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第九話《勝利》

戦闘メインのはずが……。あと魔法の設定を前作から少し変えてみました。













自分が放った複数の火球がシンに当たるのを見てユーラインの口元が緩んだ。


「フフフッ、やはり落ちこぼれだったようですわね!」


ユーラインはすかさず新しく火球を作り粉塵で姿は見えないがおそらく火球をもろに受けて痛みに悶えているであろうシンに向けて次々と放った。その火球で巻き起こる粉塵でシンの姿はまったく見えなくなった。


「フフフフフフフ……アハハハハハ!消えなさい落ちこぼれ!ここはあなたのような田舎者が来るところではありませんわアハハハハハハ!」


ユーラインは両手を広げて高笑いをしながら怒涛の如く火球を生みだしシンがいるであろう所に放っていった。


魔法決闘をするときに付ける腕輪は魔力を放出させるものだがそれは例えば火の魔法を受けて重度の火傷を負わない為、氷の魔法を受けて重度の凍傷を負わない為、つまり魔法によって瀕死の重傷を負わない為に付けるのだ。つまり火球のような威力の低くもろに食らっても軽度の火傷くらいしか負わないような魔法には何の意味も持たないのだ。勿論痛みは消えない。


だからユーラインは、観客は、ここにいる全員はシンの姿が粉塵で見えなくてもシンの今の状況が簡単に想像できた。悲鳴が聞こえないところからシンは今ごろ粉塵の中で次々に自分に襲ってくる火球に怯えているか声にも出せないほどの痛みで悶え苦しんでいるの二つに。


それでもユーラインは攻撃を止めなかった。一方的な決闘だとわかっていても、弱い者いじめだとわかっていても。


「アハハハハハハハハハハ……はぁ……」


そしてユーラインは満足したのか攻撃を止めた。だが少しずつ晴れていく粉塵を見ているユーラインの顔には虚しさが残っていた。やはり邪魔ものを排除するにしてもこんな汚いやり方をして気分がいい者なんていない。


ユーラインはおそらく痛みで蹲っているであろうシンの姿を見るまでもなく立ち去ろうとしたその時、


「どこにいくんだ?まだ決闘中だろ?敵に背を向けて隙を見せるのはどうかと思うぜ?」


この瞬間ユーラインの勝利を祝う観客の歓声が一気にどよめきに変わり、ユーラインも慌ててシンのいる方向を見た。それもそのはず、この決闘場にいる全員がシンはもう倒れていると思っていたからだ。


そして粉塵が全て晴れるとそこには砂埃で少し制服が汚れているが傷一つない状態で立っているシンがそこにいた。


「まったく汚すなよ、これあと三年間も着なくちゃなんねぇんだよ?」


「ど……どうして?」


制服の汚れを軽く払っているシンの姿にユーラインは驚きを隠せなかった。


「どうしてあなたは立っていられるんですか!?私の火球をあれだけ受けたのにも関わらず!どうして!?」


「どうしてって……そりゃ殆ど叩き落としてたからな」


「叩き落としたですって……?嘘ですわ!」


動揺しながらも直ぐに火球を作り放った。しかしシンはそれを見て少し笑みを浮かべた。


「疑問に思わなかったのか?なんで俺に向かって直線的に放った魔法弾で粉塵が撒かれるのか。それに火球は速くて数も放てる、だけど威力は低く普通は相手の隙を誘うため、もっと威力の強い魔法を放つための布石に使うもんなんだよ。こんな風に簡単にな」


そう言ってシンは右手を振り下ろし、簡単にユーラインの放った火球を叩き落とした。それを見たユーラインの顔には先程のような余裕はなく、驚きと動揺に満ちていた。


「確かにお前の魔法は速く威力も中々だった。でもそれも俺がここに来るときに考えた予測の範囲内だ」


シンのその言葉を聞いた瞬間ユーラインの心の底から怒りが込み上げてきた。それもそのはず、シンにはその気はないのだが産まれて初めて侮辱されたのだから。


「何が予測の範囲内ですか……ふざけないで下さい!」


ユーラインの右手に炎でできた槍が出現した。『火槍』である。その槍頭に切られると切断された皮膚に火傷を負わせることができる槍を生みだす魔法だ。


「たかだか火球を防いだくらいで調子に乗らないで下さい!」


そして身体強化魔法で自身を強化してシンに向かって突進した。


「速いな、それでも俺にとっては遅いな」


しかしシンは一瞬の内にユーラインの背後に回った。決闘場にいた全員がその動きについていけなかった。


「えっ……」


ユーラインはさっきまで自分の前にいたシンが一瞬にして消えたことに驚いて何が起こったのかわからないといった顔をしながら反射的に後ろを振り向こうとしたがシンはすかさずユーラインの背中に右手を当てた。


