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不可死  作者: 狩瀬
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1 んなとこで何研究してんだ

とある山の奥の奥。ハゲた木が連なる森に、落ち葉で埋め尽くされた地面。どこからか変な鳥の声が聞こえてくるし、赤と白のキノコが生えているし全体的になんか不気味。

ーまぁ、死体を捨てるならこういうところだよね、という所である。

そんな山のど真ん中、普通なら熊かうさぎか未確認生命体しか足を踏み入れないような場所に、その研究所はあった。研究所といっても看板があるわけでもないし、小綺麗なエントランスがあるわけでもない。なんなら建物すらない。人が入れそうな場所もない。…マンホール以外は。

勘のいい読者の方ならお気づきであろう。そのマンホールが入り口である。研究所の。

「そんなとこで何研究してんだよ」という疑問については、「読み進めりゃあわかりまっせ」と答えさせて頂こう。

さて、そんなマンホール、どこに繋がっているか気になりませんか?気になるよな?気になると言え。

あーやっぱり?気になりますよね。答えはマンホールから数百メートル移動したくらいのところにあります。

地形読み込めてないのかな?と思う位、側面が垂直な谷があります。左右にずっーと広がっています。想像しにくい方は約ネバを見ましょう。グレイス・フーイールドの壁の向こうみたいな感じです。ただし対岸までの距離は3倍ほどありますが。

その谷の向こう側は地面ではなくて、近未来的な建造物が底の方まで続いています。そこに人一人がギリギリ通れるくらいの橋が縦に並んで2本掛けてあるだけ。上の橋の十メートルほど下にもう一本橋がありますが、こちらが先ほど紹介したマンホールと繋がっているのであります。上の橋はダミー。足を踏み入れた瞬間に高電圧が流れて即死です。

そんなおっかない研究所の最新部、日光が一切届かない、研究所長室。なんかどっかで見たことあるような部屋に、主人公、水無瀬琉也は居た。

「僕の登場までに随分と文字数使うんですねぇ、700文字ですよ,700文字。200字詰め原稿用紙の場合3.5枚。社会をより良くするための作文が書けますよ」

声を発したのは黒いソファーに座っている少年。色素の薄い髪に、奥の目が見えないほど黒いサングラス。簡単に言うとチンピラみたいな奴。

「登場して一言目がそれでいいの?『僕の名前は水無瀬琉也、どこにでもいる17さいの少年だ!』とか言わなくていいの?」

水無瀬に反応したのは、この部屋の主、月夜野雫。紅の頭髪を7、3で分け、肩にサスペンダーを通した人物。仕草からは大分大人びた雰囲気を醸し出しているが、やたらとでかい目やら幼く見える骨格やらのせいで、実年齢はわからない。多分幼く見えるだけのオバハン。

「この部屋に居て『どこにでも居る』はおかしいんじゃないですか?なんですかこの部屋。首都バーリソト 公園通り128にあるマンションですか。ピーナッツ好きですか」

そう、この部屋は某心読める系女子の家の間取りにそっくりなのだ。わざわざおいたのであろう箱型テレビまである。

「そんな明確に言わなくてもいいのに…著作権で引っ掛かったらどうするの」

「よく見てください、“バーリソト”です。“ン”じゃありません」

「あっそう。部屋のバリエーション他にもあるから変えようか?」

「そうしてください」

「オーキードーキー」

月夜野はギシッと怪しい音を立ててソファーの手すりを外した。中にはカラフルなボタンが数種類。その中から迷うことなく赤いボタンを選択し、プッシュした。

すると、ゴゴゴゴゴと音を立てて部屋が移動し始めた。

「押した。で良くないですか」

「ちょっと黙っててくれ」

「暇なのでそこにある薬品たちで爆弾作って仕掛けといていいですか?」

棚の中に置いてある瓶を指さして言った。

「ダメに決まってんじゃん。水無瀬、普通の17の少年はさ,こういう部屋がすげー動きしてるのとか見たら目をキラキラさせて喜ぶものなんだよ。いくら研究所長直属の戦闘員だからと言ってもさ、少年心は無くさない方がいいんじゃない?」

そう、目の前で爆弾作りを始めている17の少年は,超能力研究施設の戦闘員である。そういう超能力とかアニメでしか見たことない現象を研究している研究所なもんですから、「自分も能力持ちになって人生大逆転ー!」なんて考えた輩が尋ねてくるのも日常茶飯事。説得して帰るような一般人なら良いのだが、過去に数回、軍事レベルの戦力を用いてここを攻め落とそうとする奴らもいた。そういう奴らを撃退するために、水無瀬のような戦闘員たちが居るのである。ちなみに、彼らは全員能力持ち。

そんな凄い実力を持つ人なのだが、目の前の彼を見ていると、ふざけたやつにしか見えん。

「あ、ピーナツ入れたら痛そう。研究所長、使っていいですか。というか食べていいですか」

「だめだよ」

やはり、ふざけたやつにしか見えん。

そんなことを考えていると、ファミマの入店音が鳴った。部屋変え終わりましたよの音である。

見回すと、部屋はいつのまにかノーマルの研究所長室になっていた。四方が本棚に囲まれ,分厚い本で埋め尽くされている。まぁ小難しい本じゃなくて、ジャソプなんだけどさ。はじっこにマガジソもあるし。

「さ〜て序幕と打って変わってこんなゆるゆるじゃあ読者さんもどっか行っちゃうからね,そろそろ本題に入りましょ」

水無瀬がいつもの調子で軽口を返そうとした、その瞬間だった。

部屋の照明が、まるでタイミングを見計らったみたいに一段階トーンダウンした。

月夜野の指先が、机の上でピタリと止まる。さっきまで動いていた気配が嘘みたいに。

あまりの雰囲気の変わりように、ゴクリと唾を呑む。

「……今回の任務は、死体の回収だよ」

月夜野はシソジ、エヴァに乗れ。のポーズで言った。

「毒を盛った奴の死体を持ってきてくれ。まぁ死体運ぶだけだからすぐ終わるでしょ。ちゃっと行ってちゃっと持ってきてよ。ハイ資料」

ジャソプで埋め尽くされた本棚をスライドさせて、現れた奥の棚から書類を取り出した。

上質な紙に、名前からモーニングルーティーンまで細々と書き連ねられている。

水無瀬は受け取ってざっと目を通した。

「一条真央、研究科…え、ここの研究員殺しちゃったんですか」

「研究を進めるためには邪魔だったんだ。仕方ない、大義のためだよ」

「大義?」

水無瀬は首を傾けた。

「いいからいいから」

月夜野は汗を滲ませながら、水無瀬をくるっと半回転させ、出口に向かって背中を押した。

毛深い床の絨毯がしわっしわになって水無瀬の足元にたまる。虎とかって撫でたらこんなんなんだろうな、と思った。

そんなことを考えているうちに、ダークオークの扉みたいな出口まで運ばれていた。足元の絨毯は虎三匹分くらいの大きさになっている。すごく重い。

「はい、いってらっしゃい。死体は傷つけることなく運んできてね。実験で使えるかもしれないから」

アニメに出てくる、ルーズテールのお母さんみたいな声のトーンで言った。

「オーキードーキー」

水無瀬は立て付けの悪い扉を閉めた。

コナソのアイキャッチの音がした。

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