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第十六話《家族》















凄惨な光景だった。あれだけ煌びやかだった王の間は辺り一面から焦げた臭いと黒煙に覆われ、赤いカーペットも窓を覆っていたカーテンも殆どが焼き焦げ、ベルセーズが気に入っていた椅子も無残に壊れていた。ここまで周囲を巻き込んだ戦闘だったのに最後はあっけなかった。


シンは取り敢えず周りを見渡しユーラインとボイルの居る方へ左足を引きずりながら向かった。それを見たボイルは直ぐ様シンの方へ駆け寄った。


「シン君!大丈夫かい!早く治療しないと……」


だが、シンは火傷を心配するボイルを無視してユーラインの方に向かった。


「っ……」


シンを目の前にしてユーラインは言葉が出なかった。自身の自分勝手な行動で迷惑を掛け、さらに自分の敵まで討ってくれて、そして自分を救ってくれた。ここまでしてくれた人に掛けてあげる言葉がどれだけ考えても見つからなかったからだ。


そしてシンはユーラインの目の前まで来てこう言った。それはユーラインが考えもしなかった一言だった。


「国王は当分動けない、お前も一回受けたから分かるだろ?あとはお前の自由だ。好きにしろ」


「どういう……意味ですの……?」


「その通りの意味だ。あいつの口から犯行の動機を聞くなり、首根っこ掴むなり、殺すなり好きにしろってことだ。だがお前の火球はあいつには効かないからそこだけは注意しろよ」


そう言ってシンは驚いて思考が働いていないユーラインの後ろに回りこんだ。


「俺は後ろからお前のことを見ておく。もしお前が危険な目にあっても大丈夫なようにな」


ユーラインは迷った。確かに目の前に倒れているのは殺された兄の、姉の敵。だがそれ以前に自分の父親だ。殺すなんて考えられなかった。だが殺気がないと言えば嘘になる。復讐できるのは今しかない。そんな気持ちもあった。


そして迷った挙句ユーラインはベルセーズの元に近づいた。意識はハッキリとし、体は動かせないが顔は動けるベルセーズはそれを見て静かに目を閉じた。未練はなかった。これでユーラインの心が少しでも救われるのならと覚悟を決めた。


しかしユーラインがとった行動は、




バチン




とベルセーズの頬に平手打ちだった。予想外の事にベルセーズが顔を上げるとユーラインの目に涙があった。


「どうして……私を殺さない。私はお前の兄と姉を殺せと仕向けた張本人だ。殺される覚悟はできている、さっさと復讐を果たせばいい」


ベルセーズがユーラインにそう催促するとまた平手打ちが襲ってきた。


「そんなの……そんなのできる訳ないじゃないですか!!あなたは……お父様は家族なんですから!!」


ユーラインの言葉にベルセーズは自嘲的な笑みを浮かべた。


「私はお前の母を無実なのに憎み、殺した。そして憎しみに任せて娘、息子を殺させた。私はもうお前の家族でもなんでもない」


「お父様が!!お父様がそう思っていても私にとっての父親は……お父様はあなただけです!!」


ユーラインは泣きながら続けた。


「確かに今でもこのまま首を絞めて殺したいほどにあなたが憎くてたまりません。ですが私にはもうお父様しか家族はいないんです!!もう……一人ぼっちなんかにはなりたくないんです……」


「ユーライン……」


「お父様は取り返しのつかないことをしました。ですが死ぬ以外にも罪を償う方法はいくらでもあります!私も手伝いますから……だから……もう私の傍からいなくならないで下さい!!!!」


そう言ってユーラインはベルセースを抱きしめた。ユーラインの中で憎しみの感情よりも家族への愛情が上回ったのだ。そしてベルセーズも号泣しながらユーラインを抱きしめた。


その光景を見ていたボイルはふとシンの居た方を見ると、シンが消えていたのだ。確かに怪我をしているようには見えない顔をしていたが、実際にはかなりの重傷なのだ。ボイルは直ぐ様シンを探しに王の間を出た。
















____________________________________________________________
















走る影があった。その走りには焦りがあった。ここから逃げないとまずいことになるから。しかしその走りを妨げる影があった。


「どこへ行くおつもりですか?王の間は逆ですし、この通路はあなたの住む所に行く通路でもありませんよ」


その二つの影の一つはシン、そしてもう一つは、


「ビラン・リアス王妃」


襲撃されて意識不明になっているはずのビラン・リアスだった。


「激しく動いて襲撃された時の怪我は痛まないんですか?」


シンは王族にしては質素なドレスの右肩あたりに滲んだ血を見てそう言った。どうやら襲撃されたのは本当らしい。


「得体のしれないあなたに心配される筋合いはありません。そこを退いてください」


「退くわけにはいきません」


「どうしてですか」


「聞きたいことがあります。この事件の本当の首謀者、ビラン・リアスさん」


「!!?」


シンがそう言うとビランは左手を前にかざし魔法を使おうとしたが、


「止めて下さい、全て終わったんです。あなたも見ていたんでしょう、王の間での出来事を」


「……」


「大丈夫です、聞きたいことがあるだけですしあなたに危害を加えるつもりはありません」


「……いいでしょう」


シンの全てを見透かしたような目にビランは苦虫を噛み潰したような顔になった。


「俺はどんな些細なことでも見逃せない性格なんです。だから今回の事件においての謎を全て調べました。勿論、あなたが隠していることも」


「でもそんなものどうやって……」


「この国は本当に情報管理がなっていない。この国のあらゆる情報が全て何の権限も持たない一学生に見せられるようになってるのか理解しがたいですよ。それに改ざんもしないって本当に隠し通す気があるんですか?」