「あっ……」


「おっと」


するとユーラインが弱弱しい声を上げて膝から崩れ落ちそうになった。しかしシンが倒れる直前にユーラインを両手で抱えたため地面に着くことはなかった。


「勝者、シン・ジャックルス!」


そしてゲイルの宣言でできた少しの静寂の後、ものすごい勢いの歓声が決闘場全体に響き渡った。


「えっ、なにこれ?え?え?」


しかしシンはこんな歓声に慣れておらずただただ困惑するだけだった。


先程火球を叩き落したりユーラインの背後に一瞬で回った動き、そして気絶させた魔法はシンがこれまで積み上げてきた努力の賜物だ。


動きに関しては身体強化魔法の働きもあるがそれ以前にシン自身の身体能力が凄いのだ。その証拠にシンは火球を叩き落としたときに魔法なんて使っていない。幼少期から鍛えに鍛えたその体は外見には出ていないが鋼のようだった。だから初級魔法なら素手で対応できるまでになっていた。さらに瞬発力も異常に高くそれに身体強化魔法を加えれば先程のように神速の如く動けるようになるのだ。


そして気絶させた魔法は雷属性の魔法で『雷装』という電撃を身に纏い雷属性から身を守る防御魔法をシンなりに手を加えたものだ。右の掌だけに電撃を纏わせてその電撃の電流を殺傷能力…というよりは腕輪に反応されないようにできるだけ下げ、電圧を上げた魔法で、前世でのスタンガンのような魔法だ。完成したのは1年前だった。だがスタンガンと同じで完全に気絶させることができず、数分間放心状態にさせることしかできない。実際に今のユーラインは全身が少し硬直していて放心状態だが意識はあるみたいだ。だがその数分間は立ち上がることができない為魔法決闘では今回のように気絶とみなされる。


このように実力の片鱗を見せつけたシンだが、いまだに鳴りやまない歓声におろおろして今では決闘で見せた姿は見る影もなかった。そしてユーラインを肩に担いで近くにある保健室に向けて走り出した。

















____________________________________________________________




















決闘も終わり、興奮が冷めやまない生徒たちが下校する中、学園長室に訪問者が来ていた。その人はゲイル、シンとユーラインの担任だ。


「学園長の言うとおりシン君とユーライン様が決闘をしました」


「そうじゃな、じゃがまさかこんなに早くするとは思っていなかったな」


ゲイルは元々一人の王族の側近だったが王族連続殺人事件で主人を失い今はシェント学園教師に納まっている。勿論ユーラインが王族だということも、災いの子のことも知っている。ただしこの学園でそのことを知っているのは学園長とゲイルしかいない。


「やはり学園長はあの二人のどちらかが災いの子だと考えているんですよね?いえ、それだけではない、あなたは不測の事態に備えて全てを知っている私に新入生の担任の職を与え、私のクラスに災いの子と思しき生徒たちを集めて監視をさせようとしていますよね!」


ゲイルのその問いに学園長は窓の外に移る生徒たちが戯れている中庭を見たまま無言を貫いた。


「ですが今回の決闘で私は確信が持てました。シン君が災いの子だとね!」


そのゲイルの怒りが混じった言葉に学園長が漸く口を動かした。


「確かに先程の決闘でシン君が見せた実力を見たらそう言わざるを得ないだろう。だがそう決めつけるのはまだ早いぞ」


そして学園長はゲイルのいる方向にゆっくりと振り向いてこう付け加えた。


「それに、彼があの実力だということはまだ私の予測の範囲内じゃ」


「どういう……ことですか?確かにシン君の入試成績は全て満点でした。ですがそれと決闘の実力は違うでしょう!あの動き、あの子が13歳の新入生だとは到底信じたくありません!あの子が災いの子以外考えられませんよ!」


ゲイルの疑問に学園長は淡々と答えた。


「そう思ってしまう君の気持ちもわかる。しかし私たちは教師だ、生徒に恐怖心、劣等感を持ってはいけない。そして彼を災いの子だと決めつけて差別するのもいけない。それに先ほども言ったようにまだそうと決まったわけじゃないじゃろう?」


「しかし……」


「確かに君は王族の側近で色々なことを知っている。災いの子のことを始め一般人では一生知ることのないようなことをたくさん知っている。だがそれに振り回されてはいかん」


ゲイルはこの老人が不気味に思っている。ここへ来てから学園長のことをずっと見てきたが生徒の前では少しおかしい普通の老人という印象しかない。だがこういった場面ではどこまでも状況を予測していてさらに人に本心を見せないようにしている。しかも的確に相手の心を見透かしている。そして王族の側近の自分でもわからないようなことを知っている。何を企んでいるのか、これから何をしようとしているのか全く分からない。ゲイルにとっては本当に不気味な存在だ。


「用がそれだけなら下がりたまえ、明日からの授業の準備があるだろう?」


「わかりました……」


ゲイルはどこか納得がいってないといった顔を見せながら学園長室を出ていった。


そして自分しかいなくなった学園長室で学園長が自分専用の椅子の背もたれに身を任せボソッとこう呟いた。


「そろそろ来るじゃろうな、本当の災厄が……」


その呟きは誰にも聞こえず虚空へと消えていった。


















やばい、ネタキャラだった学園長が……。

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