宏ちゃんとボク
最終的に死の描写があったり、詳細な描写は避けていますが暴力表現が含まれます。
苦手な方はご注意ください
宏ちゃんとボク
~ありがとうをあなたに・・・~
ボクが宏ちゃんと初めて会ったのは、近くの公園だった。
小学校の帰り道、公園に寄り道した宏ちゃんは、公園のすみっこでうずくまっていたボクを、見つけてくれた。
その頃のボクは、いくじほーき・・・というのをされていたみたいで。
宏ちゃんに会う前のボクは、お腹いっぱいになったことがなかった。
宏ちゃんと会ったその時も、ボクは腹ペコだった。
「どーしたの?」
宏ちゃんの声に、初めは気が付かなかった。
「・・・ねぇ!」
もう一度かけてくれた声に、やっとボクに言ってるんだって気付いて・・・
ボクが顔を上げると、宏ちゃんは、にぱっと笑った。
小学生の・・・宏ちゃんくらいの男の子たちにいじめられたことがあったボクは、怖くて逃げようとした。
けど、お腹が空いてて・・・あんまり動けなくてまたしゃがみこむことになった。
「・・・・・・おなか、空いてるの?」
ボクがすごくやせっぽっちだったからかな?
何にも言ってないのに、宏ちゃんは、ボクがお腹が空いてることに気付いてくれた。
「・・・パン、たべる?牛にゅうもあるよ!」
宏ちゃんは、ランドセルから食パン一枚と、200mlの牛乳を取り出して、ボクにくれた。
ボクは目の前に出てきた食べ物にとびついた。
ボクのお腹に、2日ぶりに食べ物が入った。
「どう?おいしいか?」
やさしく訊いてくれた宏ちゃんに、ボクは答えたかったけど・・・
話すことは、できなかった。
「・・・ねぇ、おうちどこ?お母さんとこ、かえんないと。しんぱいしちゃうよ?」
母さんが、心配しているわけがない。
ご飯もくれない人が、話しかけてくれたこともない人が、ボクがいなくなったからって心配するかな?
いなくなったことも、気付いてないんじゃないかな?
そう言いたかったけど・・・言えるわけがなくて。
「・・・おうち、かえりたくないの?」
固まったままだったボクに、宏ちゃんは首をかしげた後、そう訊いてきた。
ボクは、うなずくことしかできなかった。
「そっかぁ・・・。じゃあ、ぼくのおうちにおいでよ!おかあさんにおねがいして、ぼくのおとうとにしてもらうんだ!」
その言葉がすごくうれしかったから、ボクはしゃべれない代わりに、宏ちゃんに抱きついた。
ありがとう
そう伝えたくて
お腹がいっぱいになって少し元気になったボクは、宏ちゃんのおうちに連れていってもらった。
「ここでまってて。お母さんに、おねがいしてあげるから。」
弟ができる!てうれしそうな宏ちゃんの言葉にうなずいて、ボクは宏ちゃんが戻ってくるのを待った。
けど・・・
おうちから出てきた宏ちゃんは、うれしそうじゃなくて・・・
泣いちゃいそうな顔だった。
どーして泣いてるの?
何か悲しいことがあったの?
ボクが近くに行くと、宏ちゃんはぎゅってボクを抱き締めてくれた。
「ごめんね・・・。おとうとに、できないって。おうちにかえらないとダメだって。」
宏ちゃんの悲しそうな声に・・・ボクも、悲しくなった。
ごめんね、無理なお願いしてもらっちゃって・・・
ごめんね、ボクがうちに帰りたくないなんて言ったから・・・
ごめんね、宏ちゃんをそんなに悲しませちゃって・・・
ごめんね・・・
大丈夫だから。
ボクは、おうちに帰るから・・・
だから、お願い・・・宏ちゃん。
笑って?
