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第二十話《夜空》

それからは平和な日常が続き、あっという間に合同宿泊訓練の日になった。シン達一年生はライバ山に向かいそこでカーレルン学園の生徒と親交を深めながら初の実戦的な魔法の授業を受けることになっている。


シン達はそのライバ山に向かうためにある乗り物に乗っている。それは放魔石を燃料とする原動機を利用して動かす地球で言うバスのような乗り物だ。内装は鉄製で椅子にはクッションがなく乗り心地は地球のものとは比べ物にはならないがそれでもシンはこれの存在を知った時にはこの世界も地球と同じくらい発展しているのだと感動した。そのバスらしき乗り物の名前は他のこの世界での乗り物全てと同じであり放魔石が燃料なので魔車と呼ばれている。種類はこのバスらしきものが小型、シンが故郷からシェント学園まで来るのに使用した電車のようなものが大型となっており、その殆どが公共のもので一般的なものは販売されていない。


その小型魔車に乗っている生徒たちはほぼ全員テンションが高く魔車の中ではしゃいでいた。だがシンはその中に入らずずっと窓に映る風景を見ていた。そのシンに話しかける生徒は一人もいない。


だがそんなシンの事が気になっている者が一人いた。その者は魔車の中でも他の生徒達の相手で精一杯なユーラインだ。理由は明らかでシンが自分と決闘をしたせいで孤独になっているのだと思っているからだ。それだけが原因ではないのだが傍から見ればそうとしか映らない。しかしユーラインがシンを気になるようになったのは確かにそれもあるのだが本当にシンが気になってしまう原因は王族連続殺人事件の事後処理が終わりユーラインがシェント学園に戻る前日のベルセーズ国王の言葉だった。














____________________________________________________________












「本当に戻ってしまうのか?」


「はい、私はまだまだ未熟だとあの戦いを間近で見て感じました。ですからシェント学園に戻って多くの事を学ぶことを決心しました」


ユーラインとベルセーズはまだ修復が終わっておらず、あの時の闘いの傷が残る王の間で話していた。ベルセーズはあの時お気に入りの椅子が自分の攻撃で大破したため立って話をしている。


「もうお前が王族だとこの国の国民の殆どが知っている。冨や地位を狙ってお前に近づく奴らもいるだろう」


「はい、ですがそのような輩と本当に私と友人になろうとする者の区別ぐらいはできます」


「ならよい、だがいざというときには彼を頼りなさい」


一応シンの事は秘密なのでユーラインとベルセーズはシンの事を彼と呼ぶようにしている。


「嫌ですわ」


ベルセーズのその一言にユーラインは反対した。


「なぜだ?彼は私を倒すくらいの実力と誰一人真相にたどり着けなかった8年前の事件とこの事件を解決するほどの頭脳を持っている。それなのになぜ彼を頼ることを拒む?」


「当たり前です、彼は王族の関係者ではありませんし自分の身くらいは自分で守れます」


ユーラインはシンを退学に追い込むために決闘を挑み、さらにはあの闘いのときに自分を守るために怪我までさせてしまった。ユーラインはこれ以上シンに迷惑を掛けたくないのだ。


「ふむ……ならば彼と付き合うというのはどうだ?」


「なっ……どど、どうしてそんな話になるんですか!」


ユーラインは先程までの毅然とした態度を一変させて動揺した。


「いや、彼と付き合うことにより護衛にもなるしお前を誑かそうとする男どもを離れさせられる事も出来る。実のところ彼が気になっているんじゃないのか?」


その時のベルセーズの顔は一国の国王の顔ではなく、娘の恋愛事情に首を突っ込むただのおせっかいな父親の顔だった。これこそがユーラインが心の奥底で求めていた家族の暖かさなのだがこの時だけは無性にイラッときた。


「ででで、ですから彼のことなんてこれっぽっちも気になってません!ですから私はもう彼には頼りませんし、彼とも付き合う気はありません!」


そしてユーラインは顔を真っ赤にしてベルセーズを怒鳴って逃げるように王の間を出ていった。














____________________________________________________________













その事を思い出したユーラインは恥ずかしくなり顔を赤くし、恥ずかしさを紛らわすため頭をブンブンと左右に揺らした。


「大丈夫ですかユーライン様?」


「大丈夫ですわ、お気遣いどうも」


話していた女子生徒に心配されたがユーラインはいつものような態度で接した。確かにユーラインはシンの事が気になっている。シンの事を思うと胸が苦しくなることもある。だからといってシンの事が好きだということではない。そう自分に言い聞かせていた。


「ふむ……これは使えそうですね♪」


そんなユーラインの微々たる心情の揺らぎに気づいたリンはあることを思いついた。















____________________________________________________________














そして魔車に揺られること数時間、ライバ山の麓に到着した。そこから見るとライバ山は草木が生い茂る自然豊かな山ということが分かった。首都のような自然少ない場所で育った生徒たちはライバ山の自然に圧倒されたがシンは家が森林に囲まれた場所だったためあまり新鮮な感じはしなかった。


