第85話
フェミンのゲームが始まる!
夜、アルテミシア学園男子寮、カイトの部屋
カイトはフェミンに言い渡された言葉に、思考がフリーズしていた。
「…今、何て言った?自分と一緒に来い?」
「そうだよ~。"天の笛"の方も、まだまだ人員に余裕があるとはいえ、派遣出来る場所も限られているからね~。特に戦闘方面では。君なら即戦力になりそうだし、どうかな?」
「言っとくけど、僕はお前らの仲間になる気はない」
「そんな事言っていいの~?さっき私に言われた事、あながち間違いじゃないでしょう~?"天の笛"の力を借りれば、凡人の君だって、エミリアちゃん達を見返せる筈だよ~」
「うるさい!僕はお前達のやって来た事の数々を知ってるからこそ、断ると言っているんだ!そのコンプレックスの解消だって、多くの人間を実験材料に使う改造じゃないか!それ以外にも非合法な行いにも手を出してるし、身内や無関係の人達だって、口封じの名目で殺しているだろう!そんな連中に僕は絶対について行かない!分かったらとっとと…!」
「良いの~、そんな事言って~?これからあの子達と一緒に居続けると、絶対後悔するよ~?段々とその才能をメキメキと伸ばしていく中、凡人でしかない君は、いずれ自分の限界を悟る事になる。そして1人だけ一番下に取り残されて、段々と引き離されて、その内に黒い感情を貯めていく事になる。そうなれば君だっていずれ、あの子達の事を恨む事になるよ~?」
「そんな事…!」
「だからこそ、うちに来なよ。"天の笛"なら、あらゆる方法でコンプレックスを解消してあげられるし、誰でも凡人から脱却出来る可能性を持つ事が出来る!それによって、カイト君の剣の腕も凡人止まりでなくなるよ!だから君も"天の笛"に来て、一緒にどこまでも高い場所を目指そうよ~!」
「何度言われようと、僕は絶対に…!」
「これでも同じ事言える?」
「…っ!?」
そしてフェミンはカイトを抱き寄せ、カイトの耳元で言葉を囁く。
「一度この快感を味わったら、君も段々と病みつきになっていく。そして次第に虜になっていき、君も"天の笛"に忠誠を誓う様になる。そう言う訳だから、君にその魅力を教えてあげるよ。これは本当にいいものだよ~?例えどんな形であろうと、自分の望む力が手に入るし、一足飛びで超えられる。そして何もかも思いのまま。そこまで言うなら見せてご覧よ、誘惑に打ち勝つ所。誘惑に勝てれば、私も諦めるし、負ければ君は"天の笛"に入る。ね?簡単な話でしょう?そう言う訳だから、これから私達のゲームを始めさせてもらうね?」
翌朝、窓から差し込む朝日によって、カイトは目を覚ます。
「…う~ん、ふぁ~。もう朝か…。昨夜は何か変な夢見た気がするな~。いきなり音もなく"天の笛"の刺客が現れて、僕をスカウトして、それでゲームを始めるって言われた様な…」
カイトはそう言いながらベッドから降りて着替えに取り掛かる。
「…あれ?何か違和感がある様な…?」
そして上着を脱いで鏡を視界に入れた事で、カイトは違和感の正体に気付く。
「…えっ?ちょっと待って。これ、どういう事~!?」
そして朝からカイトの絶叫が響き渡るのであった。
2年1組教室
朝から登校した生徒達の挨拶する声が響き渡っていた。
「おはよう、皆」
「おはよう、エミリア」
「うぃ~す」
「レオニーもおはよう」
そんな中、カイトはエミリア達を素通りして、席に着く。
「おはよう、カイト」
「…おはよう」
「…?どうしたのカイト?何か元気がないけど?」
「えっ、あっ、いや、何でもない!何でもないよ、姉さん達!」
「…何か怪しい。そんな露骨に動揺するだなんて」
「本当に何でもないってば!」
「そう?何か困った事があったら言いなさいよ?手遅れになったら不味いから」
「うん、そうする!」
そう言って身体を正面に向けるカイトの頭に声が響く。
<うふふ。動揺しちゃって可愛い~!>
(うるさい!そもそもこうなったのはお前のせいだろう!)
