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第十一話《本》













なぜシンが首都で王族連続殺人事件を単独で捜査しているのか、その経緯はユーラインがリヘン・リアス殺害の連絡を受けた1時間後まで遡る。


朝のHRどころか授業すら始まらないことにクラスにいた生徒達が不審に思い始めた頃、学園長からの緊急全校放送が流れた。その時の学園長の口調はいつものやわらかいものではなく厳格な雰囲気を出しており、話す長さもかなり短かった。


『生徒諸君に連絡する、たった今王宮からリヘン・リアス様が殺害されたとの連絡が入った。さらに王宮はこれをあの王族連続殺人事件と同様の事態になることを防ぐために全力を注ぐとの意向を示した。そして私たちシェント学園教員全ては王宮にいる王族の護衛をせよとの命令が下った。我々教員は今日中に王宮のある首都に向かうことになった。よって今日からこの件が終了するまで全ての授業を自習とする。以上』


その放送が終わるとシンのクラスの生徒たちは勿論、殆どの生徒が授業が全て自習になったことを喜ばず、誰もがリアス聖国建国史上最悪の事件である8年前の王族連続殺人事件の再来だとある者は怯え、ある者は考えに耽り、またある者はこの事件の自分の主張を友人に話していたりと、少なくとも誰もが心の中に蠢く恐怖を隠しきれないでいた。


だが、その恐怖で満ちようとしていたクラスの雰囲気をぶち壊す仰天発言をシンがした。


「なぁリン、王族連続殺人事件ってなんだ?」


その言葉には放送を聞いてから自分なりにこの事件の犯人像を模索していたリンが、自分の家は王宮に近いということで家族の心配をしていたネビューが、恐怖から気を逸らすため本を読もうとしていたタイソンが、他のこのクラスにいたシンを除く全員が唖然とした。


一気に暗い雰囲気から変な雰囲気へと変わったクラスでネビューが自分の席から立ち上がり、シンの所へ猛スピードで近づき大声でシンに質問を質問で返した。


「お、お前!逆になんで王族連続殺人事件のことを知らないんだよ!!」


「あ、いや、俺ってホントそう言った世情に疎い所に居たんでな」


その勢いにシンが少しだけたじろいだ。実際にはシンが外からの連絡手段が皆無のあの家から、そして家の周りにある森林から殆ど出たことがないから疎いのであって、森林を抜けた町では周知の事実になっていることを補足しておこう。


「全く、お前に抱いてた印象がすげぇ変わったぜ」


「全くですよ、私も思わず椅子から転げ落ちるくらいその発言には衝撃が走りました」


「…そうだな」


いつの間にかシンの机を囲うようにネビュー、リン、タイソンが立っていた。


「そこまで重大な事件なのか……なら教えてくれ、事件の詳細を」


シンが3人の顔を見ると3人とも同じように嫌そうな顔をした。それもそのはず、幼少期に起きた大量殺人事件の詳細を率先して話したがる者などそうはいない。


「まぁ俺としてはあまり言いたくはないな……」


「私も同じです、特に私たちの世代ではトラウマになっている人も少なくありませんし……」


「…そこまで知りたいんだったら自分で調べればいい」


タイソンの一言にシンははっとした。


「(そうだよ、自分だけが知らないこと、他の人は全員知ってることなんだ、なら人に聞くのは間違ってた)よし、それなら早速調べてくる!どうせ自習の課題は出てないしな!」


「あっ、ちょっとシンさん!」


リンの言葉を余所にシンはどこかへ走り去っていった。










____________________________________________________________














シェント学園図書室、そこは魔導書は勿論国中から集められた本が貯蔵されている場所。


通常この時間には開いていないが自習の時間なら開いているだろうと考えたシンは早速その扉を開けた。そこには本を読むための椅子と長机、沢山の本棚にギッチリとだが綺麗に収納されている大量の本があった。そして貸し出しのカウンター席にはこれまた分厚い本を読んでいる少女がいた。顔は本で隠れて見えないがこの学園の制服を着ていることからこの学園の生徒だということは分かった。


シンは意気揚々に調べようとしたがここであることに気が付いた。何処に目当ての本があるか分からないのだ。本来なら昨日説明されるはずだったのだが自分とユーラインとの決闘で省かれたのを忘れていた。


時間を無駄にはしたくないと誰かに本の場所を聞こうとしたが図書室にはカウンター席にいる少女とシンしかいなかった。仕方がないので読書中の少女に聞こうとカウンター席に向かった。


「すみません」


「…?どうかしました?」


シンが声をかけると少女は手元にあった栞を本に挿み、シンに目を合わせた。その容姿は幼かった。ショートカットの青い髪に丸々とした目、身長も椅子に座っているから分からないが低いということは予想できた。


