第十七話《復讐の顛末》
今回の事件と8年前の事件はカレイ・パリスンが単独で国家転覆を狙って起こした事件で、シューライン・リアスはカレイにより犯人に仕立て上げられて本当は無罪である。カレイは近々裁判にかけられて確実に死刑が確定する見通しだ。
そんな事実がリアス聖国全域に広がった。勿論カレイを英雄視する人々がカレイの釈放を求めるデモを起こし、大きな混乱を招いたがそれも徐々に鎮圧されていった。
そして今回の事件を機にビラン王妃は王族との関わりを断絶することを発表した。だが世間の目は王族連続殺人事件の事にしか向いておらず話題にすらならなかった。その後ビラン王妃の消息は掴めていないみたいだがおそらくあの孤児院で子どもと一緒に静かに暮らしているに違いない。
そしてシンの事は約束通り明かされずこの事件解決の立役者は警備隊となった。そしてその中心人物になったボイルは晴れて警備隊捜査課第一部隊隊長の座に返り咲いた。そのお礼の言葉と事件の事後報告が書かれた手紙がシンに届いた。
そしてその中にベルセーズ国王が王位をユーラインに譲ろうとしたが拒否されたという内容も書かれていた。確かにベルセーズは人を殺したがそれは復讐心によるものであり、情状酌量の余地があるとシンは考えている。だがいつかは罪を償ってほしいとも考えている。
シンはあの孤児院で治療をした後直ぐにシェント学園に戻った。そしていきなりリンの質問攻めにあった。しかもその質問の内容は今回の事件と俺との関わりについての事だったので当初は約束が守られていないと勘違いしたが、ただのリンの予測に過ぎなかったみたいだった。取り敢えず火傷は実験の失敗ということにして納得させた。火傷はそれほど酷いものではなかったが左足でうまく歩けない為松葉杖を使用している。
そして早速授業かと思いきや先生たちはデモの鎮圧や王宮の仕事などでまだ帰ってきておらず自習になっていた。その理由の一つの王宮の仕事の原因はシンにある。それは情報管理の改革だ。シンはこの事件の推理を国立図書館で行ったため、そこでは国の全ての情報がそこに集められていることへの危機感に王宮がようやく情報管理の徹底を指示し、王立図書館にある政治的文章を王宮に輸送、そしてその書物の管理するための法律の制定など、王族連続殺人事件のことでてんてこ舞いなこの状況でそれを行おうとした種人員不足になりシェント学園の教師たちが駆り出されることになったのだ。
そしてもう一つ、この学園で奇妙な光景が出来ていた。あれだけみんなから距離を置かれていたユーラインが生徒たちに囲まれて楽しそうに話しているのだ。その理由はただ一つ。
「いや、まさかあなたと同じクラスになれるとは光栄ですよユーライン様!」
「ふふっ、そうですね」
ユーラインが王族ということを国王が発表したからだ。他の王族も全て死に、さらに秘密裏に生きているビランの二人の子どももビランが王族でなくなった今、ユーラインしか王位継承者がいなくなってしまった。しかもまた暗殺が起きないとも断言できない為国王は王族であることを秘匿するよりもバラして周りの人間に護ってもらうことの方がいいと判断したためだとボイルの手紙に書いてあった。しかしユーラインと話すのは後々ユーラインが女王になった時のための材料のため、本当の意味で友人になろうと考えている者など一人もいなかった。ちなみにリンも王族の取材のためとか今回の事件の全貌とかなんたらでユーラインに必死に話しかけている。
「しかしユーライン様は今日も人気だな~。この前のお前以上だな」
タイソンもそれに応じて頷いた。タイソンは喋るのがあまり得意ではないのでアプローチはしないらしく、ネビューはタイプじゃないからという理由で話しかけないようだ。ネビューのような王族ではないユーラインを見てくれるような奴がユーラインの親友になってくれることを願う。
「ありがたい話だよネビュー、これで少しは静かな学園生活を送れるようになることを祈りたいぜ」
ただ、これのおかげで今までシンに向けられていた興味の目は全てユーラインへと向かいシンは心の中で喜んだ。
そして今日も自習の時間が社交場のような雰囲気で過ぎていった。
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「全く、これの扱いは慣れないな……」
シンは食堂という戦場に向かっていたが松葉杖、というよりは火傷のせいで大きく出遅れていた。勿論食堂は一つだけではなくシェント学園全生徒が一気に昼食をとっても大丈夫なくらいの席はあるのだがシンはそんなことを知らず先を急いでいた。その道に最中、一人の少女がシンを待ち構えていた。ユーライン・リアスだった。
