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第一話《転生》

予定通り日曜日に投稿することが出来ました。


これからも日曜日に投稿することにします。


取り合えず第一話をお楽しみください。











心は意識が遠くなりそうだった。かれこれ神の居た真っ白な空間に出来た穴に落とされてから小1時間は経過していてまだ地面に到着していないのにも関わらず。


理不尽にあの空間から穴に落とされてから最初の10分程度は心も叫びながら落下していたのだが、何時まで経っても地面に到着する気配がないので、一旦冷静に流れに身を任せて地面に到着するのを待つことにした。


そして今現在の状況になった。


風圧で起こる轟音はあるが、それによる痛みはない。だが、まるでフカフカのベットで心地よく眠り始めてるようにゆっくりと心の意識は遠のいていくのだ。


そして心は轟音が響く底が見えない穴に落下しならが意識をゆっくりと失うという稀有な体験をした。












―――――――――――――――――――――――――――――――――――――













穴で眠るように意識を失った心の意識が覚醒するきっかけは頭部からの激痛のせいだった。まるで頭蓋骨の隙間を無理矢理ずらして開けているような痛みだった。


心がこの16年間生きていた中で最も痛いと思えるほどの激しい痛みだった。


心はこの痛みから自分は頭から地面に到着してしまったのだと考えた。


そしてその激痛に我慢できずに大声で叫んでしまった。しかし、その叫び声は声変わりした男特有の低く野太い声ではなく、


「オギャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」


赤子特有の甲高い泣き声だった。


こうして田村心の第2の人生のスタートは頭部の痛みと何故かこの状況なのに起きる眠気との闘いに混乱しながら始まった。













―――――――――――――――――――――――――――――――――――――














心が地球とは異なる世界に産まれてから2ヶ月が経とうとしていた。


心は今、産まれたときに感じた頭部の激痛よりも辛い痛み、苦痛を感じている。


それは身体的苦痛ではない。精神的苦痛だ。


「はいはいシンちゃ~ん、オムツを変えましょうねぇ~」


何処の世界に好き好んで赤子みたいにオムツから食事まで何から何まで母親の世話になって喜ぶ高校生がいることか。いや、もう肉体的には高校生ではなく赤子なのだが。


確かにあの空間で神は穴に落とす直前に赤子からのスタートだと言っていた。だが心はここまで高校生の自我、精神で赤子でいることが苦痛なのかと想像もできなかった。


今赤子の心のことを「シンちゃん」と呼び、今は心のオムツを変えているのはこの世界での心の母親だ。名前はミラ・ジャックルス。髪型は金髪のボブ、容姿は心が一瞬母親じゃなく姉だと勘違いするくらいに若々しく、可愛い顔の持ち主だ。どう見ても高校生にしか見えない、これが心がミラの顔を初めて見た感想だった。あのいかにも頼りなさそうな外見の父親がよくこんな美人妻を持てたなとも思った。


先程ミラが言ったが心のこの世界での名前はシン・ジャックルス。そう、前世(地球)と同じ名前なのだ。初めてミラから名前を聞いた時に心…いや、シンは偶然なのかそれとも神の手解きによるものなのか分からなかったが前世(地球)と同じ名前だったことが素直に嬉しかった。ちなみに文字についてはまだ分からないが両親が話す言語が日本語だと言うことは絶対に神の手解きだとシンは確信している。


シンは病院から家に来るときは不覚にも寝てしまっていたためかこの世界の風景を全く見ていない。シンがこの世界で見た風景は家の周りに聳える森林だけだ。この事からシンはまだ仮定の域だが少なくとも地球、日本よりも自然が多い世界なのだと考えている。


しかしシンは頭ではここまで考えることはできるくらいの大人の頭脳を持っているが、体は生後2ヶ月の赤子同然。まだ首が座っていないため自分で立つことはおろか四つん這いになることすら出来ない。


つまり、今のシンに出来ることは何もないと言うことだ。シンは今すぐにこの世界の風景を、現状を、人々を見たいと思っているが、今のシンに見ることのできるこの世界の風景は木製の家の屋根と木製の家具、この世界での両親の顔、そして家の周りに聳える森林だけ。


