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第7話

オリエンテーション開始。

 アルテミシア王国、山岳地帯

 そこでは、1年生達が集まっていた。


「これより、本日から3日間、野外訓練を行う!これは野営を行う時が来た時の為の訓練も兼ねている。今回の警護には、本来来る筈だったパーティーの代理の者達が担当する事になった」


 その声にリーベルも「よろしく」と声を掛ける。

 リーベル達4人の姿にハルトマリーもエミリアに耳打ちする。


「エミリアさん、あの人達確か…」


「大丈夫よ。信用出来る魔族だって確認してあるから」


「それでは、移動を開始するぞ」


 ケビンの号令で、一行は森の中へと進み始める。




 一行が山道を進んで行く中、1人の生徒が疑問を口にする。


「何か引っ掛かる。周りの魔物達が避けてくれてる様な…?」


「あぁ、それはうちのベルマリアが魔物除けの結界を張ってくれているからだよ」


 と、リーベルが疑問に答え、ベルマリアが杖片手に笑顔で手を振る。


「彼女の張ってくれる結界なら、大抵の魔物は無視してくれる。仮にも僕達も、生徒の身の安全を預かる身だからね。保護は徹底しておかないと」


 そして開けた場所に着くと、ケビンは号令を掛ける。


「よし!ここを野営地としてテントを張るぞ!」


 そして各々、大人5人も1人1人見て回りながらのサポートの元、班ごとのテントを張っていく。


「よし!それじゃ、1日目は各々のスタイルに合わせた基礎訓練を行う!それぞれの戦闘スタイルごとの指導を彼らからそれぞれ受ける様に!」


「それじゃ、剣術は僕リーベルが担当します」


「防御については、俺ジーロンが」


「私、ミニーは攻撃魔法ね」


「サポート系魔法については、私ベルマリアが担当致します」




 3時間後

 丁度カイトがリーベルの指導を終えた所だった。


「流石剣術の名家。基礎はちゃんと抑えてるね。この調子で頑張って」


「ありがとうございます」


「それにしてもエミリア様も凄いよね。剣術、魔法両方かなりの腕だなんて。流石この国の第1王女にして、Aランク冒険者だよね」


「知ってたんですか、エミリア様のランク!?」


「まぁこれでもギルドに登録している冒険者ですから」


 エミリアの方も、ベルマリアから賞賛を受けていた。


「凄いわ、エミリア様!ミニーの所での魔法を見せて貰った時もだけど、まさか光属性の魔法もこなす事が出来るなんて」


「実は私、全属性の魔法適正を高く持っていて、全属性の魔法を使えるんですよ。膨大な魔力量もその為です。お褒めに預かり、感謝致します」


 エミリアもベルマリアに耳打ちする。


「あの時、貴方が張った結界も見事でしたよ。人間に溶け込む為に、相当努力していた事が伺えます」


「え!?あ、その!?」


「安心して下さい。貴方方の正体に気付いている事、誰にも言いませんから」


「へへっ。本当にいい女だぜ、お前も」


 ミニーの講習を受けてるハルトマリーも、周りから距離を取って会話していた。


「その魔法の腕前、流石シェーラの弟子だな」


「やっぱり先生の知り合いの方でしたか。あの人が放置だなんて、そうとしか考えられなかったから」


「俺も元々、魔法の素質もあるドラゴニュートで、持ってる性質で火属性メインでやってたが、闇属性適正が高い事を差し引いても、お前さんもかなりの腕前だな」


「えへへ。ありがとうございます。私の方も、あんたらの本気見たいけどな」




 夕方

 各班ごとで野営飯を作っていた。


「エミリア様、料理出来るんですね」


「お姫様って、そう言うのやらない人だと思っていた」


「まぁ私だって、冒険者活動を行うのに必要な事一式出来るわよ」


(前にビーフシチュー食べさせて貰った時、姉さん家事一通り出来るって言ってたっけ)