そう、フェミンの声である。
(上着脱いだらおっぱいがあって、お前の顔にもなってたもんだから、マジで焦った~!)
<ちゃんと直ぐに戻してあげたんだからいいじゃん!>
(その後、お前の声も頭に響いて、僕はまた驚く事になったんだからな!)
<まぁまぁ、怒らない怒らない!>
(そもそも、これは一体どういう事だ!?僕は全然分かってないんだが!)
<融合魔法の研究成果の1つだよ~!ほら、ファムとヴァーリはもう知ってるでしょう?あの2人の融合と分離が自在になってる身体、あれの発展形だよ~!私は融合する相手を自由に選べて、その中に潜り込めちゃうの!で、朝やったみたいに、私の意思で私と相手の身体を切り替えたり、混ぜたりも出来る!その気になれば頭の中だって同じ事も出来るよ!>
(まさか、それを使って内側から崩壊させる気じゃあ…!?)
<今はしないよ~!言ったでしょう?今はカイト君が誘惑に打ち勝てるかのゲームだって?そう言う訳だから、今日1日、そのゲームに専念しておいてね~!>
その言葉に、カイトも不愉快に思うのだった。
そうして迎えた座学の時間、カイトは頭を押さえていた。
(クソ!フェミンの声がうるさいだけでなく、アイツの知識まで流れ込んでくる…!)
<どうどう?知識も知恵もこんな風に思いのままなんだよ~!>
(やかましい!これくらい自分で磨くし、静かにしてくれ!)
<へぇー、そんな事言うんだ~?だったら…>
(…うわっ!何だこの生々しい知識や映像!?生理とか初潮とか、そんな知識要らないって!あっ、ちょっ、何勝手に服の下作り変えてんだ!?)
実技の時間、カイトは他の男子生徒と組み手をしていた。
「へへっ、中々やるじゃねぇの!」
「こっちだって体術くらい磨いている!」
「そんじゃあこっちも!」
そして相手がカイトの背後を取り、絞め技を使った瞬間、相手の手がカイトの胸に触れる。
「…っ!」
「ん?何か柔らかい物が…?」
相手の手が緩んだ瞬間、カイトは脱出。
そして相手を投げ飛ばし、クレーターの中で気絶させた。
「ちょっ、カイト、これどういう事!?」
「幾ら何でも威力強すぎじゃあ…!?」
「(ギクッ!)ご、ごめん!咄嗟の事だったから、力加減間違えた!」
<うふふ~!さっきのカイト君、可愛かったよ~!>
(やかましい!あの一瞬だけ首から下を変えただけでなく、力の上乗せまでして!)
<そのお陰で勝てたんだし、別にいいでしょう~!>
(いけしゃあしゃあと…!)