「……」


言い返せなかった。まったくもってその通りだったから。


「本当は1日程度でこの事件の調べは殆ど済んでいたんですがあなたの事を調べていたせいでここまで事件解決が遅れました。救える命が救えなかった、ですからそれ相応の対価を払ってもらいます」


シンはビランにゆっくりと火傷を負った左足を引きずりながら近づき、ビランはシンの不気味な笑顔に後退りした。


「さあ教えてください、この事件のやり方をあ(・・・・・・・・・・)なたに教えた人を(・・・・・・・)!」


「……知りません」


ビランはしばらく考えた後そう答えた。


「白を切るつもりなら止めておいた方がいいですよ。どうせあなたに読心魔法を使えば分かることなんですから」


「本当に知らないんです!顔も名前も性別も!ただ突然私の寝室に現れて、『この方法ならあなたの願いは叶う』と教えられただけでその後は全く見たこともありません!」


シンの目には必至そうに言い訳をするビランが嘘をついているようには見えなかった。


「そうですか……貴重な情報ありがとうございました。さてと、最後の仕上げに行きましょう。ボイルさん、そこにいることは分かっていますから出てきてください」


シンがそう言うとビランの後ろにある通路からボイルが出てきた。


「シン君、本当に君は何者なんだ?あの時からただの子どもではないことは分かっていたけどここまでとは思わなかった。事件を解決、そしてその奥にある闇にまでたどり着こうとする……まだ13歳とは思えないよ」


「褒められているんですかねそれって。まぁ取り敢えず今からこの紙に書かれている住所にビラン王妃と一緒に行ってください。あとの事はボイルさんの自由にしてかまいません」


「ちょっと待ってくれ、シン君はどうするつもりなんだい?」


シンから小さなメモを渡されたボイルはそう聞くとシンは笑みを浮かべながらこう言った。


「すみません。行きたいのは山々なんですけど……もう無理です」


そう言うシンの顔には汗が滝のように流れていた。そして膝から崩れ落ちるように倒れた。おそらくここまでずっと痛みを我慢していたのだろう。


「シン君!大丈夫かいシン君!くそっ、早くどこか治療できる所を……」


倒れたシンをボイルは直ぐに抱えて病院に運ぼうとしたがビランが道を遮った。


「待ってください、それなら病院よりもいいところがあります」


















____________________________________________________________




















「凄い火傷だねぇ、一体どうしたらこんな子供にこんな火傷ができるのかねぇ……」


ビランに言われて連れてこられた場所は王宮からは遠く城下町のはずれにある孤児院だった。しかもシンに渡された住所と場所が一致している。


「すみません、いきなり押しかけてしまって……」


「いいのよ、ビランちゃんの頼みは聞かないと罰が当たりそうだよ」


そう言ってシンの火傷を治療しているのはこの孤児院の院長であるお婆さんだ。ボイルはなぜこの場所の住所を渡されたのか、なぜビランがここにシンを連れてこさせたのかまったく分からなかった。


「ここなら彼の身の安全が保障できると思ったからここに来たんです」


そんなボイルの心を読み取ったのかビランはボイルに話しかけた。


「カレイさんが捕まったことはもう王宮内に知れ渡っています。カレイさんには熱狂的な信者が沢山います。王宮に近い病院でのんびり治療なんかしてたらあなたや彼が襲撃されるかもしれないと思ったからここに連れて来たんです。院長さんはそれなりの医療技術を持ってますし、そこまでカレイさんの事を英雄と思っていませんから大丈夫ですよ」


「ですがなぜシン君はここの場所に行けと言ったのか分からないんですが……」


するとビランはうつむいてこう言った。


「実は……ここで私は育てられて私の子どももここにいるからなんです」


「なっ……なんですって!?」


ボイルは貴族の家出身であるビラン王妃がここで育てられたことよりも8年前に身元が判別できないほどにバラバラにされて殺されているビランの二人の子どもが生きていることに驚いた。