宏ちゃんの涙を見たくなくて、宏ちゃんの目から流れる涙を、ぬぐって・・・まだぬれてるほっぺたに、ほおずりをする。
「ちょっとっ・・・くすぐったいよ・・・!」
宏ちゃんは逃げるみたいに手をはなしちゃったけど、その顔は笑ってた。
それだけで、ボクはうれしかった。
ボクは、おうちに帰った。
そこにはもう、お母さんは帰ってこないけど。
そこが、ボクが生まれたところだから。
それに・・・もうボクはさみしくなんかなかった。
宏ちゃんが、いてくれるから。
「ゆうー!」
宏ちゃんの声が聞こえると、ボクは飛び起きて、おうちを駆け出す。
“ゆう”っていうのは、宏ちゃんがボクにくれた名前だ。
宏ちゃんがおうちまで送ってくれたとき、
「ぼく、ひろゆき。お前、なまえなに?」
そう訊いてくれたけど、答えられなかった。
しゃべれないから、じゃなくて・・・
ボクは、誰かに名前で読んでもらったことがなかった。
何にも言わないボクに、宏ちゃんはうーん・・・て悩んだ後、
「じゃあ・・・お前は、きょうから“ゆう”な!わかったか?ゆう!」
ボクに、名前をくれた。
ボクは、“ゆう”になった。
ボクはうれしくて、大きくうなずいた。
「ゆう。今日は、お肉もってきたんだ。」
宏ちゃんは、給食のおかずとか、パンとか、牛乳とかを持ってきてくれる。
学校を休んだお友達の分をもらってきてくれたり、自分が食べるのをがまんしてもってきてくれたりする。
「ゆう、おいしい?」
ボクは、しゃべれない分、宏ちゃんに、ありがとうって、笑った。
ボク、うれしいんだよ、て。
宏ちゃんは、いつも小学校が終わると、ボクのところに来てくれる。
公園に遊びに行くと、宏ちゃんと同じくらいの年の子たちは、みんなお友達と遊んでいた。
宏ちゃんは、学校のお友達と遊ばないのかな?
その理由は、宏ちゃんが、元気じゃないときに話してくれて、わかった。
宏ちゃんは、まだ小学校でお友達がいないんだって。
だから、学校では一人で、さみしいんだって。
宏ちゃんが悲しそうで、ボクも悲しくなって・・・
ボクがいるから・・・宏ちゃんは一人じゃないから・・・
そう言いたくて、宏ちゃんの足にくっついた。
ホントは、前に宏ちゃんがボクにしてくれたみたいに、ぎゅってしたかったけど・・・
ボクの体は小さくて、できなかった。
「ゆう・・・ありがとう。」
そんなことしかできなかったけど、宏ちゃんはわかってくれたみたいで・・・
しゃがんで、ボクの頭をなでてくれた。
頭をさわられるのは、なれてなくて変な感じがしたけど・・・
ありがとうって言ってもらえたことがうれしかった。
「ゆうは、ぼくのしん友だからな。」
本当に?
ボク、宏ちゃんの親友でいいの?
「ゆう・・・ずっと、いっしょだぞ?」
うん!
ずっと、一緒・・・
一緒に・・・いたかった・・・
しばらくすると、宏ちゃんにも学校のお友達ができた。
当たり前だよね。
宏ちゃんは、すごくやさしい、いい子なんだから!
宏ちゃんが楽しそうなのが、うれしかった。
けど・・・
少し、寂しかった。
宏ちゃんは、今まで通り食べ物を持ってきてくれたし、一緒に遊んでくれた。
でも、ときどき・・・食べ物だけ置いて、お友達と遊びに行っちゃうようになった。
わがままを言っちゃいけない。
そう思うのに・・・
宏ちゃんが取られちゃったみたいで、ちょっと、嫌だった。
宏ちゃん・・・ボク、宏ちゃんに教えてもらったこと、がんばって覚えたんだよ。
言葉がしゃべれない代わりに、気持ち伝える方法考えようって・・・
宏ちゃんとお話したくて、がんばって覚えたんだよ・・・
ボクが宏ちゃんと会ってから、五回目の夏がきた。
宏ちゃんは、小学校の高学年で、やさしいお兄さんだ。
「ゆう!」
宏ちゃん!!
あのね・・・ボク・・・!