「本の場所を教えてもらいたいんですけど」


「はい、どんな本をお探しですか?」


「歴史書を……できれば一番新しいものを」


「わかりました、ついて来て」


そう言って少女は椅子から立ち上がり本棚の森に向かって歩き始めた。やはり身長は低かった。


本棚の森を歩いていく途中、少女が口を開いた。


「あなた……シン・ジャックルスでしょ?」


「はい……」


シンはもう諦めたような表情になった。もうこの学園で自分のことを知っていない人はいないんだな……と心の中で嘆いた。


「フフフッ、一度こうやって話がしたかったの。あれだけの実力を持っているからどんな人かな思ってね」


「そうですか……」


「意外に謙虚なのね、もっと自信に満ち溢れているのかと思ったわ」


そんな話をしていたら少女はある本棚で立ち止まり、近くにあった台を使って1冊の本を取り出しシンに手渡した。その本はシンが初めてもらった魔導書よりは薄いがそれでもかなり分厚い本だった。


「これがこの図書室の中で一番新しい歴史書よ。くれぐれも大切にね」


「わかりました」


シンは来た道を戻り、近くにあった椅子に座って本を机に置いて早速本を読み始めた。少女も元いたカウンター席に戻り置いていた本の続きを読み始めた。


そしてシンは王族連続殺人事件の項目までたどり着いた。この項目はたった一つの事件だけを題材にしているのに他の項目よりも多くページが使われていた。なぜならこの世界では戦争なんて起きておらず、世界を揺るがす事件など殆ど起きていない為、例え窃盗でも規模や被害が大きいとあたかも前世(地球)の教科書でいう戦争と同じような扱いになるのだ。


歴史書に書かれていた内容はこうだ。


《王族連続殺人事件、それは我が国建国史上最悪の事件である。この事件は一人の王族が部屋で首が風属性の魔法により切断され、頭と体が分断されて殺されたところが発見されたところに始まる。そしてその日を境に次々と王族が、そして王族の母親が自分の部屋で同じような魔法で殺害されていった。


どれだけ警戒しても、どれだけ警備を厳重にしても殺害されていくため、最初は警備に当たっていた警備隊の中に犯人がいるものだと推定されたが犯人らしき人物はいなかった。そして捜査は行き詰まり泥沼化していった。


そして殆どの王族と王族の母親が殺害され、事件も迷宮入りしかけたその時、当時王族の教育を担当していたカレイ・パリスンがニュール王の妃であるシューライン・リアスが犯人だと確たる証拠を持って現れたのだ。彼女の全ての殺害当時のアリバイがないこと、殺害に使われた魔法とシューラインの魔法の特徴が一致したこと、そして彼女が産んだ王族は誰ひとり殺されていないことから警備隊はシューラインが重要参考人とし身柄を拘束した。


シューラインは以前から読心魔法の研究をしていて、その内容は『読心魔法から逃れられる魔法の開発』だったため読心魔法を使った取り調べはなかったが数々の証拠もあり、警備隊は彼女を王族連続殺害事件の犯人とした。そしてシューラインは自分の子を王にさせ王の母として実権を握るために他の王族を皆殺しにしようとした罪で公開処刑が行われた。


結局、一人の妃を除いた全ての王族とその母親合計48人が犠牲となったがこれで事件は終息した。首を切断、体全体をバラバラに切断するなど、シューラインが行った極悪非道な犯行から彼女は俗称『悪魔』『最悪の魔女』と呼ばれている。そして事件を解決に導いたカレイ・パリスンは英雄として称えられた。なお、次のページからは事件のより詳しい犯行と犯人のことを解説する…。》


この項目を全て読んでシンはこの事件は明らかにおかしいと感じた。


まず殺害に使われた魔法とシューラインの魔法の特徴が一致と書かれているが、確かにこの世界の魔法は同じ属性、同じ魔法であっても使用者によって特徴が出るものだがそれだけで個人を特定できるものではない、と今まで読んできた魔導書に書かれていた。勿論読んできた魔導書が古く、詳しくなかったという可能性もあるが、それが確たる証拠とは到底思えなかった。


次にシューラインは『読心魔法から逃れられる魔法の開発』を研究していたと書かれているが本当にそんな研究がなされていたのかと思った。そもそも読心魔法は罪を認めない犯罪者が本当に犯罪を犯してないか調べるために神が授けたものとなっているはず。それなのに王の妃が神聖な読心魔法をおおっぴらに研究するか?するにしてももっと精度を高めるとか研究する方法があっただろうに。もしくは研究内容を誰かに改ざんされたかのどちらかだとシンは考えた。