なのでシンは自由に動けるようになるまでは寝ること、1日でも早く動けるようになるために小さな手足をぎこちなく動かすこと、そしてこの世界であると言っていた魔法がどんなものなのか仮説を立てて考えること、そして出来るだけ泣かないことに集中することにした。


そしてシンが約1年間、自分の足で立てるようになり、言葉も発せられるようになるまでこの世界の魔法について考えた結果、前世(地球)で言う科学、もしくは機械と同じ、もしくはそれに似た何かであるだろうという結論に至った。












―――――――――――――――――――――――――――――――――――――














過保護過ぎる。これがシンの今の両親に対する感想だった。


「シンちゃ~ん、ご飯ですよ~」


「今日もパパが食べさせてあげるからな~」


「ちょっと!今日は私の番のはずでしょ!!」


「うるさい!!ミラは僕が仕事に行ってる間に出来るだろ!!休日の日くらいは僕がシンにご飯を食べさせてあげるんだ!!」


「あなたの手つきは何処か危なっかしいの!!慣れてる私の方がシンちゃんは嬉しいはずよ!!」


もう自分で食べられるのに…と言いたいシン。だがそんなこと言ってもまだダメだと言うのが目に見えている。


今現在シンの年齢は3歳と10ヶ月と言ったところだ。なのにシンの両親は過保護過ぎてシンを赤子同然の扱いをしているのだ。


こんな感じで両親が自分にご飯を食べさせられるのは日常茶飯事。だが二人の過保護はこれだけではない。


外に出たいと言ったらお外は危ないと延々と説得させられる。魔法について教えてと言ったらまだ危ないからダメだと怒られる。


許されたのは文字を勉強することだけ。両親のどちらかが付いてないと外の町、もしくは村どころか家の外すら出してくれない。


夜に外に出ようとも考えたが両親とのベットで川の字で寝ているので例え起きて外に出ようとするとどちらかが起きてしまい、トイレで起きたと思われ、トイレまで付いてこられてしまい外に出られないのだ。


3歳児の親なら当たり前の行動もあるのだが、既に高校生の精神を持っているシンにとっては全て邪魔なだけだった。


難しい。これがこの世界の文字を初めて見たときのシンの感想だった。


アルファベットのような文字なのだが英語とは全然違う。文字列、発音、単語、意味、全てにおいて英語とは違った。


シンは初めて英語を見たときと同じ感覚を味わった。取り合えず魔法を覚える前にこの世界の言語を、文字を完璧に取得しようとシンは文字の取得に向けて取り組み始めた。


1日の大半を文字の取得のための勉強に向けた。まぁやることがこれ以外になかったからなのだが…取り合えずは簡単な単語や文なら読み書きができるようになった。出来た瞬間の両親の喜びようには少しうっとおしさを感じたが。


もうすぐシンは4歳の誕生日だ。そろそろこの過保護な親でも少しは外に出してくれるだろうと思っている。つまり自由に動ける時間が出来る。つまり何をやっても怪しまれない時間が出来るのだ。そのためシンは誕生日プレゼントに魔法の辞典か普通の辞書のどちらを買って貰うのかを迷っている。が、今は食べさせるのはどちらでもいいから早くご飯を食べさせてほしいということを思っていた。














―――――――――――――――――――――――――――――――――――――













不気味。そして異常。それがウル・ジャックルス、ミラ・ジャックルス夫婦が自分達の子に対する最初の印象だった。


夫婦にとっては初めての子供。愛らしい我が子。目一杯の愛情を与えて、誰にも優しくできる心の優しい人になれるように育てたいと思っていた。


だが、その子供は何から何まで異常と言わざるを得なかった。


まず、必要以上に泣かなかった。泣くのはトイレの時とミルクの時だけ。それ以外は全くと言ってもいいほどに泣かなかった。


それだけなら、本当にそれだけなら大人しくて賢い子で済んだ。だが不気味なのは我が子、シンが1歳の誕生日を過ぎてからだった。


離乳食を食べられるようになってから全く泣かなくなった。というか何でも一人でやるようになったのだ。食事を食べるも一人、トイレも一人、寝るのも一人で出来るようになった。特に食事の時は全くと言ってもいいほどに食べ物を粗末にしなかった。手で食べることもなく、食べ物で遊ぶこともなく、きちんとスプーンとフォークで食べ物をこぼさないように食べるのだ。大人にとっては当たり前のことをしているのに過ぎないのだがたった1歳の子供がたった1回教えただけで出来るようになったのだ。


