第一八話《抵抗感》
この話は第二章のプロローグのようなものです。よっていつもより短いです。
あの王族連続殺人事件から1週間、シェント学園の教師たちも王宮の改革が一段落したのを機に学園に戻ってきてようやく授業が開始された。勿論今までの遅れを取り戻すため授業は授業が自習をしっかりやっているという前提で行われた。シェント学園の生徒たちは優秀で自習をしっかりやっていてキチンと授業に付いて行った。事件解決に奔走……というか調査していたシンは他の生徒に比べて自習時間が少なかったが授業で取り上げられる内容はほぼシンが幼少期から読みつくしている魔導書に書かれていたため他の生徒と同じ様に授業が出来ていた。ベルセーズとの戦いでの火傷もほぼ完治し松葉杖なしで歩けるようになった。
ユーラインとの決闘による野次馬も全てユーラインに移りシンは他の生徒と同じく普通の学園生活を送れると思っていた。だがそんなシンにも他の生徒とはかけ離れて違う点があった。それは、
「シンさんって友達作る気があるんですか?」
リンが心配で声をかけるくらいにシンに友達がいない事、シンが他のクラスメイトと友達にならない事だ。それどころかネビュー、タイソン、そして今話しかけてきたリン以外とは会話すらしようとしないのだ。
「……」
その問いかけにシンは答えられなかった。そもそもシンは前世でもあまり自分から話す性格ではなかったが、この世界で長年親としか話したことがない事とシンが抱える問題によって深刻になりこのような状態になってしまったのだ。
リンやネビューは持ち前の明るさでもう殆どのクラスメイトと仲良しでタイソンすら他の友達が出来ていて、シンだけがクラスに馴染めず浮いた存在になっているのだ。
ユーラインの方はあれから一言も話していない。それもそのはず、彼女はまだ出世欲がある生徒たちの対応に追われているのだから。シンはあそこまであからさまに媚びを売っている連中とは近づきたくないと思っているためだ。
もう一つシンが話しかけられない理由がある、それはシンが抱える問題でもう既に解決していてもおかしくない問題なのだがそれは、
「お前は二つ目の属性は何がいいと思う?」
「この前、新しく出版された魔導書って知ってる?」
「おい聞いたか、今年の四国魔法決闘はこの前の事件のせいで中止になるらしいぞ!」
「やっぱり理論だけじゃあ飽きる!早く実践がしたいとは思わないか!」
シンが魔法に関する嫌悪感、抵抗感をまだ克服していない事だ。というか魔法を使うことに関してはもう抵抗感がないのだがやはり魔法を使う事がいかにも普通だと思っている人への嫌悪感、抵抗感を克服していないのだ。シンの両親はそもそも魔法を使わないでシンが思う普通の人だった。リンもネビューもタイソンもそこまで魔法を会話の話題に出さずシンが抵抗感を感じないから会話ができているのであって、三人が魔法についての会話をしているときは会話に一切入らない。ボイルとは魔法の話もしていたがそれはボイルがシンにとっての普通の人、魔法を使えることが常識ではないと思っている人のイメージとはそこまでかけ離れた人ではなかった為普通に話せていたのだ。ルナや国立図書館司書のソラとはそもそもそこまで話していないから論外だ。
つまりシンは魔法が使えるのが常識と考えている奴とは友達になるどころか会話すらしたくない、という考えのせいで孤立しているのだ。リンは勿論ネビューとタイソンにもその事を話してはいないし話せるわけもない。だから三人ともシンに友達を作ってもらいたいと思っていても、何もできずにお手上げ状態になっているのだ。
これではシンは孤独で荒んだ学園生活を送ることになるだろう。だがそんなシンにも救いの手が差し伸べられた。それはシェント学園の伝統で初めて実践的に魔法を使うことになる行事だ。その行事の名は、
合同宿泊訓練だ。
____________________________________________________________
「合同宿泊訓練?」
「そうですよ!この国一の高さを誇る霊峰、ライバ山で行われる私たち一年生が初めて実戦的な魔法を教わる行事の事です!」
「で、どうして食事中にその話題になるんだ?」
「あなたの事を心配して言ってるんですよ!」
リンが食堂のテーブルを置いてある皿が衝撃で一瞬浮き上がるくらい勢いよく叩いた。いつも笑顔なリンがイライラするくらいシンの事を気に掛けているようだ。
「このまま私たち以外の友達を作らない気ですか!一匹狼気取りで生きていくつもりなんですか!孤独のまま一人で死ぬつもりなんですか!」
「…それは言い過ぎ」
「タイソンさんは黙っててください!」
リンの怒鳴り声にタイソンはとっさに読んでいた分厚い本で顔を隠した。
「いいですか、シンさんも合同宿泊訓練で友達を作って、明るい学園生活を送りましょう!」
「おいおいちょっと待て、俺はもうあの決闘があってから他の生徒から近づかれなくなっているんだぞ?その状況からどうやって友達作るってんだ?」
シンはあの決闘のせいで王族のユーラインを敗北させて王族のプライドに傷をつけた人物としてユーラインが嫌っていて仲良くしたら一緒に嫌われると殆どの生徒が勘違いしているため、さすがに嫌がらせはないがシンに近づかないのだ。
「ふふっ、大丈夫です、合同宿泊訓練ですよ?つまり他の学園の生徒も参加するんですよ!」
「そうだ、一緒にやる学園はカーレルン学園で俺たちと同じでそれなりの身分を持つ親を持つ生徒が殆どらしいぜ。シンのような例外もいるみたいだぜ。で、これから仕事やら何やらで関係を持つだろう相手との友好関係を作る事が目的で合同でやるらしいが要するに幅広く友達作れってことだ」
「そうです、カーレルン学園ではシンさんの事は誰も知りません、だから普通に接してくれると思います!直ぐにそういう人と友達になって、そしてその人たちを使って他の生徒との溝を埋めるんです!」
そもそも他の生徒との心の溝が問題ではなくシンの心の問題なのだがその事を知らずにリンは熱弁を続ける。
「ですから!シンさんには是が非でも今回の合同宿泊訓練で頑張って友達を作って貰います!」
そんなリンの熱弁を聞いてもシンは積極的に友達を作る気にはなれなかった。少なくともシンが思う普通の人が現れるかシンの抵抗感がなくなるまで友達を作れないだろう。
だがこの行事がシンの転機になることになるとはだれも予想してなかった。
「いい熱弁だったが早く飯食わないと昼休にが終わるぞ」
そう言われてリンは他の三人の皿を見ると綺麗に食べ物はなくなっていて時計を見ると昼休み終了まであと10分しかなかった。
「それを早く言ってくださいよネビューさん!」
リンは残っていた昼食を流し込むように食べた。今の日常はシンが事件の解決に動いていたときとは比べ物にならないくらい平和だった。
先に言っておきます。一緒に合同宿泊訓練をやる学園の名はカーレルン学園です。決してカレールウ学園ではありません。お間違えの無いように。