第百三十五話《大ピンチ》
まずい、本当にどうする?シンにはこの場を話術で乗り切れるがその後どうやって立ち去るかが全然思いつかなかった。ミーシャはいい、また会ったね程度でどうにかなる。だがルナとシャルドネはそうはいかない、明らかにデートかその類に誘おうとしている目だ。特にシャルドネは明らかに告白を実行しようとしている目だった。
「あ、昨日はどうも」
「あ、いえ、気になさらず」
考える間もなくミーシャの父親が話しかけてきた。
「あ、それでミーシャがお礼をしたいと…」
「いえ、本当に気にしないで下さい」
シンは近くにいるシャルドネとルナの二人にチラッと目線を移動させた。それに気づいたミーシャの父親はこれ以上譲り合いをしているとボロが出ると判断して何も言わなかった。
「ミーシャ、ほら、言いたいことがあるんだろう?」
「うん…昨日はありがとう」
ミーシャは深く礼をした
「ああ、また困ってたら駆けつけてやるからな」
「…うん!」
顔を上げたときのミーシャの顔はぎこちない笑顔だった。
「ではまた…」
「はい、またなミーシャ」
ミーシャとその両親は人ごみの中に去って行った。どうにか第一関門を突破した。とホッとするのもつかの間、最大の試練が待っている。
「迷子を助けるなんてらしいわね」
「え、ええ」
正直全速力で立ち去りたい。だがそうしてもこの人ごみじゃあシャルドネが追いついてしまう可能性があるし美羽の方のミーシャに追いかけっこが見つかったら笑いの種にされかねない。運よくクラスの方で何か起きて自分を探しに来たというご都合展開が来てほしいと切に願うシンだった。
「…おーい」
そんな願いが通じたのか自分を呼ぶ聞きなれた声が聞こえた。
「お、どう…」
マジか!?と心の中が狂喜乱舞しかけたがその声の主を見て凍りついた。見張ってるはずのネビューとエリスだったのだ。
「おいシン!話は走りながらするからちょっと来てくれ!」
「お、おう。すみません、また今度!」
ネビューに手を引っ張られながらシンはその場から立ち去れた。だがその心中は安堵ではなく憤りだった。