シンはあの時以来ユーラインと一言も話していない。何というかあの集団と同じと思われたくないというよりかはどちらかというと事件の早期解決が出来なかったことに対する謝罪の気持ちがあるからだ。シンは気まずくならないうちにユーラインを無視して立ち去ろうとしたがユーラインから声をかけてきた。
「人が待っているというのにそのまま立ち去ろうとするなんて世間知らずにもほどがありますわよ!」
「で、なんだよ。俺とまた決闘する気かユーライン様」
仕方なくシンは誰か聞いていると仮定した話し方をした。
「大丈夫ですわ。ここには私たち以外誰一人としていませんから」
「本当だろうな?」
「勿論、あの烏合の衆なら一言脅せば直ぐに居なくなりますから」
取り敢えずシンは周りを見て人がいないことを確認した。
「それで、何の用なんだ?」
「どうして謝ったりしたんですか?」
シンはてっきり罵声が浴びせられると思っていたのだがユーラインは予想外の言葉を口にした。
「なぜって……俺がもう少し早く解決できていればお前の兄や姉を救うことができたかもしれなかったから……」
シンがそう言うとユーラインは大きくため息を吐いた。
「あなたねぇ……私がそんな器の小さい人間に見えますか?確かに早く解決していれば私の兄や姉は死ぬことはなかったかもしれません。だからと言ってそれをあなたのせいだとする程私の器は小さくありませんわ!」
「だが一応は謝罪しておくべきと思ってだな……」
「終わったことを引きずらないで下さい!あなたがそんな感じでは謝られた私の気分が悪くなります、いいですね!」
ユーラインはしっかりと兄や姉たちの死を乗り越え、前に進もうとしていた。それを見てシンはこれなら大丈夫だと安心した。そしてまた立ち去ろうとしたがまたユーラインに引き留められた。
「ちょっと待ってください!まだ聞きたいことがあるんです!」
「今度はなんだ?」
「もし私があの時お父様を殺していたらあなたはどうするつもりだったんですか?」
ユーラインの質問にシンは近くにあった窓の景色を見ながらこう答えた。
「大義名分がある復讐は正しいことだ。だがどんなに正しいことにもそれを血で解決したならそれはただの悪だ。それ以上は言わなくても分かるな?」
さらにシンはユーラインの目を見てこう続けた。
「だがお前がそんなことをするはずがない、そう思ったからああさせたんだ。殺した時の事なんて考えてなかったよユーライン」
そして今度こそ立ち去ろうとした。しかしまたもや引き留められた。
「ユー、そう呼んでください」
「はい?」
ユーラインの唐突なお願いにシンは呆けた返事をした。その時のユーラインの頬は赤くなっていた。
「おっ、お母様がつけてくれた私の愛称ですわ!今回の事件の褒美としてとと、特別に呼ぶ事を許しますわ!さあ!」
「……分かったよ、次からはそう呼ばせてもらう」
シンはある程度考えて、そう答えてからその場から立ち去った。シンがいなくなった後、その場に取り残されたユーラインの顔はまだ赤くなっていた。
「どうして……どうして彼の事を考えるとこんなに胸が苦しくなるんでしょう……」
その言葉は誰にも聞こえることなく、どこかへ消えていった。
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「全く……全く分からないな」
ボイルは久々の部隊長の椅子に座って頭を抱えていた。その悩みの種はビラン元王妃に犯行の方法を教えた謎の人物についてだ。
だが全く情報がなく、ビラン元王妃の証言もあまり役に立つものではない為結局何も分からず仕舞いだった。どうして真犯人がいると分かったのかシンに質問しても曖昧にしか答えてくれなかった。
もうカレイも逮捕され裁判もあと数日と迫った今、別に気にすることもなかったのだがボイルは底知れぬ不安を感じていた。これで終わりではない、おそらくあの占い師の言うとおりだったら確実に何かが起きる。そう思っていても何も掴めない、歯がゆい気持ちでいっぱいだった。
それは学園にいるシンも同じだった。シンはある程度真犯人の特定はできているが次の犯行を止められる手段がないことに危機感を感じていた。
これからどうなるのか、これから起きることは今は誰にも分からなかった。
もう、もう動き始めているぞ、少年。
これで王族連続殺人事件編は終わりです。次からはシリアスとは程遠い学園ものです。
間違って昨日に投稿してしまった……orz