二話
早々と二話目。
片方スランプだと別の方はすらすら行くようです。
魔王様もネタだけはあるんだけどなぁ……
どうしたもんだろうと、召喚主を見下ろして考える。
召喚されてきたオレを見た瞬間、それはそれは嬉しそうに笑った召喚主である女の子はそのままその場に倒れこんだ。咄嗟に受け止めた身体は軽いし、手も足も皮と骨って感じでかなり細い。つーか、ぶっちゃけガリガリ。本人に言うつもりはないけど、召喚された直後は死人に呼ばれたのかと素で思ったぐらいだ。
潜在魔力はデカそうだけど、半覚醒にすら至ってないようで顕在魔力自体は随分小さいし、精気自体も弱弱しい。とりあえず、何時までもこんなあばら家って感じの所に女の子を放置する訳にもいかない。
抱き上げた身体はやっぱり軽くて、小さくて、今までオレを召喚するのは全員成人してたし、精気に満ち溢れてたから新鮮でもあり、このまま起きずに死ぬんじゃないかってちょっと不安になる。
「んー……とりあえず、飯かなぁ」
人間は、朝昼晩に三食食べるのが普通で、条件不足で食べれなくても、何日も食べてないと死ぬ生き物だ。この女の子の衰弱具合から見て、十分な食事をとってないのは明らか。召喚された理由もわかってないのに死なれたらつまらないし、見捨てたなんて兄貴にバレたら半殺しじゃすまない。八割方殺されるよなぁ、確実に。兄貴容赦ないし。
あばら家の一角に、多分女の子が整えたんだろう部屋があった。他の部屋より埃が少ないし、床もちゃんとある。薄い毛布と所々ほつれた寝袋、干し肉や干し芋の欠片に、中身が殆どない水袋もあった。使い魔に新しい寝袋と毛布を取ってこさせて、ついでに起きるまで見てろと言っておく。その間にオレは一回魔界に帰還。前に魔王城の厨房に飛んだら怒られたから、今日はちゃんと門から入った。
「エレノア義姉さ~ん」
「……何だ、アルアか」
「久しぶり~。あのさ、骨と皮だけって感じの人間の女の子に召喚されたんだけど、何食わせりゃいいかな?肉とか魚ってまずいんでしょ?」
また面倒事に首を突っ込んだのかとか言いながら、エレノア義姉さんは見事な包丁捌きで幾つかの野菜を一瞬で細切れにした。義姉さん、アディス将軍と剣で渡り合えるんじゃないの?軌道が途中で見えなくなったんですけど……。
微塵切りをさらに微塵切りにして小さめの片手鍋に入れて、そこに大鍋から美味そうな良い匂いのするスープを注ぎ込んで蓋をして、火をつける。魔王様の髪の色みたいに真っ黒な布を被せて、待つ事一分。布と一緒に蓋を開けると、いい感じに煮込まれた野菜スープができていた。
蓋の上に被せた布、魔王様が急いでる時とかの煮込み時間短縮の為にって時間経過を早める魔法を込めて作ってくれたらしい。ぶっちゃけ、兄貴が贈った物より大事にしてたりするもんだから、たま~に兄貴が複雑そうな顔をしてるのをオレは知ってる。
「ほら、持っていけ。いいか、一気に食べさせるなよ?最初は器に一杯分だ」
「りょーかい。義姉さんありがとね~」
「……イデアに迷惑かけるなよ」
「あはは、だいじょぶだよ~。……多分」
ってか、迷惑かける前に察知した兄貴が迷惑事ぶっ飛ばしに来そうで怖い。わぁ、すげぇリアルに想像出来た。にこやか~に微笑みながら背後に大魔神背負ってる兄貴。……うん、怖すぎる。
地上に戻ると、女の子はまだ寝てた。寝袋が微かに上下してるから、死んではないっぽい。目の下にくっきり隈が出来てるんだけど、ひょっとしてオレを召喚出来るまで不眠不休で召喚試してたりしたのかな?
使い魔達に魔法陣のあった部屋を調べに行かせたら、人間が魔法陣を描く為に使う道具を持って帰ってきた。特定の水晶を砕いて作るもので、破片が細かい物ほど少ない量で魔法陣が描ける。袋の縛り口に付着してた破片は砂粒ぐらいの細かさだったから、それがこの袋一杯にあったなら魔法陣十個分てところだろうか。
「はい?幻獣や精霊召喚の魔法陣?」
別の使い魔の報告に、オレ自身の片目と使い魔の目を一時的にリンクさせる。
見えたのは、確かに幻獣や精霊を召喚する為の魔法陣で、どうやらこの女の子、使い魔契約が出来る存在を召喚したかったみたいだ。何故か全部どこかしら間違ってて失敗してるけど。
「それで何で悪魔召喚の魔法陣になるのかねぇ?」
幻獣や精霊を使い魔にするのと、悪魔を使い魔にするのじゃ随分違う。前者は少量の召喚主の魔力と地上の食べ物で長期契約できるけど、悪魔と長期契約を正式に結ぶのはよっぽど魔力と精気に満ちてないと無理だ。何せ一回働く事に等価交換で精気や魔力を要求するのが今までの悪魔の普通だから。過去、調子に乗って頻繁に使役したお馬鹿な魔術師は干乾びて死んだらしいし。まぁ人間の時間で言えば悪魔が召喚に応じなくなって久しいのかもしれないから、そこら辺を忘れてるって可能性もない事はないと思うけど……。
「……悪魔召喚だって知らなかった、が正解な気がする」
すやすや、眠る女の子を見てそう思う。だってオレが召喚されて来たのを見て、すごくホッとしてたし嬉しそうだった。
さて、どうしたものだろう。義姉さん特製スープは冷めない様に魔法かけてあるから大丈夫だけど、問題はオレとこの子の関係だ。正式に契約した訳でもないし、この子の実力じゃそれは確実に無理。
とりあえず起きたら理由を聞いて、面白そうだったら付き合ってもいいだろう。
そう決めて、オレは起きるのを待つことにした。
実はイデアの弟でした、アルアくん。
エレノアは義姉であり料理の先生です。
習ってる時は背後に常に兄貴がいたとかいないとかw