「はい、今日は、カレーパン。」
・・・ありがとう。
「じゃあ、ぼく、ともだちとプールいくから。じゃあな!」
あ・・・宏ちゃん・・・
行っちゃった・・・
今日も・・・お話できないんだ・・・
さびしい・・・
つらいよ、ボク・・・
ボクには、宏ちゃんだけなのに・・・
宏ちゃんには・・・ボク以外にも、たくさんいるんだ・・・
あついよ・・・
お腹すいた・・・
カレーパンだっけ・・・
宏ちゃんがくれた食べ物・・・食べなきゃ・・・
・・・・・・うぇ・・・
なんでだろう・・・
なんか、まずい・・・
お腹がすいてるのに、体は危険信号を発していた・・・
食べないほうがいい。
ボクは、外側のパンを一口だけ食べた。
宏ちゃん・・・
どこにいるの?
一人で外を歩いたら、どこかの施設に連れてかれちゃうかもしれないから・・・て、一人で勝手に外出ちゃだめだよって・・・
そう、宏ちゃんに言われてたけど・・・
ごめんなさい。
約束やぶって・・・ボクはわるい子だ・・・
けど・・・
たすけて・・・
なんか、よくわからないけど・・・
ふらふらする・・・
あつい・・・
お腹すいた・・・
ボクは、ふらふらしながら、いつも宏ちゃんが来る方にむかって歩いた。
「なんだぁ?このチビ。」
知らない声が、上から聞こえた。
「きったねぇー。ちゃんと風呂入ってんのか?」
「つーか、邪魔。ふらふらしてんじゃねぇよ。」
黒い服・・・
たぶん、中学生だ。
宏ちゃんよりも少し大きい男の子が、二人いた。
「俺さぁ、今イライラしてんだよねぇ。」
「お前、それいつもじゃん。」
「今日はマジ。先公が説教してきやがった。」
四つの目が、ボクを見た。
いたい・・・
くるしい・・・
あつい・・・
なんでこんなことするの?
お腹が痛い
背中が痛い
足が痛い
腕が痛い
心が・・・痛い・・・
「なぁ、このくらいにしといたほうがいいんじゃねぇ?」
「まだ、むしゃくしゃ消えねぇんだけど。」
「でも、こいつ動かねぇじゃん。さすがにヤバくね?」
「・・・仕方ねぇや。お前んちでゲームするぞ。」
「コントローラー壊すなよ。」
よかった・・・
行った・・・
なんでだかよくわからないけど、いじめられたみたい。
なんか、むかつく・・・らしいけど、どういう意味だろう?
ボク、何か悪いことしちゃったのかな?
お腹けられたり、頭たたかれたり・・・
ボクの普通より小さな体は、簡単に持ち上げられたり地面に落とされたりした。
逃げたかったけど、ボクには走る元気も無かった。
なんでこんな痛いことするんだろ?
身体中が痛い・・・
歩けないよ・・・
助けて・・・宏ちゃん・・・
「ゆう・・・?」
あれ・・・宏ちゃんの声だ・・・
空はもうだいだい色で、宏ちゃんの顔を見ようとしても、黒くなっててよく見えなかった。
「ゆう・・・!?」
宏ちゃんが、ボクの横に来た。
宏ちゃん・・・
おかえりなさい。
ボク・・・
こわかった・・・
宏ちゃんに飛び付きたいのに、
飛び付いて、「大丈夫だよ」て頭なでて欲しいのに・・・
なんで立てないの?