魔法のことを一言も喋っていないにも関わらず魔法を教えてと懇願してきたこともあった。


とある事情(・・・・・)で自分達が森林が生い茂る家にひっそりと住んでいるにも関わらず、他の人に誰とも会わせていないのにも関わらず、家の周り以外の外の風景を見せていないにも関わらず、外に出たいとも言ったこともあった。


遊びに出たいという意味なら快く外に出してあげただろう。だがシンの行動に遊びという概念を感じたことは一つもないのだ。


絵本を与えると最初に読むときは読んでと頼まれたが、2回目は自分の力で読むようになり、完璧に読めるようになったらその絵本には見向きもしなくなった。その時夫婦はシンが絵本の内容ではなく絵本に書かれている文字の方に興味が注がれていたことに気づいた。いや、文字にしか興味を持っていなかったと言った方が良いのだろう。


絵を描くためにクレヨンと紙を渡すとシンは絵ではなく絵本に書かれていた文字を書くようになった。絵を描いたことなど一度もなかった。


積み木などの子供用の玩具を与えても見向きもしなかった。逆に子供用の国語の本を与えると喜んでそれを一心不乱に読み始めた。


異常、ともかく異常。それだけだった。本当なら、普通の1歳児の子供ならまだ何から何まで親を頼らないと殆ど何も出来ないのにシンはほとんどのことを一人でこなせるようになったのだ。


そして、一番の異常。それはシンに子供のような喜怒哀楽が欠落していたのだ。笑みを浮かべることはあるが、普通の子供のように無邪気な笑顔を見せたことが一度もない。どんな時も無表情。口数も少ない。そして親を必要ともしていない。そう、シンは子供のような振る舞いを全くしないのだ。3歳になった頃にはまるで大人のような振る舞いをするようになった。


夫婦は我が子に恐怖さえ感じてしまった。だが、覚悟はしていた。


実は夫婦は出産する前に国中で当たると噂の占い師に子供のことを占ってもらった時のことだった。


占い師は占い用の透明でまん丸な水晶に両手をかざした瞬間、占い師は座っていた椅子から転げ落ちて夫婦にこう告げたのだ。


「お主らが産む子はあらゆる面において神のご加護を受けておる。もし産むのだとすれば覚悟しておけ!」


と、震える占い師から忠告されたのだ。その忠告は見事に的中した。


夫婦はシンをどう育てるか迷った。このまま世の中に出せば自分達のように日陰者になる場合もある。そうでなくても政治家や学者の出世の道具に利用されることは確実だった。


いや、それ以前に夫婦が危惧していることはシンが心を持たない残忍な人となり、この世界に災いをもたらすのではないかということだ。


この世界はとにかく平和で、神話で全能神の子たちが戦争を起こして以来戦争なんて起きたことは一度もない。


しかしシンはあらゆる面において戦争の火種となる可能性を秘めている。自らが戦争を企てる可能性も含めて。


シンには幸せになってほしい。そう思って夫婦はまず、とびっきりの愛情をシンに与えることにした。


目一杯愛情を込めて抱きつき、食事もかわりばんこで食べさせる。欲しいものは出来るだけ与える。


他の人から見ればそれこそ異常な愛情の表し方だった。我が儘な子供になるような育て方。


だが、夫婦はシンが我が儘に育っても構わなかった。愛を、自分達の愛を感じて育ってくれればそれで良いのだと思っていた。


だか、シンはその愛をうっとおしいと感じていることを夫婦は知らない。


親の心子知らず。それがここまで似合う親子はそういないだろう。


夫婦はシンの心を知らずに今日もどちらがシンにご飯を食べさせてあげるのかを争っている。















前世の記憶が残っている転生者の親って大概はその異常なまでの天才ぶりに恐怖をしてるんじゃないかと思って書いてみました。あながち間違ってないと思ってます。



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