一話
自重できずに魔王様の派生物です。
学園系になるかなぁ。
片割れは魔族なので色々ぶっ飛んでます。
知り合いの悪魔族の所で、新しく品種改良した植物だの自家製の果物で作った果実酒だのの話をしていた時、不意に珍しい物を見つけた。
淡い藤色に輝く、かなり控えめな召喚の魔法陣。人間が、悪魔の力を借りようとする時に出現する物。ここ暫く見てなかっただけに、えらく新鮮に見えた。
今まで人間が悪魔を召喚する時は、自身の裁量で召喚可能な最上位の者を望むからか、こっちに現れる魔法陣は目に付きやすい様にか派手な色が多かったし、自身の魔力を誇示するべく離れていてもわかるぐらい魔力を放出していた。しかし、今出現している魔法陣は目立たない控えめな色合いだし、魔力も陣を維持するのが精一杯といった風情。
「……なんだ、こりゃ?」
「召喚の魔法陣だろう、如何見ても」
「いや、そりゃわかるよ。けどさ、こんな全然自己主張してない魔法陣初めて見たよ、オレ」
オレの言葉に、知り合いの悪魔族も確かにと頷いている。何度か人間の召喚に応えた事があるから、この魔法陣が如何に奇妙か、オレもこいつもよくわかった。
「てかさ、魔王様が魔界豊かにしてくれたおかげで召喚に応える必要性なくなって、無視し続けてたからいつの間にか魔法陣見かけなくなったよね?」
「……そうだな。わざわざ面倒な事をしなくとも、極上の魔力や精気が簡単に手に入るからな」
そう、今の魔界は当代の魔王様の魔力が隅々まで行き渡って染み込んでるから、ここで育った植物は魔力を豊富に含んでるし、魔獣達も手強くなったけど苦労して狩る甲斐は十二分にあるぐらい肉質も味も良くなった。つまり、わざわざ人間界に行って人間襲ったり家畜襲ったり山野の獣襲ったり、召喚に応えて面倒な願い事を叶えてやったりしなくても、魔界で十分自給自足が出来るようになった訳だ。
悪魔族は腹減ったと思えば大気に満ち溢れてる魔力をちょっと摘めば良いし、吸血鬼族は悪魔族みたく空気中の魔力をそのまま摂取するのは出来ないけど、各集落の井戸の水とか、そこらの川の水を飲めば良い。豊富に含まれた魔王様の魔力がすぐに飢えを満たしてくれる。しかも味は極上だ。当たり外れの激しい人間の相手をするなんて馬鹿馬鹿しくなる。
魔王様が肉や野菜を調理した物を好むと知ってからは、悪魔族と吸血鬼族はあれこれと様々な野菜や果物を品種改良で生み出し始めた。ちょっとあの熱意は同族のオレでも軽く引いたよ。すげぇんだもん、あれ。
ともあれ、最初は魔王様の為にって始められた農業だったけど、いざやってみると楽しくてハマった奴らが意外と多くて――かく言うオレもハマった一人だけど――今では農業を楽しんでる。まぁ人間みたく汗水流してえんやらや、なんてしてないけど。耕すのも水遣りも魔力で出来るし。
主食が精気か魔力なだけで固形物が食べれない訳じゃないし、魔界で育った作物は味もそうだけど魔力を豊富に含むから、自分で育てた物を食べるのが最近の悪魔・吸血鬼両一族の習慣だ。
って、話がそれた。
まぁそんな感じで、苦労して人間と関わって時に割に合わない思いをしなくても、ちょっと頑張れば確実に美味しい食事にありつけるから、人間と関わる奴らはどんどん減ってった。人間の方でも、俺達が応えなくなった事に気付いたみたいで、ここ最近は召喚の魔法陣を見なくなってた所に、これだ。
しかも、今まで見たいに自己主張の激しい魔法陣じゃない。明らかに異色の奇妙な魔法陣。
「うん、ちょっと行ってくる」
「……力量的に釣り合んだろう」
「ダイジョーブ。だってオレだし」
「は?……あぁ、そうか。そうだな」
本来なら、こんな魔法陣じゃオレやこいつみたいな高位魔族を召喚するなんて夢のまた夢だけど、オレはちょっと特殊だからこの魔法陣を通って召喚に応える事が出来る。元が高位だから、契約で縛るのは無理だけど。まぁ単にこの魔法陣作り出した魔術師に興味があるだけで、契約するつもりなんてないから、そこらはオレには関係ない。
「じゃ、いってくるな~」
「騒ぎは起こすなよ」
「兄貴に怒られるような事はしないっつーの!」
笑顔で怒るからかなり怖いんだぞ、うちの年の離れた兄貴は。
とんでもない軽口をくれたそいつに言い返して、オレは気軽に魔法陣に足を踏み入れた。慣れた召喚特有の転移を感じつつ、まだ見ぬ魔術師をあれこれ想像してみる。
力量の差もわからない三下だったら、ちょっと記憶を弄くって忘れてもらって、地上観光してから帰ろう。兄貴の嫁さんに、まだ魔界にはない香辛料とか香草とか、地方特有の料理のレシピとかをお土産にするのもいいかもしれない。色々お世話になってるし。
地上に出るのも久々だし。ふふ、たーのしみ。
魔王様の続編はスランプで微妙に止まっております。
こっちは魔族の彼がよく動いてくれるから書きやすかった。