかった。シンはユーラインを負かして恥をかかせた男としてユーラインは彼を嫌っていてもし話題に出したら機嫌を損ねるかもしれないと誰もが思っていたからだ。勿論ユーラインはシンを嫌ってはいない。


だが彼女は違った。何回か教室で話したが他の生徒とは違い自分の機嫌を取ろうとはせず、色々と質問をして自分の事を探っているような感じだった。そしてシンとも仲良く会話をしていた。そして今シンの事を聞いてきた。もしかしたら彼女は単独で王族連続殺人事件の真実に、シンが本当の事件解決者であり今回の事件の首謀者が国王、といった全く公表されていない事実にたどり着こうとしているのではないかとユーラインは動揺した。ユーラインは動揺をできる限り隠した。


「ど、どうして彼の事を聞きたいのですか?」


「どうしてって……そんなの決まっているじゃないですか」


その時だけユーラインの目に移るリンの笑顔が黒く見えた。ユーラインの顔に汗が滲む。


「最近一人でいるシンさんの事が気になってるんでしょう?」


だがリンはそんな国家機密にたどり着いてはいなかった。シンの並大抵じゃない捜査能力を誰もが持っているわけではないのだから。その質問を聞いたユーラインは心の中で安堵した。だが質問の意味を理解して顔が赤くなった。


「なっ……そ、そそそそんなことあるわけないじゃないですか!」


そのリアクションにリンは予想外の反応だ、と言いたそうな驚きの顔になった。ユーラインは今の発言を思いっきり後悔した。ユーラインは王族だとしてもそこまで恋愛に疎いわけではない。この発言が壮大に勘違いされることくらい直ぐに分かった。


「そうですかぁ~。ならもっと私の質問に答えてくれませんか~?」


リンはニヤニヤしながら詰め寄ってきた。ユーラインは今すぐここから逃げたい気持ちでいっぱいだったがここで逃げれば勘違いされたままあることないこと言いふらされることになるので逃げるわけにはいかなかった。

















____________________________________________________________















所変わって岩に座って夜空を見ているシンは一緒にいるメルンにこんな質問をしていた。


「なぁ、なんでこんな所に来たんだ?」


「クスッ、それならシンさんもなんでこんな所に来ているんですか?」


メルンは少し笑ってシンに質問を聞き返してきた。その笑顔にシンはまた懐かしさを感じた。メルンとは初対面なのに、今の今まで出会ったこともないのに、見た目も前世を含めてこれまで出会った人々と誰一人として似ている人に出会っていないのにだ。今はその雰囲気が誰かに似ていてそれに懐かしさを感じているとしか言えなかった。


そんなことをシンが考えていて質問に答えずにいるとメルンは夜空を見上げてこう言った。


「そうですよね、シンさんのように話しかけられる側としては目障りとしか言いようがなくて、話しかける側の私に気を遣っていらっしゃるんですよね」


どうやらメルンはシンが自分に気を遣って答えられずにいたと思ったらしい。


「私も多分シンさんと同じです。あんな所でシェント学園の人たちに胡麻を擂っているのが惨めに感じて逃げてきたんです」


シンはそのメルンの一言にようやくこの合同宿泊訓練をやる目的が分かった。薄々は気づいていたがどうも確信できなかったのだ。


この合同宿泊訓練の目的はカーレルン学園との親睦を深めるためじゃない。真の目的はカーレルン学園の生徒達にシェント学園の生徒達とのパイプを作らせるためだ。シンはシェント学園は身分の高い者の子が入学するエリート校だと聞いていつもこう考えていた。確かにこの世界で親の才能は子供に多く受け継がれるという風になっているが稀に出てくる才能が伴わない子どもはどうするのか、実力のない子供はどうするのかと。そして今回カーレルン学園の存在を知ってその疑問が直ぐに解かれた。カーレルン学園は親の才能をあまり受け継げなかった子供たちが通う学校だと、高い身分の誇りを壊させないために造られた学校だと。


だがそんな落ちこぼれ達にも残っているものがある。それは秘められている魔力の遺伝子だ。この世界での魔法は才能が最重要視されているため努力で補うことは出来ないと思われている(シンはそんなこと微塵も考えていない)。それならその子供たちに残されたものは遺伝子、次の世代に多大な魔力をもたらす遺伝子のみだとこの世界では思われているだろうと簡単に想像できた。


つまりカーレルン学園の生徒達にとってこの合同宿泊訓練は自分ではなく自分の次の世代の価値をアピールする機会という訳だ。勿論これを怠ると将来高い身分でいられなくなるので生徒達はプライドを捨ててアピールする。メルンの気持ちになってもおかしくないとシンは思った。


「そうか、確かにそうだな」


「あっ、別に今のはシンさんが惨めだとかそういう意味ではなくてですね、ただそういった会話に疲れたという意味でしてですね」


「落ち着け、そんなこと思っていない」


メルンが必死に言い訳をしているのをシンは察して気を遣った。メルンは落ち着いてシンの方を向いた。


「私は辺境の小さな町出身なんです。カーレルン学園に入学できたのも父親がカーレルン学園出身だったからで家自体は身分が高いわけではないんです。それに平和でゆったりとした生活が好きな私にとっては高い身分にはさほど興味はないんです。ですがいつも楽しそうに笑ってる友達が、元気いっぱいなクラスの人気者が、他のみんなが必至こいてシェント学園の皆さんの顔色を窺っているのを見て……それで……」


落ち込むメルンを見てシンは彼女に同情した。もし彼女が地球で生を受けていればこんな事はなく望み通りの人生を送っていたかもしれないと。


「そこまで本音を話してくれるとは思わなかったよ」


「えっ!もしかして喋りすぎましたか!?」


「そんなことはない、だけど俺も少し喋りたくなっただけだよ」


シンはこの世界で悩みを相談したことはなかった。ありえない考えで人が離れていくのが怖かったからだ。だが彼女なら、メルンなら話せると思ってしまう。なぜだか説明できないがそう思ってしまう。


「一つ、俺の話を聞いてくれないか?」


「勿論いいですよ、なんですか?」


シンは先程のメルンと同じように夜空の見上げてこう言った。これがシンが変わるための大きな一歩となる。


「俺ってさ、魔法が嫌いなんだ」


















短いですね……、まぁ話の流れを考えると仕方のないことなんですが……。

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