「ゆう・・・、ゆう!ゆう!!どうしたんだよ!!何があったんだよ?」
宏ちゃんに答えたいのに・・・それができないまま、ボクの目の前は真っ暗になった。
「ゆう・・・」
宏ちゃんの優しい声で、ボクは目を覚ました。
宏ちゃん・・・
「大丈夫か?」
うん・・・
もう大丈夫だよ・・・宏ちゃん。
「ごめんな・・・僕・・・」
宏ちゃん・・・泣かないで。
ボク、謝らないといけないんだ。
ボクね、宏ちゃんとの約束破っちゃったの。
約束守って、ずっとボクの家にいれば、こんな目には合わなかったんだ。
だから・・・悪いのはボクなんだ。
宏ちゃんは、悪くない。
そう、伝えたくて・・・
でも、やっぱり、しゃべれなくて・・・
だから、ボクは・・・
目の前にあった宏ちゃんの手に、ほおずりをした。
ボクは、宏ちゃんが大好きなんだよ。
だから・・・宏ちゃんがいてくれれば、それだけで、大丈夫なんだ。
そんな気持ちだけでも伝わったらいい。
そう思って。
「ゆう・・・許してくれるのか・・・?」
不安そうな・・・今にも泣きそうな宏ちゃんに、笑ってもらいたくて・・・
ボクは、精一杯の‘うれしい’を表現して、宏ちゃんを見つめた。
それから、ボクは、宏ちゃんの家に住めるようになった。
正確には、宏ちゃんの家がある敷地にある、宏ちゃんの家の隣の小さな家に、だけど。
毎日、宏ちゃんの顔を見れるようになった。
それだけでも、すっごくうれしかった。
ボクがここに住むことに、宏ちゃんのお母さんは、反対だった。
でも、宏ちゃんが一生懸命説得してくれて・・・
途中からは宏ちゃんお父さんも味方してくれて・・・
宏ちゃんたちの家に入らないって約束で、許してくれた。
どこかの施設の人が来て、ボクのことを連れてこうとしたこともあったけど、宏ちゃんが、「僕が、ちゃんとめんどう見るから!」て、言ってくれて・・・
ボクは、宏ちゃんのオトウトになった。
宏ちゃんは、中学生になった。
宏ちゃんの家のすぐ隣の小屋に住めるようになって、宏ちゃんともっと近くなれた。
最初はそう思った。
けど・・・中学生になって、宏ちゃんは今までよりずっと忙しくなった。
部活動とか、勉強が大変なんだって。
仕方ないんだって、頭ではわかってる。
けど・・・
やっぱり、さびしかった。
何にもできないバカなボクだけど、宏ちゃんにほめてもらえるのがスキで。
宏ちゃんが教えてくれることは、なんでも覚えた。
そのたびに、頭をなでてくれる手が・・・
少しずつ大きくなってきた宏ちゃんの手が・・・
すごくあったかくて、大好きだった。
けど・・・そうやって、頭をなでてくれることも無くなった。
というか、宏ちゃんが、ボクにさわることも減った。
あのとき・・・ボクが、こわがったから?
入学式の日の朝、宏ちゃんは朝一番にボクの所に来てくれた。
「今日から中学生なんだぞ。見ろ、制服だぜ?似合ってるか?なぁ、ゆう。」
宏ちゃんが来てくれたのはすごくうれしい
なのに・・・
宏ちゃんが伸ばした手に、ボクの体は、ビクッて震えた。
あの夏の日・・・ボクをいじめた人・・・その人と、同じ制服。
宏ちゃんは、あの人じゃない。
同じ服を着てても、宏ちゃんがボクをいじめるわけがない。
わかってるのに・・・
体が震えた・・・
宏ちゃんなのに・・・
こわかった・・・
そんなボクを見て、宏ちゃんがショックを受けたように・・・表情を固めた。
宏ちゃんは、ボクをいじめた人が、中学生だったなんて知らない。
だから、なんでボクがこわがるかわかるわけない。
何回かそういうのが続くうちに、ボクが怖がるのは宏ちゃんが制服を着てるときだけだって気付いてくれて、
それからはご飯を持ってきてくれるときとか、時々遊びに行くときとか、私服を来てくれるようになった。
けど・・・
宏ちゃんは、ボクの頭をなでてくれなくなった。
昔みたいに、ギュッて抱き締めてくれなくなった。
宏ちゃんは優しいから、ボクがこわがるのを見たくないんだよね・・・?
昔より近くなったと思った距離は、ずっと遠くなっていた。
誰でもない、ボクのせいで。
一日一食だった食事が、宏ちゃん家にいってから、二食になった。
そのおかげで、成長が止まっていたボクの体は、前より少し大きくなった。
やっぱり、中学の制服は怖かったけど
宏ちゃんが大好きだってことは、変わらなかった。
宏ちゃんは、高校生になった。
中学生の時より、もっと帰りが遅くなったりして・・・
お休みの日も、出かけることが増えた。
ボクは一人の時間が増えたけど、でも・・・
宏ちゃんが、忙しい合間をぬって、遊びに連れていってくれることが、何よりうれしくて、楽しみだった。
この頃から、ボクは時々体を重く感じたり、足とか手が痛いって思ったりするときがあった。
だから、そんなときは、食欲もなくて、なんにもしないで、一人で小屋の中でじっとしてた。
でも、もし宏ちゃんが来てくれたら、そんなこと忘れて、宏ちゃんに甘える。
宏ちゃんに、嫌われたくなかったから。
ねぇ、宏ちゃん。
ボクは・・・まだ・・・
宏ちゃんの親友?