 暫くして、森の中から出て来たリーベルとジーロンにベルマリアが声を掛ける。


「2人共、森の中の確認お疲れ様です」


「あぁ、魔物の姿は無かった。ベルマリアも結界張って疲れただろう?一旦休んだらどう?」


「そうさせて貰います」


 そしてリーベル達4人は、自分達のテントに入っていく。


「あの王女様、意外と女子力高いのね。中身が男とは思えないわ」


「何かあの匂い嗅ぐと、あたしも食べたくなってくるにゃあ」


「うちの野営飯担当は基本私になっちゃってるのよねー。ジーナは食べる専門だし、ミルドは酒で舌鈍いし、ベーガーは不器用だし」


「おいリリン、サラッと俺をディスるのやめろ。仕方ねえだろ、俺細かい作業駄目なんだから」


「酒は竜族にとっては美味な物だ。だから酒が飲みたいのは当然だ」


「あたしは食べるの好きなんだから、別にそれでも良いにゃ」


「それよりも、どう?生徒達見込みがありそう?私は大丈夫だと思うけど」


「こちらでも、防御に関しては問題無いにゃ」


「魔法の扱いについては、入学前から勉強している者と、そうでない者の差は大きいが、今後真面目に勉強出来て行けば埋まっていく」


「補助系統については、あまり前に出ないタイプが大半を占めているな。男女比も、女が多いが、想定の範囲内だ」


「そう。フフッ、今後が楽しみね」




 2日目


「では今日は、パーティー編成を行って貰う!とは言っても、今回だけの仮のパーティーだ!最低人数は3人から!では出来次第、役割を決める様に!」


 そして各々パーティー編成に取り掛かる。

 当然、エミリアはカイトとハルトマリーとパーティーを組む事に。


「それじゃ、僕と姉さんは前衛。ハルトマリーさんは後衛で魔法サポートだね」


「俺の方でも、上手く魔法を攻撃とサポート切り替えながら使っていくわね」


「そうね。ラインの方は私とカイトで維持しておくから、ハルトマリーも周りを見ながら適切な魔法をお願い」


「それでは、パーティーの役割が決まったら集合!」


 その号令で集まった生徒達は、パーティーの動き方の講習を受ける。


「前衛アタッカーの役割は、攻撃の手段の選択肢を見極める事と、上手くダメージを与えるタイミングを見定め事だ。相手の事を見定める観察力が重要となる」


「タンクの役割は、味方への被弾を最低限に抑える為に、相手からの攻撃を可能な限り引き付ける事だ。つまり、パーティー全体の生存率を担う要であると言う事だ」


「後衛アタッカーは、相手からの注目に気を付けながら距離を取り、上手く使う魔法を選択する事よ。上手く距離を稼ぎながら魔法を使っていきなさい」


「後衛サポーターは、回復、強化補助、拘束、防壁等のパーティーのアシストを担当する存在。つまりパーティー全体の生命線とも呼べる存在です。ですので、この役割を担当する際は、生存を最優先に動いて下さい」


 この講習の後、各々で役割毎の調整を、リーベル達と共に行っていく事に。




 夜

 皆が寝静まった中、カイトは1人素振りをしていた。


「精が出るね」


「リーベルさん」


 そこにリーベルが近くの岩に腰掛ける。


「ちゃんと休まないと、明日の活動に支障をきたすよ」


「すみません。後、貴方方が魔族だって事もう分かってるんで、素でいいですよ」


「あら、そう。じゃあ遠慮なく」


「実は僕、考え事してたんです。エミリア様、王族としても冒険者としても上へ行き続けていて、今じゃ上の方の兄と同じ高みに届いている。しかも家族にも恵まれ、明るい日々を送れている。あの劣等感と父への不満ばかりを募らせていた下の方の兄の時とは大違い。だから思っちゃうんです。今の僕にしてやれる事は何だろうって」


「色々と考え過ぎちゃう子なのね。私達が人間に擬態してるのは、人間の事を知りたいだけじゃなく、自分を見つめ直す為でもあるの。ほら、魔族って、自分達の力を過信し過ぎちゃう事もあるから、弱い人間に化けるのは、彼等の知恵や心の在り方を見る為でもあるの。私達が性別も戦闘スタイルも逆にしてるのも、過信を捨てられる様にする為。私は前に出て他人を守る勇敢さを知る為に剣士。ジーナは動かずその身を盾にする献身を学ばせる為にタンク。ミルドは後方の苦労や観察力を学ばせる為に魔法使い。ベーガーは献身的に寄り添う慈愛と、自制を学ばせる為にシスターとそれぞれ割り当てた訳。そのお陰で、私達は人間の事をより良く知って、平和も悪くないって思える様になったわ。だから貴方も、時には立ち止まって、彼女の事もちゃんと見てあげたら、自分の為すべき事が見えてくる筈よ」