「ここは表立っては募金で設立した普通の孤児院なんですが、裏では娼館の娘がお忍びで来た貴族の子どもを孕み、父親の魔力を多く受け継いで産まれた子供を貴族に売るために国が設立したんです。私もそれを国王に嫁いでから知りました。私は6歳のころまでここに住みあまり権力が強くないコルー家に引き取られました。そこでの生活は厳しいもので国王に嫁ぐための教養を強引に身に付けさせられました。コルー家は私を家の力をのし上げるための道具としか思っていませんでした。そして家の思惑通り国王に嫁いでからはもっと酷い生活でした。私がここの出身ということから他の妃から売女と呼ばれ虐められ、国王の耳にもそれが聞こえたのか私にはまったく見向きもせず自分の子どもを産ませるだけの道具のように扱い、側近からも見下され、もうここにはいられない、逃げてやると思いました。ですが王族に嫁いだら骨になるまで出られないと言われるほど王宮の警護は厳重で私なんかが脱出できるような場所じゃありませんでした。そんなある時、突然私の寝室に黒いマントとフードで全身を覆った人が現れて『この方法ならあなたの願いは叶う』と8年前の犯行を教えられました。そして教育係でどの王族とも自然に会えるカレイさんを実行犯にして事件を起こしました。この事件の本当の目的は私を虐めた妃たちへの復讐と王宮からの脱出でした。私の子ども二人と私の死を偽装しその死に疑問を持たせないように他の妃と子どもも殺す。私の子どもはここに密かに匿ってもらいました。院長はここの正体を知っていても誰にでも優しく接し、子どもが売れたときに出る国からの報酬も全て孤児院にいる子供たちのために使ってくれる心優しい人だからここなら安心だと思ったからです。実際に8年前に私が何も言わずここに子どもを連れてきた時も何も言わず匿ってもらえました。全ては完ぺきでした。ですがカレイさんは思惑を無視して私の死を偽装しないままシューラインを犯人に仕立てあげたんです。本当は私の死を偽装してから全ては事故として処理するつもりだったんです。そのための放魔石だったのにカレイさんはそれをアリバイ工作のために使いました。後はあなたが知ってのとおりです」


「腑に落ちません……あなたはなぜシューラインさんを、その子供たちを生かそうと思ったんですか」


ボイルがそう質問するとビランはどこか遠くを見るような目でこう言った。


「シューラインは……私のたった一人の親友でした。虐められているときに自分も一緒に虐められると分かっていても助けてくれて、一人ぼっちで寂しい時にいつも一緒に居てくれました。ですからシューラインだけは生かそう、そしてシューラインの子どもに王位を継いでもらえばこの国も安泰だ。そう思って殺さなかったんです。ですがカレイさんにそれを利用され、シューラインは史上最悪の犯罪者にされました。そして私は余計なことを喋らせないように療養のためと王宮に隔離されました。そしてカレイさんは英雄となり、さらに欲が深まったのでしょうか今回の事件を起こしました。彼は国王がカレイさんに命令したと言ってましたがそれは違います。カレイが国王をそそのかしそう命令させるよう仕向けたんです。私は国王を止めようと王の間まで行きました。すると私が出る必要がなくなるほどに彼が全て解決してくれました。だからまだ王宮が混乱している隙に当初の目的通りここに逃げ出そうとして彼に捕まったんです」


「ではその右肩の傷はやはりカレイが?」


「いえ、これは私が自分でつけたものです。もしかしたら今度は私が犯人に仕立て上げられそうだったから……」


「なるほど……それがこの事件の全ての真実と顛末、という訳なんですね」


「はい、本当に申し訳ないことをしました」


そう言ってビランはボイルに深々と頭を下げて謝罪した。すると、


「謝る相手を間違えてますよビランさん。もっと謝る相手がいるでしょう」


まだ治療中のシンが目を覚ました。しかし顔は苦痛で歪んでいた。


「しかしまさか犯人の行動を読み違えるとは……俺もまだまだだな、ッ痛!」


「こらこら、まだ起き上れるわけないじゃないか。せめて今日一日は寝ないとダメだよ」


シンは起き上ろうとしたが直ぐに激痛が走り倒れてしまった。そしてビランはシンの目を見てこう約束をした。


「私はこの後王宮に行ってユーラインちゃんと国王に謝罪しに行きます。そして罪を償った後はここで子どもと一緒に静かに暮らそうと思います。本当にありがとうございました」


「いいんです。あ、ユーラインにすまなかったと伝えてください」


「どうしてですか?あなたはユーラインちゃんを助けたんですよそれなのに……」


するとシンは悔しそうな表情になってこう言った。


「さっきも言ったでしょう、本当は救えた命を救えなかったって。もしかしたらユーラインの兄、姉を救えたのにそれを自分勝手な行動で見殺しにした。掛ける言葉が謝罪以外思いつかないんですよ」


その時のシンの目には悔し涙で潤んでいた。そしてシンはそのままボイルの方を向いた。


「さてボイルさん、後はあなたの自由です。あなたが英雄になるなり警備隊全体の手柄にするなり好きにしてください。勿論俺の事は秘密にしてくださいよ」


その時のボイルの頭の中にはこれからどうするかもう決まっていた。おそらく、これが最善の結末だろう。















まさかビランがここまで喋らせることになるとは思いませんでした。ユーラインとベルセーズの話の影が薄くなってしまった……。


さて、次はこの章のエピローグです。当分はシリアスじゃなくなります。

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