『ゆうは、ぼくのしん友だからな。』
宏ちゃんが、小学生の時言った言葉。
宏ちゃんは、覚えてるかな?
覚えてないかもしれないけど・・・
ボクの一番は、昔からずっと、宏ちゃんなんだよ?
宏ちゃんの、今の親友って、誰?
ボクは、もう弟なのかな?
弟でもいいや。
宏ちゃんがそばにいてくれるなら。
けど、弟でもなかったら?
ボクは、ずっと・・・
宏ちゃんの親友でいたい。
ボクも、宏ちゃんの一番になりたい。
ねぇ・・・宏ちゃん・・・
今日も、体が重い。
「ゆう、おはよう!」
今日の宏ちゃんは、私服だった。
学校が休みの日なんだ。
ボクは、体のことなんか無視して、宏ちゃんに駆け寄った。
宏ちゃん、どうしたの?
今日も、遊んでくれるの?
ボクは期待に、胸をはずませた。
「ゆう、今日はな、」
うん!
宏ちゃんは、すごくうれしそうだった。
「今日は、初デートなんだ。」
・・・・・・え?
でぇと?
「俺さ、昨日彼女できたんだ。すげぇだろ?向こうから告白してきたんだぞ。うらやましいか?ん?」
かのじょ・・・
自分のことを僕じゃなくて俺って言うようになった宏ちゃんは、昔よりもずっと背が伸びて、かっこよくなってた。
告白してくる子がいたって、不思議じゃない。
けど・・・
「最近、遊んでやれてなくてごめんな。今度、紹介するからさ。」
先週は、友達と遊びに行って・・・その前は模試、その前はテスト勉強・・・
今日は、遊んでもらえると思ったのに・・・
けど、そんなことより・・・
「じゃ、行ってくるな。」
うれしそうな顔をして、出かけていく宏ちゃんを見て・・・
心臓がきゅーってなった。
宏ちゃんは、ボクといるよりも、彼女さんといる方が楽しいのかな?
そう考えたら、頭まで痛くなってきた。
宏ちゃん・・・
なんでだろう・・・?
苦シイよ・・・ボク・・・
宏ちゃんに、会いたくなった。
ボクを親友と言ってくれた頃の宏ちゃんに、会いたくなった。
宏ちゃん・・・
ボクは、重い体をなんとか動かして、家を出た。
*****
ゆうは、俺を救ってくれた、大切な奴だ。
ゆうは、俺に世話になってる・・・そう、思ってるみたいだし、母さんもそう思ってると思う。
けど、違う。
ゆうがいなかったら、今の俺はない。
ゆうがいたから・・・
ゆうは、俺に、友達と遊ぶ楽しさを教えてくれた。
誰かに感謝される、喜びも教えてくれた。
俺を頼ってくれる存在が、うれしかった。
それと・・・
そんな大切な奴を、失いかけたときの悲しみと、不甲斐ない自分への怒りと後悔、苦しさ。
いろんなことを、ゆうのおかげで知った。
辛いことだったけど、そのおかげで今の俺があると思うし、
そんなことがあっても俺を許して、無条件の信頼を寄せてくれたゆうが、ますます大切になった。
だけど・・・
俺は、ゆうをこわがらせた。
なんでかわからなかったけど、ゆうに、拒絶されたような気がした。
そのことが、思っていた以上にキツかった。
なんとなく原因がわかってからも、あの光景が忘れられなくて・・・
ゆうに拒絶されるのがイヤだった。
自分が、どれだけゆうに依存してたかがわかって、怖くなった。
俺がなでてやると、ゆうはすごくうれしそうな顔をする。
それを知ってて・・・
してやらなかった。
俺ばっかり、依存してるのが怖かった。
ゆうには、ずっと俺を追い続けてほしかった。
なんてわがままだろう。
自分で、自分に呆れた。
でも、直すことはできなかった。
初めてできた彼女との、初めてのデートを終えて。
俺はまっすぐ家に帰って、真っ先にゆうの小屋に行った。
けど・・・
ゆうは、
そこにはいなかった。
なんで?