「相談に乗ってくれてありがとうございます。僕ももう少し頑張ってみます」


 一方、エミリアの班のテントに、ベルマリアが侵入していた。


「さぁて、こっちは女漁りをお預けされてるんだ。この王女様は、俺と同じで中身は男で、高貴な身分。奴さんだって、百合プレイはしたい筈…」


 ベルマリアが手を伸ばしたその時、彼女の身体が光の鎖に縛られ、その音と魔力反応でエミリアも起きた。


「…昨日私を見ていた時の目が、ねっとりしたものも混ざってたから、事前に夜這い対策用トラップを仕掛けていました」


「何でだよ!?お前だって、元は男なら、女の身体や王女の立場を利用して、あんな事やこんな事だってしたい筈だろ!?」


「貴方みたいな性欲を隠し切れない仮面聖女と一緒にしないで下さい」


 そこにミニーが顔を出してくる。


「すまん姫様。うちのベルマリアだが…」


「丁度私の鎖で捕らえた所です。これは朝まで解けないので、ご安心下さい」


「そうか。では行くぞ、ベーガー」


「あっ、ちょっと待てミルド!俺は王女様と百合プレイを!」


 ミニーもまた、他の生徒を起こさない様にベルマリアを自分達のテントへ引き摺って行く。

 その光景を見ていたリーベルとカイトは惚け顔になっていた。


「リーベルさん。あの人、本当に自制出来てるんですか?」


「普段はちゃんと我慢出来てるわよ。ただ、あまり欲求不満になり過ぎると、あんな事しちゃうのよね…」




 3日目


「では、本日は2日目で組んだパーティーで帰路に着いて貰う!ゴール地点となる街の入り口までの道で、各パーティー毎の役割、協調性、知識、知恵、視野、機転、決断力、行動力等をテストする。このテストの為に、魔導工学科が開発した魔道具を支給しておく。先ず、このボールは充電された魔力で浮いて、指定された対象を撮影する様になっている。それをこちらで用意したモニターで見させて貰う。次に、この筒は、カバーを開けて中のスイッチを押す事で、周囲30mの人間を接続された魔法陣へ転送する様になっている。無論、我々の近くだ。1人でもその場で治療不可能な傷を負った負傷者を出す、或いは転送魔法でゴールへ飛んだパーティーは失格とする。それでは、俺達は先にゴールへ向かうから、30分毎にパーティー1組ずつで向かう様に」


 それから、各パーティー毎の帰投が開始された。

 落ち着いて状況を見ながら、安全に辿り着くパーティーに、魔物との戦闘を慎重かつ最小限に抑えるパーティーもいれば、回復魔法の技量が足りず、転移を判断したパーティーに、その場の恐怖に負けて転移魔法を起動したパーティーも存在する。

 あのバザーグのパーティーも、彼が足を引っ張り、負傷者を出させ、転移する事に。

 そして最後のエミリアのパーティー。


「見たところ、ここの魔物は気配を察知されない限り、向かって来る事は無い。物音を大きくしない様に、慎重に進みましょう」


 そして上手く魔物に気づかれない様に道なりを進み、一部の魔物に気付かれても冒険者としての経験で上手く追い払って行く。

 そうして、全パーティ最短時間で無事ゴールを果たしたのだった。




 ベルマリアによる負傷者の治療が終わった事で、全員整列していた。


「無事ゴール出来たのは、全体の3割、残りは負傷による離脱とリタイア。7割の者達は自分達の非と未熟さを受け入れ反省する様に。中でも最短時間でゴールしたエミリアのパーティーは、リーダーであるエミリアが現役冒険者で、その経験を活かした事による物だ。3割の者達も、経験がある者と無い者の差が理解出来ただろう。それでは、学園へ帰投する!」


 そして生徒達はあらゆる感情を胸に学園へ戻っていく。

 学園に到着後、エミリア達はリーベル達に挨拶していた。


「今回はわざわざありがとうございました」


「良いのよ。私達だって冒険者だもの。このくらいの仕事、なんて事無いわよ」


「リーベルさん、僕も相談に乗ってくれて感謝しています」


「はいはい。貴方も精進なさいな」


「…何の話?」


「内緒」


「王女様、ハルトマリーちゃん、今夜俺と…」


『謹んでお断りします』


「ほら、ギルドへの報告を済ませて、明日からの休暇に備えるぞ」


 ベルマリアもミニーに引っ張られ、4人は学園を去ろうとする。


「シェーラにもよろしくお願いしますね」


 その声にリーベルも手を挙げて応える。


「それじゃ私達も」


 そしてエミリア達も寮に帰っていく。


「それでリリン、生徒達はどうだった?」


「ええ、全員見所ある子達ね。将来が楽しみだわ」


 リーベル達も、生徒達の未来に期待を膨らませるのだった。

オリエンテーション終了。

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