「シンさん、あそこにいるのがカーレルン学園の人たちですよ!」


リンが指をさした方には確かに自分たちと同じくらいの年齢と思われる人たちの集団がいた。そしてその集団は驚きの……いや予想通りの行動をした。


「あれ?なんかこっちに走ってきてないか?ってうわあああああああああああああっ!?」


ネビューが気づいた時にはもう遅かった。カーレルン学園の生徒達と思われる集団がユーラインに向かって一斉に走ってきたのだ。シン達は早々に気づいて退避していたがネビューだけは逃げ遅れ集団に飲み込まれていった。


「ユーライン様初めまして!」


「ぜひ私とお話を!」


「いいえ、ぜひ私と!」


「いいや、俺たちとお話ししましょう!」


「わかりました!わかりましたからいったん落ち着いてください!」


ユーラインは一斉に話しかけられてもみくちゃにされていた。一方巻き込まれたネビューはうつ伏せで目一杯の足跡を付けられて気絶していた。


「不幸すぎだろネビュー……」


「…同感だ」


この騒ぎは遠くで互いに挨拶をしていた先生たちが戻ってくるまで続いた。














____________________________________________________________














今日の夜の日程はご飯を食べた後は自由時間となっていて、生徒たちは学校の垣根を越えてそれぞれが話したい相手を探して自由に話していた(ユーラインとの会話は昼の騒ぎのせいで一人一回5分に制限された)。そんな中シンは宿舎から遠く離れたところにある椅子に丁度いい石の上で空を見ていた。これでは友達が作れないのだが昼の騒ぎでシンにとってカーレルン学園の生徒達のイメージは権力に貪欲なバカ、という最悪な状態になっていた。


シンは昔から嫌なことがあると必ず夜空を見る。暗闇の中に無数にある星と月、広大な夜空を見ているだけで心が癒されるというのだ。この世界に来てからもそれは殆ど変わらない。ただこの世界の夜空にも地球と同じように星と月があり、この世界にも宇宙があるのか、太陽があるなら火星や土星といった太陽系の惑星もあるのか、そもそもこの大陸があるこの星は球体なのか、といった風に考えていても答えの見つからない事を延々と考えるようにはなった。理解出来ないだろうがシンにとっては魔法の事を考えるよりもその事を考える方が100倍は気が楽になるという。それほどシンにとって魔法という概念は嫌なものなのだ。


そうやっていつものように夜空を見上げてリラックスしていると背後から人の気配を感じた。


「誰だ!」


「きゃあ!?」


思わずシンは大声を出して振り向いたため背後にいた少女はびっくりして尻餅をついた。その少女は緑色の短い髪で身分の高い子供が通うカーレルン学園の制服を着ているのに何処か素朴な印象を持たせる少女だった。


「イタタ……」


そしてその少女を見たシンはその少女とは初対面なのになぜか懐かしい感じがした。


「す、すみません!ここで一人になっているのが気になって話しかけようとしたんですけど邪魔でしたよね!し、失礼します!」


そう言って少女はシンに何回も頭を下げその場から立ち去ろうとした。だがシンは謎の懐かしさの正体が分からなかった為立ち上がり急いで去ろうとする少女の右手をつかんだ。少女は急に手をつかまれても悲鳴を上げずに気の抜けた声を出してシンの方を向いた。


「え?」


「待ってくれ、別に邪魔ではなかったし丁度話し相手がほしかったところだ」


シンがそう言うと少女は去ろうとするのを止めシンが先程まで座っていた場所にゆっくりと座りシンもその隣に座った。そして少しの静寂の後、先に口を動かしたのは少女の方だった。


「あの……どうしてこんなところで一人でいたんですか?」


「夜空を見てたんだ、夜空を見ている時が一番落ち着くからな」


シンが空を見上げると少女も一緒に空を見上げた。


「君はあの空にある光の粒をなんだと思う?」


シンはこんなところで『星』なんて口にするほどバカではない。星なんて概念はこの世界にはどこにもないからだ。少女は少し考えてこう言った。


「今まで考えたことありませんでしたけど……多分私たちを見守る死んだ人たちじゃないでしょうか」


幼稚な考えとシンは思ったがそれを口には出さなかった。実際自分も小さいころにはそう思っていたからだ。


「そんなこと考えてるなんて面白い人ですね。あっ、自己紹介が遅れてました。私はメルン、メルン・ディアスと言います」


「俺はシン・ジャックルスだ。よろしくなメルン」


自己紹介をすると二人は握手をした。シンにとってネビューやリン、タイソン以来の友達ができた瞬間だった。














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