見間違えか?
俺は焦って、小屋の中を見回した。
用意したご飯はそのまま。
あいつ・・・食べてないのか?
そういえば、最近、よく残してた。
今いないことと何か関係があるのか?
もっといろいろと調べてみたら・・・
小屋の壁や柱に、何かで引っ掻いたり、ものをぶつけたりした跡が残っていた。
ボロボロになった、毛布もあった。
・・・ゆうが、寂しいって言ってる・・・
言葉は話せないけど・・・
ゆうは、心から叫んでたんだ・・・
さびしいって、
つらいって、
一人じゃイヤだって。
なんで俺は、気付かなかったんだろう・・・
ゆうを探さなくちゃ!!
俺は、確かな宛てもなく・・・だけど、妙な確信を持って、家を飛び出した。
ゆうは、見付かった。
ゆうは・・・昔住んでた、ゆうの家の前に寝転んでた。
なんで、こんなところにいる?
そう思いながらも、わかっている自分もいた。
ゆうは・・・あの頃に、帰りたかったんだ・・・
俺が、ゆうを目一杯かわいがって、ガキなりに、一生懸命世話して、
なんも考えずに、ゆうと遊んで、楽しんでた頃に。
「ゆう・・・ごめんな。俺・・・お前に甘えてた・・・。」
寝転んだままのゆうの体を抱き上げる。
「ゆう・・・ごめんな、ゆう。」
*****
「・・・な、ゆう・・・」
・・・宏ちゃん・・・?
どうして?
宏ちゃんの声がした。
ここは、ボクのおうちで・・・
彼女さんとデートに行った宏ちゃんが、こんな所にいるわけがない。
宏ちゃん・・・
目で見て、確かめたいのに・・・
まぶたが重い・・・
「ゆう?」
宏ちゃん・・・?
やっぱり、宏ちゃんだ・・・
「ゆう、起きたか?」
宏ちゃん・・・なんでここにいるの?
「もう時間遅いぞ。一緒に帰ろう。」
宏ちゃん・・・
あのね・・・ボク・・・
「ゆう?」
ごめんなさい・・・宏ちゃん。
探しに来てくれて、ありがとう。
ボク、まだ宏ちゃんの親友でいていいの?
ボクね、宏ちゃんのこと、大好きなんだよ。
だから・・・だからね・・・
「え・・・ゆう?」
ボクは、宏ちゃんにほおずりした。
宏ちゃんのにおい、
あたたかさ、
「ばか、くすぐったいって。」
宏ちゃんは、そういいながらも、頭をなでてくれた。
久しぶりだ・・・
この感覚。
うれしい・・・
やっぱり・・・だいすき・・・
*****
「・・・・・・ゆう?どうした?・・・・・・ゆう?」
空き地と呼ぶには狭すぎる、家と家の間の小さなスペース。
「・・・おい、ゆう!」
横にした、ボロボロになった段ボールの中に、古ぼけた子供用の毛布が敷いてあるだけのものの前に・・・
「ゆう、ゆう!」
年老いた犬の遺体を抱いて泣き叫ぶ、一人の少年の姿があった。
「ゆう・・・!!」
END
「ゆう」が何であるかは、結構早い段階で気付く人もいたかと思われます。
私が、初めて人間以外の一人称に挑戦した作品です。
しゃべれないのは人間じゃないから
カレーパン駄目だったのは・・・確か、玉ねぎダメでしたよね?
まず匂いで駄目かもしれませんが。
ただひたすらに主人を慕うわんこの物語です。
恋愛要素はないつもりですが、表現に不快感を覚えた方がいらっしゃったらすみません。
最後に、作者はペットへの暴力には断固反対です!
物語の展開上、あのような場面を設けましたが、推奨するものではありません。
それでは。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
追記
文章およびストーリーへの評価、ありがとうございます。
大変励みになります。
近作は短編でここで終わりですが、他の作品の執筆をがんばっていきたいと思います。