そして最後に完全におかしいと感じた所はカレイ・パリスンが王族が殆ど殺害された後に確たる証拠を持って現れるという所だ。確たる証拠を持っているのならなぜそれを王族がここまで殺害される前に出さなかった?それにこの歴史書の事件の解説のページにはシューラインとカレイは姉弟と書かれている。それが真実なら全て隠せばいいのになぜそれを公表した?他の事はまだ怪しいという確信が持てないがこれだけは完全に怪しいと確信できた。


これでシンの心に火がついた。真実を暴きたいという気持ちが体全体にこみあげてきた。


だがこれだけでは、この歴史書だけでは真実なんて暴けない。これが一番新しいと少女は言っていたがこれが一番詳しいとは言っていない。そもそも事件の全てがこれに載っているわけではない。どの王族がどのように殺されたのかこの歴史書には載っていないのだ。解説の所にはシューラインとカレイの関係や、どれだけ世間が恐怖に陥ったか、この歴史書の著者の自論、読心魔法なしで処刑することに反対した者たちのこと、そして大まかな殺害方法が書かれてあるだけだった。


シンの弱い者いじめの次に嫌いなことは冤罪だ。だから何に対しても確たる証拠がないと犯人だと決めつけないのだ。


もっと詳しい歴史書が見たい、シューラインの研究内容が知りたい、もっと事件の詳細を知りたい、そしてカレイ・パリスンについて調べたい。


シンがそう思っていると少女が本を読むのを止め、傍にあった綺麗な紙に何かを書きはじめた。そして何かを書き終えるとその紙を持ってシンのいる所まで持って行って悩むシンに紙を渡した。


「ねぇ、ちょっとこれを見てくれない?」


渡された紙にはとある住所と『ルナ・シンバル』と書かれていた。


「これは……?」


「国立図書館の地図と私の名前よ。国立図書館はこの国のありとあらゆる本が集められてる……いいえ、この国で発行される本が最終審査のために集められる場所よ」


「えっ……ということは」


「そう、あなたが真に求めている本が此処にはあるはず、とはいっても本になっていないものはないんだけどね」


そう言って少女は少し笑った。


「でも名前の意味は……」


「それは招待状みたいなものだと思って。国立図書館に入るにはある程度の順序がいるんだけどこのメモをそこにいる司書に見せれば一日くらいは入れるわ」


「……なんでここまでしてくれるんですか?」


「あなたの顔よ、さっきまでのあなたの顔は知りたいという欲求に駆られていたからね。そんな顔されると気になってしょうがないわ。だから手助けをしようと思ってね」


そこまで顔に出ていたのかとシンは鏡を見たいと思った。


「ですが……」


「それに、今のあなたが目当てな生徒からも逃げられるから一石二鳥じゃないかしら?それに人の善意はしっかり貰っておくべきと思うわよ」


確かに少女……いやルナ・シンバルの言うとおりだった。今のシンは学園中の生徒から注目を集めている。それならこの際首都にあるこの国立図書館に逃げてほとぼりを冷ますと同時に真実を見つけ出すのが最適な手段だと思った。


「わかりました、ありがとうございますルナさん。これのお礼はいつか必ずお返しします」


そう言ってシンは立ち上がりルナに向かって深々とお辞儀をした。


「それでは行ってきます、色々とありがとうございました」


シンはお辞儀から間髪入れずに図書室から走り去っていった。読んでいた歴史書をそのままにして。


「全く、片づけてから行きなさいよね……」


だが本を元に戻すときのルナの顔は何処か嬉しそうだった。


「ルナさんか……そう呼ばれるのも男の人に敬語を使われるのも初めてね、面白い人だなあの人は」


そう言ってルナは本を戻したあと先程まで読んでいた恋愛ものの本をまた読み始めた。そのタイトルは『高貴な王子様』、魔法の天才でどこかの国の王子様と地味で目立たない読書家の少女の純愛をテーマにしたものだ。
















____________________________________________________________
















シェント学園は首都の近くにそびえたつシェント山の中腹あたりに建っている。なのでシェント学園から首都まで直ぐに着くのだ。


「ふぅ……さてと、まずは国立図書館に行って調べものだな。後のことは図書館決めよう」


首都は中心に王宮、その周りに賑わいのある城下町といった造りになっている。ルナに書いてもらった住所はこの近くにある。


シンは走ってその場所に向かうとそこには扉の上に大きく『国立図書館』と書かれたかなり大きな建物があった。高さは二階建てくらいなのだが幅が広いのだ。シェント学園を見た後では迫力に欠けるが。


ともかくシンはルナにもらったメモを持って図書館の扉を開けた。















それから五日間、シンは図書館から出なかった。














ルナの性格を変えてみました。まぁ前作ではキャラが崩れまくりでしたけどね……。

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