と、カイトは中のフェミンに毒づいていた。
放課後、カイトは独り、静かに廊下を歩いていた。
「どっと疲れた~」
<どうだった、今日1日の万能感は?>
「やかましい!こっちは振り回されて散々だったわ!」
<え~、そんな事言って~、本当は悦に浸ってたんじゃないの~?>
「うっ、それは…!」
<ねぇねぇ、このままうちに来なよ~!ずっと良い思いに浸ってられるよ~!>
「そりゃあ良い思いをしたのは事実だけど…」
「カイト」
と、カイトが自分を呼ぶ声に振り向くと、エミリアが歩み寄って来ていた。
「姉さん?一体何の用…?」
「…ふん!」
と、急にエミリアがカイトに掌底を繰り出し、そのダメージでフェミンがカイトから出ていく。
「…けほっ!かはっ!ごほっ!」
「…やっぱりカイトの中に異物が入ってたのね」
「姉さん、こっちも痛いんだけど…!って言うか何で分かったの…!?」
「今日1日、カイトを見ていたけど、朝から何か様子がおかしかったし、何か隠しているみたいだった。座学の時でも落ち着きが無かったし、実技に見せたあのパワー、去年のハルトマリーみたいだったから、まさかと思って魔力のソナーを使ってみたらビンゴ。カイトの中に別の魔力を感じたのよ」
「よく分かったね?こっちもフェミンに発言や言動を制限されていたのに」
「私はカイトのお姉ちゃんよ。弟の事くらい直ぐに分かるわ」
「姉さん…」
「けほっ、けほっ、流石エミリア王女…。まさかバレてたとはね…」
と、フェミンも震えながら立ち上がった。
「でもね…、その立場と才能と人望が、逆にカイト君を苦しめる事になるのがまだ分からないの?人ってのはね、周りの人間が優れていれば優れている程、人を集めていれば集めている程、偉い立場に立っていれば立っている程、段々と自分が惨めに感じていくものなんだよ?分かる?貴方達の存在そのものが、彼を苦しめている事に!」
「…貴方の言いたい事、私だって分かってるわよ。昔の私も、剣の腕が伸びず、アルフォードお兄様やカイトに劣等感を抱いて、その果てに、あの家から逃げたんだから。けど、この7年で私だって気づいたのよ!どれだけ遠くに離れていても、どれだけすれ違いがあったとしても、お互いに対する愛情まで消える訳じゃないって!ちゃんと自分の事を思ってくれているって!カイト、貴方はどうなの!?新しい立場と才能を手にして、遥か高みへ登った私に対して、もう愛情は消えてしまっているの!?ちゃんと貴方の本心で聞かせて!私はまだ貴方の姉でいられるのか!?」
「…僕は」
カイトも胸に手を当てて、目を瞑って、息を整えた後に言葉を出す。
「…僕は、今も姉さんに対する愛情は消えていない。ハルトマリーもスバルもレオニーも、アラタさんもソーマもトウヤも、まだ僕の仲間だって思えている!シャーリーお姉ちゃんやネムに対してだってそうだ!まだ皆への友情や愛情は根付いている!例えどれだけ力があっても、僕が凡人だろうと、それが変わる事は無い!そう言う訳だ!フェミン、僕は"天の笛"には行かない!姉さん達との絆を捨てるつもりは無い!例え僕が優れたものが無くても、それを補えるくらい強くなっていけばいいだけだ!だから僕は僕のやり方で強くなっていく!お前達の力は絶対に借りない!」
「…あ~あ、フラれちゃった~。まぁいいや、カイト君も揶揄えたし~」
そう言ってフェミンは背を向けて数歩下がる。
「今回は私もここで帰らせて貰うよ~。じゃあね~!また今度~!」
そう言ってフェミンは転移結晶を使ってその場から消えるのだった。
「…ふぅ、何とかなったわね。それと、ごめんなさいカイト。私も気を抜いてたわ。劣等感やすれ違いは、私も経験してたと言うのに、その可能性を失念していたなんて。私も、王女としても姉としてもまだまだね」
「いや、僕の方こそごめん。あんな奴に目を付けられる様な真似をしちゃって。それよりもさ、僕も強くなっていくから。だから姉さん達もちゃんと安心してよ」
「カイト…」
「ほら、今日はもう帰ろう。僕も疲れちゃったし!」
「うふふ、そうね。そうしましょう」
そう言いながら2人は笑顔で帰路に着くのだった。
"天の笛"本部
フェミンもジルティナに今日の件を嬉々として喋っていた。
「…って訳で、カイト君の勧誘に失敗しちゃったんだ~」
「全く、貴方も迂闊過ぎますよ。向こうが内側から潰す気だったらどうする気だったんですか?」
「別にそれでも良かったんだけどな~。私が憑りつくなり、実験体にするなりで済む事だし」
「今後は軽率な事は控える様に」
「は~い!」
その返事と共に2人は別れる。
「…さ~て、私の誘いを断ったんだから。ちゃんと楽しませてね、カイト君」
そう言ってフェミンは不敵の笑みを浮かべるのだった。
こうして、カイトの絆が試された1日は、幕を閉じるのだった。
カイトの絆が強くなった!




